2つの送検

(土肥桜とメジロ・静岡県伊豆市土肥の松原公園、by T.M)

ニュースをみると、3月1日は日本全国の労働基準監督署で多くの司法事件の書類送検が行われたようです。3月1日というのは、多分年間をとおし、一番書類送検の多い日です。これには理由があります。

検察庁は緊急を要する事件以外については、毎月20日から月末までの送検は認めません。これは、「当月に受理した事件については、当月に着手しなければならない」という内部規則が検察庁にあるらしく、通常送致はこの期間は受理しないという申し渡しが各警察機関にされているのです。また、4月になると人事異動が各労働基準監督署であるので、その準備に3月は忙しく、年度内に各監督官の手持ちの事件を送検してしまえということで、3月の最初の日が慌ただしい送検日となる訳です。

さて、そんな3月1日の送検について、私が良くやったと思う送検と、これはイマイチだろうと思うものを上げます。まず、良くやったと思うものからです。

下野新聞 3/1

労働基準監督署に未払い賃金の申告をしたことを理由に職員を不当に解雇したなどとして、真岡労働基準監督署は1日、労働基準法違反の疑いで、真岡市東郷、社会福祉法人「萌丘厚生会」と同会理事長で真岡市議(84)=5期=を書類送検した。労基法は労働者が法律違反の事実を行政官庁に申告したことを理由に、使用者が解雇や不利益な取り扱いをしてはならないと定めている。労基署によると、こうした違反での書類送検は県内で初めてという。

 書類送検容疑は、2023年3月1日~6月30日までの間、時間外・休日労働に関する協定(三六協定)を締結せずに、従業員11人に1日8時間を超える時間外労働をさせたほか、2人に1週間に40時間超の時間外労働をさせた疑い。また労基署に未払い賃金について申告したことを理由に、女性職員を解雇し不利益な取り扱いをした疑い。

よっしゃ!よくやった。これぞ、監督署がやるべき書類送検。監督署OBとして誇らしい。真岡監督署は守るべきものを知っている。

次にイマイチ送検です。

時事通信社 3/1

社員に違法な時間外労働をさせたとして、厚生労働省東京労働局は1日、労働基準法違反の疑いで中古車販売大手ビッグモーター(東京)と同社工場長の30代男性を書類送検した。

認否は明らかにしていない。

送検容疑は昨年2月、都内にある同社店舗に勤務する整備士6人に対し、労使協定で定めた延長時間を超える時間外労働をさせた疑い。

同労働局によると、6人の時間外労働はいずれも過労死ラインと言われる月80時間を上回り、最長で月116時間39分に上るケースもあった。同社は過去に繰り返し是正勧告を受けていたが、改善されなかったため東京労働局過重労働撲滅特別対策班(通称かとく)が捜査に乗り出していた。

何かなー!っていう感じです。ビッグモーターを叩くという時流に乗って、話題づくりに送検したんじゃないかと思われます。確かに約117時間の時間外労働は、過労死の認定基準を超えているけど、世の中にはもっと悪質なところがあえるじゃないのかなと思います。

昨年、青森の製麺工場はひと月224時間の残業をしていて送検されたし、船橋労基署は残業165時間の運送業者を送検している。西宮労働基準監督署が送検した医療法人の事例は113時間の残業で今回の立件より残業時間は少ないが、これはそもそも医師が自殺し労災認定された事例で、ビッグモーターとは同一にはできない。

それに、何で上局である東京労働局の「カトク」がでしゃばってくるんだ。こんなもの、所轄の労働基準監督署にやらせりゃいいだろと思う。

送検されたのが、どこの店舗かも分からないし、「複数回、是正勧告を受けた」というけど、これは「今回送検された店舗について、過去に是正勧告を受けていた」と判断して良いのだろうか?

つまり、東京労働局としては、何でもいいからビッグモーターという企業を叩きたいから、東京労働局内の17の営業所(HPで調べました)の中から適当に選んで送検し、「他の店舗はどうなっているのですか」という新聞記者からの質問を封じるために店舗の名前を公表していないという疑いもでてくる。

まあ、詳細がこれから分かってきたら、私の誤解ということになるのかも知れないけど、あまり政治的な送検はして欲しくないと、今の段階では私はそう思います。

外国人労働者(3)

(旧信越本線横川〜軽井沢間のレンガ覆工のずい道、by T.M)

(先週の続き)

やがて会社担当者4人が監督署に到着しました。みなサラリーマンといった格好で、ヤクザのような者は誰もいません。そして、わたしの事情聴取に応じて、労働契約書(外国語のもの)、タイムカード、賃金台帳等を提出しました。私は、それを全て、会社と外国人労働者の承諾を得てから、外国人労働者に付き添ってきた若者に見せました。若者は最初は警戒していましたが、段々と外国人労働者の話に疑いを持っていたようでした。

しばらくして、決定的な話が出てきました。2、3日前の午後9時過ぎに、その外国人労働者は一人で会社事務室を訪問し、労働条件の不満をそこにいた事務員に述べたそうです。私は、もう一回事実関係を確認しました。

「午後9時過ぎに、数人の事務員が残業している会社事務室に文句を言いにきたのですか」

会社担当者は、その事実に間違いないと述べました。私は思わず笑い出してしまいました。会社担当者は、私の態度を訝しく思って尋ねました。「どうしたんですか」

私は答えました。「彼は、あなた方をヤクザだと言っていたんですよ。すぐに暴力を振るうという話でした。さっきも、あなた方がここへ、これから来ると言ったら、こわいから会いたくないと逃げようとしたんです。そんなあなた方のところへ、よく夜中に一人で行けたなと思い、おかしくなったんですよ。」

会社担当者は、驚いて外国人を見ました。私は、「何か説明しろ」と外国人に言いました。すると外国人は、「いえ、・・・」と何か話そうとします。

その驚き方に不自然さを感じたの、私は担当者に尋ねました。「もしかして、彼は日本語が分かるんですか?」担当者は答えました。「もう、日本に10年以上いますから、日本語は話せます」 無茶苦茶な展開になってきました。

結局次の点が判明しました。

1 外国人労働者は、普段は真面目に勤務していた。

2 ボーナスの支払いの件で不満をもち、会社に苦情を述べた。そして出社しなくなった。この事実について、会社側は「無断欠勤」と述べ、労働者は「解雇」と述べている。

私は、両者に対し次のような若い案を提示しました。

「解雇か無断欠勤かは、判断できない。でも、彼は長く勤務しているし、有給休暇もたくさん残っているので、彼が出社しなくなった日からの賃金については、有給休暇として支払い、また彼も有給休暇が残っている限りは出社しなくても良いので、頭を冷やして、また働くかどうかを考え直したらどうか。会社も彼が働く意思を示したら受け入れたらどうか」

両者ともこの案を受け入れてくれました。

その後、若者と外国人労働者は一緒に帰って行きましたが、来た時は正義感に溢れていた若者は何か気が抜けたような顔をしていました。

2、3日して、どうなったかということを若者に問い合わせてみました(外国人労働者とは連絡がとれません)。すると、外国人労働者とは、彼もあれから連絡を取っていないということでした。まあ、そうなるだろうなと思いました。

外国人労働者(2)

(ツキノワグマ・大宮公園小動物園、by T.M)

私が北関東の労働基準監督署で第一課長(監督課長)をしていた時のことです。

ある日、労働基準監督署に行政書士を名乗る若い日本人男性と、40代くらいの南米出身の外国人労働者がやってきました。その若い日本人はボランティアで外国人労働者の支援をしているということでした。外国人労働者は日本語ができないらしく、その若い日本人が通訳をしました。

その若者は、外国人労働者が管内の大企業である金属製品製造業者Sの工場の構内下請けの労働者であると紹介しました。そして、その企業を昨日に即時解雇されが、賃金もろくに支払ってもらっていないと訴えました。なんでも、その企業では外国人労働者への殴る蹴るの暴力行為が日常的に行われているそうです。

私は、正義感に溢れ、外国人労働者を支えようとするその若者の姿に、何か危ういものを感じました。だって、その若者の隣で、当の外国人がニヤニヤしているからです。

外国人労働者が悪い経営者から酷い目に合わせられるということが、よくありますが、南米出身の労働者にはあまり、理不尽なケースはありません。南米系(日経)外国人労働者は、外国人労働者の中でも恵まれているのです。不法就労ではありませんし、技能実習生でもありません。極めて合法的な立場で働いていますし、自分たちのコミュニティーも持っていて、悪辣な経営者が、簡単に不法に雇用できる人たちではありません。だから、労使間のトラブルは通常の日本人どうし労使関係のトラブルと似たようなものとなります。

また、その外国人労働者が働いているSという企業はよく知っているのですが、優良な企業でそんな暴力団のような下請けをのさばらしてはないと思ったからです。当時は、製造業への労働者派遣が解禁となった頃で、大手派遣会社のデータ装備費事件等が発生していましたが、Sは派遣労働者は受け入れず、従来どおりに協力会社を構内下請けとしていました。

そこで、私は2人の目の前で、すぐにその会社に電話をし、お宅の外国人労働者がここにいて、労働基準法違反を訴えているのだが、関係書類をもってすぐに監督署に来るように指示しました。会社担当者は、いきなりの監督署への呼出しに慌てた様子で、直ぐに来ることを了解しました。私は若者と外国人に、両方からの事情を聴くから、ここに残っているようにと伝えました。

若者は、迷いもなく了解しました。自分が通訳として、外国人労働者を迫害する悪質な会社担当者と対面することに興奮しているようでした。しかし、外国人は会社担当者が来るということに戸惑っている様子でした。そして、若者に何か言いました。若者は通訳しました。「彼は会社の担当者と会うことを怖がっています。このまま帰りたいそうです。」

そこで、私は若者に言いました。「私が守ってやるから、安心しろと通訳して下さい」外国人は諦めたように、そこに残ることになりました。

(続く)

外国人労働者(1)

(秩父ミューズパークからの武甲山、by T.M)

何か最近クルド人の話題をよく聞きます。

文化の違う外国人と一緒に住んだり、働く時に、思いもかけないアクシデントに会うことがあります。何回かに分けて、文化の違いから外国人労働者のトラブルに巻き込まれた件を紹介します。

Xという産廃会社がありました。そこはアジア系外国人のYが経営する会社で、従業員が200人ほどいました。労働者で日本人は20人ほどで、後はアジア系やアフリカ系の外国人労働者が働いていました。アフリカのAという国出身の数が一番多く、30名ほどでした。A出身の労働者のうち、日本語を話せるのは数名でした。

(注)労働基準監督署は入管とは連携していません。少なくとも、私が現役の時代はそうでした(今はどうでしょうか)。不法就労の外国人を見つけても、入管に通報してはいけないということになっていました。労働基準法は「国籍の区別なく」労働者を保護することを目的としていて、例え不法就労の外国人でも保護すべきであり、労働基準監督署への申告をしやすくするために通報はしないのです。まあ、その方針の是非はともかくとして、かつて、労働基準監督署へ申告したことで、不法就労が判明し、労働基準監督署へ某団体から激しい抗議をしたそうです。

Xは産廃業について、いくつかの不法行為が公になり、経営者のYは仕事を廃業することにしました。その際に、数か月の賃金不払いを行い、ある日突然、工場に「今日から、会社を閉鎖します」と張り紙をしたまま雲隠れしてしみました。

労働基準監督署のこの事件を知ったのは、Tという労働組合からの通報でした。監督署では大型で、かつ悪質な賃金不払い事件なので、当然司法事件を視野にいれ調査を開始しはじめました。TにはXのほとんどの労働者が加入し、A出身の労働者たちの日本語が分かる代表3名も加入していました。

そして、労働組合Tの協力もあってYと接触が成功しました。そこでYを取調べしようとしたところ。Tから「まず労働組合と交渉をさせて欲しい」というも申し入れがありました。賃金不払い等で立件しても、労働者にはお金が入らないので、取り敢えず労働組合の対応を見守ることにしました。

すると、労働組合の交渉及び監督署の刑事事件に移行するという強硬姿勢のためか、Yは「未払い賃金、解雇予告手当、慰労金、労働組合への和解金」をすべて支払いました。

YとTで書面が交わされ、労働基準監督署も労働組合も全てが終わったと思い、監督署は司法処分を見送りました。すると、Tよりも過激なKという労働組合から

「A出身の労働者に賃金が払われていない」

との連絡がありました。監督署が事情を確認したとこと、Tに加入していた3人のA出身の労働者はA出身の労働者たちの代表でも何でもなく、Yが支払ったA出身の労働者への賃金がどこにいったかは不明となっていました。3人のA出身の労働者とは連絡がとれなくなっていました。

監督署はK労働組合に事情と経過を説明しました。そして、残りのA出身の労働者についてもT労働組合で交渉を継続してみたらどうか提案しました。すると、K労働組合は

「文化の違いですよね。よくあります」

といって、意外とすんなり理解してくれました。TもKも、けっこう監督署とは対立する労働組合なんですが、理をもって説明すれば分かってくれる方も多数います。

さて、こんな訳で大型賃金不払い事件は後味が悪い結末になってしまいましたが、外国人労働者は同国人どおしだからといって結束している訳ではないのだと、改めて思いました。

高校生のアルバイト

(大雄山最乗寺の紅葉、by T.M)

ウォーカープラス 2/3

ペン助がいつものように駅にいると、1組の親子がやって来る。そして、母親が「バラ駅から乗って来たんですけど、この子に切符を持たせたらなくしちゃったみたい」と説明する。

ペン助は規則通り「紛失したときは再収受しますので250円ですね」と伝えると、母親は驚いた顔をして「子どもなんですよ!?仕方ないでしょ!!大人の私が無くしたなら払いますがね!!」と文句を言うではないか!?

けれど、そもそも子どもに切符を渡したのは母親本人のはずだ。ペン助は「だったらあなたが責任を取るべきでしょ?」と言うと、母親はひたすらギャーギャー文句を言い続ける。そして、翌日本社にクレームの電話がかかってくるのであった…。

笑ってしまいました、この話。でも、よくあるあるです。労働基準監督署でも似たようなことが起きます。

高校性のアルバイトで、「子供がコンビニでアルバイトをしていたら、数回の遅刻と、1回の無断欠勤をしたら解雇された。不当解雇だ。」と言ってくる親がいました。「無断欠勤や、常態としての遅刻は十分に解雇理由になる」と説明しても、「高校生なんだから仕方がないだろ」と言うばかりです。

職場内で事業主による不法行為、あるいは同僚からの「イジメ」等があったのか確認したところ、どうも違うようです。勤務する時間帯を間違えていた、等のこともありませんでした。体調が悪かったのか確認したところ、「疲れていた(と本人は主張)、連絡をいれずに欠勤」したそうです。

(注)18歳未満の労働者について、まだ肉体的に大人になっていないことを理由に「危険・有害業務が成年者と比較して規制されている」ことはあっても、事業主・使用者間における権利・義務については、年齢に関係ない。例えば、「最低賃金」が「未成年を理由にして」減額されることはない。

そこでその親に、無断欠勤は労働契約における契約違反であり、高校生だからといって、契約における義務がなくなることもなく、事業主側が行う賃金不払いと同じものに当たると説明しました。また、「その契約違反によって、会社側が損害を受けた場合、例えば無断欠勤した労働者の代わりに、その労働者より賃金の高い労働者を使用しなければならなかった場合には、その差額を無断欠勤した労働者が支払わなければならないケースもある。」と話をしたところ、その親はますます激高し、挙句の果てに「厚生労働省に文句を言う」と捨てゼリフを言って帰って行きました。

まあ、こんな親だから平気でバイトで遅刻や無断欠勤する子供が育つのだなと思いました。