(小田原紹太寺のしだれ桜、by T.M)
「教師の労働」について、書こうと思ったら、別のニュースが飛び込んで来たんで、そちらを書きます。
野村不動産の裁量労働時間制の話です。昨年末に、同社がこの制度を悪用し、本来同制度を適用できない労働者を残業代なしで使用していた問題について、特別指導をしたという発表が東京労働局からなされました。
それについて、今年の3月に、違法な時間制度を適用された労働者が自殺し、過労死認定されたという新聞記事がでました。しかし、厚労省は過労死があったかどうかを、個人情報保護を理由に述べていないそうです。
この話の流れについて、次のような憶測がネット上に飛び回っています。
・・・ 厚生労働省は昨年末に、裁量労働制の違法に適用していた企業を発表したのは、「働き方改革法案」を国会通過させるためだ。きちんと違法な裁量労働制は取り締まっているということをアピールしたかったのだ。ところが、それで過労死が出たという事実は隠している。裁量労働制適用の労働者が過労死したという事実は政府にとって都合が悪いからだ。 ・・・
この「憶測」について、私は情報が少なくて、適切であるかどうかは判断できません。
しかし、「憶測の一部」に誤解があるなと思うところがあります。「過労死の事実を厚労省が隠している」という箇所です。そもそも、労働基準監督署は、昔から「労災認定の有無」を一切公表していないのです。これは、今度に限ってではなく、昔からです。
・・・ ある労働者が「長時間労働によるメンタル不調」を理由に労災申請をしたとします。監督署は会社を調査し、労災申請が認定か不認定かを決定しますが、「個人情報」を理由として、その処分結果を会社には伝えないのです ・・・
調査を受けた会社の中には、「調査に全面的に協力したのに、大事なことを教えないのか」怒るところも少なくはありません。
実は、この件については、監督署の中でも、労災担当職員と私のような監督官は対立するのです。私はいつも次のような主張を労災課職員に訴えました。
「労災の認定・不認定を会社に伝えないのはおかしい。労災認定をしたということは、その会社で労働災害が発生したということだ。労働災害が発生したことを、会社が確認できなければ、会社は再発防止対策ができないでないか。会社による『労災かくし』を厳しく糾弾する監督署が、労災発生を会社に通知しないことは、そもそも矛盾だ。」
今回の野村不動産の「過労死に関する新聞記事」について、厚労省はなぜ発表できないのか、もっと丁寧に説明すべきでしょう。
「個人情報」を盾に、「労働災害があったかどうかを発表できない」という論理を、(勉強不足のためと思いますが)元労働基準監督官である私でさえ理解できないのですから、外部の方はもっと理解できないと思います。