2024問題と技能実習生

(川崎市夢見ヶ崎動物公園のシマウマ、by T.M)

朝日新聞 1月19日

野村総合研究所は19日、トラックドライバー不足が深刻になる「2024年問題」で、30年に予測される国内の荷物量の35%が運べなくなるとの推計を発表した。エリア別では東北、四国など地方で高い傾向にある。輸送の効率化が進まなければ、一部の地域では離島のように配送料が割高になる可能性も指摘した。

 トラックドライバーは24年4月から、拘束時間の制限が新たに設けられるなど労働規制が見直されることで、人手不足が懸念されている。野村総研は将来の荷物量の予測をもとに、規制による物流への影響を調べた。

 不足する割合が最も高いのは東北で41%、四国で40%、北海道と九州でいずれも39%だった。大都市を抱える関東と近畿でも、それぞれ34%と36%だった。

働き方改革もいよいよ集大成を迎えようとしています。時間外労働の上限規制の猶予対象業種であった自動車運転業務について、2024年4月1日から年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されます。また、本年4月1日からは、中小企業の自動車運転業務、これもまた猶予されてきた「月60時間の時間外労働が発生した場合の、時間外労働の割増率の25%から50%へ引き上げ」が適用されます。

 この「時間外労働の上限規制」及び「時間外労働手当の引き上げ」により、ドライバー不足が深刻になるっていうことですけど、これって現場で働く人にとってはとてもいいことだと思います。働く人をより多く募集しなければならない。そのためには、よりよい職場環境を作らなければならない。なによりも賃金を上げなければ、人が集まらない。好循環だと思います。「値上げ」ということを考慮しなければ・・・

 アマゾン、楽天、yahoo、ヨドバシ・・・ その配送料が値上げするということは、私のような高齢者にはとても厳しいものです。また、地方都市でデパートや商店街が廃業してしまった地域住民にとっても痛手でしょう。

私は人件費の高騰を理由とした値上げについては、賛成します

「原材料費の高騰」を理由とした値上げについては、消費者に何も得るものがないけど、「賃上げを理由とした値上げ」については、時間はかかるけど、回り回って自分の利益になるような気がするからです。

私が危惧するのは、この「2024年問題」について、「外国人の技能実習生」で乗り切ろうとするアホがでてくるのではないかということです。私は、「海外から来る現場作業労働者」についてはある程度認めることを検討すべき時期であると思います。昔、地方から都市への「出稼ぎ者」がいたように、海外からの「出稼ぎ」を認めてもいいように思います。

「出稼ぎ者」と「技能実習生」では意味が違います。技能実習制度について、「自社で育てた実習生が、本国に帰り、自分の技能を生かし企業して、日本で勉強した企業と取引きをする」といった好事例があることは知っています。また、真摯に実習生と向い合い、育ててくれる企業もあります。では、「技能実習生」について、「賃金の安い使い捨て労働者」と認識されることも多いのではないでしょうか。

外国人の出稼ぎを認め場合には、法的保護を日本人と同じとして、各種社会保険への加入は当然のこととして

 「帰化条件を緩くする」「残留資格を緩くする」「地方参政権を認める」等

の法改正が必要となります。でももう、これだけ高齢化社会が進んだ現在では、そろそろその時機が来たと思います。

友からのメール

(嵐山2、by T.M)

小学校時代の同級生で、現在大学教授をしている友人からメールで問い合わせがありました。「偽装請負について、労働基準監督署がどのように対処しているか知りたい」ということでした。次のように回答しました。

I 様

質問について、とりあえず3つに分けます。

(質問1)

監督署は、「タレコミ」のない事業場も臨検監督するのか。

(質問2)

監督署に対し、「偽装請負の摘発目的」の「タレコミ」があり得るのか。

(質問3)

監督署が、臨検監督をした事業場で、偶然に「偽装請負」を見つけてしまった。

その時に監督署は、何をするのか?

さらに、この質問には「監督署が長時間労働の調査をしている時に、偽装請負を見つけることがあるのか」という質問をつけ加えます。

まずは、質問1についてです。

監督署の監督は、次の3つに分けられます。

① 定期監督

 これは、「過重労働」であるとか、「災害の多い業種」であるとか、監督署が主体的にテーマを決めて実施するものです。テーマは、「業種」であったり、「外国人労働者を使用している事業場」であったりと、様々です。

② 申告監督

 これは、要するにタレコミのあった事業場への臨検監督です。

③ 災害時監督

 これは、「腕がなくなった」とか、「足がなくなった」とかいう労働災害に関する監督です。

取り敢えず、絶対に監督するのが②「申告監督」です。これは、それをしないと「申告した者が怒る」からです。役人の不作為は許されません。

本省が重要視するのは、①「定期監督」です。「~に対し仕事をした」と言えば、予算獲得となり省益となるからです。監督署の窓口に来た、「困った労働者に事業主」のために仕事をしようとする監督官は、そもそも霞が関の官僚の出世コースのためには不要なのです。

  • 「定期監督」に対しては、年度ごとに「件数」と「人日」が割り当てられるのですが、監督署の現場では②「申告監督」が忙しくて100%達成はほぼ無理です。私の経験では達成率が30%未満だったこともあります。

監督官の配置数なんて、超大規模署でさえ30人未満、田舎では署長をいれて5人未満なんてことがありますから、①「定期監督」でたまたま事業場へ行く確率は低いと思われます。

といっても、この①「定期監督」の実施については、「優先度」という概念があります。テーマが「長時間労働」と「家内労働」であったら、同じ定期監督の計画であっても、優先度の高い物から実施されます。

ある監督署の年間定期監督の優先度の高い実施目的(テーマ)に該当する企業であった場合は、もしかしたら監督が実施されるかもしれません。

テーマ及び優先度の決め方は、政治的な理由等、これもまた様々です。

質問2についてお答えします。

「偽装請負」の「タレコミ」があっても、監督署は動きません。派遣法違反は、労働局内の需給調整事業課の仕事だからです。

地方労働局の内部は、完全に「労働基準行政」と「職業安定行政」に分かれています。人事交流なんてことを本省は言っていますが、そんなことは上部だけです。

そこそも、採用試験に「労働基準監督官試験」と言う独立したものがあるのですから、監督官の世界に職安(一般試験採用者)は入れません。監督官とは、防衛相における制服組だと思ってくれれば言いと思います。独立した機関です。

労働局の中の「基準」と「職安」はそれぞれの領分を絶対に犯しません。そして需給調整事業課は職安の仕事です。

従って、「偽装請負」の「タレコミ」があったら、監督署では需給調整事業課、もしくは地方労働局の雇用環境・均等部 指導課を紹介して終わりです。

もっとも、「偽装請負」というのは、「中間搾取」と「賃金の直接払い違反」という労働基準法違反となる場合があり、送検事例もあるのですが、それはあくまで社会問題化してこじつけた事例でレアケースです。

質問3についてお答えします。

監督署の監督官が実際にやってきて、偽装請負を見つけるかということですが、これは100%見つけます。簡単なことです。

でも、見つけたからといって、「労働基準法24条違反(賃金の直接払い違反)」等の是正勧告はしません。需給調整事業課に連絡して終わりです。

在宅勤務中に、このメールを書いてます。

最近、仕事が忙しすぎて、休日にパソコンを仕事でいじっていることも多いので、開き直って在宅勤務を多くしています。

出張は、「直行直帰」なので、職場には週に1回くらいしか行っていません。

仕事とプライベートの境がなくなってきた今日この頃です。

小原立太

追伸

個人的には、③の災害時監督を重視していました。こういう監督官は稀です。

合格連絡がきました

(京浜島つばさ公園からの風景、by T.M)

今年の春に、労働基準監督官試験を受ける予定の方から相談メールを受けました。それはこのブログでも紹介しました。

その相談者から、監督官試験を合格したとの連絡を受けました。そこで次のような返答をしました。

A 様

合格おめでとうございます。

これから採用日までは、「人生にとって黄金の休日」となります。

現在の仕事との関り合い方次第だと思いますが、ゆっくりと楽しむことを勧めます。

因みに私は、その期間に3ケ月間の中国一人旅をしました。当時はまだ珍しかった「地球の歩き方」を手に、「秀インターナショナル(後のHIS)」より入手した格安航空券を利用しました。40年前の中国です。日本より貧しく、みな人民服を着ていました。汽車に乗り、シルクロードの奥の都市・ウルムチまでいった覚えがあります。(現在、ウイグル問題で揺れている地区です)

本当に自分の人生にとって、幸福な時期でした。

A様も、何かにチャレンジすることを勧めます。(もっとも、ハメを外して「内定取消」とならないように、注意して下さい)

X労働局勤務ということですが、X局で一番大きな監督署で令和2年まで署長をしていた「B」さんが、私の同期で、確かY労働基準監督署に再任用でいると聞いた覚えがあります。

もし、機会があったら尋ねてみて下さい。彼なら、私の知り合いだと言えば、歓迎してくれるはずです。

社会経験豊かなAさんにアドバイスすることではないと思いますが、労働局はやはり「組織」です。色々な者がいます。まあ20%が尊敬できる者、20%が「保身」だけの嫌な奴だと思って下さい。その嫌な奴が、意外と幅を利かせていることは、どこの社会でも一緒です。

小原 立太

しかし、こんな初々しい連絡をもらうと、我が身を振り返り、ダグラス・マッカーサーの言葉を思い出します。曰く、

  老兵は死なず、ただ消え去るのみ

休みます

(ロウバイ、by T.M)

いつも、当ブログに訪問頂きありがとうございます。

勝手ながら、今週は更新を休みます。

特化則、有機則・・・

(津久井のウメと相模川上流の眺め、by T.M)

「有機溶剤」「特定化学物質」「特別有機溶剤」「がん原生物質」「特別管理物質」・・・

衛生管理者の受験準備講習の関係法令(労働安全衛生法及び労働基準法)の講座の講師をすることになったんで、有機則や特化則の条文を読み返してみたんだけど、あまりの難解さにイライラしてきました。

でも、私は講義する立場であって受験する立場でないからどうってことないけど、「製造禁止物質」や「製造許可物質」を全部暗記する受験生はたいへんだろうな・・・

特にたいへんなのは特化則。この省令は「有機則」や「鉛則」でグループ管理できない化学物質を個別管理しようとしてできた省令なんだけど、管理する物質が増えすぎて、もうどうなっているのか分からない。この特化則について、某企業から分かりやすく講義してくれという依頼があったけど、「この省令は、体系的にできていないので、分かりやすくすることは不可能です」と丁重にお断りしました。ようするに、特化則とは「論理的な整合」を取ることを目的としているだけの文章で、それゆえ誰も理解困難なものとなっているのです。

例 特化則第5条 事業者は、特定第二類物質のガス、蒸気若しくは粉じんが発散する屋内作業場(特定第二類物質を製造する場合、特定第二類物質を製造する事業場において当該特定第二類物質を取り扱う場合、燻くん蒸作業を行う場合において令別表第三第二号5、15、17、20若しくは31の2に掲げる物又は別表第一第五号、第十五号、第十七号、第二十号若しくは第三十一号の二に掲げる物(以下「臭化メチル等」という。)を取り扱うとき、及び令別表第三第二号30に掲げる物又は別表第一第三十号に掲げる物(以下「ベンゼン等」という。)を溶剤(希釈剤を含む。第三十八条の十六において同じ。)として取り扱う場合に特定第二類物質のガス、蒸気又は粉じんが発散する屋内作業場を除く。)又は管理第二類物質のガス、蒸気若しくは粉じんが発散する屋内作業場については、当該特定第二類物質若しくは管理第二類物質のガス、蒸気若しくは粉じんの発散源を密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設けなければならない。ただし、当該特定第二類物質若しくは管理第二類物質のガス、蒸気若しくは粉じんの発散源を密閉する設備、局所排気装置若しくはプッシュプル型換気装置の設置が著しく困難なとき、又は臨時の作業を行うときは、この限りでない。

これ、もはや日本語じゃないですよね。

ところで衛生管理者の受験生の皆様が苦労して暗記した「特化則」や「有機則」が5年を目途になくなる方向性になっています。世の中は不条理です。

つまり厚生労働省の化学物質対策課も、現状の化学物質の管理の状況では、流石にまずいと思ったのか、SDS(安全データーシート)の普及の徹底を目指し、SDSに記載されているGHS(化学品の分類及び表示に関する世界調和システム、The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)を基に実施される化学物質のリスクアセスメントの結果について規制しようというものです。

要するに、「小難しい法条文」でなく、化学物質の個別のSDSに記載されている「ばく露限界」等の数値を、事業場に理解してもらおうというものです。

 非常にすっきりとして、分かりやすい化学物質管理の方法になるような気がします。

 この「グループ管理」が限界なので「個別管理」に変更するということは、当然、「紙による管理」から「デジタル化」した管理に切り替わるということです。そうでなきゃ、数千にも達する化学物質管理はできません。

 (注)現在、リスクアセスメントが必要な化学物質の数は700前後ですが、5年後には3000以上に増えるそうです。

「デジタル化」による個別管理で効率化を目指す。これって行政のあるべき姿だと考えていたら、「マイナンバー」制による個別管理がこの発想であったことに気づきました。

化学物質と違って「人間」の個別管理は効率だけでは割り切れないのかなと思いました。