一人親方と偽装請負

(横浜駅の夜景、by T.M)

先週、今後の労働問題を考えるのに、とても重要と思える新聞記事が2つありましたので、紹介します。

毎日新聞 10/4

厚生労働省は4日の労働政策審議会の部会で、フリーランス(個人事業主)でも労災保険に入れる特別加入制度の対象を拡大する方針を示した。企業から業務委託を受ける場合は原則全て対象に含める。労災保険は企業などに雇用された労働者が対象だが、同じ企業から継続的に業務を委託されるなど、労働者に近いフリーランスも多いことから対象を広げる。厚労省は来年秋までに新制度を開始したい考えだ。

 労災保険は、労働者が業務中や通勤中にけがなどをした場合に補償する制度。保険料は企業が支払う。一方、特別加入制度は業種ごとの特別加入団体に任意で申し込み、フリーランスが保険料を支払うことで補償を受けられる仕組みだ。

 当初は建設業の一人親方などを対象にしていたが、2021年以降、業界団体の要望を受ける形で芸能やアニメーション制作従事者、ITフリーランスなど8業種を追加してきた。

 4月に成立したフリーランス新法の付帯決議で対象を拡大するよう求めており、厚労省が検討していた。内閣官房などの調査によると、日本のフリーランスは約462万人で、うち事業者から業務や作業の委託を受ける人は59%に達している。今回の提案は、これまでのように業種ごとにせず、業務委託をした場合を包括的に含めることで大幅に拡大する形となる。今後、特別加入団体のあり方なども検討する。【宇多川はるか】

この一人親方制度の拡充に、私は基本的に賛成です。フリーランスの方々に「労災保険」の門戸を開いたことは、生活に不安定な方のセーフティーネットを強化することであり、労働安全衛生コンサルタントというフリーランスの私にも加入が将来的に可能であるなら、加入したいところです。しかし、この問題については次のような側面もあります。

共同通信 10/4

インターネット通販大手アマゾンジャパンの商品配達を個人事業主(フリーランス)として委託され、仕事中に負傷した60代の男性が、横須賀労働基準監督署(神奈川)から労災認定されたことが4日、分かった。労働組合「東京ユニオン」が明らかにした。個人事業主は本来、労災の対象外だが、労基署は男性が指揮命令を受けて働く「労働者」に該当し、補償を受ける権利があると判断した。

 実態は雇用なのに、業務を請け負う形で働く個人事業主は「名ばかりフリーランス」などと呼ばれ、労働基準法で保護されないことが問題視されてきた。今回の認定は、アマゾンの配達を支える多くの個人事業主が補償の対象となり得ることを示し、個人事業主を労働力として利用する他の企業にも影響しそうだ。

 労組によると、個人事業主のアマゾン配達員が労災認定されるのは初とみられる。男性を支援するアマゾン労働者弁護団は声明を出し「労働者性を肯定し画期的だ」と評価。アマゾンが提供するアプリから配達ルートや荷物数など指示が出ていたことが重視されたとみている。

これは要するに、労働基準監督署が「建前は請負」しかし「実態は労働者」という「偽装請負」を認定したということです。「労災」事案ですが、労働基準監督署では「労働者性」の問題については、「取締り部門である監督課」の意向が強く反映されます。今後は、「偽装請負」をさせていたこの会社に対し、労働時間・賃金の支払い等について調査が行われる可能性があります。

もし、今回の横須賀労基署のケースで被災者が「一人親方労災制度」に加入していたとしたらどうなったでしょうか?被災者は一人親方労災制度で救済されるため、「労働基準監督署の偽装請負の認定」はされないことになります。

「一人親方労災制度の適用の拡大」は必要ですが、「偽装請負の隠れ蓑」にならないようにしなければなりません。