金銭的解雇

かつて小田原と熱海を結んでいた豆相人車鐵道の人車、by T.M)

私がブログネタに困っていることを知った、高校時代からの親友から次のようなネタをもらいました。

彼は首都圏の某一流国立工業系大学の修士課程を卒業し、某精密機械メーカーの開発関係の仕事をしていますが、彼が最近興味を持ったという事柄です。それは、「産業スパイの良心と取扱い」についてです。

中国に「国家情報法」という法律があるそうです。その中の条文に次のようなものがあります。

中国・国家情報法第14条

「中国の国益と情報工作を強めるために、中国国民、及び組織、市民団体、企業は中国政府の命令に従い、情報を収集し、中国政府に送信する義務があります」

私は知らなかったのですが、この法律のことはしばらく前から、日経新聞等で話題になっていたそうです。なんでも、中国の大手通信機器メーカー「ファーウェイ」の副会長がカナダで逮捕された遠因だそうです(因果関係は、私には現在のところ理解できません)。

私の親友は、この法律は「産業スパイ」を奨励するものだと憤っています。私は友人にいつも「あなたぐらいの技術知識を持っているなら、他国へ行って技術を売り渡せば、退職金以上の金が入るから、その方がいいだろ」と嗾けるのですが、愛国心と愛社精神に厚い彼は耳を貸しません

(私が彼の立場ならそうしてんだが・・・)。

彼はこう私に尋ねました。

「中国人で会社で一緒に働く同僚が、中国本土で会社の情報を漏洩しなければ、法違反を犯すことになる。しかし、彼は会社にとっては産業スパイということになる。彼が祖国に対し、忠誠を示した行為で、会社が『懲戒解雇』等の処罰ができるのだろうか。個人の良心と祖国への義務が相反することを、どのように裁けばいいのだ」 

真面目な友人の考えだと思いました。確かに、個人としては、自分がその立場であっても、自分の同僚がその立場であっても、悩む問題だと思います。

でも、元監督官として、その会社にアドバイスするなら、「解雇が妥当です」と答えるでしょう。

労働者を解雇するということは、何も「労働者の責による解雇」、つまり「懲戒解雇」だけではありません。「普通解雇」という概念もあります。労働者の利益と会社側の利益が、明らかに相反するものであるなら、会社は解雇がやむおえなくなってしまいます。もっとも、それには当然、金銭的な補償をしなければなりません。それが、何十万か、何百万か、何千万か、あるいは何億になるかはケースバイケースでしょう(最終的には「和解」か「裁判所での決着」)。でも、上記のようなケースでは解雇は妥当だと思います。

(注) 私の主張は、最近話題になっている「金銭解雇制度」を念頭に置いたものではありません。「産業スパイ」のケースでは「合理的な解雇理由がすでに存在している」と私は判断しているので、そこが金銭解雇制度と相違があると思います。

しかし、この中国の法律のことを考え、私の親友の懸念が現実であるなら、今後世界中の企業は、中国人技術者を雇用しなくなりますよね。これは、中国人の差別ではなく、企業防衛のためには当然のことと思います。

それを考えると、広い意味でこの法律は中国にとって損になるとしか思えないんだけど、そうまでして「愛国心」を強制しなければならない中国って、やはり個人主義が強くて、国民と国家の間に信頼がないのかなと、そんな余計なことを考えました。