万葉集と申告(1)

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(頂きものの画像です)

今回からは、安全衛生の話は少しおやすみ。労働基準法関係の賃金不払いの申告の話。

約20年前に私は藤沢労働基準監督署に勤務していた。藤沢署は藤沢市以外に隣接する鎌倉市と茅ヶ崎市と寒川町を管内にもつ、いわゆる「湘南労働基準監督署」である。
現在の藤沢労働基準監督署はJR藤沢駅から徒歩5分の所に所在するが、当時の署は駅から徒歩約20分の一遍上人が建立した時宗総本山の遊行寺の近くの、境川のほとりにあった。
遊行寺は国宝、重要文化財を所有する歴史遺産であるが、「捨聖」と尊称される一遍上人縁の寺らしく、華美絢爛なところがなく、ただ季節の花が美しい古い寺といった風情だった。私は、入場料も取らないこの寺に、昼休みなどよく遊びに行った。
遊行寺近くのカフェで、時々作家の永井路子氏を見かけた。永井氏は、「草燃ゆ」「毛利元就」といったNHK大河ドラマの原作者であり、中世から近代を舞台にした小説の名手である。鎌倉市在住であるが、足を延ばし遊行寺近くまで散策に来ていたのである。
そんなことで、永井氏に親近感を覚えた私は、当時永井氏の作品をたくさん読破した。どれも、歴史の英雄の裏の姿を永井氏独特の分析で生き生きと描いたものだった。

さて、前置きが長くなったが、その藤沢署勤務時代に永井氏の本を読んでいたため、仕事がうまく行った時の話である。

その賃金不払い事件は、ありふれた退職時のトラブルが原因のものだった。急に辞めた(と事業主が主張する)労働者に対し、事業主が最終回の支払いを拒否したのだ。事業主は労働者が即日退職したことで、会社に損害を与えたと主張している。
ただ、普通の事件と多少違うところは、鎌倉の名の通った料亭が舞台という点である。