私は建設現場の監督で恥をかきました(3)

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(続き)
ビルの中に設置された工事事務所にいくと、いかにも頭の切れそうな40歳代の男と、私と同年齢くらいの若い男がいた。私は、大声で挨拶をした。
「おはようございます。労働基準監督署ですが現場パトロールにまいりました。」
するとそれまで図面をにらみ、難しそうな顔つきをしていた40歳代の男が急に笑顔になって立ち上がり、
「ごくろうさまです。」
と述べ、私を向かい入れた。やはり彼が現場代理人だった。現場代理人と名刺交換をし、監督官証票の確認をしてもらっている間に、若い男がヘルメットと安全帯を持って黙っていなくなった。彼が一足早く現場に行ってしまう、急がなければと思ったけど、現場の状況把握が先だと思い返した。私は現場代理人に矢継ぎ早に質問した。

「工期は」「請負金は」「工事完成図を拝見させて下さい」「今日の作業はなんですか。出面(でずら)は何人ですか」「進捗率はどのくらいですか。計画どおりですか」
計画届及び日報を広げようとする代理人に対し、最低限の現場の状況を把握した私は、それはパトロールの後でと述べ現場に向かった。

10階建てマンションの建設現場で、鉄骨はすべて組みあがり、8階までの外壁が終わっていた。足場、型枠、鉄筋、コンクリート等が当日の出面だった。現場代理人は、まず私をロングスパンエレベータに案内した。そこで開閉スイッチ等を点検して終わると、現場代理人と一緒に屋上まで登った。そして屋上の鉄筋及び型枠の状況を確認し、建物内部の階段を利用し下まで降りてきた。

足場の上に資材が置かれ歩きにくかったが、法違反は見つけられなかった。「安全帯のごまかしを見破る」どころか、すべての足場にしっかり手すりがついていて、安全帯を使用しなければいけない場所がそもそもないように思えた。作業主任者等の資格類も整備されていた、機械の保全も万全だった。私は、何の指摘もできなかった。
ようやく、足場の1ヶ所に目がいった。階段の昇降口に手すりがないのだ。私がそのことを口に出すと、現場代理人は答えた。
「あそこに、手すりをですか」
現場代理人の目が光る。
「そうです、墜落の危険性があるからです。」
「そもそも、鋼管足場は規格品です。あそこに手すりをつけるとなると特注しなければなりません。いえ、監督署さんが法律だからつけろというなら、わが社は従います。文書を下さい。社の安全課で検討させます。」
自信がなくなった私は、這う這うの体で退去した。
(続く)