今週はブログ更新を休みます

来週私が講師を勤める「職長教育」と「安全管理者選任時研修」の資料作りに忙殺されてます。

資料(データ)を自宅へメールで送付し、自宅で原稿とパワーポイントにまとめ、メールで送り返す「メール残業」してます。ちなみに、私は管理職扱いで、「××手当」というのが、本給の○○パーセント付くので、残業代はでません。

来週、少し余裕ができますので、「働き方改革」について書きます。

 

働き方改革について(2)

(愛川町八菅神社、by T.M)

平成25年に監督官が行った調査的な監督が杜撰であるということが話題になっています。マスコミの記事を読むと、素直に監督署が謝らなければならないものと、誤解されているもの、そしてフェイクニュースがあるような気がします。

まず、監督署が悪いと思われる件について説明します。厚生労働省が精査したら出てきたという「1日の残業時間が45時間の者がいた」というケース。これは、残業時間「4.5時間」の書き間違いでしょう。こういう箇所が散見されることは、監督署がたるんでいると思われても仕方ないでしょ。ただし、問題発覚時に長妻議員が指摘した「残業15時間の者がいて、これはおかしい」という指摘については、そういうことはありうるということを反論します。

「事故対応時」に、担当者が24時間対応することはありえます。今回の福井県の除雪で過労死したという痛ましい事件のようなケースです。また、「天災でしたので、担当者を36協定以上働かせましたという報告(労働基準法第33条に基づく届出)」を、鉄道会社が監督署に提出してきたものを、受理した経験は何度もあります。調査的監督を実施した時に、監督官がそのようなデータを見つけたら、調査票に「残業15時間」と記載します。

次に、「これは何か誤解があるな」と思われケースを説明します。

それは「(1日当たりの残業時間)(1週間当たりの残業時間)(ひと月の残業時間)の3者について」整合性が取れていないという指摘です。

例えば、次のような指摘です。「1日当たりと1週当りの残業時間がゼロなのに、月の残業時間が何十時間もある」「1日当たりの時間外労働が14.5時間なのに、同じ週の残業が4.5時間である」

これらのケースはありえます。前記の最初の場合は、明らかに「フレックスタイムの労働時間制度」を導入している事業場の残業記録です。このような記録となります。

また、後者の場合は「1日8時間の法定労働時間に対し14.5時間の残業を行ったが、1週の法定労働時間40時間に対しては4.5時間の残業しか行っていない」ということで、これは例えば「災害が発生し徹夜で作業したが、翌日に代休を取得した」という場合が当てはまります。現在、各企業では総労働時間の引下げに努力しているところも多いので、このようなケースも十分にあり得ます。

監督官が調査的な監督を実施した場合、この記事の冒頭に挙げたように「書き間違い」は発生する可能性はありますが、「論理的エラー」は少ないように思えます。「(1日)(1週)(1ヶ月)」の残業時間について、論理的な整合性がないという問題については、精査して頂ければ、何かしらの理由があって、現場の監督官が調査票にそのように記載したものだと思います。

 さて、最後にフェイクニュースと疑えるものを指摘します。共同通信の次の記事です。

 裁量労働制に関する厚生労働省調査に不適切なデータ処理があった問題で、調査に当たった労働基準監督官の男性が24日までの共同通信の取材に「1社当たりの調査時間を約1時間半とする内規に従ったが、(私の場合)十分な時間が取れなかった。結果的に調査がずさんになってしまった」と証言した。 この調査を巡っては、これまで不自然な数値が200件以上見つかっているが、実際に担当した監督官が調査手法の不備を証言するのは初めて。全国約320の労働基準監督署が1万1575事業所を調査したが、不十分な調査の一端が浮かび上がった。

私は、前回のブログ記事で書きましたとおり、平成25年はキランバレーで1年間入院と自宅リハをしてましたので、この時の調査的監督には一切関係していませんでしたが、監督官32年間に過去に何回も調査的監督を経験してきた者としては、この証言はおかしいと思います。

まず、「監督を1件1時間半以内とする内規」なんて聞いたことがありません。今後のブログで詳しく書くつもりですが、「臨検監督」と「所用人日」は、計画上「1件1人日」が通常です。

もう20年以上前に「1日7件監督実施」という計画がありました。しかし、これは、「従業員5人未満の理美容業・飲食業等のサービス業」「業界団体と協力して呼出し」「最低賃金違反のみを確認すればよい。残業代等は一切指摘せず、リーフレットだけ渡す」というかなり特殊な監督です。この監督は「最賃集合監督」と呼ばれ、最低賃金審議会に資料を提出するために実施する、一種の調査的監督でしたが、「労働時間を確認せず最低賃金だけ確認する」といった監督目的が時代の趨勢に合わないため、もう随分前から実施しなくなっています。

この共同通信の記事については続報が欲しいところです。

その時には、「調査的監督実施時の監督官実績表」「臨検監督月間計画表」そして「調査的監督に関係する本省派出の部内通達」の写しも記事に掲載していただけたら、この記事がフェイクであるかどうかがすぐ判明すると思います。

そこには、監督官が「ひと月何件監督を実施したか」「何件監督をするように計画されたか」「どのような指示が本省からあったか」が記録されています。労働局の基準システムを検索すれば、全国の監督署のどの端末からも入手可能なはずです。

 

 

 

働き方改革について(1)

(成田・科学博物館・YS11,by T.M)

働き方改革について、少し書こうかと思ったら、何か「裁量労働制」のことで世間は盛り上がっていますね。「平成25年度実施の労働時間の調査的監督」のデータの読み方の問題だそうです。

「調査的監督」について説明します。その前にお断りしておきますが、私にとって、平成25年という年はギランバレーが発症した年であり、6ヶ月ばかり人工呼吸器に繋げられ入院し、その後のリハビリで仕事を棒に振った年でした。従って、私自身はこの年の調査的監督について一切関わっていませんし、内容もまったく知りません。これから書くことは、私の経験から推測したものです。

調査的監督とは、不定期に行われるもので、私は4~5回経験しました。実施年度が始まる年明けの1月くらいに、「今年は調査的監督を実施する」という通達が本省から各都道府県労働局を経て監督署に来ますので、それを受け監督署は次年度の年間計画にこの調査的監督を組み込みます。「件数」「事業場規模」「業種」「実施時期及び本省報告期限」はこの通達で示されます。

調査的監督の目的は、本省がその時の社会状況を知るためです。1980年代末に「週休2日制導入等の時短」が話題となっていた時には、「労働時間の実態調査」に行きましたし、「名ばかり店長」が話題となっていた時には、その調査的監督に行きました。

調査的監督と言っても、監督官にとって通常の臨検監督と何ら変わりはありません。事業場に行って、労働基準法関係の書類等をチェックし、労働安全衛生環境を確認し、法違反があれば是正勧告するだけです。通常の監督と違うのは、事前に本省から「調査票」と呼ばれる冊子を渡され、臨検監督後にそれに記入して、その冊子を期限が来たら地方労働局を経て本省に送ってやることです。「調査票」の記入内容は、「一番労働時間が長い労働者は何時間残業する」「店長の職務権限でアルバイトの解雇権限はあるか」等で、調査目的によって当然違います。冊子は20~30ページくらいあり、調査項目は100項目を超えることもあったと思います。

監督署が年間計画で監督を実施する事業場は、通常なら「事故が多い業種」とか「過重労働の疑いがある業種」等なのですが、この調査的監督については、本省が指定してくる業種等が、普段行ったことのサービス業や研究業になることも多く、「調査票」の記入は面倒だったのですが、勉強になることも多く、けっこう楽しく仕事をしていた経験があります。

 

賃金不払い事件について(4)

(湘南国際村から、by T.M)

倒産、しかも事業主行方不明という事件が発生した時に、労働者が一番しなければならないことは、「賃金台帳」と「タイムカード」の確保です。この2つがあれば、前の記事で紹介した未払賃金の立替払(賃確)ができます。ところが、いざ倒産という時には債権者がやってきて、事務所や工場の備品や設備を持っていってしまって、事業場内は荒らされてしまい、労務関係の書類はどっかへ行ってしまうことがほとんどです。

事実上の倒産とは、2度目の「手形の不渡り」を出し、銀行取引停止処分となる時です。もっとも、初回の不渡りが出た時点で事業主は以後の金策がつかないので、姿を消してしまいます。その手形は、通常「あぶない手形を取扱う人たち」の手に落ちています。ようするに、「危ない会社の手形」を専門に「買い取る人たち」が世の中にいるのです。そういう手形の価格は「表書きの金額」の10分の1、場合によっては100分の1だそうです。

その方々の仕事はとても手早く、慣れています。ある朝、労働者が会社事務所に出勤する、ドアに「何人も立入り禁止。××興業」と書かれた文書が貼られていて、労働者が始めて経営者の行方不明を知るケースも少なくありません。なかには、「事務所内のすべての物は処分してもらってかまいません」という経営者の署名押印がある念書を入手している手際の良い回収業者もいます。

そんな世界があることを、私は監督官になって初めて知りました。「融通手形」という言葉を知ったのもその頃です。

手形を買取る人たちは、もちろん合法的にお仕事をされている方々です。何も悪いことはしていません。一度、そういう人たち(回収業者)の事務所を訪問したことがあります。持っていった物品の中に「タイムカードと賃金台帳」があることが分かったので、提出のお願いに行ったのです。

(このような場合、業者に対し提出を強制する権限は、監督官にありません。監督官が権限行使できるのはあくまで「事業主」か「労働者」に対してのみです)

その回収業者の事務所の入口には金色の大きな紋章が飾ってありました。私は、業者の担当者に事情を説明し協力を依頼したのですが、担当者は「従業員の賃金を払わないなんて悪い社長ですね」と述べ、すぐに必要な書類を提出してくれました。担当者以外はタトゥーが垣間見える方が多かった事務所ですが、筋は通すところだなとしみじみ思いました。

次回から、「働き方改革について」。少し思うことを書きます。

働き方改革について

(三浦市初声町の用水路のコサギ,by T.M)

賃金不払いの件は1回休みます。 

昨日、現職の神奈川労働局の職員と飲みましたが、興味深い情報を得ました。地方労働局内で大幅な機構改革が行われているようです。具体的に言うと、現在の「労災課」の人員の多くを「監督課」に回すそうです。

減員となる労災課は一人当たりの業務量がどれだけ増加するのか、友人は心配している様子でした。 

機構改革の目的は(これは私の推測ですが)、政府の「働き方改革」を加速させるために、「監督課」の長時間労働の取締りを強化するためのものだと思います。

昨年就職するまで、フリーのコンサルタントをしていましたが、「働き方改革」についての講演をよく依頼されました。確か、働き方改革の骨子は次のようなものだったと思います。

「日本はこれから益々少子・高齢化社会となり、生産者数の全人口に対する割合が減少する。この現象が生む緊急の問題は『介護』と『育児』である。社会の仕組みを働き方改革で変革し、同問題に対処しなければならない。その具体的な手段としては、1長時間労働をなくし労働生産性を高くし、2女性、高年齢者が活躍しやすい環境とし、3正規労働者と非正規労働者の格差をなくすことである」 

働き方改革の主旨に対する私の理解が正しいのであれば、私は働き方改革に賛成です。そして、労働行政の具体的な当面の方針として、「長時間労働の撲滅」と「(正規労働者と非正規労働者の)同一労働同一賃金」の2つとすることも合理的なように思えます。 

ただ、そのことを行政の課題とするために、行政内職員に長時間労働の懸念があるのでは困ります。もっとも、定年退職者の再雇用も増えていますので、当面はなんとかやり繰りは可能と思いますが、ただでさえ非正規職員の件で時限爆弾を抱えている現状で、行政内部でやっかいごとが起きないことを祈ります。 

酒を飲み、旧友の懸念と愚痴から、古巣の未来を思いはせた夜でした。