長時間労働の送検

(葛西臨海水族園エントランスの噴水池、by T.M)

昨日、神奈川県社会保険労務士会安全衛生部会の研修会に講師として出席しました。「労働安全衛生マネジメントシステムと化学物質のリスクアセスメント」について話をしたのですが、鋭い質問が飛び、ヒヤヒヤしながら答えました。部会のレヴェルの高さに圧倒されました。

部会の後の懇親会では楽しく過ごさせて頂きました。この場を借りて、御礼申し上げます。

ありがとうございました。

佐賀新聞 12月1日

武雄労働基準監督署は1日、上限を超える時間外労働(残業)をさせたとして、労働基準法違反の疑いで鹿島市の税理士の50代男性を書類送検した。罰則付きの時間外労働の上限規制が設けられて以降、適用されたのは佐賀県内で初めて。

 書類送検容疑は、2月1日~3月31日、30~50代の女性事務員4人に、1カ月で100時間以上、2カ月平均で80時間を超える時間外労働と休日労働をさせた疑い。

 同労基署によると、2カ月平均の最長で158時間45分の残業があった。4人の健康状態に影響はないという。

 2019年の働き方改革関連法の施行に伴って労働基準法が改正され、残業時間の上限は原則として「月45時間かつ年360時間」と明記された。当初は大企業のみが対象となり、20年4月に中小企業まで拡大された。建設業や自動車運転業などは24年から適用される。

これ、けっこう珍しい書類送検ですよ。私の現役のころでは考えられません。

何が珍しいって、労働時間の違反のみっていうのは、過労死がらみの送検ぐらいしかなくて、通常は残業代不払い(労基法第37条違反)をセットで行うものです。

 上記の記事をそのまま読むと、

  • 労働時間の把握はされていた
  • 違法の残業であっても、それに対する残業代は支払われていた

ということになります。そして、2月、3月は確定申告時期で税理士事務所の一番の繁忙期です。その時期を捉えて送検というのは、ちょっと厳しいなと感じます。なんか裏があったのかとも思います。

  • 過去に労働基準監督署から何度も是正勧告を受けていた
  • 従業員からタレコミがあった
  • 新聞記事にはないけど、実は残業代不払いもあった
  • 36協定に嘘が記載されていた
  • タイムカード時間記録が改ざんされていた
  • 事業主が過去に監督署と揉めた。等々

これらの事情がなく、従業員も多忙な季節であることは理解していて、事業主がそれなりにフォローしていて、ただ長時間労働であるというだけで送検されるとは、けっこう厳しい時代となりました。

(ただし、トラック運転手と過労死事案は別。)

お休みです

(上州武尊山の紅葉、by T.M)

本日はご訪問を頂きましてありがとうございます。

昨日から、喉がとても痛く、声がでないようになりました。

体調不良のため、今週はブログ休載とします。

外国人労働者

(シラカバと紅葉・上州武尊山山麓、by T.M)

11/29 読売新聞

神奈川県内で昨年、トラックやバスなどの車両を使用する事業者の8割超で労働基準関係法の違反があったことが、神奈川労働局のまとめで分かった。運転手の担い手不足や時間外労働の制限で輸送能力が落ち込む「2024年問題」も懸念されるなか、職場の環境改善は大きな課題となる。

 発表によると、県内162の事業所のうち84・6%にあたる137事業所で、労働基準法や最低賃金法に違反があった。違反の内訳(重複あり)は、労働時間に関する内容が97事業所(59・9%)、時間外手当の未支給などが40事業所(24・7%)と続いた。時間外労働が1か月で222時間となるドライバーもいたという。

 違反した事業者数は、20年が125事業所、21年が104事業所と高止まりしている。労働局の担当者は「人手不足が常態化し、しわ寄せを受けているドライバーもいる」と分析する。

 業界の労働時間を巡っては、来年4月から「働き方改革関連法」により、時間外労働時間が年間960時間に制限されることで、運転手の長時間労働の是正が期待される。ただ、物流停滞による社会への影響のほか、賃金減少などによってドライバーの人手不足が進むおそれもある。労働局監督課の哘崎雅夫課長は「減った労働時間分の賃金を補う仕組みが必要だ」と指摘する。

2024年問題って、運送業も建設業も同じように考えられているけど、本質的に違う問題があるんですよね。

建設業は、例えば万博の問題が典型的なんですが、建設業自体が「一過性の受注量の増大」をあてにして、中々「人を増やすことに踏み切れない」という問題があるんです。人を増やそうと思えば、奥の手があります。「外国人労働者」の雇用です。

運送業は、その手が使えないんです。現行の「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」では、トラック運転手やタクシー運転手について技能実習生という名の外国人労働者が従事できないんです。だから、慢性的に人手不足となるのです。

私自身は、これ以上外国人労働者が増えることには懐疑的です。「文化の違う人が増えることがなんとなく不安だ」という思いもありますし、日本人労働者の賃金等労働条件が低くなってしまうのではないかという危惧もあります。しかし、なによりも

「外国人労働者及びその家族について、日本人と同じ権利を持つこと。医療、教育等の社会補償は当然であり、生活保護についても認めること」

について、日本人は覚悟ができていないのではないかと思うからです。

ただ、もし外国人が働く制度が変わり、トラック運転手やタクシー運転手へ外国人労働者がそこに雇用されることとなったら、けっこうWinWinの制度なるかもしれません。

農業は、労働基準法により「残業しても割増賃金を支払わなくてもよい」ということになっています。経済面の理由のみで日本で働きたい外国人労働者にとっては、運送業で働く方が合理的だと思います。

宝塚歌劇団

(タンポポと甲斐駒ヶ岳、by T.M)

日刊スポーツ 11/25

読売テレビの報道局解説委員長・高岡達之氏(58)が、25日に放送された読売テレビのバラエティー「今田耕司のネタバレMTG」(土曜午前11時55分)に出演。9月に宝塚歌劇団の25歳宙組団員が転落死した問題についてコメントした。

 遺族側は、死亡の背景にパワハラやいじめがあったと主張。それに対し、14日に会見した歌劇団側は過重労働を認めたものの「上級生によるいじめやパワハラは確認できなかった」とした。2月に一部で報じられたヘアアイロンによるやけど問題にしても、12月1日付で次期理事長就任が決まっている村上浩爾専務理事が「証拠となるものをお見せいただくようにお願いしたい」とコメントしていた。

 高岡氏は「来週以降、密室の沈黙が崩される」としたうえで、22日に労働基準監督署が立ち入り調査で労働時間や勤務実態などの聞き取りを行った事に触れ「見方によっては『マルサ』(国税調査部)より怖い。労働基準監督署の方は司法警察員。逮捕状が請求できるし、逮捕ができます。今、劇団の内部調査だから『答えたくない』という人がいるといいますが、労働基準監督署の調査は尋問ですので、答えないなんてことは許されません」。

 さらに労働時間について「これが本当に今までちゃんと管理していなかった。上級生に任せてました-なんてことになると、致命的な影響を受けます」と言い及んだ。

 団員が亡くなる直前1カ月の時間外労働について、歌劇団側は118時間以上(遺族側は277時間以上)と主張しているが、高岡氏は「法律上、過労死は80時間が危険ライン。公式の会見で認めた時間であったとしたって、すでに30時間以上超えている」と説明し「逆の言い方をすれば、労働基準監督署も問われますけどね。これだけバックに大きな企業のいる劇団ですから」と話した。

西宮労働基準監督署の職員の方々、頑張って下さい。とても難しい事案だと思います。この事案の結論によっては、大きな一石を投じることとなります。

死んだ劇団員と宝塚歌劇団は業務委託契約を締結していたということですが、これが「偽装委託契約」であり、本当は労働契約であったということに、労働基準監督署がメスを入れることができるかどうかがカギです。次のような問題にも関連してくると思います。

「相撲部屋と、関取以下部屋住みの力士とは労働契約でないのか?」

「落語家の弟子は、労働者でないのか?」

「試合時間以外の時間管理をされている野球選手は労働者ではないのか?」等々

この宝塚歌劇団の労働者性の問題について、最大の焦点は、

「契約切替え時の業務内容の変更」

となるでしょう。ウィキペディアによると、宝塚歌劇団は、入団後ある一定期間は労働契約を締結し、その後は業務委託契約となるそうです。今回亡くなった劇団員の方は、業務委託契約となって、まだ間もないとかいう話です。労働契約から業務契約へ変更があった時にどのような業務内容の変更があったのか?もし、業務内容に大きな変更がない場合は労働契約の継続とみなせますので、「偽装委託契約(偽装請負)」と見なせるような気がします。

残業拒否

(タンポポと八ヶ岳連峰、by T.M)

11/17 読売テレビ

関西空港などで航空機の誘導などを行う会社の労働組合が、長時間労働が改善されないとして12月から時間外労働をしないと会社に通告したことがわかりました。

 大阪府泉佐野市に本社を置く『スイスポートジャパン』は関西空港など6つの空港で航空機の誘導や荷物の積み降ろしなどの業務を行っています。

 『スイスポートジャパン』によりますと、約1400人の社員の9割が加入する労働組合から12月から一切、時間外労働を行わないと通告されたということです。航空需要が回復している一方で、人材確保が追いついておらず、長時間労働が改善されないことが理由だということです。

 斉藤鉄夫国交相「国際便の運航にも影響が懸念される事態であると、そのように国土交通省としても認識しております」

 『スイスポートジャパン』は、「組合と協議を続けている。改善して対応したい」とコメントしています。

この記事なんですが、もう少し分かり易く報道してくれないでしょうか。意味が分かりません。

労働の分野では、「日立製作所武蔵工場事件」という有名な最高裁判例があります。これは、残業命令を拒否した労働者を懲戒解雇したことが認められるか否かが争われました。結果は解雇は有効と判断されました。この時に、最高裁が残業命令を労働者側が拒否できない要件として示したのが次の3点です。

  • 適正な理由のある残業であること。
  • 就業規則に残業に関する記載があること
  • 時間外労働協定(36協定)が、過半数労働組合もしくは過半数労働者代表と締結されていること。

さて、この最高裁判例を踏まえ、上記の記事についてですが、2つの解釈ができます。

第一の解釈

今まで残業をしていたということ、及び従業員数1000人以上ということを考慮すると、就業規則には残業に係る記載があると思われる。そして、いわゆる「エッセンシャルワーカー」なので、当然に正当な残業命令である。

「就業規則への記載」「適正な残業命令」以外に「36協定」が存在したならば、残業拒否した労働者はすべて「処分対象」ということになってしまう。だから、今回の事件は「36協定の有効期間が11月で終了する」ので「更新の36協定」を過半数組合は締結しないことにしたという解釈。

第二の解釈

そもそも今までが「36協定以上の違法残業」をしていた。だから、今後は残業拒否をすることとしたという解釈。

「第一の解釈」のとおりであるなら、これは正当な組合活動ということになります。

「第二の貸釈」のとおりであるなら、違法残業を取り締まる労働基準監督署の出番という

ことになります。

せっかくのテレビ放映なのですから、「法違反の有無」くらいは確認して報道してもらいたいものです。