ブラック企業とモンスター相談者(1-4)

CA3I0721
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(法体の滝、いつもの人の寄贈)

彼女は、オープン1週間前から、その店舗で働きました。彼女の職名は「店長」でした。彼女の他に4名の従業員(いずれも女性)が働くことになりましたが、店長といっても、彼女に人事権限は何もありません。一応、彼女だけが「正社員」で、他の人は「パート」なのですが、他の人の雇用等については、一切口出しができないようになっていました。
彼女が自分の部下のパートさんから苦情を言われたのは、開店から2週間ほどたってからでした。「雇入通知書」を会社からまだもらっていないと言うのです。そこで、彼女も初めて、自分も「雇入通知書」をもらっていないことに気付きました。

(注)「雇入通知書」とは・・・労働契約締結時に事業主が交付を義務づけられている書類。賃金額、締切日、支払日、支払方法等が記載されている。様式自由。労働契約書がその替わりとなる。

彼女は、店長として本社にそのことを連絡しました。すると、本社の担当者の返事は「余計なことは言うな」というようなものでした。店長といっても、彼女の仕事は、売上げを報告することと、パートさんのローテーションの確認と、在庫管理だけでしたが、パートさんへの責任を感じ、思い余って、労働基準監督署に相談をしました。

彼女はまず労働基準監督署に手紙を一通書きますが、実を言うと、この彼女の手紙が、後に彼女の窮状を救うことになります。

彼女の労働基準監督署に届いた手紙は、匿名でなく、本人の名前・連絡先が書いてあったため、すぐに臨検監督を実施する用意を整えました。担当官は私になりました。

(注)監督署への手紙は、ほとんど匿名のことが多い。匿名の場合は、「行く・行かない」は監督署まかせである。「石綿が入っている建物が、許可なく壊されている」等の命・健康の係る情報なら、多少あやしくても直ぐに動くが、誹謗・中傷しか記載されていない匿名情報は無視される可能性もある。実名ならば、まず間違いなく動く、もしくは動かない場合は情報提供者に説明の連絡が行く。

ブラック企業とモンスター相談者(1-3)

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(「シラカバと青空」 M氏撮影)

残暑お見舞い申し上げます。
「ブラック企業とモンスター相談者」という章なんだけど、あまりの暑さに一言いいたくなりました。

思わぬ労働災害が起きるのが、年末年始とお盆期間中です。これは本業が休みの期間にメンテナンス等をやってしまおうという現場の要求で非定常作業が多く発生することと、休業期間前の駈込み作業及び休業明けの非定常の準備作業が原因と思われます。

しかし、思い出します。労働基準監督官の現役の頃は、お盆の前に「一斉パトロール」とかいって、自転車に乗って、各建設現場を回ったもんです。
50代はさすがにキツくてしなかったけど、40代半ばの横浜西署の課長をやっていた時までそれをしてました。ギランバレーで体を壊して以来、歩くこともままならず、自転車にも乗れず、今じゃ、エアコンの効いた部屋でこのブログをアップするのが精一杯だけど、昔は「熱中症」なんて言葉は自分には関係ないと思っていました。若くて健康だと、それが本当の宝だと思う今日この頃です。

もし、この文書を読む現役の監督官や技官の方がいたら、暑さに負けることなく、お仕事頑張って下さいというエールをおくりたいと思います。後20年たてば、炎天下の下で労働災害防止のために、汗だくになった日々のことを必ず思い出します。

このお盆期間中及びその前後に、各工場、建設現場で災害が発生しないことを祈ります。

さて、本章の「ブラック企業とモンスター相談者」の話に戻ります。

その申告は、一通の郵便から始まりました。
ある大手の航空会社が事実上倒産し、多くの人たちがリストラされました。操縦士、整備士といった専門性の高い業務に就いていた人たちは、前職を生かし再就職できた人も多かったと聞ききますが、再就職が難しかったのは、事務職の人や関連会社で営業や販売を行っていた人たちでした。
関連会社で販売の職に携わっていた20歳代後半の女性が、Y駅の地下に出店してあるケーキ屋さんに再就職をしました。Y駅の地下に出店するため、人材を募集していたのです。そこのケーキ屋さんは、大阪が本店で、大阪商工会議所でも役員をしている、一見「しっかりした会社」のようでした。

ブラック企業とモンスター相談者(1-2)

CA3I0243
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(M氏寄贈)

(しばらく、お休みしていた「ブラック企業とモンスター相談者」の続きです)

先輩の言葉はさらに続いた。
「監督官がもっとも注意すべきは、申監だ。申監に至るケースとは、次の3つのケースのどれかだ。
① 会社が不法だ
② 労働者が不法だ
③ 会社と労働者が不法だ
ようするに、会社も労働者も、両方とも「いい人」だったら、申告なんて事態は、ほとんど起きないんだ。我々監督官は、申監を実施するたびに、事業主か労働者のとんでもない主張を聞くことになる。」

(注)申告とは、
労働基準法第104条もしくは労働安全衛生法第97条では、「会社の不法行為に対し労働者の申告」が認められている。
労働基準監督官は、この申告行為に基づき、被申告会社の臨検監督を実施することができる。
もっとも、行政解釈によると、この「申告」という行為自体は労働基準監督官に臨検監督官の発動を促すもので、すべての申告に対し、対処する必要はないとされている。

(注)臨検監督権限とは
労働基準法第101条もしくは労働安全衛生法第91条で認められた、労働基準監督官が事業場を臨検監督する権限。
この条文によると、労働基準監督官は「予告なく事業場を訪問し、事業主や労働者に質問し、帳簿等を閲覧する権限」を所有していることになる。
例えば、他の役所の者が事業場を訪問した時に、事業場は裁判所の令状等がなければ、調査を拒むことができるが、労基相手にはそれができないということ。
もっとも、その場で何にもかもが調査できるという訳ではない。
もし、調査を拒んだ場合は、後で刑事処分することができるという意味。
例えそうであっても、やっぱり強い権限なので、労働局はこの権限を錦の御旗としている。
因みに、この権限はILO条約により、国際的に認められている権限。

宿日直勤務(3)

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(続き)

さらに、新聞記事にある「許可なく宿日直勤務を行った」という意味ですが、これはもしかしたら、宿日直している医師等に「宿日直手当のみを支払っているということでしょうか。
それならば、残業代未払いの法違反も発生している可能性があります。未払い賃金については、過去2年間の未払分について、労働者は請求する権利を持ちますので、その処理がどうなっているか、気になるところでもあります。

私は3年前に、ギランバレーという神経の病気になり、6ヶ月の入院生活を送りました。最初のひと月は横浜市立大医学部の附属病院のICUに主に入院しており、その後は民間病院でリハビリを受けていました。そこで看護師さんたちと色々と世間話をし、彼女たちの労働条件を知りました。

横浜市立大学医学部付属病院の勤務対応については、よく考えられている労働条件でした。
交替制勤務ですが、交替の都合で午前2時に勤務終了の人いるといった勤務体制でした。この時間帯に勤務終了の人については、地域ごとにタクシーを依頼し、労働者が相乗りし、自宅まで送り届けていました。
この「午前2時勤務終了」という、他の病院では中々採用が難しい勤務体系により、労働基準法を遵守している訳ですが、都市部に所在し、夜間タクシーの確保が可能で、職員寮所有するといった大病院だから可能なのでしょう。

横浜市立大学医学部付属病院の後に入院した民間病院の看護師の言葉が耳に残っています。
「この病院で宿泊勤務する時は、16時間連続勤務となってとてもキツイ。しかし、仮眠室はあるし、きちんと翌日休めるし、夜間の手当はすべて支払われている。私が今までいた病院では、宿直手当しか支払われないところもあった。」

もしかしたら、医療の現場では、困った労務管理が行われているところもあるのかもしれません。

(この項終了)