派遣の最低賃金(2)

(栃木市の蔵、by T.M)

先週の続きです。

「派遣労働者の賃金」について、「同一労働同一賃金」の原則の元に、派遣先労働者の賃金水準に合わせようという制度は、本当に素晴らしいものだと思います。なんでも、派遣社員に退職金を支払うべきことまで決めているとも聞きます。でも、その実際の運用については、少し首を傾げたくなります。本当にこれで実効性はあるのでしょうか?

私が、第一に思ったことは、同じ地方労働局の中で、「需給調整事業部」と「労働基準部」は、まったく連携がとれていないということです。

もっとも、私がこんなことを言うと、「おまえが言うな。実情をよく分かっているだろう」と怒られそうです。そうです、需給調整事業部(あるいは、「需給調整事業課」)は、そもそも「職業安定所」(ハローワーク)の縄張りであって、「労働基準監督署」の職員には敷居が高いのです。

ですから、定期的に人事をいじくってみて、基準部サイドから「需給調整事業部」に異動をさせるのですが、そんなことで「縦割り行政」がなくなるはずはありません。

でもこれって、本当に非効率ですよね。労働者に対する「賃金不払い」の専門家は労働基準監督署の監督官のはず。その知識と経験を生かさない手はありません。

元監督官の私から言わせると、需給調整事業課のことはよく分からないのですが、現場において賃金不払いの指導をするのでなく、許認可権を背景に、事業場が提出してきた書類をみてのみ指導しているんではないかと思います。

前回のブログに書きましたが、派遣会社は次の賃金のどちらかの額を選定して労働者に支払わなくてはならないそうです。

①  派遣先の労働者との均等・均衡方式をとる

   労使協定を交わし、厚生労働省職業安定局長が示した、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」以上の賃金を支払う

そして、結局①を選択する派遣会社はなく、②の方式をとるのが多数ということでした。それは、派遣会社は「賃金の高い大企業」に労働者を派遣をしていることも多いので、派遣先の賃金に合わせる訳にはいかないという理由です。

因みに、私が計算してみると、この「厚生労働省職業安定局長が示した、『同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準』以上の賃金」とは、東京都の事務職労働者では「時給1240円」でした。

私が、一番違和感を覚えるのは、この「労使協定」という言葉です。

派遣会社で締結される「労使協定」の協定当事者を選任することは物理的にとても難しいことです。だって、派遣スタッフはそれぞれに違う職場で働いている訳ですから、どうやって自分たちの代表を選ぶことができるのでしょうか。

Webで調べると派遣会社は、民主的にその代表を選ぶ努力をしているようです。でも、結局は、派遣スタッフではなく派遣会社のマネージャークラスが選任されている実情があるようです。というより、派遣スタッフにしてみれば、顔がまったく分からない同僚より、仕事を取り持ってくれるマネージャーでいいやという感覚になってくるんでしょうね。

このように取扱いに難しい「労使協定」というものに委ねられている、「同一労働同一賃金」は、本当にその本来の意図することが実現できるのか、心配になります。

派遣許可をとってないような事業主については、強制的に適用となる「派遣元最低賃金」を設定しておき、違反があった時は労働基準監督署の監督官にまかせることが、現実的ではないかと思います。