(甲斐駒ヶ岳と仙丈岳、by T.M)
自分がもらえる老齢厚生年金の特別支給の計算をするための、日本年金機構のホームページを見ていると、あることに気づきました。女性の方が男性より3年も早く年金がもらえるのです。つまり、昭和33年3月生まれの私は、来年の4月以降でなければ老齢厚生年金の特別支給はもらえませんが、同じ年代の女性労働基準監督官は、なんと役所を定年退職した年(2年前)に年金を手にする権利を得ていたのです。私は一瞬逆上しました。
「なんで、あいつらが・・・失礼、もとい。あのお方たちは、どのような訳があって、私より早く年金を頂けるのでしょうか。」
調べてみると、元々年金制度というのは、男女格差があって、女性有利であったものが、それが問題視されて現在は改善に至る過程であるそうです。「老齢厚生年金の特別支給」も数年後にはなくなる制度ですし、男女格差の背後には、絶対的に年金額が低いという雇用条件に関する「女性差別」の歴史があったことも事実です。(でも、公務員の給与に男女差は無いのに・・・・)
という訳で、この件は釈然としませんが、理性で納得することにして、今回は「女性差別と忖度」ということがテーマです。
先日、「化学物質の取扱い」について安全衛生教育の講師をしました。そこで、有害物質使用時における「母性保護」の重要性を説明し、生殖機能などに有害な化学物質が発散する場所での、女性労働者の就業禁止措置の話をしました。
具体的には、作業環境測定結果が「第3管理区分」となった屋内作業で、タンク、船倉内などで規制対象の化学物質を取り扱う業務で、呼吸用保護具の使用が義務付けられている業務等
における就業禁止です。その講義の後である人からこんなことを言われました。
「母性保護を重視するのはまずい。女性を生む機械と考えていると思われる」
人間関係の和を尊ぶ私としては、その指摘に対し深く頷き、「今後、気を付けます」と答えました。
今をさること30年以上前のことです。改正男女雇用均等法が施行させる直前でしたが、労働省の婦人少年室(当時あった省庁と部署です)の方は、労働研修所の会議室で研修を受けていた私たち新人労働基準監督官の前で高らかにこう宣言しました。
「労働基準法では今後女性保護はしません。今までの労度基準法は、(深夜労働規制等で)女性を保護しているように見せていましたが、実はそのことこそが、女性の活躍の場を奪ってきたのです。女性保護の時代は終わり、これからは男女雇用機会均等、そして母性保護の時代です。」
若い新人監督官たちは、この言葉に新しい時代の息吹を感じ、感激したものです。
それから30有余年、「母性保護」という言葉は、「生む機械」という忌み言葉を連想させるものとなってしまったのでしょうか。私は、この事をフェミニスト(実際に彼女はその方面の活動しているようです)を自称する友人に尋ねてみました。すると次のような答えが返ってきました。
「何バカなことを聞くの。命に係わる化学物質の就業禁止措置と、制度・風習として女性の生き方を規定する差別を混同するはずはないでしょう。」
そうなんです。本当に差別を考えている人は、「言葉狩り」などするはずはないのです。
では何で「母性保護」といういう言葉が使いづらくなったのか、それは単にその言葉を使う方が過剰な「忖度」をしているだけなのです。ようするに、「差別」なんていう問題に関わるのはめんどくさいから、何でもかんでも、それらしき言葉はなるべく使わないようにしているのです。
本質を考えずに、思考停止をしてしまい、形式のみにとらわれるのなら、何かの時にかえって不用意な言葉が飛び出すのではないでしょうか。(実は私は、そのことで公にできない失敗をしたことがあります)
年金の恨みつらみから、何となく男女差別を考えてしまいました。