派遣の最低賃金

(京急油壷マリンパークのコツメカワウソ,by T.M)

なんかブログネタがなくて困る週もあれば、何を選択したら良いのか迷う週もあります。以前から、このブログに取り上げてきた「教師の残業代」について、地裁の段階ですが司法判断が下されたようです。その話題について書こうかと思ったのですが、今回は別の話題です。

最低賃金が話題になることが昨今多くなっています。なんでも隣の国の最低賃金が我が国を抜く可能性もある噂されていますし、某政党は選挙公約に「最低賃金1500円」なんて掲げています。

私も最低賃金には思うところがあります。それは、「派遣労働者の最低賃金を産業別最低賃金」として決定してほしいということです。派遣の方の処遇はとても不安定なのが現実です。私のいる組織でも、このコロナ禍で派遣の方が最初に契約解除となりました。せめて、処遇が不安定な分、派遣労働者に他の業種より高い賃金を支払われるべきだと思っています。

普通に話題となる最低賃金とは、各都道府県別の「地域最低賃金」のことです。20年くらい前までは、業種別に最低賃金が設定されていましたが、年々その数は少なくなっています。でも、まだ一部残っています。

https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/dl/minimum-19.pdf

 この「産業別最低賃金」を復活させ、「派遣業」に適用させればいいと思います。

 この意見については、労務の専門家から次のような反論がくると思います。「派遣労働者の最低賃金の適用は、『派遣先』に適用される最低賃金だから、『派遣元』の業種である『派遣業』に対し、割増の最低賃金を設定しても意味はない」

 そういう指摘には次のように反論させてもらいます。「そもそも、20年くらい前までは、派遣労働者に対しては、『派遣元』の最低賃金が適用されていた。しかし、派遣先の産業別最賃が高額であるケースが相次いだので、『派遣先』の最低賃金を適用した。しかし、私はその出発点が間違っていたと思う。その時に、派遣先の高額な『産業別最賃』を適用できるようにすることより、派遣元の派遣業に『より高額な産業別最賃』を設定すべきだった」

『派遣元』の業種の最低賃金を適用することは、労働保険の料率の考え方から合理性があると当時は説明を受けた記憶があります。もちろん、これを「派遣元」から「派遣先」の適用の最賃に変更したことは、「派遣労働者に派遣先の高額な産業別最賃」を適用させたいという判断があったことです。でも時を経て、そちらの方がより合理的であるという別の判断だでたのなら、元に戻すことも可能であると思います。

 さて、令和2年から派遣法で、「同一労働同一賃金」の観点から、「最低賃金らしきもの」を事業場に求めていることを最近知りました。私は「労基法」「労働安全衛生法」については、飯のタネにしてますが、「派遣法」については門外漢なので少し調べてみました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html

要するに、派遣法は派遣会社に次のことを求めています。

「派遣労働者には派遣先の労働者と同じくらいの賃金を払え。その方法としては、次の2つのうちのどちらかを選べ」

結局①を選択する派遣会社はなく、②の方式をとるのが多数ということでした。

それはでも、当たり前のことです。派遣会社は「賃金の高い大企業」に労働者を派遣をしていることも多いので、派遣先の賃金に合わせる訳にはいかないのです。

「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」とは次のとおりです。

https://www.mhlw.go.jp/content/000817351.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/000817353.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/000817358.pdf

この、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」について、某地方労働局監督課に電話して、こんな質問をしました。

「派遣労働者の同一労働同一賃金について、例えば労使協定で時給1500円としているところ、労働契約を1200円として、それだけしか払わなかった。この場合、刑事罰を伴う労働基準法第24条違反(賃金不払い)が成立しているか」

すると、監督課の職員は「同一労働同一賃金のことは、雇用・均等部に聞いてくれ」と言いました。雇用・均等部に電話すると、「派遣労働者のことは需給調整事業部に聞いてくれ」と言いました。需給調整事業部に電話をすると、「賃金未払の件は監督課に聞いてくれ」と言いました。ここで、私は少し強く主張しました。「たらい回しにしないでくれ。私の質問自体に何かおかしいところがあるのなら教えて欲しい。」そうすると、「調べてから電話する」とのことでした。

電話も待っていると、かかってきたのは監督課某監察官からでした。そしてこんな回答を得ました。

「派遣労働者の同一労働同一賃金について、例えば労使協定で時給1500円としているところ、労働契約を1200円として、それだけしか払わなかった。この場合、刑事罰を伴う労働基準法第24条違反(賃金不払い)となる。ただし、そのようなケースでは需給調整事業課が一番最初に対応する。」

私は、その返答に驚きました。

「このケースで賃金不払いの法違反が発生するということは、実質的に、派遣労働者に対する特別な『最低賃金』が設定されていることになるのではないか。労働者が労働基準監督署に、賃金不払いで申告することが可能な訳だから、3年間の遡及支払いを監督署が命じるケースも想定される。労災補償等の平均賃金が変わってくる可能性もある。こんな大きな問題について、なぜ私の質問をたらい回しされるほど、労働局の職員は関心がないんだ。」

監察官は、私の問いかけにこう答えました。

「まだ、大きな問題はおきていない。問題がおきたら本省と協議する」

私は最後に言いました。

「大きな問題が起きていないということは、この実質的な『派遣労働者の最低賃金制度』の概要が周知されていないからだ。その証拠に、私の質問について最初の段階で即答できるものがいなかったじゃないか。私は、この制度は派遣労働者の処遇改善に役立つ非常に良い精度と思う。需給調整事業部と基準部が合同で研修を行う等が必要があるのではないか」

まあ、こんなふうに言いたいことを言って電話を切ったのですが、しばらくたってから、もう1回監督課に電話をして次のことを尋ねました。

「派遣登録を受けずに違法派遣している企業の派遣労働者が時給1200円だったとする。派遣先の同一業務を行う労働者の時給が1500円だったとする。この場合は、差額300円について、労働基準法24条違反と言えるのか」

すると、監督課の答えは次のとおりでした。

「労使協定等で明記されていない場合、当初の労働契約の時給1200円となり、労基法第24条違反は成立しない」

この答で、私はやっとこの「同一労働同一賃金」の派遣法の主旨を理解しました。やはり「最低賃金」ではありませんでした。そして、需給調整事業課と監督課の、賃金未払問題への棲み分けの様子が分かりました。

そして、この派遣法の「同一労働同一賃金」について、「目指すところは素晴らしい法律」であるが、実務上はかなり問題があるなと思いました。

(続く)