申告処理について

(3月12日に40年に渡る定期運行を終了した185系特急踊り子号、by T.M)

また、痛ましい事故が起きてしまいました。

(NHK 4月15日)15日夕方、東京 新宿区のマンションの地下駐車場で天井の張り替え作業をしていた男性6人が中に閉じ込められ、このうち4人が死亡しました。警視庁などは駐車場の消火設備が何らかの原因で誤作動し二酸化炭素が放出された可能性があるとみて調べています。

酸欠災害については、私も何回か災害調査をしたことがありますが、予期せぬ時に発生し複数の方が亡くなる惨事に至ることがあります。不活性ガスや二酸化炭素による災害の防止については、労働安全衛生法酸素欠乏症等防止規則にもいくつかの規制条文があります。工事関係者の方々には、ご注意頂きたくお願いします。亡くなられた方のご冥福を祈るとともに、ケガをされた方の1日も早い回復を祈ります。

今日はさる高貴の方の話から思い出した話をします。申告処理の話です。

その高貴の方(女性)は、婚約相手の家庭の問題が片付かないので結婚に至らないでいます。家庭内の問題とは、婚約相手の母親(A氏と呼ぶ)がかつての婚約者(B氏と呼ぶ)から「お金を用立ててもらって」、生活費等に充てていた事実に関係することです。今回、高貴の方の婚約時期に合わせるように、B氏はこの「用立てていたお金」の返済をA氏に請求し、問題が発覚した訳です。この「用立てたお金」が「貸与」なのか「贈与」なのかで、A氏の返済義務の有無は変わります。当然A氏は「贈与」を主張し、B氏は「貸与」を主張します。

本来この問題は、A氏とB氏の問題であり、高貴な方とその婚約者の方には何ら関係のないことですが、高貴の方のご両親及びそのご家族の方は体面を気にする方々(あるいは責任感が強い方々とも言えます)なので、このA氏とB氏の問題の解決を前提にしています。

このA氏とB氏の問題は、週刊誌及びワイドショーネタに使われ、「ドロドロ」と「ゴタゴタ」した側面が出てきています。

最近、結局B氏が「債権放棄で交渉打切り」宣言を出した後で、高貴な方の婚約者が「債権放棄ではなく、あくまで贈与だった。A氏の請求額は解決金として支払う」という宣言を出しました。これでこの問題は終了すると思います。B氏がこのX氏の宣言に対し、今後何を言おうとも、X氏は「お金を支払う用意はある」で議論を打ち切れるからです。

この「高貴の方」の結婚問題の週刊誌報道等を読んでいて、過去に自分が仕事としてきた「申告処理事件」について思い出しました。本当は監督官の民事調停はいけないのに、仕事の流れの中でそれをせざるを得なかったという思い出です。

シチュエーション(situation)

賃金不払い事件。業種は飲酒を伴う飲食店。被害労働者は、従業員5~6人(全員女性)の統括責任者であり、「ママさん」と呼ばれている40代女性(Xママと呼ぶ)。事業場は法人組織で事業主は共同経営者2人。1人は60代の男性税理士(Y取締役と呼ぶ)。もう一人は30代女性(Zお嬢様と呼ぶ)。Zお嬢様はお嬢様育ちのお金持ちで、飲食を伴う飲食店の経営を始めたものであり、Y取締役はZお嬢様に誘われ出資し取締役に就任したものです。Y取締役は、素人のZお嬢様が現場を取り仕切ることを危険視し、業界の中でベテランのXママをヘッドハンティングしてきたが、Zお嬢様とXママはことごとく経営方針で対立し、結局Xママは退職しますがそれと同時に現場で働いていた複数の女性労働者が退職しました(どうも、Zお嬢様は嫌われていたようです)。Zお嬢様は怒って、Xママの最後に労働した月のお給料を払いませんでした。

私が担当した事案でしたが、Zお嬢様は「賃金不払い」の法違反について認めようとしませんでした。何でも、Xママに労働の実態がないので賃金を支払う必要がないとの主張でした。Zお嬢様の頭の中では「お店の利益がでなかったのは、Xママが働いていなかったせいだ」という理論ができていたようでした。(こういう謎理論を展開する事業主は、けっこういます)

さっさと是正勧告書を交付をしようと思っていたら、Y取締役から連絡がありました。「給与ということでなく、解決金として支払うから、念書を書いて欲しい」とのことでした。Y取締役は話の分かった方で、Zお嬢様には手を焼いていたようで、そんな妥協案を提案してきました。

このY取締役の話を監督署が進めると完全に民事調停になります。監督署の仕事は「法違反を指摘し是正させること」です。だから、こんな話は承諾できません。ですが、そういう提案があったことを、申告の処理状況をXママに事務連絡しているときに話題にしました(あくまで、「事務連絡」の時に「世間話」として伝えたのです)。

そうしたところ、Xママは「面倒ごとは嫌いです」と述べこの話に興味を示しました。そして、Y取締役からもXママからも、監督署で私を交えて話をしたいと依頼されました。私は当然断りましたが、たまたま偶然、「法違反特定のため」事業主側と労働者側の両者から同時に事情聴取する必要があると判断していたところでした。そして調査のため、XママとY取締役を監督署に呼び出すと、驚くことに、私を無視して勝手に両者の間で民事的な合意がされてしまいました。

私は申告処理台帳にこの経緯を次のように記録しました。

「本件は、民事的合意のために申告を取り下げたいとの申告者からの依頼により、申告を完結とする。なお、事業場の法違反は明確であるが、是正勧告書を交付せずに民事の合意を優先させた方が労働者の救済となると判断したため文書交付は保留とした」

労働基準監督官は民事の介入はしません。しかし、申告の中にはこのように偶然に民事で終わる場合もあります。

なんか、「高貴な方の結婚」に関係する「解決金」の話から昔のことを思い出しました。

教師の仕事

私の畏友、福岡の社労士・労務安全衛生管理コンサルタントの原さんがまた本を上梓いたします。新刊のタイトルは「社長、その労務管理はダメです」です。彼は4年前に「労基署は見ている」という本を書いていますので、今度で2冊目です。前回の本は、監督官として過去の体験を基にした話で、ベストセラーとは言えないまでも、大手新聞の書評に取り上げられる等その界隈ではけっこう話題になったものでした。今回は労働局及び監督署のシステムを図入りで丁寧に説明してくれているものです。監督署の役割等を知りたい人には絶好の書だと思います。

作者について少し説明すると、今から28年前の平成5年に、私と横須賀労働基準監督署の監督官として机を並べて仕事を一緒にした仲です。私は任官10年目の中堅監督官で、彼は2年目のまだ「新人監督官」と言っていい監督官でした。しかし、彼と私ではオーラが違いました。来客者への接客術なんぞは当時から私より上で、私よりお客さんに信頼されていました。

彼の今回の著書の中につぎのような記述があります。

「監督官の中には、仕事ができないハズレの奴がいる」

これって私のことでしょうか?

さて話は変わりますが、現職教員の声をSNS(ネット交流サービス)で広げることで、教員の仕事の魅力を伝える文部科学省の「『#教師のバトン』プロジェクト」に批判的な投稿が相次いでいるそうです

そりゃそうだと思います。元々、私生活と労働の垣根が曖昧なのに、最近(というかここ20年ほど)管理面だけが強化されてきたことが教育現場の実態のような気がしますから。今日は労働基準監督官が臨検監督をしたがらない業務である教師という職業についてお話します。

世の中には、「私立学校」と「公立学校」があります。労働基準監督官には公立学校の教師に対する臨検監督権限がありません(「事務員」さんや「用務員」さんにはあります)。従って、都立や県立の中高校の教師の労働条件に介入はできません。監督官が私立の中高校の臨検監督を行った時に困るのは、学校側から

「当校の教師の労働条件は、公立校に準拠しています」

と言われることです。公立校の教師は「調整額」という名目で給与の4%の額を残業代の替りに得ています。私立校でも、この「調整額」を支払い、教師に残業代を払わない学校があるんです。(因みに、4%の調整額とは、時給1000円、ひと月の所定労働時間150時間の労働者の約5時間分の残業代です)

このような、私立校に対し、残業代不払いの是正勧告書を出すと大騒ぎになります(もっとも、残業代不払いの是正勧告書を渡されたら大騒ぎになってもらわなければ困るのですが・・・)。

「公立校が認められているのになぜウチではダメなんだ」が、お決まりのパターンでした。それから、学校側は残業代を調整額内に収めるように教師に通達します。それで、「持ち帰り残業」や「労働時間に記録に残らない部活動のための残業」が増えていく訳です。

そもそも、教師については「労働時間」の概念が曖昧です。「子供たちの野球大会に、日曜日に参加したら、滑って転んだ。これ労災?」だとか、「持ち帰り残業でメンタルおかしくした。でも長時間労働であることをどうやって証明するの?」とかいう問題はいつも生じています。

教師の過酷の労働の象徴が「修学旅行」でしょう。「2泊3日」の修学旅行でしたら、連続72時間労働ということになります。学校側にそのことを指摘すると、「修学旅行中にも教師の休憩時間はきちんとあります」という返答がきますが、それは肯定できません。

修学旅行中に教師が酒を飲みに行って、その時間に生徒に事故があって、教師が「勤務時間外だから責任の範囲外です」と弁明したら、世間はどれだけ教師を叩くでしょうか。

例え睡眠時間であっても、「拘束」されていて「責任を負わされている」ていれば、それは労働時間です。2泊3日の修学旅行中がすべて労働時間だとしたら、それは過労死の認定基準をはるかに超える馬鹿げた労働の態様です(と言うか、過労死の認定基準でさえ、そのような「労働」は想定していません)。

でも、「教師に過重労働になるから修学旅行を中止にせよ」という声はどこからも聞こえてきません。それは、もはや日本の文化に定着しているからです。法と実状に余りに乖離があるので、監督官は学校の教師の労働時間の監督に怯んでしまうのです。

だから、「『#教師のバトン』プロジェクト」なんてを管理者側が実施すると、そこは現場の教師の不満のはけ口となってしまうのです。

タクシーとクレジットカード

(浜松市スズキ本社のスズキ歴史館、by T.M)

先日、神奈川県内のある私鉄駅からタクシーに乗りました。そこで運転手さんと世間話が盛り上がったんですが、「支払い」のことに話が及ぶと、「クレジットカードやパスモ等のキャッシュレス決済の手数料はタクシー運転手の負担になる」という事実を教えてくれました。

私は驚きました。そういう噂を聞いてはいたんですが、何か昔の地方の小さいタクシー会社の話で、まさか神奈川県に本社を置く、大きなタクシー会社が現在でもそんなことをしているとは思いもしませんでした。詳しく聞くと、神奈川県内では、「キャッシュレス決済手数料」が運転手持ちの事業場もあればそうでない事業場もあるとのことでした。私はその時に手持ちの現金が少なくて、パスモで支払ったのですが、なんか運転手さんに負担をかけているようで申し訳ない気分がしました。

私は運転手さんに、「労働基準監督署に相談に行ったのか」を尋ねたところ、「労働組合が相談に行っているが何もしてくれない」とのことでした。私は「監督署は何をしているんだ」と思いましたが、自分が現役の時に相談こられたら、けっこう悩んだろうなと思いました。

これって、「労働基準法違反が成立しているか」と言われると、ちょっと考えます。

「業務に係る費用が労働者負担」と言えば、昔派遣業で問題となった「データ装備費等」のことを思い出します。これは、「保険や装備品の費用について、労働者の賃金から天引きする」というもので、明らかに労働基準法第24条(賃金不払)違反でした。それと比較して、タクシー運転手さんの「手数料運転手負担」というのは、少し違うと思います。労働契約書の文言を少し変えるだけで、そのような状況は合法となることが可能です。

(注1)具体的な事例を挙げますが、前提として分かってもらいたいのは、タクシーの運転手の賃金は「オール歩合制」がほとんどだということです。専門用語で「A型賃金」「B型賃金」「AB型賃金」とか色々言うけど、私はオール歩合制(B型賃金)以外のタクシー会社っていうのは知りません。

(注2)リース型賃金体系っていうのもあって、一定の賃金を会社に支払えば、後の売り上げはすべて労働者のものという賃金体系もあります。これはオール歩合給の変形制です。この賃金体系を始めた、関西のタクシー会社の名前から「○〇方式」と呼ばれています。

さて、ここで60%の歩合率のタクシー会社があるとします。「1000円」の売り上げがあれば「600円」が運転手のものです。ここで、「50円のキャッシュレス手数料」が発生したとします。会社側が、この50円について、月額の賃金から控除していれば、それは労働基準法第24条違反になるような気がします。しかし、歩合率そのものを下げてしまえばどうでしょうか。つまり、「キャッシュレス手数料が発生した場合は、歩合率を55%」とするという労働契約にしてしまうのです。これなら、賃金不払いにはならないかもしれません。

また、「売り上げからキャッシュレス手数料を控除した金額から歩合給を算定する」という方式でも、労働基準法違反は発生しないと思われます。

いずれにせよ、ストレートに「運転手がキャッシュレス手数料を支払う」というような労働条件にしているのでなく、「キャッシュレス支払い時の歩合給の賃金体系の変更」で、労働基準法違反ではないと主張できます。

でも、これってある意味言葉遊びです。キャッシュレス社会を推進していくと、この「手数料」という問題は必ず発生します。それを「誰が負担するのか」という部分で「労働者の賃金から負担する」ということは間違っています。

でも、では「会社が負担するのか」ということになれば、それもまたおかしい気がします。国が進める、「キャッシュレス社会」の費用を国民が一方的に負担しなければならないのでしょうか。

キャッシュレス社会への推進役は経産省だそうです。国は「貨幣をなくす」ことで、社会全体の効率を高め、社会的な費用削減を目指しているのでしょう。ならば、この「手数料」の問題こそ、減税等で最優先に取り組むべきことだと思います。

何か、「タクシー運転手さんとの世間話」から「キャッシュレス社会でのあるべき労使関係」というものを考えてしまいました。

アジャイル開発について(2)

(松田町の桜、by T.M)

今回は前回の続きです。前回までの粗筋は前回(↓)を読んで下さい。

2つの労働局の「アジャイル開発」に関する見解がまったく違っているので困惑していた私ですが、「アジャイル開発における短時間派遣を否定したB労働局」が説明する時に使用した「一連の作業」という言葉の意味に気づきました。

(注) 「アジャイル開発」チームが同じ場所で一緒に働いてフラットなコミュニケーションを行うことについて、正式な呼び名は知りませんが、この記事の中では「ミーティング」と呼びます。

要するに、ミーティングの中で、「指揮命令」が完結するのなら、「ミーティングの時間のみの派遣労働」という概念は成立するが、ミーティング後もそこで話題になったソフトウェアの開発に従事するなら、「一連の作業」が継続されることなり、「時間単位の派遣」でなくなってしまうということです。なるほど、これはB労働局の見解が正しそうです。

そんなことを考えていたら、I氏から、「内閣府の成長戦略ワーキング・グループ」の議事録情報が送付されてきました。同議事録の18ページからが、アジャイル開発に関する記録ですので、興味があることはどうぞ一読下さい。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/seicho/20210225/gijiroku0225.pdf

(注)この議事録を読んで分かったことですが、「時間単位の派遣」でなく「完全派遣」とすることができないのは、やはり「知的所有権」の問題があるようです。

さて、この「偽装請負問題」ついて「時間単位の派遣」という案が、B労働局の説明により難しくなったので、I氏にどのような意見を述べようか考えていたのですが、そもそもなぜ「偽装請負」に厚生労働省がいけないのかというのか、原点に戻って考えることにしました。

労働基準法第六条に「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」とあります。「偽装請負」とは、本来直接雇用の労働者が受取るべき賃金を、間に入った事業場が「ピンハネ」(中間搾取)するからいけないのです。因みに、この条文の「法律に基づいて許される場合」とは「派遣法に基づく派遣」を指します。

中間搾取が一般化されると、多重請負の構図となり、最終的に労働者が低賃金ということになります。「福島県における除染作業で、東電が1日17000円の日当を支払っていたのに、多重請負が原因でピンハネされ、労働者には実際日当7000円しか支払われていなかった」という事件が数年前にも起こっています。

「アジャイル開発」を現在、推し進めようとしている方々は決して下請け労働者を搾取しようとは思っていないでしょう。また、「フラットなコミュニケーション」が使用従属関係になることは決してないと考えていないでしょう。

でも例えば、仮定として「アジャイル開発」については「偽装請負」については問題がないという結論が各行政機関からでたとしたら、必ずそれを悪用して「中間搾取」を企む輩がでてきます。厚生労働省はそれを恐れているのでしょう。

話は少しそれますが、「高度プロフェッショナル制度」という労働制度が2019年から実施されています。「働き方改革」の時に話題になりましたが、「高度な専門知識を有し、年間に1075万円以上の年収を得る労働者について、労働基準法に定める労働時間規制の対象から除外する仕組み」です。この制度は導入される時に色々な問題点が指摘されましたが、現在に至るまで、何か事件は発生していないようです(と私は理解しています)。どうやら「年収1075万円」という歯止めが事件発生を防いでいるようです。

世の中には、この「年収の壁」を「400万円に引き下げろ」と主張する経営者もいると聞きます。そういう経営者こそが「制度を悪用する者」と思えます。

さてアジャイル開発についてですが、「高プロ制度における年収1075万円の歯止め」のように、何か「歯止め」を設けることができないでしょうか。

労働行政に携わってきた者として言わせてもらえば、労働者に対し

  • 低賃金でないこと
  • 長時間労働でないこと
  • 雇用の継続性が確保されること

が保証されていれば、例え外形が「偽装請負」であっても問題はない訳です。

(注)あと他に、「④ 危険作業がないこと」「⑤ 社会保険が確保されていること」が必要ですが、⑤については会社員なら当たり前のことですし、④についてはソフトウェア開発では、労災認定事案の原因が「長時間労働」「高ストレス」「人間関係」等ですので、通常の労災事故はあまりないと思いますので、ここでは省略します。

日本における「アジャイル開発」を促進させるためには、如何にこの形態がソフトウェア開発にとって有益かを訴えるだけでなく、旗振り役の企業側が前述の「歯止め」を厚生労働省に提示できる方が、同省が作成予定の「Q&A」を待っているより早いと思います(「Q&A」がいつになるか分かりませんし)。これが、今回の問題に関する私の結論です。

アジャイル開発について(1)

(松田町松田山、by T.M)

ブログやっていると、突然知らない人からメールがくることがあります。誹謗中傷もあり無視することも多いんですが、中には取材であったり、新しい情報を得るためこちらから連絡を取りたいと思えるものもあります。

先日、小学校の同級生I氏から50年ぶりの連絡がありました。私はマルチ商法の勧誘かと思い、少し身構えましたが、相手のことを検索すると、立派な大学教授でした。I氏は、何か「リカウント」という大学を卒業した後に学びなおす教育に関係しているらしく、それが再雇用と結びつくことで、文科省の指定を受ければ支援を受けることができます。その支援について地方労働局との連携が必要なのですが、私にそのような事業支援に心当たりはないかという話でした。

さっそく、オンライン飲み会をやりましたが、冒頭から注意を受けました。

I氏:「(リカウント)ではなく、(リカレント)だから。深層学習のRNNのRだ。」

私:「・・・無言」

I氏:「それから、このオンライン会議をやるに、君の手際が悪かったようだが、ITリテラシーが低いな」

いきなり「英語」と「IT」の指摘です。Iさん、私はあなたが、英語の研究論文に目を通している時間に、死亡労働災害の調査や過労死の調査をしていたんですよ。まったく違う道を歩んできたのですから、50年間の間に隔たりができても当たり前でしょ。(もっとも、小学校時代から、彼は私よりはるかに成績が良かったんですが)

それから、お互いの病気持ち自慢が始まりました。

私:「8年前にギランバレー症候群という病気をやってしまい、それ以来神経系統がやられてしまい、下り階段を手すりを掴まなければ降りれないし、ペンを持ち細かい字を書くことができない。パソコンがない時代なら生活保護をもらっていたと思う。」

I氏:「それなら、私だって、×××で○○○だ」

この老人ならではの熱い会話で、私たちは徐々に昔のように話すことができるようになりました。

話が盛り上がってきたところで、私は「リカレント云々」について、ハローワーク所管の話であり、どうも力になれないことを伝えました。すると、I氏は次の話題として、「アジャイル開発」というものを持ち出してきました。彼はこの agile software development の専門家でもあります(本も執筆しています)。

I氏からの説明でわたしが理解した「アジャイル開発」とは、次のようなものです。

ソフトウェア作成にあたり大まかな仕様を決めた後は、「委託先、受託先のチーム全員が同一場所で一緒に働き、フラットなコミュニケーションを行いながら開発を行う」このように作成することで、素早く(agile)ソフトウェアを開発することが可能であり、世界的に行われている。

まあ、私の理解は拙いものですが、I氏から特に反論もなかったもので大まかはあっていると思います。

このアジャイル開発について、「委託先から受託先の労働者に直接指揮命令していることになるのではないか」、すなわち「偽装請負の疑いがあるのではないか」ということが現在「内閣府の成長戦略ワーキング・グループ 」で問題になっています。それは次のようなものです。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/seicho/20210225/agenda.html

このURLにあるとおり、厚生労働省の見解は、次のとおりでした。

「偽装請負」であるかどうかはケースバイケース。今後、この件については「Q&A」を作成する

私はI氏に、「偽装請負」については、少しは意見を言えると答えました。そして、これは「請負」だからいけないのであって、「派遣」にすれば問題がなくなるのではないかと言いました。I氏は次のように答えました。

I氏:「これは基本的に請負でなくてはダメだ。派遣とするなら、例えば毎日1時間くらいの派遣を認めてくれなければ対応できない。

(注)ここでなぜI氏が「請負」にこだわるのか聞きそびれましたが、多分「知的所有権」等に係ることだと想像します。

そこで私はI氏に、「偽装請負」及び「時間単位の派遣の可能性」について調べることを約束しました。

翌日、私はA地方労働局の需給調整事業課に電話相談していました。同課は、「職業紹介事業及び労働者派遣事業に関すること」を行うところです。職業安定部(ハローワーク関係)に所属する課で、労働基準部出身の私としては縁遠いところです。

そこの相談員は「アジャイル開発における時間単位の派遣」については理論上は可能だという見解でした。

私は念のために、別の地方労働局(B地方労働局)にも同じことを尋ねました。するとそこでは「ダメだ」という返答でした。

まったく違う返答に私は困惑しました。

                       (続く)