(八ッ場ダム建設工事、by T.M)
私の監督官時代の経験から、外国人労働者を使用する場合のトラブル防止のために、どのような点に注意しなければならないのかを書きます。
まず強調しておきたいのは、外国人労働者と日本人の労働者について、人間性はまったく変わらないということです。日本人がそうであるように、いい人もいれば悪い人もいます。嘘つきもいれば、正直な人もいます。働き者の努力家もいれば、いい加減な者もいます。
ただ、日本人労働者と違うことは、とても不安な思いが大きく、警戒心が強いということです。それは、文化・風習が違い、育った環境に大きな隔たりのある異国で働く訳ですから、あたり前のことです。ましてや、日常的に周囲に同国人がいなければ不安は倍増します。
私が監督官時代に、外国人労働者からある飲食店の賃金未払申告事件の解決を依頼されました。その人は支援を自称する方と一緒に監督署に来ました。
外国人労働者の支援団体が監督署に来るケースはよくあります。多くは、支援団体は労働組合関係の方です。こういった、労働組合の方は、監督署にとって「手強い」相手です。また、労働者の前では、弱気な姿勢を見せられないので、高圧的な態度でくる方もいます。ただ、けっこう紛争慣れしていますし、役所が「できること」と「できないこと」は理解しているので、監督署側としては、話が早くて助かるケースもあります。
この飲食店の申告の支援者はまったくの素人でした。外国人労働者に思い入れが強く、そもそもトラブル自体の内容を理解していない人でした。申告自体の内容は、単純なものでした。労働者が本国へ往復する費用を、事業場が出すのか、労働者が負担するのか、最初に決めておかなかったので発生した金銭トラブルでした。最終的には、事業主が「争いは嫌だから、労働者が請求する金額を全て支払います」と述べ、費用が支払われ解決した事案でした。
ところが、この支援者は、警察や会社の取引先へ連絡をし、「強制労働された。監禁された」と言い回ったのです。監督署の方面主任をしていた私のところにも、その関係の警察の方が来て、「外国人労働者が監禁されていた事実があるのか」と質問されました(偉そうに、警察手帳を見せながら)。
私は、こう答えました。「労働者が、事業主の用意したマンションに居住していたことは事実ですが、そのマンションのキイは労働者が常時携帯していたんですよ。これを監禁と言うのですか。パスポートも自分で所持していたのですよ。」警察はそれを聞いて黙って帰っていきました。(それくらい、自分たちで調べろよと、私は思いました)
そんな訳で、事件が起きた原因がどこにあったかは別の話として、事業主は想定外のトラブルに巻き込まれてしまった訳です。その「支援者」という方(日本人の旦那さんを持つ、外国人労働者の同国人の女性)が最初から「善意」で行動していたということが、話を大きくしてしまったのですが、冒頭に私が述べました「異国で働く不安感」が根底にあるのなら、仕方がないことだと思います。
外国人労働者を雇用する事業主の皆さん、あなた方も外国人を雇用することは不安なのかもしれませんが、雇用される労働者の方はもっと不安なのです。そのことを理解して頂ければ、無用な誤解は避けれるような気がします。