普通の日記(29年7月18日)

(三国街道須川宿近辺のハナショウブ、by T.M)

**********

今日は、新潟に日帰り出張。セミナー講師です。暑くなりそうです。

********** 

電通が、「過半数組合と誤診して36協定を締結していた」という件は本当でしょうか。私は、代表取締役や今回被疑者となった方々が誤診してしていたことは間違いないと思います。しかし、総務部門の担当者はどうでしょうか。 

電通ほどの大企業の総務担当者が、自分の会社の労働組合が過半数組合であったかどうかを把握していないということはありえないと思います(あくまで推測です)。これは、総務担当者にとって、極めて基本的な問題だからです。 

過半数労働組合の存在というのは、総務部門にとってはとても便利なものです。労働関係の書類、例えば36協定や就業規則は、過半数組合の協力があればいくらでも改正等ができますし、労働安全衛生委員会の活動等にも過半数労働組合の存在が欠かせません。

このような組合がなければ総務部門は労働者の過半数代表を選ぶお膳立てをイチからしなければなりません。

非正規労働者の割合は、20年前には全労働者の1/6であったものが、昨今では1/3までその比率が上がっています。従来、正社員だけで企業内組合を作ることが慣例でした。なぜなら、非正規労働者と正規労働者の格差が激しく、同一の要求など不可能だからです。しかし、非正規労働者の数がここまで多くなってしまうと、数にまかせて正規労働者の組合だけで物事を進めることはできなくなっているのです。 

今回の電通の「36協定の協定締結者が過半数労働組合でない」という事件は、日本の大企業が、非正規労働者の存在を軽んじてきたから起こったものではないでしょうか。 

非正規労働者の処遇の改善が必要です。次の国会では、働き方改革のひとつの目玉である、「同一労働同一賃金」の政策の審議をぜひして欲しいものです。

 

普通の日記(29年7月14日)

(三国街道須川宿付近の野菊、by T.M)

「長時間労働規制の問題点」を書いていましたが、平成29年7月現在、のんびりと長年温めてきた題材をブログに書いていくより、時事問題として、すぐに書いた方が良いというような話題が、世の中に山積していることに気付きました。そこで、「長時間労働規制の問題点」を一時中断し、日々の日記を書くこととしました。

私が最近一番気になったのは、次の新聞記事です。

「 大手広告会社の電通(東京)が社員に違法な残業をさせていた事件で、残業時間を月に50時間までなどと定めた同社本社と電通労働組合東京支部の労使協定(三六協定)が無効だったことが7日、東京地検の捜査で分かった。労組が労働者の過半数で組織されていなかったためで、電通幹部は三六協定が有効だったと誤信していたという。」(産経新聞、7月7日) 

これ大事件です。これが事実なら、36協定が無効であったのですから、すべての残業が違法残業ということになってしまいます。(まあ、それが「誤診」ということで刑事罰にはならないのは理解できますが・・・) 

問題は、36協定でなく、就業規則です。就業規則の有効性についても、過半数労働組合の存在が影響されます。

就業規則は「過半数労働組合の代表の意見書の添付」が必要となりますが、その意見書の添付がなくても、「就業規則の内容が労働者に周知されている」条件が満たされていれば、就業規則は有効です。 しかし、今回「過半数労働組合に達していなかった理由」として、会社側は「正規職員だけなら過半数労働組合に達するが、非正規職員が増えてしまい、結果として労働組合は過半数割れをしてしまった。」と説明しています。 

電通は、非正規職員であるパートタイマー労働者にも、正規職員の就業規則を開示しているのでしょうか。通常の会社では、クラウド等を利用し、正社員には就業規則を開示していますが、パートタイマー等には、そのシステムに侵入できないのが通例のはずです。 

だとするなら、もしかしたら、電通の就業規則は、「過半数労働組合の意見書の添付がなく」かつ「全職員に周知されていなかった」という可能性もあります(これは、私の憶測であり、ひとつの可能性の提示です)。 

そうであれば、就業規則は無効となり、就業規則が無効の期間中に、例えば会社が行った、「解雇処分」等は、すべて無効となってしまう可能性があります。

 

 

長時間労働規制の問題点(28)

(三国街道須川宿近辺①、by T.M)

**********

ブログを1回お休み頂きまして、明日の講義の資料を作成していました。衛生管理者の受験準備講習会の講師をします。講義内容は、「労働安全衛生法と労働基準法」ですが、法の主旨より、過去問から類推できる受験テクニックを教えるつもりです。

**********

電通事件について、被災者のお母様が、今回の立件について、被災者の上司が不起訴となったことが納得できないことを意志表示しました。

噂によると、被疑者となった被災者の上司は、社内で行われた、被災者への「パワハラ・セクハラ・イジメ」の当事者ではないそうです。

もし、そうであるなら、上司は社内の管理責任を問われ書類送検された訳ですから、管理責任の最終責任者として法人(つまり代表取締役)の刑が確定しているため、お母様のやるせない気持ちを情状としても、直接の上司は不起訴であるという検察庁の判断は理解できます。

検察審査会に申立てすれば、逆転起訴ということもあるかもしれませんが、直接の上司が今回の刑事事件で問われた管理責任は、あくまで「長時間労働をさせた」という法違反であって、「イジメ・パワハラを放置した」というものではないので、それも難しいかもしれません。

被災者のお母様がどうしても法の裁きを求めるなら、会社及びパワハラ当事者への損害賠償請求の民事裁判でしょう。ただ、現在の電通の様子では、裁判を避けるためにも、社員(パワハラ当事者)の分も含め請求額をそのまま支払ってしまいそうな気もします。

残る手段はパワハラの当事者への傷害罪としても告発ですが、これも敷居が高い気がします。

結論としては、パワハラに対し、罰則付きの処罰を求める法改正を求めていくことではないでしょうか。

***********

今回は、「電通事件の送検結果」について記載してしまいましたので、「長時間労働規制の問題点」のテーマは、お休みします。次回から、通常テーマに戻ります。

 

長時間労働規制の問題点(27)

  (横浜のマリンタワー、by T.M)

(前回のブログの続きです。)

ヤマト運輸は、自ら自社の負の情報をマスコミに提供することによって、完全に世論の影響への主導権を握りました。そして、次のようなことを発表しました。 

「宅配業界の労働者の業務は苛酷である。このままでは、当社はコンプライアンス不可である。」

「宅配業界の問題点として、再配達の問題がある。再配達への対処が長時間労働を生む。宅配ボックスの普及が必要だ」

「社員の休憩時間確保のために12時から14時までの時間指定の配達を取りやめる」 

社内に、ブラックの部分を抱えようとも、巨額な残業代支払いに応じるというヤマト運輸の誠意と率直な問題提起は、第3者の共感を呼びました。そして、気付いてみると、ヤマト運輸は、宅配時間の変更をし、代金の値上げまで計画し、社内の労務管理への構造改革の道筋を作ってしまいました。 

このヤマト運輸の経営力については脱帽するばかりです。「危機」をまさしく「チャンス」としてしまいました。私は、32年間の労働基準監督官人生の中でも、これだけ鮮やかな変革を行えた企業は知りません。 

ただ、他の企業が、労働時間短縮について、このヤマト運輸の真似をしようと思っても、なかなか難しいのが現実でしょう。

(続く)

************

スミマセンが、次回(7月7日)のブログ更新は中止します。

仕事が詰まって、身動きができない状況です。

************

 

長時間労働規制の問題点(26)

(山下公園の噴水、by T.M)

 

************
今日はこれから大阪へ日帰り出張。そして、明日は青森へ日帰り出張。
安全週間中はともかく忙しいです。
************

(前回のブログの続きです。)

ある会社が長時間労働を短縮しようとするなら、多分次の2つのどちらかの道筋を辿ることになると思います。 

第1 企業が経営の構造改革を成し遂げ、ドラスティックに労働時間を削減する。第2 企業が、労働時間の「ムダ」をひとつひとつ減らしていく。 

第1の道筋は理想ですが、達成できる企業はあまりありません。最近では、「ヤマト運輸」の事例がそれに該当すると思います。

ヤマト運輸の残業代不払事件についてですが、横浜北労働基準監督署(私もこの署の第1方面主任監督官をしていたことがあります)が、ヤマトの労働組合の申告を受け、是正勧告書を交付したことが発端でした。

最近、労働基準監督署がどこそこの企業に是正勧告書を交付したという記事が多いので誤解されている方がいらっしゃるようですが、私の調べた限りでは、このヤマトの事件について労働基準監督署が積極的に情報をマスコミに提供している事実はないようでした。

この事件の情報を積極的に流布させていたのは、当該労働組合とそれを支援する共産党の方がたでした(新聞「赤旗」にその記事が掲載されています)。 

その新聞記事では、ヤマト運輸でいかにサービス残業が苛酷に行われていたかが記載されていました。また、同社内で酷いパワハラ・イジメがあったことも報道されました。いずれにせよ、最終的にヤマトが何百億もの残業代を遡及是正したのですから、サービス残業の事実は間違いないものだと思います。 

「ヤマト運輸はブラック企業」そのような評判が立ち始めた頃、情報の出し手がいつの間にか変わってきました。ヤマト運輸自体が、「当社では如何に残業代が不払であったか」を積極的に発表するようになってきたのです。

(続く)