トラック屋さんのこと

(浜松市スズキ本社のスズキ歴史館、by T.M)

今回は何を書こうかと思っていました。

  「持続可能な安全管理 未来へつなぐ安全職場」

これは、今年の安全週間の標語ですがけっこう攻めています。SDGSです。御存じのとおり「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、2015年9月の国連サミットで採択された国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた17の目標です。標語はこのSDGSへのオマージュというかリスペクトというか・・・、ちょっと斬新です。

この標語のことを話題にしようかと思っていたら、厚生労働省の報道発表に面白いものを見つけました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18282.html

トラック運転者の長時間労働改善に向けて、「荷主どうし」の共同配送に興味のある荷主企業を募集します

この募集の説明文には、次のように記載されています。

[開催の背景] トラック運転者は、他業種の労働者と比べて長時間労働の実態にあります。その背景には、荷主や配送先の都合により、長時間の荷待ち時間(貨物の積み込みや荷下ろしの順番を待つ時間)や、手荷役(手作業での貨物の積み込み荷下ろし)が発生するなど、貨物運送における取引慣行などからトラック運送事業者の努力だけでは改善が困難な問題が存在しています。

重要な社会インフラである物流が滞らないようにするために、そしてトラック運転者の長時間労働を改善していくためには、荷主企業とトラック運送事業者の双方が歩み寄り、そして協力しあって、取引環境の適正化に取り組むことが必要不可欠です。

このオンラインミーティングでは、トラック運転者の長時間労働改善のための有効な取組である「荷主どうし」の連携のうち、共同配送に興味のある荷主企業の出会いの場を提供します。

「共同配送」とは、複数の物流企業・事業所が連携し、複数企業の商品を同じトラックやコンテナなどに積み込み輸送する輸送手段のことですが、「共同配送」が事業場側のコスト削減に繋がることは理解できまうが、それが運転手の荷待ち時間や手荷役労働とどういう関係があるのだろうかと疑問に思いました。

「共同配送」にすれば生産性が上がる、だから賃金が上がる、それで長時間労働がなくなるということでしょうか。低賃金と長時間労働がセットになることが、労働者にとって一番まずいことは理解できますが、医師とかファンドマネージャーとかの特殊技能の持ち主でなければ、高賃金・長時間労働という組み合わせは、合理化につながってしまい職種じたいがなくなるような気がします。

「共同配送」という概念を追究していくと、マッチングアプリを使って荷主と業者が契約し、それをプラットフォームビジネスとして展開する企業がでてくるかもしれません(もうあるかもしれないけど)。要するに「ウーバーイーツ」の運送業版です。そうなった時に、運転手の労働条件は改善されるのでしょうか?

厚生労働省が募集するくらいの「テーマ」ですから、きっと深い意味があると思いますが、長時間労働の防止とどのように関係があるのか、もう少し詳細に説明が欲しいと思いました。

ここまで書いてきて、このブログを丸5年やってきたけど、タクシー屋さんの件は何回か書いたんだけど「監督官から見た運送業」ということを書いたことがないことに気づきました。トラック屋さんは、監督官にとって、尊敬すべき手ごわい強敵です。特に、任官2,3年目の監督官が、トラック屋さんに行くと、「労働時間」の件も、「労働安全衛生」の件も、とても学ぶべきところがたくさんあります。何回かに分け、それを書きます。

まずは、私の独断で思う、トラック屋さん(運送業)の特徴です。

第一は、とても災害が多い業種であるということです。業種別の労働災害千人率で比較すると、林業22.4件(労働者1000人に対し、22.4件の労働災害発生。平成30年統計)なんて別格に労働災害発生が多い業種があるんですが、工業的主要3業種の、製造業・建設業・運送業で比較すると、製造業2.8件、建設業4.5件に対し、運送業8.9件であり、非常に労災の多い業種であることが分かります。

第二に、非常に伸びている産業であるということです。私が監督官となった1980年代と比較して、製造業・建設業等は衰退しましたが、運送業だけは元気です。もっとも、物流の現場は、アマゾン等に代表される小口取引が多くなって、産業用の配送は少なくなってきているようです。それから、小口配送と言えば、1980年代は最大の配送業だった日本郵政が元気のないのが気になります。

第三に、働く人たちが「個人事業主」扱いされるようになってきて、就業条件がとてもきつくなっているということです。このブログで何回か取り上げた「ウーバーイーツ」もある意味「運送業」ですが、働く人は個人事業主です。個人事業主の厳しい就業状況を描いた映画にはケン・ローチ監督「家族を想うとき(2019)」があります。名作です。アマゾンプライムで観れます。

また、個人事業主が増加している例として、アマゾンの荷を取扱う個人事業主の下請けを使用する運送業者で、この5年間で株価を10倍としたところがある事例を挙げておきます(そこの会社の就業条件については私は知りません。もしかしたら、個人事業主を効率よくシステム的に使用していて、報酬は高いかもしれません。個人事業主が増えている事例として紹介しておきます)。

第四に、長時間労働等の問題があることが挙げれます。そのため、「大臣告示・自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(通称:改善基準)を定めてあるのですが、うまく行っていない状況があります。また、法律を遵守しないケースも多くあります。

あるトラック屋さんに行った時に、社会保険未加入だったので注意したところ、余計なことをするなと「労働者」から文句を言われました。ようするに、その事業場では「社会保険の事業場負担分」を賃金にプラスして支払っていたのでした。社会保険に加入したら、「賃金が低くなる」という理屈です。私は、その労働者に「厚生年金がもらえなくなる」と言って説得しましたが、「どうせ後25年も務めない」と反論されてしまいました(当時、厚生年金の受給資格は25年)。

こういったトラブルは、トラック屋さんとけっこうありました(旧社会保険事務所に連絡したけど、役所は何もしませんでした)。

次回から、改善基準のことを含め、色々書きます。