年間残業2000時間

(T.M氏の愛車ジムニー、彼はポルシェとこのクルマを所有しています)

札幌の爆発事故について、「もし、自分が現役監督官だったらどう事件処理する」といった視点から記事を書こうと思っていたら、もうマスコミはこの事件のことを取り上げなくなってしまいました。

爆発事故のことは、次回以降に書くことにして、今週は最近の話題の事件について書きます。

まず最初は、「毎月勤労統計調査の不正事件」についてです。この統計について、私はよく知りません。以前ブログ記事に書きました、最低賃金等の決定の資料等に活用する「賃金構造統計調査」とは違い、基本的に地方労働局の監督官サイドには関係が浅い統計です。また、今回の不正事件に地方労働局の職員は全く無関係です。ただ、労災担当職員サイドについては、本省のミスによる今回の不正事件への対処が大変そうです。

私が得た情報では、「過少支払いの労災保険料の修正があるかもしてないから準備しておけ」という、本省からの内々の指示が監督署の職員にあったそうです。多くの方に迷惑をおかけした事件ですから、組織が一丸となって後始末に奔走することは当然ですが、上の尻拭いを、末端の職員が通常業務以外の業務(当然、残業となるでしょう)で行うことに、現場では不満がでるかもしれません。

(注) 私が述べる「地方労働局」とは、地方労働局の「基準部」と「総務部」のことです。職業安定局(失業保険やハローワークのこと)については、私はまったく無知です。

さて、やはり元監督官として興味を持つ最近の記事は、次の記事でしょう。

厚生労働省は11日、医師の働き方改革を議論する有識者検討会で、地域医療を担う医師らの残業時間の上限を「年1900~2千時間」とする制度案を示した。4月に施行される働き方改革関連法で一般労働者に定められた残業上限(休日出勤含み、年960時間)の約2倍となる水準。(産経新聞から引用)

年間2000時間の残業って、これ「殺人」クラスですよね。だから、単純に「賛成」か「反対」かと尋ねられれば。私は「反対」と答えます。しかし、元監督官としては、この提案は「理解」できます。

労働時間を短くする方法は、穏やかの手法を取るのなら、次の方法しかありません。

「①現実の労働時間を正確に把握する。②年間の労働時間の削減の数値目標をたてる。③業務内容を把握し、削減できる箇所から随時削減していく。」

ドラスティックな手法としては、「医師の残業の上限時間を一般企業並みと法律で規定し、監督署や警察で違反を片っ端から送検していく」といった手段が考えられますが、これは地方の医療体制を破壊してしまうかもしれません。(警察機関も、「長時間労働」を取締ることはできます。)

やはり、「送検」という監督署の伝家の宝刀は、目に余る者のみに適用することが妥当と思います。

穏健な方法の①の「労働時間の正確な実態把握」というものは、現状で十分なされていそうで、実はまったくできていないのです。医師と教師の世界は、「労働時間」という概念がそもそもなかったのです。例を挙げれば

  「宿直医師の夜間の労働時間」

  「修学旅行を引率した教師の労働時間」

なんていうのは、どこの統計にもありません。現場に居る限り、休憩時間はなく、全ての時間が労働時間だと考えてよいでしょう。

今回の「医師の働き方改革を議論する有識者検討会」で、提案された年間残業2000時間というのは、改めて医師の労働時間を把握した上での現実的なラインだと思います。

しかし、「これでは過労死がでる」という、もうひとつの現実にはどう対処するのか、実際に亡くなった方とその御家族への責任は誰がとるのか。

私は無責任の立場ですから、「残業2000時間」という提案について、「理解」しますが「反対」します。