ワタミ、また?(2)

(筑波山・茨城県つくば市、by T.M)

仕事が急増してきました。コロナの影響で大口の顧問先の契約が、急に年内までとなり、引継ぎ等で追われています。また、先月初めの台風のため、土曜日に行うはずの講演会が流れたのですが、その代替が14日(土)となりました。さらに、某監督署からの、慣れぬテーマでの講演1件の追加です。カミさんの出身地の宮城県石巻市に「メッタニゴッタ」(カオスになること)という方言がありますが、その状況になってきました。そんな訳で、次回(8日)、次々回(15日)の更新はしません。せっかく来て頂いた方、申し訳ございません。(もしかしたら、いつものT.M氏の代筆が入るかもしれません)

前回の「ワタミ」の話の続きです。その前に思い出話をひとつします。

今から、××年前のある一部上場の大手スーパーマーケットの一店舗の話です。その店舗について、タイムカードから計算できる労働時間と賃金台帳に記載してある労働時間に相違があるという匿名申告が労働基準監督署にありました。その事業場では、以前にも労働基準法第37条(残業代不払い)の是正勧告書を受けていました。つまり、申告が事実なら繰り返しの法違反となります。

(注)「タイムカード」を時間管理に使っていた時代の話です。

私はその事業場に臨検監督に行きましたが、「複数の店員が、自らの意思で残業時間の申告をしていない」事実(と店長は説明した)を確認しました。そこで、店長からタイムカードを提出してもらい、「上申書」に署名押印してもらいました。

(注2)「上申書」とは、労働基準監督署長宛ての文書のこと。署名押印させることにより、現場で有無を言わさずに、責任者に法違反を認めさせる効力を持つ。大抵の場合は、責任者は、法違反を現認しているため狼狽えていて、この文書に署名押印(あるいは署名指印)してしまう。監督官は事前送検(死亡送検でない安全衛生法違反の送検)を実施する場合等に、このような捜査テクニックをつかう。この文書を得れば、後はどういう料理でもできる。

私が現場から引き上げた後で、そのスーパーマーケットの本社の総務部長から連絡がありました。「なんとか穏便にすませてくれ」とのことでした。そこで、私は答えました。

「書類送検は勘弁しますから、社長が是正勧告書を取りに来て下さい」

社長が来るなら、会社に猛省を促すことができるので、まあいいかと思いました。(もっとも、書類送検ということになれば、社長も被疑者として取調べますので、同じことなのですが)

社長が監督署に来た時に、改めて是正勧告書を渡した上で尋ねました。

私 「社長さん、労働時間の記録の改ざんがなぜ悪いと思われますか」

社長「それは法律違反だからです」

私 「それでは、もうひとつ尋ねますが、人を殺すことは、なぜ悪いんですか?」

社長「え?」

 「人を殺すことは、法律違反だから悪いことですか?」

社長「・・・」

私 「人を殺すことは、法律違反だから悪いことではなく、常識として悪いことではないですか。私は、労働時間の改ざんについても、法律違反だから悪いことではなく、常識として悪いことだと社長さんに思って欲しいと思います。そう思って頂かなければ、また同じような事件が、他の店舗で起こるのではないですか。また、労働時間の記録の改ざんがされるということは、企業にとって、長時間労働に対する再発防止策ができないということです。御社においても、正確な労働時間のデータがなければ、正確な人件費の見積もりができないのではないですか?」

残業代未払の是正勧告書が高崎労働基準監督署から「ワタミ」に交付されたという新聞記事を読んで、かつて私が担当した事件を思い出しました。この「ワタミ」の件については、事実かどうかは分かりませんが、「上司による労働時間の記録の改ざん」が行われていたと主張する記事もネット上にあります。

労働基準監督官として企業に全体に許してはならないことは、「労災隠し」と「労働時間記録の改ざん」です。理由は前述のとおり、この2つの場合は再発防止対策がとれないので、会社がだらだらと法違反を繰り返してしまう可能性があります。

もし、ネット上の噂が本当であるなら、「ワタミ」の体質は本当に恥ずべきものであると思いますが、事実はどうなのでしょうか。