JR西について

(山中湖、by T.M)

11/6 読売新聞

JR西日本岡山支社の男性運転士が、1分間分の未払い賃金「56円」の支払いを求め、岡山地裁でJR西と訴訟で争っている。回送列車の入庫作業の1分遅れを理由にした賃金カットに対し、運転士側は「ダイヤへの影響はなく、会社に損害も発生しておらず、不当だ」と撤回を求めた。JR西は「遅れた1分間は働いておらず、カットは妥当」と真っ向から対立している。

 訴状などによると、男性運転士は2020年6月18日朝、JR岡山駅(岡山市北区)で回送列車を車庫まで移動させる作業を担当。しかし列車の到着を待つホームを間違え、駅まで運転してきた運転士との引き継ぎ作業の開始が指定時刻より2分遅れた。その結果、発車が1分遅れ、入庫完了も1分遅れた。

 これを受け、JR西は当初、「乗り継ぎが遅れた2分間は労働実態がない」として、男性運転士の7月分の月額給与の2分間分85円をカット。運転士は岡山労働基準監督署に相談し、JR西は労基署から是正勧告を受けたが、全面的には譲らず、最終的に発車が遅れた1分間分をカットした。

 久しぶりに唖然とした新聞記事を読みました。JR西の行為はおかしいとしか言いようがありません。いったい何がしたいのでしょうか?

 まず最初に申し上げたいのが、もし、この新聞記事が「事実なら」、そして「労働者の怠業等の重要な事実が報道されていない」かぎり、これは「賃金不払い」であり、労働基準法第24条違反です。会社側は、「それは、裁判所が判断することだ」と主張するでしょうが、私は元労働基準監督官であり、特別司法警察員として何十回も賃金不払い事件を送致した者のプライドをかけて、そのことを申し上げます。また、労働基準監督署が是正勧告書を交付したということは、現役の労働基準監督官も私と同じ意見なのでしょう。

労働者とは、「時間的・場所的拘束をうけ、事業主の指揮命令下」にある者をいいます。この労働者は、賃金カットをされた時間帯には、その状況にありました。「違うホームで待っていた」ことは、「労働をしていない」ことではなく、「間違った労働をしていた」ということになります。もし、この時間が「賃金が支払われるために時間ではない」と言うのであるなら、事務員の仕事を例に挙げるなら「誤って、目的としない書類をコピーしてしまったなら、その時間は労働時間でない」という理屈も成立してしまいます。

 この件については、「賃金カット」するよりも、まだ次のようにした方が筋が立ちます。

1 列車が遅れてしまい損害が起きたので労働者に弁済を求める

2 労働者が、ヒューマンエラー防止対策である指差し呼称等を怠ったことで今回の列車の遅れが発生した。労働者に対し就業規則に基づく懲罰規則を適用し、減給制裁とする

この2つのケースでも会社側は裁判で負けると可能性は高いと思います。しかし、この2つのうちどちらかの理屈を会社側が選択していれば、今後監督署をはじめとする行政機関が介在する余地はなくなります。今回は、「賃金カット」を選択したので、刑法の特別法である労働基準法違反として、刑事事件にまで発展することが想定されます。

また、これは、法律の問題では無いのではないかとも思えます。労働者1名の「56円の賃金カット」を行うための人件費等を考えたら、会社が何の目的のためにこんなことを行うのか、本当に疑問です。JRは30数年前の「国鉄分割民営化」の後遺症からか、労使関係がギクシャクしているという噂を聞きますが、今回の件はなんか「会社側が意地になっている」ような気がします。もしそうなら、それはとても残念ですし、会社にとって実害もあることのように思えます。

大事なことは、「ヒューマンエラーを原因とする列車の遅延をなくすこと」。そのための対策として、会社が考えたことが「1分間の賃金カット」だとしたら、あまりに悲しい。

さて、監督署は今後どう動くのでしょうか。例え「少額の賃金不払い事件」であったととしても、「是正勧告書を無視」されて、これだけ大きく報道されたとしたら、それこそ監督署のメンツは丸潰れのような気がします。

また、今後「労働者側が告訴状を監督署に提出した場合」は、嫌でも、監督署は司法着手をしなければなりません。労働者からの告訴によって司法着手するよりは、自ら司法着手して、JR西の代表取締役の事情聴取を行うことも検討する必要があると思います。

(もっとも、「実は」新聞記事に記載されていないだけで、労働者側に怠業等の事実があり、監督署は司法着手を控えているのかもしれませんが・・・)