外国人労働者

(黄金色の会津盆地、by T.M)

ある人から、「時節柄、外国人労働者のことをもっと書いてくれ。」と言われました。だから、少し書こうと思いますが、実は私は、この問題にあまり詳しくありません。

合法的に日本に定着した南米人の働く現場には行ったことがありますし、労使トラブルは何度も処理しました。確かに南米人関係の申告は、労働者の割合からいって高かったかもしれませんが、そんな統計は作ったこともないので、正確には分かりません。というよりは、労働者が「南米人である」ということを意識しないで事件処理していたような気がします。これは、多くの労働基準監督官も同じだと思います。南米人については、日本人労働者と法の適用はまったく同じということが頭にありますから、普通に監督官の仕事をするだけです。労使の間に文化的摩擦はあったかと言われれば、そんな気もしますが、特に覚えてはいません。

日本人の配偶者を持つアフリカ系の労働者が多く働く、産廃業者の倒産事件を労働組合と協力して処理したことがあります。この時は、ちょっとした「文化的な誤解」があり、けっこう揉めました。しかし、あくまで「誤解」であり。理性的な対応はお互いできたと思います。

今、話題となっている「技能実習生」のことについては、「技能実習生制度」自体を理解していないのでよく分かりません。昔は「技能実習生の1年目は労働者でないので労働基準法の適用はない、それ以降は労働者」という法律でしたが、それも今では変更されているようです。いつからどう変わったかは知りません。

不法就労の労働者の申告も何回もしました。中には元技能実習生、現在脱走中という方もいました。そういう方々は、一人で来ないで、必ず「支援者」の方々と一緒に来ます。支援者の方々は、役所に対し不信感を持っている人も多く、その「支援者」の方々への対応が大変難しいものでした。

この不法就労の外国人対応について、労働基準監督署は入国管理局等について、一切通報はしません。だから、不法就労の外国人も安心して来署できるという訳です。

私は、この不法就労の外国人の申告処理が嫌いでした。外国人労働者を見ていると切なくなるからです。ここで当面の労使トラブルが解決したとしても、彼らはその後も、健康保険がなく、低賃金で、日本人がやらない仕事を、不法就労の外国人を使用することに抵抗感の少ない事業主の元で働き続けることになります。救いのない境遇をどうすることもできません。

今回の法改正で、彼らのような方は増えるのでしょうか?

 

労働基準監督官への誤解について

(笹子峠の旧笹子トンネル、by T.M)

昨日と今日は家でお仕事です。何か、役人やっていた時より忙しいです・・・疲れる。

yahooニュースを読んでいたら、最近労働基準監督署に、些細なことや、無理筋なことで相談する人が増えたという記事に出くわせました。そして、それに対応する労働基準監督署の監督官の態度が冷たいというものでした。誤解を得るかもしれませんが、敢えて書きます。

「労働基準監督官は、労使間のトラブルにおいて、労働者の味方はしません。」

だって、おかしいでしょう。国から給料をもらっている公務員が、国民どおしの争いについて、一方の味方をすることなんてありえません。中立が原則です。でも、それでは労働基準監督官の存在意義は何でしょうか。それは、

「企業に労働基準法を守ってもらうことです」

労働契約は一般的な民事の契約と一緒です。ようするに、「労働契約」も「売買契約」も基本的に同一だということです。しかし、労使関係に対等はありません。どうしても労働者の立場が弱くなります。もし、労働契約の内容に一定の制約がなければ、スキルを持たない労働者は労働時間はどんどん長くなり、賃金はどんどん安くなってしまいます。そこで一定の歯止めをかけるために、法律で「労働時間」「賃金」「労災補償」等を定めているのです。つまり、労働基準監督官が事業主に労働基準法を遵守させようとする行為は、法律自体がそうなっているので、最終的に労働者側に立つことになります。

しかし、これは結果的にそうなるということであり、労働基準監督官の立場としては、労使の間で中立であるということに変わりはありません。もちろん、「労働者のために働く」「ブラック企業と戦う」、このような心意気がなく、機械的に「法律どおり」という仕事をしていれば、監督官という職業はつまらないものになってしまいすが、権利を主張し、義務を怠る労働者の申し出に、毅然として拒否することも、また監督官の仕事であると思います。

10年くらい前から、前述の「法律違反であるかどうか」ということで、職権の行使を判断する労働基準監督官の仕事とは別に、もっとひろく労使関係のトラブルの仲裁をしようとする動きが労働局内ではじまりました。これは、地方労働局で「総合労働相談コーナー」という名称で実施されています。

この部署では、労使間のトラブルを「斡旋」や「指導」という方法で解決しています。この部署に、監督官が人事異動で担当になることもありますが、単純な「法違反の有無」だけの判断を求められるのではないので、かなり難しい仕事のようです。

もっとも、、最後は自らが司法警察員となりケリをつける監督官の申告処理と違い、こじれた時は民事裁判を紹介して終わるということなので、その部分では気楽なようです。

お休みです

3連休で遊びすぎました。おいで下さった方には申し訳ございませんでした。せめて、T.M氏の写真だけでもお楽しみ下さい。

(旧草軽電鉄の北軽井沢駅、by T.M)

外国人労働者

(八ッ場ダム建設工事、by T.M)

私の監督官時代の経験から、外国人労働者を使用する場合のトラブル防止のために、どのような点に注意しなければならないのかを書きます。

まず強調しておきたいのは、外国人労働者と日本人の労働者について、人間性はまったく変わらないということです。日本人がそうであるように、いい人もいれば悪い人もいます。嘘つきもいれば、正直な人もいます。働き者の努力家もいれば、いい加減な者もいます。

ただ、日本人労働者と違うことは、とても不安な思いが大きく、警戒心が強いということです。それは、文化・風習が違い、育った環境に大きな隔たりのある異国で働く訳ですから、あたり前のことです。ましてや、日常的に周囲に同国人がいなければ不安は倍増します。

私が監督官時代に、外国人労働者からある飲食店の賃金未払申告事件の解決を依頼されました。その人は支援を自称する方と一緒に監督署に来ました。

外国人労働者の支援団体が監督署に来るケースはよくあります。多くは、支援団体は労働組合関係の方です。こういった、労働組合の方は、監督署にとって「手強い」相手です。また、労働者の前では、弱気な姿勢を見せられないので、高圧的な態度でくる方もいます。ただ、けっこう紛争慣れしていますし、役所が「できること」と「できないこと」は理解しているので、監督署側としては、話が早くて助かるケースもあります。

この飲食店の申告の支援者はまったくの素人でした。外国人労働者に思い入れが強く、そもそもトラブル自体の内容を理解していない人でした。申告自体の内容は、単純なものでした。労働者が本国へ往復する費用を、事業場が出すのか、労働者が負担するのか、最初に決めておかなかったので発生した金銭トラブルでした。最終的には、事業主が「争いは嫌だから、労働者が請求する金額を全て支払います」と述べ、費用が支払われ解決した事案でした。

ところが、この支援者は、警察や会社の取引先へ連絡をし、「強制労働された。監禁された」と言い回ったのです。監督署の方面主任をしていた私のところにも、その関係の警察の方が来て、「外国人労働者が監禁されていた事実があるのか」と質問されました(偉そうに、警察手帳を見せながら)。

私は、こう答えました。「労働者が、事業主の用意したマンションに居住していたことは事実ですが、そのマンションのキイは労働者が常時携帯していたんですよ。これを監禁と言うのですか。パスポートも自分で所持していたのですよ。」警察はそれを聞いて黙って帰っていきました。(それくらい、自分たちで調べろよと、私は思いました)

そんな訳で、事件が起きた原因がどこにあったかは別の話として、事業主は想定外のトラブルに巻き込まれてしまった訳です。その「支援者」という方(日本人の旦那さんを持つ、外国人労働者の同国人の女性)が最初から「善意」で行動していたということが、話を大きくしてしまったのですが、冒頭に私が述べました「異国で働く不安感」が根底にあるのなら、仕方がないことだと思います。

外国人労働者を雇用する事業主の皆さん、あなた方も外国人を雇用することは不安なのかもしれませんが、雇用される労働者の方はもっと不安なのです。そのことを理解して頂ければ、無用な誤解は避けれるような気がします。

 

技能実習生と農業

(寒川神社、by T.M)

こんな新聞記事が目につきました。

技能実習生の中国人女性が、茨城県の農家に対し適切な賃金が支払われていないなどと訴えた裁判で、水戸地裁は農家に対し、200万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

 弁護士によりますと、技能実習生の中国人の女性(32)は、5年前に茨城県内にある「大葉」の栽培農家に、「技能実習生」として受け入れられました。しかし、日中の作業のあとには、遅くて深夜0時まで残業をさせられていたほか、時給300円程度しか賃金が支払われていませんでした。

 9日の判決で水戸地裁は、「残業も契約に基づいた労働で、農家側は適切な賃金の支払いをしていない」などと認定し、およそ200万円の支払いを命じました。

 「今、新しい外国人労働者の受け入れ制度が、国会でこれから議論されますが、技能実習生と同じように権利が侵害されて、時給300円、400円で働かされるようなことが、また繰り返される危険がないとはいえない」(弁護士)

 弁護団は「今回の事案は『氷山の一角』で、技能実習生がひどい実態を抗議できない状況に置かれている」と話しています。(以上、「新聞記事」から引用)

私は、労働基準監督官を30年以上やってましたが、実は「技能実習生」のことについては不勉強です。外国人労働者のトラブルや、外国人労働者を支援する労働組合との交渉等につきましては、それなりに経験してきましたが、「技能実習生生」のトラブルについては経験していません。これは、私がこのような事件から逃げていた訳でなく、巡り合わせというものです。同時期に神奈川労働局で監督官をしていて、現在福岡で社労士事務所を開設する原氏などは、技能実習生受入れ団体(監理団体)の顧問をいくつもしているくらいその方面には詳しいようですが、私はまったくダメです。ですから、この事件について、「技能実習生制度」を考察する見地からは何も言えないのですが、ひとつ言えることは、この事件は労働基準監督署ではまったく受入れられないということです。

労働基準監督署にとって、農業はアンタッチャブルなのです。理由は、労働基準法第41条に、「農業に従事する者については、労働時間・休日・休憩の条文は適用しない」と規定されているからです。つまり、農家が事業主になる時、一週40時間労働制は適用されませんから、「1日12時間労働・休日なし」という労働条件が可能になります。農家は、残業について割増賃金を一切支払わなくて良いので、働いた労働時間に対し最低低賃金を支払えばいいことになります。

また、外国人労働者というので、住居・食事は事業主である農家が提供していた可能性があります。事前に契約書で決めておいけば、それらの代金を賃金から控除することは可能です。ですから、農家の場合、技能実習制度を悪用しようと思えば、他の業種と比較し容易のような気がします。

ですから、未払賃金が発生した時に、「疑わしきは処罰せず」という刑法の原則に基づいて未払賃金額を特定する労働基準監督官にとって、農業従事者の三原賃金額を特定することは困難となるのです。

今回の民事事件の判決について、どのように支払額を算定したのか、詳しく調べたいと思います。