(ローテンブルクの街並み、by T.M)
先日、NHKのプロジェクトXを観ました。大成建設の職員が、トルコのボスポラス海峡に地下鉄を通すためのトンネルを施工する物語です。ボスポラス海峡は地層が軟弱で掘削はできず、海の中に、陸上で製造した人口トンネルを沈め、それを結合する「沈埋工法」という技術で臨みますが、海峡の流れが速く、うまくいきません。そんな悪条件の中で、仕事を完成させ、イスタンブールの市民に感謝され、日本―トルコ有効に寄与するという実話です。
私は、この番組を観て、「ブラック企業」と「働きがいのある企業」とは紙一重だなと思いました。まずは、番組を観て、大成建設って、もしかしたら「ブラック企業」と思えたところを2点ほど指摘します。
1 困難に遭遇した現場代理人たちの労働時間が、非常に長いように思えました。というか、異国で働く現場代理人たちは、身も心も仕事に捧げているように思えました。
2 危険な仕事が発生し、率先して現場代理人が作業する
もちろん、これらの場面を「ブラック」と見ないで、逆に「尊敬できる行い」を現場代理人が行ったと考える方が大部分だと思います。本音の部分で私もそう思います。でも、元労働基準監督官としては、次のような事件も思い出すのです。
日経新聞
新国立競技場の地盤改良工事で施工管理をしていた23歳の新入社員の男性が2017年3月に過労自殺した問題で、男性が所属していた建設会社は17年7月21日、日経コンストラクションの取材に対して管理体制に不備があったことを認めた。男性が自殺する直前1カ月の時間外労働は200時間を超えていたが、会社は把握していなかった。
今から60年前の高度成長期に開催された、あの「伝説の東京オリンピック」の時に、新国立競技場を作っていた企業の責任者たちは、みな使命感に溢れ、残業なんていくらでもかまわないと思っていたと思います。しかし、それから50有余年を経た時のオリンピック工事では、新入社員が激務に耐えきれずに自殺してしまうのです。(自殺した時期が「コロナ禍」前であることにも注目です)
いったい、この半世紀で職場で何が起きているのでしょうか。それとも、半世紀以上前のオリンピックで高揚感があったと思うのは、私の間違いでしょうか。
さて、前述の大成建設の現場代理人の話ですが、これから先多くの若者たちが、プロジェクトXで紹介された仕事に憧れ、同じような職種につこうとするでしょう。そして多くの者が、現実は違うと考えてしまうと思います。ただ、そんな若者たちに、分かって欲しいことがあります。単純なことです、
「良い人間関係の中で好きな仕事を行えば、何時間仕事しようが精神的な部分は大丈夫」
「嫌いな仕事を嫌な人間関係で行えば、そこはブラック企業となる」
ということです。そして、仕事の「好き」「嫌い」は本人の資質ですが、「人間関係」は「出会い」の問題であり、運次第ということです。残念なことですが、どんなに素晴らしい仕事をしていても、人間関係が悪ければ、そこはブラック企業になってしまう可能性があるのです。