(M氏寄贈、「雨上がりの南アルプス」)
監査の最後は講評会である。
監査結果は当然、後日の行政側が交付する文書により明らかとするが、取敢えず当日中に会社側に監査結果を伝え、安全関係で緊急を要する措置が必要な場合等をその場で指示するのである。講評には、原発所長を頂点とした100人を超える会社関係者が出席する。それに対し、監査を行った行政側もまた全員が講評に出席し、気づいたことを指摘するのである。
講評会は、まず行政側の監査結果の発表から始まる。例年であれば、それは労働基準監督署長の仕事である。しかし、この時は署長が参加していないので、監督課長が発言した。
昨年までは、署長は話すことを事前に用意し、それを文書にし、10分間ほど読み上げた。つまり演説をしたのである。
しかし、この時の監督課長の発言は違った。監督課長は冒頭にこう述べた。
「さすがに、安全を重視する原子力発電所です。御社の安全管理体制については、他社の見本となる素晴らしいものでした。従って、重箱の隅をつくような細かい指摘となりますがご容赦下さい。」
そして監査を行った各監督官の指摘事項をメモしたものを、淡々と読み上げるたが、その指摘事項には、どこそこのボンベの転倒措置がなされていなかった、塗装の際の作業主任者名の掲示がされていなかった等の細かい指摘であり、それが30項目程度続いた。そして、監督課長は最後にこう述べた。
「細かい指摘が多いと思われるかもしれませんが、災害は細部から起きるケースが多いのです。これらの事項は我々が全力を挙げ調査した結果、指摘することです。」
監督課長の発言の後で、原発所長の返礼が行われた。所長は次のように述べた。
「本日はたいへんお忙しい中、わが所の安全衛生のため、御視察を頂き本当にどうもありがとうございました。」
ここまでは、昨年と一緒だった。例年なら、この後に次のように続く。
「ただ今、労働局及び監督署の方から、御指摘頂いたことを肝に銘じ、より一層の労働安全衛生の改善に努めてまいります。」
しかし、この時の所長の言葉は違った。