猫と高所作業者

(小田原市江之浦から相模湾を望む、by T.M)

こんな記事をwebで見つけました。

フィラデルフィアで電話線の工事をしていたモーリス・ジャーマンさんに、その近所の住人が声をかけてきた。聞けば、彼らの飼い猫のプリンセス・マンマが、電信柱に登ったきり、下りてこられなくなったのだという。猫はもう12時間も、電信柱の天辺で震えているというのだ。もちろん、飼い主もそれをただ眺めていたわけではない。アニマル・レスキューや消防署などに助けを求めたが、どれも上手くいかなかったというのだ。 そこでモーリスさんは高所作業車を現場に回し、マンマを無事に救い出した。

ところが、これで「めでたし、めでたし」とはならなかったのだ。次の金曜日に、モーリスさんは雇用主のベライゾン社から、3週間の停職を言い渡されたのである。社の安全規定に違反したためというのが、その理由であった。モーリスさんの使っていた作業車と装備は、猫のいた地域では使用できないものだったのだ。

 「我々としても、喜んで処分を下しているわけではありません」とベライゾン社の広報担当者。「しかしながら、我々は従業員とお客様の安全を守る責任を負っているのです」

「不運なことに、この従業員の目的は立派なものでしたが、彼は自分自身の生命と周囲の人々を潜在的に危険にさらしていたのです」

 ベライゾン社は、動物保護という目的を疎かにしているわけではないことを示すため、ペンシルベニア州の動物虐待防止協会に寄付をする予定だという。

 

私、この記事を読んだ時にゲラゲラ笑ってしまいました。そして、同じことが日本で起きたらどうなるか、考えてみました。

ウチの猫が電柱に登っってしまい降りれなくなって、何時間も泣いていたところ、近くで電柱工事をしていた作業員が高所作業車を使用して救出されたというシュチュエーションではいかがでしょうか。

この場合でも、会社にばれたら、作業員の処分はまぬがれないでしょうね。労働安全衛生コンサルタントとして、あるいは、かつて労働行政に関わったものとして、例えば会社側から、私に意見を求められたら、公式的には「就業規則に従って、作業員を懲戒処分にして下さい」と答えざるをえないでしょう。

高所作業車を使用する作業は、危険作業に該当し、有資格者がこれを行います。猫を救助中に災害が発生した時には、これは「業務に起因する事故」とは見なされないので、労災保険の適用はないでしょう。また、第三者に損害を与えた場合には、民間の保険会社なら保険適用を渋るでしょう。

また、昨今の世の中です。こんな猫の救出劇を街中でやっていたら、必ず動画に撮られます。現に前述のフィラデルフィアの記事は動画付きで紹介されていたものです。事実隠蔽はできません。

もっとも、もし、こんなケースで、「工事現場で発生した、作業員の猫を救助したという不始末を、元請会社に言い訳する下請け会社」から相談を受けたなら私はこう答えます。

「猫を助ける目的で高所作業者を使用したのであるならば、言い訳はできません。しかし、

『たまたま、工事するはずだった電柱に猫がいたので、作業員がそれをどけた』

『工事に関係ない電柱だったが、猫が登っているのを確認したので、停電の危険性があり、公共のために排除した』

『工事においては、近隣の住民サービスを心がけていて、業務命令で工事と関係のない近所の公園や道路の清掃等を行っているが、その住民サービスの一環として行った』

のであれば、話は別です。」

実は、私は猫好きなんです。 

役所に苦情を!(1)

(武田勝頼自刃の場所、甲州市景徳院、by T.M)

最近、コールセンターを使用している監督署が増えてきました。

コールセンターは日本のどこかに設置されていて、いくつもの監督署への電話を一括して処理しているのでしょうが、長年監督署に勤務していた者としては、その応対にとても危なっかしいものを感じます。

つい最近もこんなことがありました。

午後5時10分頃に、「働き方改革」に関する法の解釈を尋ねようとして、東京のある大きな監督署に電話しました。(注:私は、「神奈川」在住ですが、神奈川労働局には知合いが多いもので、「一人の国民」として行政に質問をする時には、東京の監督署を利用します)

監督署の電話が混み合って通じないのではないかと心配していたのですが、無事オペレータと繋がりました。すると、オペレータから「現在、相談の窓口が、件数が多くて塞がっているので、しばらくこのままで待って欲しいと」言われました。そして、数分間受話器を耳に待っていると、オペレータが次のようなことを言いました

「まだ電話が相談窓口と繋がりません。もう5時15分で閉庁時間時間なので、電話は回せません。明日またおかけ直し下さい。明日の開庁時間は・・・」

さすがに、私は腹が立ちました。そして、次のように述べました。

「ちょっと待ってくれ。私は、役所のHPに記載されている電話番号に連絡しています。この電話で話しているということは、あなたが、コールセンターの人かアルバイトの人かは分かりませんが、役所の管轄にある人ということです。行政機関に、閉庁時間前に連絡してきた者に、対応にでた人が、『その件については分かる者が電話中ですか、明日おかけ下さい』と言って断るのは筋違いではないですかか。」

私の主張を理解してくれ、オペレータは監督署の職員に取り次いでくれました。私は、その監督署の職員に、「対応できる者がいるのに、なぜさっきのオペレータは電話を切ろうとしたのですか」と尋ねようとしましたが、それ以上はその件に触れることはしませんでした。

私が現役時代にも、同じような状況が発生したことがあります。終了時間間際に電話がかかってきて、アルバイトの人が対応するが、職員すべてが電話口にでているか相談対応中という場合です。そういう時のために、私はあらかじめ、アルバイトの方に次のような指示をしていました。

 「電話を取った時に、誰も対応できる者がいなかったら、相手の電話番号を聞いて、『後で折返し』に電話をしますと答えてくれ。それで、相手が納得しなかったら、私の名前を出し、私が担当者だと答えてくれ」

また、監督署の知人に聞いたことですが、次のような電話トラブルも、最近多いそうです。

コールセンターのオペレータに、「××の部署に電話を繋いでくれ」と言っても、「何のご用件でしょうか」と聞きなおしてきます。相手が初めて監督署に電話をする人で、「どこに相談したらよいか分からない」という場合ならともかく、部署指名で電話をしているのに、あえて用件を聞くということは、そこで相談ができるのかと勘違いする人もいると思います。そこで、用件を話し、電話が回され、あらためて監督署の担当者と話をする時に、また用件を尋ねられ、「さっき話したじゃないか」と怒る人もいると思います。

監督署に電話をかけてくる人は色々な人がいます。「これから刺しにいくぞ」と言われたこともあります。オペレータの電話トラブルの後始末をするのは、結局は監督署の職員であるというケースも多いと思います。

この、監督署の電話窓口でコールセンターを利用するという企画を立てたのは、監督署の現場を知っている人なのでしょうか?

監督署の現場が望んでいることは、電話応対ができる職員の増員だと思うのですが。

バイトテロとコンビニ(8)

(横浜の水源地、青山浄水場とサクラ、by  T.M)

 

(大正の建築、逗子松汀園とサクラ、by  T.M)

「バイトテロとコンビニ」も今日で最終回です。

前回、コンビニ店舗の経営が上手くいく要素として、「最初の出資金の金額」を第一に挙げましたが、それはつまりこういうことです。

「土地・建物をオーナー自らが提供し、高い出資金を支払うケース」

「土地・建物はコンビニ会社が提供してくれるものを使用し、オーナー自らは、コンビニ会社の雇われ店長の形式で契約し、最低限の出資金を支払う」

といった2つのケースでは、コンビニ会社に支払うロイヤリティーが全然違うのです。

もちろん、後者で成功しているケースもあると思いますが、オーナーが圧倒的に過重労働となるのは、後者のケースです(地方都市では、売上げ自体が低く、前者の場合でもオーナーの負担が大きくなる場合もあるようですが)。

私は、コンビニのオーナー全てが、「労働者性」を有しているとは思いません。従って、先日、中労委がコンビニオーナーの団体と、コンビニ会社の「団体交渉」を認めなかったことについては、ある程度理解します。

しかし、私は個々のオーナーのケースを精査していけば、中には「時間的・場所的な拘束を受け、使用者に指揮命令される労働基準法上の労働者」となるケースもあり、将来はコンビニーオーナーが労災認定されることもあるような気がします。それは、出資金の少ないオーナーに多いように推察します。

「バイトテロ」と呼ばれている行為について、若者の教育が必要という意見がweb上に多くありますが、実は私は一番必要なのは「オーナー」の教育であると思います。

つまり、コンビニ各社が自らのブランドイメージを守るためには、「オーナーがどのように労働者を教育・管理しているか」を検討する必要があると思うのです。

しかし、コンビニオーナー自体の過重労働が問題とされるなら、オーナーは労働者に対する管理の力を発揮できなくなるような気がします。

コンビニオーナーが疲れていては、「アホな若者」を間違って採用してしまうかもしれませんが、そういう若者をオーナーが教育すること儘なりません。

このシリーズの最初に述べましたように、「コンビニの公益性」については理解しているつもりですが、だからこそ「若者の働く職場の形成」のためにも、コンビニ大手が各店舗のオーナー自身について、「働き方改革」の環境整備を進める時ではないでしょうか。 

追記

ふと気づきました。コンビニオーナーが、「カンビニ会社の労働基準法上の労働者」に該当するなら、そのコンビニ店舗で働いているバイトさん達は、すべてコンビニ会社の労働者ということになります。今後、コンビニ店舗で働いているバイトさん達が、労働条件等で不満を持った場合、コンビニオーナーを飛ばして、コンビニ会社と直接交渉するケースがでてくるかもしれません。あるいは、コンビニーオーナーとバイトさん達が協力し、コンビニ会社と相対することもあるかもしれないと思いました。

 

 

バイトテロとコンビニ(7)

本日61歳となりました。私の親友のT.M氏から素晴らしいプレゼントをもらいました。桜の写真の3連発です。ご紹介します。

(小田原市入生田の長興山紹太寺のシダレザクラ)

(小田原市根府川のオカメザクラ)

(伊豆長岡の西琳寺)

さて、「コンビニとバイトテロ」も、本日含め、あと2回です。

フランチャイズ制ということについて、私の知識の範囲で御説明します。

例えば、A社とコンビニ会社と、そのフランチャイズ店舗オーナーのX氏という方の契約関係は次のとおりとなります。

① X氏は、出資金を出す。

② A社は、X氏に、仕入れ方法、人の雇い方等の会社経営のノウハウを伝授し、X氏がA社の流儀に従ってくれるように契約する。これはつまり、次のようなものです。

X氏の所有する店舗は、A社の看板を掲げ、POSシステムを通しオンラインでA社と連結される。販売品の展示方法・店舗内衛生面の管理等はすべてA社の指示に従っていれば良い」

POSシステムとは、販売等の管理システムである。コンビニ店舗の具体的なシステム管理は、商品と人のバーコード管理である。商品が売れるたびに、バーコード入力されるので、A社は在庫管理ができ、各店舗でなくなった商品・売れ筋商品等を毎日各店舗に届ける。また、賞味期限切れの商品の情報等も、このPOSシステムによって把握できる。」

POSシステムでは、誰がいつ、バーコード入力していることも判明するので、店舗ごとの労働者の労働時間管理にも利用できるはずであるが、私の知る限り、このシステムを労働時間管理に利用している例は、今はどうだか分からないが、昔はなかった(昔は臨検監督時に、労働時間と賃金額の精査に、よくこのシステムを利用させてもらったものです)」

③ X氏は、毎月の売上げからロイヤリティーをA社に支払う。(逆に言えば、X氏は店舗の売上高から、一定の割合でお金をA社からもらっているという事になります。)

④ X氏が、その店舗で誰を何時間・どのくらいの給料で働かせるは、X氏の判断にまかせられている。各店舗で働く労働者の労働契約は、A社でなくX氏と交わされるものである。

⑤ X氏の店舗には、A社から担当者が割当てられ、経営上のアドバイスを行う。逆に言うと、A社担当者が、X氏の店舗で、衛生上問題がないか、X氏の使用する従業員との間で、法違反等がないか、A社との契約違反はないかチェックし指導する。

このフランチャイズ契約について、X氏側から見た場合のメリットは次のとおりです。

「何の経験もないのに、A社の言う事を聞いていれば、コンビン店舗のオーナーにすぐなれる。オーナーの実質的な仕事は施設管理と労務管理だけである。売上が良ければ、店舗を従業員に任せ、他の仕事もできる。」

実際、素人が1軒のコンビニのオーナーとなり、数年後には数店舗のコンビニのオーナーになった例や、コンビニーを経営しながら他事業を展開した例もあるようです。

ただ、この「売上げ」を挙げるということが厳しければ、あまりにもA社の店舗管理が徹底しているため、節約できるものは「人件費」しかなく、オーナー自らが店舗に立ち続けなければならないという状況が発生します。

コンビニ店舗経営がうまくいく要素としては、

① 最初に負担する出資金の金額

② 店舗の立地条件(駐車場の使い勝手等を含む)

といった要素が大きく

③ オーナーの労務管理能力と施設管理能力

は、第3番目にくるような気がします。

(続く)

 

バイトテロとコンビニ(6)

(青梅市の旧宮崎家住宅、by T.M)

3月15日、中央労働委員会は次のような判断をしたということです。

「フランチャイズ契約を締結し、コンビニエンスストアを経営する加盟者は、労働組合法上の労働者には当たらず、会社が、加盟者を主な構成員とする組合からの団体交渉申入れに応じなかったことは、団体交渉拒否には、当たらないとの判断を示した。」

私は、この判断が少し違うかなと思いました。私の考えを述べる前に、「労働者」と「労働組合」について説明します。

今から15年前の2004年に、私は「仕事に関係ない、プライベートな友人たち」から、労働問題には詳しいんだろうと思われて、よくこんなことを尋ねられました。

「プロ野球選手が、なぜ労働組合を結成できるの? プロ野球選手って、個人事業主でなく、労働者なの?」

時はNPBの球界再編の真っ最中。楽天イーグルスが誕生するまでの混乱の過程で、プロ野球選手会がストライキを実施した頃のことです。

「労働者」という言葉ですが、実は「労働基準法上の労働者の定義」と「労働組合法上の労働者の定義」は違うものなのです。

労働基準法上の労働者を簡単に言うなら、「使用者から指揮命令をされ、時間的・場所的な拘束を受ける者」です。

実は、この「労働者性」についてはかなり奥が深く、労働基準監督署長相手の裁判ではこの問題を争点にしたものがとても多いのです。それは「労災不認定」の根拠が、「労災申請者の労働者でない」という理由が多いからです。例えば、

「建設労働者で、税金・社会保険料等は『一人親方』として個人事業主として支払っいるが、災害が起きた時に労災申請したもの」

「社長が親父さんだが、別居しているので労働者であるとして、労災を申請する従業員5人未満の会社の、社長の息子さん」

「自分で所有するトラックを会社に持込こんで、労災事故を起こした場合の労災申請」

以上の3例は、労働基準監督署の労災認定の現場でよく起きるケースで、実際に裁判までいくこともよくあります。すべて、労働者であるかどうかは微妙な事例で、ケースバイケースイによって、労災認定されたりされなかったりします。

さて、労働基準法の労働者の定義については、今述べたとおりですが、それでは今度は労働組合法の労働者の定義です。

労働組合法上の労働者とは「職業の種類を問わず,賃金,給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(労組法3条)をいいます。

労働組合法では、「労働者の範囲」が労働基準法より広がっています。ですから、プロ野球の選手は、労働基準法の労働者ではないけど、労働組合法上の労働者であるので、労働組合が結成できるのです。

さて、コンビニーのオーナーなのですが、中労委は「労働組合法上の労働者でない」と判断しましたが、私は「労働組合法上の労働者どころか、労働基準法上の労働者になる場合もある」と考えているのです。

(続く)