私は建設現場の監督で恥をかきましたー外伝(3)

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(続き)
X社の4人の男の態度は不遜だ。Y監督官を見下して話している。「わが社は決して、安全管理を指摘されるような会社ではない。」しゃべっているのは社内の地位が高そうな太った男。まるでパワハラ上司が部下を説教するように話す。

また、担当のY監督官も、あまり良くない。彼は頭はいいのだが、気が弱く、人を説得できない。現場でいかに仕事をおさめるかよりも、上司の評価を気にするタイプ。署の監督官でいるより、早く出世して、局や本省で現場に関係ない仕事をすることが似合うタイプだ。

X社の男の声がひときわ高くなった時に、Y監督官の後ろで聞いていた次長のS次長が動いた。Y監督官の隣に座り、X社の4人と対峙した。

私の隣のA女史が、私に向かい小声で話した。
「もめるわよ。」
私は尋ねた。
「どうして」
A女史は答えた。
「あの人たちね、この署にくる前に挨拶だとか言って、局に先に言ったのよ。そして、ここに来る前に署長のところに行ったの。署長も管内の有力企業の偉いさんが来たから相手をした。それから、ここへ来てY監督官に回りに聞こえるように、文句を言っている。
Y監督官も確かに悪い。何が悪いのか説明不足の点がある。
でもね、あのX社の一番偉そうな男は、自分が偉いんだっていうことを、下請けの人たちに見せつけるために、彼らを今後ろに立たせているんでしょ。」
A女史の声は、期待に満ちてとても弾んでいた。
S次長の欠点はケンカ早いことである。

S次長は、4人に次々と名刺を差し出した。そして、いきなり尋ねた。
「それで、今回の災害はなぜ発生したんですか?」
男達はS次長の突然の言いように面食らったようだった。
S次長は続けた。
「そして、再発防止措置を説明してくれますか。」
4人の男のうちの一人が何か言った。
「今は、そんなことを話しているんではない。」

(続く)