メンタルと過労死(4)


(我が家の梅はとても遅咲きで、今満開です)
(先日紹介したタヌキは、獣医と相談して、薬を投与することとしましたが、野生なんで、うまく飲んでくれるか心配です)

「長時間労働」を問題とし議論する時に、
「長時間労働が直接的に肉体に影響を及ぼし病気になるケース」と
「長時間労働により発生したストレスが原因で病気になるケース」
を混同してしまっていることが多いのです。

例の「ひと月45時間残業」という、労働基準監督署が36協定を受理する時に指導事項についても、前者の問題には有効ですが、後者の問題についてはあまり効力がないのです。
残業が、月45時間以内でも「職場の労働時間」が原因で労働者は自殺することがあります。また、月100時間を超える労働を何年も繰り返しても、心身にまったく異常がない人がいます。ある意味、「何時間くらいの労働まで人間が耐えられるか」といった基準を設定することは、不可能なのです。

世の中には何時間働いても大丈夫という方がいらっしゃいます。それは、仕事について、次の条件が満たされている方です。
     1 職場で良い人間関係がある
     2 充実している仕事をしている
     3 充分な報酬と必要最低限の余裕がある
この3つが揃うと、人は何時間仕事をしても、長時間労働でストレスを感じることはありません。しかし、実際は、「嫌な仲間や上司・部下がいて、嫌な仕事を、見合わないと感じる処遇で働いている」から、ストレスを感じ健康を損ねてしまうのです。

この3つの中でも、一番厄介と言えるのは、やはり「人間関係」でしょう。パワハラ・セクハラ問題はどこの職場でもおきます。それでも、「セクハラ」というのは、さすがに気まずいものなのか、意識して行動を自制される人が多いようですが、パワハラは野放しというのが現状なようです。

メンタルと過労死(3)


(写真は、私のウチに突然やって来て、猫のごはんを食べるタヌキです。まだ、子ダヌキで人間を恐れていませんが、可哀そうに、病気(疥癬病)で毛が全て抜けてしまったようで、不気味な様子です。ちなみに、自宅は、横浜市内ですが、タヌキ、アライグマ、ハクビシンを見かけることがあります。)

  平成 3年 電通の若手社員が自殺。平成12年に最高裁判決で労災認定。
  平成25年 電通での今回の過労自殺。
  平成26年 関西電力で、事故処理にあたっていた課長職の職員が過労自殺。
  平成27年 神奈川労働局で、大手電機メーカーの職員が長時間労働で鬱病を発症させたことを理由に同社を書類送検 等 

マスコミ等で話題になっている、これらの事件の共通項目は、みなメンタル不調となり、死亡あるいは長期休職となっっているということです。
約30年前の厚生労働省の「過労で人は死なない」という見解は、「ストレス」という要素を考慮する時に、明らかに間違っていたと言えます。  

 もっとも、ストレスで死に至るこというとは、お医者様も当時から認めてはいらっしゃったとは思います。問題は、「心因的ストレス」は長時間労働以外でも発生するので、死に至らしめたストレスが長時間労働に起因するものであるかが判然としないということが、長く過労死の労災認定を遅らせてきた問題です。

ストレスが原因で自殺した者について、そのストレスが「職場の問題」から来るものか、「家庭内問題を含めたプライベートの問題」に由来するものなのか、多くは両者の複合的な要素が自殺の原因となるケースが多いので、労災認定の時は難しい判断を要求されるのです。

因みに、過労死の平成27年度の労災認定件数ですが、
   脳・心臓疾患       96件
   ストレスを原因とした自殺 93件
      (厚生労働省発表)
で、心臓麻痺や脳梗塞の発生件数と、自殺の発生件数はほぼ同じとなっています。

                          
asenn

メンタルと過労死(2)

(菜の花、by T.M)

入省当時(33年前)の新人監督官研修で,こんなことを仰っていた、お医者様がいました。

「人は過労では死なない。だから過労死なんてナンセンスだ。千日回峰を見てみろ。人は過労で死ぬ前に意識を失って倒れるものだ。」

(注)千日回峰行については、下記リンク参照(出典:ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%83%E6%97%A5%E5%9B%9E%E5%B3%B0%E8%A1%8C_(%E6%AF%94%E5%8F%A1%E5%B1%B1)

確かに、純粋な過労により、「脳疾患」や「心臓疾患」を引き起こし死亡にまで至る例は、当時のお医者様の多くが主張されていたように、ほとんど有り得ないのかもしれません。
当時のお医者様達は、「ストレス」という要素をまったく考慮してませんでした。

「長時間労働」で直接的に肉体を損傷する可能性は低くても、「長時間労働を原因としたストレス」によって人は死に至ることが発生します。

例えば、あの東日本大震災の時の、津波の後の「避難所」の生活の事例です。そこの生活によるストレスで、ある人は鬱となり衰弱し死に、ある人は脳梗塞等を患いました。
平成24年8月の復興庁の調査では、震災関連死のなかで、「避難所等の生活によるストレスからの死亡者数」を184名と発表しました。津波の死者は、3月11日に死亡した者だけが記録されているようですが、実はもっと多いのです。

現代の日本で普通に暮らして人々が、飲料水と食料だけはかろうじて確保できたとしても、水洗トイレが使えないため人々の排泄物が身近に存在し、おまけに掃除をする綺麗な水はなく、風呂には数日おきにしか入れず、プライバシーがまったくない長期の生活を強いられるとしたら、そのストレスはどれだけ過大でしょうか。

メンタルと過労死(1)

(チャップリン作、「モダンタイムス」より)

1936年に制作された、チャップリンの「モダンタイムス」の話です。

チャップリン扮する工場労働者は、ベルトコンバヤーの流れ作業に従事していますが、長時間労働を続けたあげく、機械に巻き込まれるというトラブルに会い、精神を病んでしまいます。彼(チャップリン)は精神病院に入院しますが、退院した時には会社から既に解雇されていて、紆余曲折の末ホームレスとなってしまうのです。その後、彼はポーレット・ゴダール扮する少女と出会うことにより、精神が救済され、少女と一緒に現実に立向かうため旅立つところで映画は終わります。

ポーレット・ゴダールのような女性に出会えるなら、このような人生もまたいいかと思えますが、現実の社会ではなかなかこうはいかず、メンタル不調に陥った時点で、生活に色々な支障をきたすことが実際ではないでしょうか。

現代の日本で、過労が原因で労災事故にあった労働者が、そのトラウマからメンタル不調となり休業したならば、確実に労災認定されますし、病院に長期入院したとしても、解雇されることはなく、職場復帰を会社は待つということになります。そのような社会的なフォローは、チャップリンの時代より現代の方が整備されています。

しかし、今でも通用するシチュエーションを描く映画を、80年前に作ったチャップリンは、やはり天才だったのでしょう。
(それとも、労働問題の本質は80年前とあまり変わっていないということでしょうか)

さて、今回からは「過労死等を考えるというテーマ」でブログを書きます。

私が新監であった頃の30年前は、まだ、過労死の認定基準もなく、厚生労働省の正式見解としては、「人は過労が原因では死なない」というものでした。
enn