労働災害が起きました(1)

DSC_0053
(高校生時代からの親友のK氏から頂いたものです)

今回からは、災害調査について書きます。これも書くことはたくさんあります。

災害調査ということについては、血なまぐさい現場を想像して、たいへんな仕事をしていると思われるかもしれません。しかし、誤解される表現かもしれませんが、「死亡災害」及び「後遺症が残る災害」以外は、企業の存続にとって、あまり大きな影響を与えないので、災害調査自体もルーティンワークとなっている現実も監督署の現場では確かにあります。
(逆に言うと、「死亡災害」及び「後遺症が残る災害」が起きてしまうと、企業の致命傷となることが多々あります)。
よく、企業の安全担当者の中には、「昔、こんな事故がありました」と言って、軽い事故は武勇伝のように語る方もいます。もちろん、これは、その「軽い事故」を契機として、企業がより安全確保を求めたという結果について、自信があるための発言だと思います。
まして、物損だけの事故なんて、月に何十枚もの死傷病報告書を受理していたら、そのうち災害とは思えなくなります。
やはり、人間にとって、財産よりも健康が大切だと、つくづく感じるのは災害調査をしている時です。
(注) 労働者死傷病報告書とは、労働安全衛生規則第97条により規定された、企業から所轄労働基準監督署長に提出される災害発生を通知する報告書。労働基準監督署は、この報告書と労災の手続書類のから災害の発生を知る。休業4日以上の災害については、この書類の提出が企業に義務づけられるため、提出がない時は、「労災隠し」として刑事事件となることがある。労災隠しについては、今後書きます。

さて、事故の話です。
・・・・・・・・・・・・・・・

その災害情報の第1報が入ったのは、午前10時頃だった。
4月に入って間もない頃のことで、間が悪いことに監督署には私以外誰もいなかった。

ブラック企業とモンスター相談者(1-10)

CA3I1100
CA3I1100

(M氏寄贈「東天狗岳」)

そろそろ、この「ブラック企業とモンスター相談者」の章を一度終了しますが、最後にもう一例だけ示します。

今年から雇用環境均等部となった旧雇用均等室には、セクハラの問題を担当する部署があります。(私のような旧い人間には雇用ナンチャラ室と言うよりは、昔のとおり「婦人少年室」と呼んだ方がしっくりするのですが・・・)

セクハラとは具体的にどんなことだということについて、厚生労働省等のパンフレットでは、事例として「身体を執拗に眺め回す」という行為を挙げています。

ある日、雇用均等室に二人の女性が相談に来室されました。お一人の方は中年で「上司」の方で、もう一人は若い方で「部下」ということでした。何でも、お二人の職場では、その上司と部下の間に、「主任」という職の男性職員がいて、仕事中に若い方を「嫌らしく眺め」、セクハラをしているということでした。会社としては、その「主任」をどう処分するかを検討中との相談でした。

その2人が雇用均等室に相談にきた日に前後して、その会社を管轄する労働基準監督署の総合労働相談コーナーに、ある男性が相談に来署しました。会社内部でイジメに会っているということでした。その男性は、「主任」という役職で、女性の上司と部下に挟まれた立場で、2人からいつも「気持ち悪い」と陰口を言われているそうです。あげくに、「目つきが嫌らしい」という理由で、処分されそうだということでした。

職場の中には、様々な人間関係があります。そして、事業主と労働者が「契約」という概念で結ばれた、民事的な関係もあり、さらにそれが刑事罰を伴うように法律で規制されています。行政の立場に身を置いていた時に、この「人間関係」と「契約関係」の相克に悩む人たちを多く見聞してきました。それを、今後も書いていこうと思います。

(取り敢えず、終り)

ブラック企業とモンスター相談者(1-9)

CA3I1075
CA3I1075

(M氏寄贈、「大菩薩峠」)

「店舗の閉鎖日に全額支払われることは本当でしょうか。」
「くどいですね。支払います。」
「では、お願いします。」
こうして担当者は帰って行きましたが、解雇予告手当(慰労金?)は退職日に全額、従業員全員に支払われたそうです。

後日、Y駅の地下街の関係者にこの会社のことを尋ねたところ、「何かしら、会社内部にゴタゴタがあって、急に撤退を決めたみたですね。」ということでした。この会社は、私は知りませんでしたが、上品なイメージを売り物にしているとのことですが、会社の体質なのか担当者の保身なのかは分かりませんが、ブラック企業には間違いありません。ブラック企業とは、労働者を使い捨てにしておいて、それを何とも思わない会社であると思います。

こんなブラック企業との遣り取りは仕事ですので、いくらでも対応しますが、モンスター相談者との会話はとても疲れることが多いです。
ある日、女性の方から電話がかかってきました。そして、次のような会話となりました。
相談者:「私は解雇されたんですけど、どうしたら良いでしょう。」
私  :「どうされたんですか」
相談者:「コンビニに勤めているんですけど、お客と接していると、何か不潔な気がして、一日マスクをしているんです。
それを知った店長が辞めろって言うんです。」
私  :「あなたが、風邪を引いていて咳をするから、マスクをしたということではないんですね・・・」
相談者:「違います。私は健康です。客が汚いんです。だからマスクをしてるんです。それを、店長はマスクを取らないなら辞めてくれって言うんです。こんな解雇の時はどうすれば良いんですか。」
私  :「え、でもそれは解雇ではありませんよ。」
相談者:「解雇ですよ。あなたは何を言うんです。他の人は解雇だって言っていました。ふざけないで下さい。」
(相談者の言葉がきつくなり、ヒステッリックになる。)
私  :「・・・・・(無言)」
私は心の中でこう思いました。
「あなたに、コンビニ勤めは無理です。」

ブラック企業とモンスター相談者(1-8)

CA3I0354
CA3I0354

(M氏から)

私は、少し脅かしました。
「ハローワークは3ヶ月契約ということを知らないで、御社を紹介した訳ですか。ハローワークは公的機関ですから、今後の御社の求人に差し障りがあるかもしれませんね。全国組織ですからね、神奈川も大阪も一緒ですよ。」
担当者は無言でした。明らかに、動揺しているようでした。
私はここで、切り札を切ることにしました。
「実は、御社の店長は依然から、当労働基準監督署に相談に来ていたんですよ。」
「えっ」と担当者は驚いたような顔をした。
私は続けた。
「部下のパートさんが、雇入通知書をもらえないということで、こんな手紙をくれました。その手紙ですが、当署の受理印を見て下さい。あなたが、閉店の件をパートさんらの従業員に確認したという日の前に、その手紙は当署に届いています。おかしいと思いませんか。もし、御社の言っていることが本当なら、この手紙の相談内容のどこかに、そのことが触れられているはずでしょ。でも、それが一切ないということは、店長さんは、この手紙を書いている時に、閉店のことなど思いもよらなかったということではないですか。」
担当者は、1、2分無言でした。そして、本社に電話をしてくると言って、席を外しました。大分、動揺しているようでした。私は、この手紙が「解雇」を証明する直接の証拠になりえないということを相手が気付くのではないかと思い、内心は冷汗ものでした。
担当者は20分くらいして、戻ってきました。そして、早口で話しました。
「本社と話したのですが、慰労金ということで働いていた人たちには、ひと月分の賃金を支払うことにしました。」
「すると、解雇を認めるのですか。」
「解雇は認めません。ただ、店長さんを含め、皆さんよく働いてくれたので、ひと月分の手当を支払うと言っているのです。支払日は閉店の日です。皆さまの銀行口座に振込みます。」
私は、心の中で、申告者の損得を考えました。。

ブラック企業とモンスター相談者(1-7)

CA3I0354
CA3I0354

(M氏寄贈)

申告受理後、私は会社の担当者を呼出しました。
私は、切り札の申告者からの手紙もあることだし、この申告は揉めないだろうなと思っていました。
名前は知りませんでしたが関西では、多少は知られたお菓子屋さんということですし、何よりも、あのY駅の駅ビル地下に出店するくらいですから、遵法意識は当然持っているものと思っていました。ところが、署に現れた、企業の担当者はトンデモないことを言いました。
「当社は誰も解雇していません。あの店はそもそも、テスト店舗で3ヶ月で閉店になる予定でした。だから、店長も含め全員について契約の終了です。解雇ではありません。私は人事担当者として、改めて閉店を告げたところ、こんなところに呼び出されて迷惑しています。」
この答えを聞いた時に、これは少し面倒なことになるかなと思いました。
店長(申告者)は、解雇を言い渡される前に別件で監督署と相談しおり、手紙という形で、その証拠もあります。もし、閉店を前提とした契約期間満了であるなら、その相談中に必ず、その話題となるはずですが、そのような話はなかったので、会社の言っていることは嘘であることは明白でした。しかし、その手紙の存在は、「会社の知らない時期に監督署と相談していた」という証拠であり、「解雇をした」という直接証拠にはなりません。あくまで状況証拠に過ぎません。
そこで私は、手紙のことを持ち出す前に、搦手から攻めることにしました。
私は尋ねました。
「従業員たちに、雇入れ通知書は交付したのですか。」
担当者は答えました。
「雇入れ通知書は交付していません。交付を忘れました。ただ、口頭で契約期間は3ヶ月だと説明しています。」
さらに、私は尋ねました。
「従業員の中で、店長さんは、ハローワークを通し、御社に入社しました。ハローワークには3ヶ月契約であることを伝え、求人したのですか。」
担当者は答えました。
「いえ、それはハローワークに連絡忘れました。」
ここが突っ込みどころだと私は考えました。