バイトテロとコンビニ(3)

 

(横浜第二合同庁舎からの夕暮れ、by T.M)

高校生を前に、「なめんなよ」と開き直ったら話を聞いてもらえた私は、自分の成功体験にすっかり酔うようになりました。ようするに調子づいたのです。それから、若い人たちを前にして、過激な発言が多くなりました。

労働安全衛生法第 59 条に、従業員を雇い入れた時に、安全衛生教育を行わなければならないと規定されています。ところが、中小企業ではなかなかうまくそのカリキュラムが組めません。そこで地区ごとに、地元の労働基準協会が合同の「新入社員安全衛生教育」を実施します。そこで講義を行うことは安全衛生コンサルタントの大きな収入となりますが、社会人成り立ての人たちに安全衛生の話をしてもなかなか受け入れてもらえません。他会社との合同な教育ということで、自社の上司はいませんので、気楽に講義を受けようと思っている者ばかりです。

数年前に、そんな講義を依頼された時のことです。私は精一杯のハッタリを行うこととしました。

「新しく社会人になられた皆様方に心よりお慶び申し上げます。しかし、お祝いの言葉もここまでです。これから講義に入ります。今日は、労働安全衛生の話をしますが、例年この教育で勘違いされる方がいます。何を勘違いしているかというと、今日の講義を、皆様が今まで教育を受けてきた、大学や高校の授業と同じものだと考えていることです。確かに、私は今、教壇に立っています。そして皆様は教室の中で私に向かい合うように座っています。ここまでは、確かに学校の授業と一緒です。しかし、まったく違うところがあります、それは、皆様が

『金もらって、今そこに座っている』

ということです。学校は、皆様が授業料を納めて授業を受ける場所です。しかし、今日は金もらってそこに座っているのです。皆様をこの場に派遣した企業は、この講習を受講する時間について、給料をカットするということはしないはずです。つまり、今日、皆様が私の話を聞くことは、皆様の『仕事』だということです。

これから私は安全衛生の基本的な話をしますが、今日の講義の一番大きな目的は

     『なぜ、企業は予算を使って、この講義を受けさせているのか』

を皆様自身が考えることです。

さて、まず『安全第一』ということについて話をします。皆様はこの言葉を何度も聞いたことと思いますが、これはとても、怖くて厳しい言葉なのです。

もし、皆様が職場で、誤って会社所有の高価な機械を壊してしまい、会社に多大な損害を与えたとします。そのことを理由に会社は皆様を解雇できるでしょうか。それはできません。法律は皆様を守ります。

それでは、皆様がヘルメットをしなければならない職場で、故意にヘルメットせずに、数回注意されても態度を改めない場合はどうでしょうか。それは、解雇可能です。もし、私がコンサルタントとして、会社にそのことで相談を受けたら、私はこう答えます。

 『解雇? そんな甘いことしないで下さい。懲戒解雇として下さい

     民事、刑事の両面から対応を考えて下さい」』

会社に何億の損害を与えても解雇されないが、ヘルメットの不使用では解雇される。それが『安全第一』の言葉の意味です。その理由は、「命」を守るためです。

それから、安全衛生の場では、私は『パワハラ』も、ある程度仕方がないと思っています。、どんな場合でも人の人格を傷つけたり、差別的な言動はNGです。しかし、墜落危険場所で安全帯をしていない者に、「ここから出て行け」の言動くらい有りだと思います。

もちろん、安全帯をしていない者に安全帯を着用させることが目的ですから、特に大声を上げる必要などない訳ですが、不安全行動を見れば、真剣に安全を考えているものほどいきり立つのではないでしょうか」

この時の教育についても、受講者から文句はでませんでした。

(注) 「墜落制止用器具」なんて、絶対現場では言わないと思う。