普通の日記(29年8月22日)

(乙女高原に咲く花part3,by T.M)

先日、新聞記事で、ある工事現場で熱中症対策のために、「ポカリスエット500ml」を50円で販売する自動販売機を設置したという記事を見ました。ポカリスエットの代金の差額は元請けが支払っているそうです。 

この自動販売機を見た現場作業員が、写真を撮りツイッターでそれを拡散させ、話題になったそうです。 

私はこれが、とてもいい話だと思いました。熱中症対策にはこれにまさる方法はないとも思いました。そして、有益な情報を得たと思い、知合いの某大手ゼネコンの現場代理人にしたところ、こんなふうに返されてしまいました。

「何年も前からウチの会社の現場では専用の冷蔵庫を設置して、タダで配っていますよ。それ普通じゃないですか」 

私はポカリスエットを無料で配布している現場が常態としてあることを、不明にも知りませんでした。少し恥ずかしくなりました。

それとともに、この話を最初にSNSにアップした現場作業員のことを想いました。きっと、彼はまだ若者(せいぜい30代でしょうか)で、経験も浅く、現場で珍しいものを見たと思い、スマホで撮影したのだと想像します。 

そして、彼はきっと、自動販売機が設置されていることがとても嬉しかったのだと思います。 

熱中症対策のために、日夜努力をされている工事関係者の方がたに敬意を表したいと思います。そして、その努力は作業員の方にも伝わっていることが今回の騒動で分かったような気がすることを、改めて申し上げます。

 

普通の日記(29年8月18日)

(乙女高原に咲く花part2,by T.M)

トヨタの新人事制度の概要が見えてきました。次のようなものです。 

第1 係長以上の者を対象とする

第2 残業代を45時間分を、残業をしてもしなくても、対象者全員に毎月支払う。

第3 出退勤時間は、対象者の裁量にまかせる

第4 労働時間の把握は会社が行う

第5 会社が把握した対象者の労働時間が「45時間」を超えていたら、差額の残業代を支給する 

web上で既に指摘されていますとおり、これは労働基準法の「裁量労働制」には該当しません。労働基準法上の裁量労働は、「専門型」と「企画型」の2種類があって、どちらにも該当しないからです。 

労働基準法では「始業時間」と「終業時間」を、予め労働契約で明確にしておく必要があります。もちろん、この両時間について変更することは可能ですが、「労働契約の変更の手続き」を行わなければなりません。具体的には、労働者と使用者が、その都度話合い合意に至るということです。そんな面倒なことをトヨタいちいちしないでしょう・・・ 

色々、考えていたら、つまりこの制度は次のようなものであると気づきました。

「固定残業手当を支払うフレックスタイム制度。ただし、ひと月の実労働時間数が所定労働時間以下でもかまわないし、総労働時間は36協定以内とする。」 

このような制度であるなら、確かに労働基準法上は可能です。私の想像どおりであるなら、うまい制度を考えたものだと思います。 

この固定残業時間制度において、トヨタが支払う固定残業代は平均17万円程度となるそうです。ひと月の所定労働時間数を170時間とするなら、基本給は約50万円程度となりますので、残業代込みで月給70万円弱くらい。年収は1000万円を超えるでしょう。 

この給与額は、さすがトヨタです。また同社のことですから、コンプライアンスには厳格だと思いますが、願わくば「トヨタがそうだから」といって、ブラック企業がこの制度を悪用しないように願います。

 

 

普通の日記(29年8月15日)

(乙女高原に咲く花part1、by T.M)

今年の1月に厚生労働省が示した「労 働 時 間 の 適 正 な 把 握 の た め に 使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、着替え時間が労働時間であることが明確にされています。この事例をもって、前回のブログ記事に記載した、「自動車メーカーのスズキが行っていた始業前のラジオ体操は労働時間である」と説明している新聞記事が多数見受けられます。

少し誤解があるようです。このガイドラインは「使用者の指揮命令下にある着替え時間は労働時間である」と述べているのであって、すべての着替え時間が労働時間であると規定している訳ではありません。

事例を述べるなら、「飲食店のように従業員に共通のユニフォームを指定する場合」や「労働安全衛生のため作業服を着用することが必要な場合」は着替え時間は労働時間となります。しかし、「作業をすると、服が汚れるから着替える」という場合は労働時間となるかどうかは微妙です。なぜなら、「労働者の安全を守るのは会社の責任であり、そのための着替えは労働時間としては認めるが、労働者にも決められた時間を使用者に提供する義務があり、(当社では)スーツ姿で仕事をやってもらっても構わないので、汚れるからといって着替えるのは、自己責任」という考えも、あながち間違いではないからです。 

だから、「始業前のラジオ体操」にしても、「健康管理は労働者の義務。だから、ラジオ体操の場を提供するのは会社の恩恵的措置」といった理屈も無しとは言えないのです。 

多くの会社でが、「ラジオ体操」にしても、「始業前の着替え」にしても、「労働者のための安全衛生上の措置」から、いつの間にか「会社の規律」という問題にすり替わってしまうことがよくあります。これが、日本の文化なのかもしれませんが、それが「ラジオ体操が労働時間であるかどうか」という議論を引き起こしてしまいます。 

本来の始業前の体操とは、会社が参加できる状況(例えば、飲み物1本無料提供とか)を作り出してやり、あくまで笑顔で自由参加の雰囲気である限り「労働時間であるかどうか」は問題になりません。

規律という別の要素が入ってくることが、事を複雑とするのです。

 

 

普通の日記(29年8月11日)

(ポルトのワイン工場で眠る酒)

今日の話は、ラジオ体操についてです。7月25日のNHKニュースです。

「浜松市に本社を置く自動車メーカーのスズキが牧之原市の工場で朝の体操や朝礼を労働時間に含めていなかったとして労働基準監督署から是正勧告を受け、従業員に未払いの賃金およそ1000万円を支払ったことがわかりました。是正勧告を受けたのは牧之原市にあるスズキの相良工場です。

スズキによりますと相良工場では、始業時間の前に行っていたおよそ10分間の体操や朝礼について労働時間に含めていなかったということです。従業員からの情報で島田労働基準監督署が立ち入り調査を行い、先月、体操や朝礼の時間を労働時間として把握するよう是正勧告を行いました。

勧告を受けてスズキは工場内で働く従業員のうちおよそ500人に対し、今の勤務制度になった去年6月からことし2月までの未払い分の賃金、あわせておよそ1000万円を今月支払ったということです。(NHKニュース)」

労働基準監督署の取った措置については、あたり前のことだと思います。「始業前のラジオ体操が、使用者の指揮命令下にある」以上は、当然労働時間となるのですから、賃金の支払いが必要となります。

私が違和感を持つのは、「なぜ、ラジオ体操が強制されたのか」ということです。

始業前にラジオ体操をする理由は何なのでしょうか。これは、従業員の生活習慣病対策及び腰痛対策のためです。ラジオ体操の健康への効力については、「NPO法人 全国ラジオ体操連盟」は次のように述べています。

「ラジオ体操は、人間の体をまんべんなく動かすために必要な運動を組み合わせてつくられています。しかも、健康な人なら負荷も少なく、だれでも手軽にできる体操です。これを毎日続けることで、加齢や生活の偏りなどが主な原因となる体のきしみを取り除き、人間本来がもっている機能をもとの状態に戻し、維持する効果があります。

事実、ラジオ体操会に毎日参加するようになった人の多くから、風邪をひきにくくなったという話も聞きます。ほかにも血圧や血糖値が下がった、坐骨神経痛やギックリ腰の症状が軽くなったという声を聞きますが、実はラジオ体操がこれらの症状を改善させたのではなく、ラジオ体操を継続することで体全体の血流がよくなり、筋肉に弾力性ができ、その結果、症状が緩和されたと考えるほうが正しいのです。

つまりラジオ体操は、漢方薬のようにじわじわと体のなかに染み込み、もとの健全な状態に戻す働きをしたのです。決して即効性があるものではありません。(NPO法人 全国ラジオ体操連盟のHPより)」

企業が朝のラジオ体操を辞めてしまった時のことを想像してみましょう。その場合、従業員が「腰痛で労災認定」されたら、企業は「ラジオ体操をしていなかったから、腰痛は発生した。だから安全配慮義務違反だ」ということになるでしょうか。それは、さすがに無理があるような気がします。

そもそも、ラジオ体操というのは、仕事が始まる前に仲間どうしが集まって体をほぐし、気分良く仕事をするために行うものです。この「気分良く」というのがとても大事なことです。

「気分良く」ラジオ体操を行うためには、従業員の自主性を尊重し、例え参加しない従業員がいたとしても大目に見ることが肝要です。従業員が自主的に行うこのようなラジオ体操なら、始業前に行われることがあたり前で、会社側は場所を提供しているだけということになります。また、従業員の健康のために、会社が勧奨し協力することは、とても素晴らしいものとなります。

そのようなラジオ体操がいつの間にか、「従業員への強制」となり、労働時間となってしまいます。この過程が私は問題のような気がします。これは、「会社の仲間どうしの飲み会(コミュニケーション)が、いつの間にか職場の慣例業務となり、強制となる」過程と似ている気がします。

(この項続く)

普通の日記(29年8月8日)

(NY セントラルパーク レノンの記念碑)

先週飛び込んできた、労働問題系に係るビッグニュースは「トヨタの裁量労働時間制」と「労働時間把握義務を法制化」の2つでした。今日は、このうち「労働時間把握義務を法制化」について、感想を書きます。 

今年の1月に、厚生労働省は「労働時間適正把握のガイドライン」を公表しました。しかし、これは強制力をもつものでないので、このガイドラインを法制化しようというもののようです。内容は、「労働時間の把握について『客観的で適切な方法で行わなければならない』などの文言を盛り込む」といったようなものです。 

この改正はとても良いことのように思えます。なぜなら、労働時間規制の基本は労働時間の把握にあり、これができないと、労働者を過重労働(過労死)から守れないからです。私はこの件について、厚生労働省の方針を100%賛成します。 

しかし、疑問点は2つあります。

ひとつは、「なぜ、労働基準法の改正でなくて、労働安全衛生法なのか」

ふたつ目は、「なぜ、労働安全衛生法の法自体の改正でなくて、政令(労働安全衛生法施行令)の改正なのか」といったことです。 

次の国会で、労働基準法の改正案が政府から提出されるということなので、それに併せ「労働時間の把握」を法制化するのが筋のような気がします。もっとも、労働安全衛生法は労働基準法と違い、使用者(個人・自然人)に責任を負わせるのでなく、事業者(法人)に義務を負わせる法律。労働安全衛生法は労働基準法と比較し、新しい法律なので、それだけ論理性がしっかりしているので、そちらで規制するのも良いのかもしれません。 

二つ目の疑問点の「政令の変更」ということについて書きます。政令は法の裏付けにより、内閣が発する命令なので、法改正と違い国会の決議は不要です。従って、法改正より容易な点がいいのですが、「罰則がつく条文」に基づく命令となるのかが、新聞記事では判明していません。つまり、今回の政令改正では、「労働時間の把握が強制義務にならない」可能性もあります。

ぜひ、今回の政令改正は、「罰則付き」のものであるように願います。