産業医の仕事

(沼津港展望水門びゅうお、by T.M)

まずは、神奈川中央交通バスのホームページからの抜粋をご紹介します。

2018年10月28日(日)21時17分頃、横浜市西区桜木町4丁目の国道16号で弊社バスによる人身事故が発生いたしました件につきまして、当該乗務員が10月30日(火)、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」違反の疑いで神奈川県警察に逮捕されました。この事故によりお亡くなりになられた方のご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆様に心よりお詫び申し上げます。・・・(略)・・・当該バス乗務員は、弊社にて3年に1回全乗務員に対して実施を進めている睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査において、2017年6月8日に実施した精密検査にてSASであると診断され、以降治療を開始し、現在も通院治療を行っていることが確認されました。また、直近3回の定期健康診断(年2回実施)の結果から高血圧症についても継続して通院治療中である旨、確認されました。上記の点については、医師の所見により就業可能であることを確認しつつ、就業させてまいりました。

亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。

労働基準監督官時代に企業の方から、次のような種類の相談をよく受けました。

「メンタルで休んでいた職員が今度復帰してくるんだが、フォークリフトの運転のような現場仕事をさせてもいいだろうか。」

この質問への答えはたいへん難しいものでした。まず、質問している会社の意図を推察しなければなりません。

例えば、このケースについて言えば、「職員は1日でも早く復帰したがっているが、事故を起こされても困るので、会社が復帰を渋っている」こともありますし、逆に「会社は早く出社してもらいたいのに、職員が出社を嫌がっている」というケースもあります。

私は、このような質問については、次のように回答していました。「この問題への回答は、医学的な見地から為されなければならない。産業医に意見を聴き、それに従って欲しい」

つまり、このような繊細な問題について、労基は産業医に判断を委ねてしまうのです。

さて、今回の事故についてですが、会社とバス運転者は以前からバス運転手の病気を認識し、その就業について産業医から意見を聴取し、バスの運転を続けさせていた模様です。労働安全衛生法上の手続きについては、完了しています。

以前に「癲癇」の病歴を隠し、重機を運転した運転手が、重機運転時に事故を起こした事件がありましたが、それとは根本的に事故の体様が違います。

何かネット上では、この事件について会社やバス運転手に重大な過失があったように書かれている記事もあるようですが、上記の会社のHPに記載されていることが、事実のすべてであるとするなら、私はそうは思いません。亡くなられた被災者の遺族の方々に、会社とバス運転手の謝罪の意が、受け入れられることを願う気持ちもあります。

もっとも、今度の事件について、私が現役の監督官なら、やはり労働時間について調査をし、違反があれば送検するケースです。路線バスは観光バスと違い極端な過重労働は通常ありません。しかし、道路渋滞の影響で「休憩時間」が十分に与えられないことが発生することも事実です。SASの診断を得た運転手について、その辺の配慮を会社がしていたかどうかが、今後の捜査のポイントになるような気もします。