ストレス・チェック

(出雲市駅・JR山陰本線、by T.M)

7月31日にようやく、全国衛生週間の標語が厚生労働省から発表されました。なんか年々発表が遅くなるようで、「厚生労働省」はよほど忙しいようです(ちょっと、皮肉です)。

令和7年

「ワーク・ライフ・バランスに意識を向けて ストレスチェックで健康職場」

この標語なんですが、けっこう攻めています。

令和6年「推してます みんな笑顔の 健康職場」

令和5年「目指そうよ二刀流 こころとからだの健康職場」

令和4年「あなたの健康があってこそ 笑顔があふれる健康職場」

昨年までの標語は当たり障りのないものだったのに、今回は「ワーク・ライフ・バランス」「ストレスチェック」なんて言葉をいれて、明確な行政の目標・目的を表現しています。

しかし、今の時代に「ワーク・ライフ・バランス」なんて全面に押し出したら反発を受けるんじゃないでしょうか。みんな、低収入でかつかつに生きているのに、介護費用や子の教育費用を捻出することに必死なのに、なにを優雅に「「ワーク・ライフ・バランス」なんだと思われるんじゃないでしょうか。総務省が奨めている「副業」の問題にしても「過労死」を引き起こすだけのような気がします。

さて、標語の後半についてなんですが、今まで50人以上の事業場しか事実上実施義務がなかったストレスチェックが、今後全事業場が実施義務化となる法改正が行われることが決定しましたので、今回の標語でストレスチェックの文言を入れることは、時期を得て適切であると思います。

ストレスチェックとは1年に1回の心の健康診断のことなんですが、これを読んでいる方は、「本当に役に立つんだろうか」と疑っている人もいると思います。実際、あんな設問に答えるだけで「ストレスの重篤度」が分かるものかと、私も思っていたのですが、去年その疑念を払しょくする出来事が起こりました。実は、私は昨年夏の健康診断結果が思わしくなく、6ケ月後に再検査することになっていたのですが、臆病な私は悶々とした日々を送っていました。その時にストレスチェックを受けたのですが、なんと次のようなメールが産業医から送られてきました。

あなたのストレスプロフィールについて

こんにちは。産業医の××です。

今回のストレスチェックの結果、あなたのストレスの程度は、以下のとおりとなりました。(詳細は別送のストレスプロフィールをご参照ください)

A 心身のストレス反応の 12 点 B仕事のストレス要因と周囲のサポート 40 点

※高ストレス者とは…Aが12点以下、またはBが26点以下かつAが17点以下

※調査票の項目中、満足度に関する回答は評価に含みません。

今回、あなたのストレス度が高いとの結果でしたので、面接指導について、ご案内いたします。このストレスチェック制度の狙いは、職員のみなさんに自身のストレスに関する気づきの機会をもっていただくことですが、高ストレス状態にある労働者に対して医師の面接指導を受けていただき、必要な範囲で就業上の措置を講ずることによりメンタルヘルス不調を未然に防止することも目的として掲げられています。

面接指導を受けるかどうかはあくまでも任意であり、受けないことによる不利益な取扱いを行ってはならないとされております。ただ、この機会に医師の面接を受けることにより、自身で気づいていない心身の不調について把握するきっかけになると思われますので、今回のストレスチェックで高ストレスという結果だった受検者の方につきましては、この機会に是非、医師による面接指導をお勧め致します。下記期間内に面接指導申出書(ライブラリ参照)に入力しメール添付の上、窓口にお申し出ください。

●面接指導申出期間

本通知到着後1ヶ月以内

●         面接指導申出窓口

(本部・関東センター)

担当:本部産業医 ××

連絡先:メールアドレス:・・・・・・・・・・

(上記以外の部所)

担当:実施事務従事者(総務部人事課 ○○)

連絡先:メールアドレス:・・・・・・・・・・・・・・

なお、上記の医師面接に、ご本人が希望されて申し込まれた場合は、あなたのストレスチェック結果と「面接指導対象者である」との情報を、産業医から△△に提供させていただきますので、ご了承ください。

※◎◎へのストレスチェック結果の通知に同意はできないが、面談を希望される場合は、上記の申し込み先に一般の健康相談として申し込んでください。

ストレスチェック実施者 産業医 ××

ようするに「心身のストレス反応」が重篤であることがストレスチェックで判明したのです。この結果について、心当たりがある私は、改めて「ストレスチェックって、有効だ」と思った訳です。

さて、ストレスチェックの効果について疑念を思っている方は、ぜひその評価を改めることをお勧めします。

そんなことを思うと、今年の衛生週間の標語はけっこういいものなのかな、なんて思いました。

来週は所用があり、ブログは休載します。

大谷!

(伯耆富士とも呼ばれる大山を望むJR伯備線の車窓、by T.M)

8/13 スポーツ報知

ハワイ州巡回裁判所に提出された訴状では、2人が当地のハプナコーストに14戸の住宅を建設し、1戸あたり平均1730万ドル(約25億円)で販売する計画を11年前に立てたとされる。23年に同プロジェクトの広告塔として大谷と契約を締結。1戸の購入やオフシーズンの滞在など約束し、日本への波及効果を見込んでいたが、その後バレロ氏が開発側に繰り返し譲歩を要求。「話が通らなければ大谷を撤退させる」と脅したといい、今年7月には同氏の要求によって2人が解雇されたとしている。

原告側は「これは権力の乱用だ。被告は脅迫と根拠のない法的主張で原告を追い出した。(大谷も)行動の責任を負うべきであり、代理人に守られるべきではない」と数百万ドル程度の損失を主張。請求する賠償額は裁判で決めるとしている。バレロ氏の代理人事務所「CAA」社はこの件に関するコメントを拒否した。

よく訳の分からない訴訟ですね。結局、この記事は何を言いたいんだろう。

1 原告は、「解雇」されたことが不当だと主張している

2 原告は、「解雇の原因」を作ったのが「大谷」であると主張している

3 だから、原告は大谷を訴えた

この記事の分からないことは、「原告を解雇した会社は誰だ」ということです。別に、「大谷」が解雇した訳ではありません。その会社のことが、この記事にはまったくでてこないのです(原告を解雇した相手を「A社」と呼びます)。

日本の元労働基準監督官からしたら、解雇問題ですから、「原告は労働契約の締結者であり、その契約を解除したA社」相手に裁判をすべきと考えます。要するに、今回の問題は、日本の企業に置き換えたら次のようなケースに該当すると思います。

  1 労働者XはT会社に勤務していた。

  2 T会社の顧客Yは、労働者Xの態度が悪いとT会社にクレームを入れた

  3 T会社は顧客Yのクレームに屈し、労働者Xを解雇した

この場合、「解雇権の濫用」で争うのは、あくまで労働者XとT会社であり、「顧客Yのクレーム」の正当性についてはT会社と顧客Yが争えば良いだけです。

なんか、この原告は「金を持っていそうな大谷」を訴えたような気がします。またA社と原告の関係も気になります。意外とA社と原告は「仲が良かった」ことも考えられます。

話は変わりますが、労災事故でもよくこんなことが起こります。会社の安全管理が悪くて死亡災害が発生したのに、なぜか遺族は会社を恨むのでなく、被災者の直接の上司を恨むのです。被災者の心情としては、抽象的な「会社」という概念より、目の前の「個人」を恨みたくなるものなのですよね。また、会社側をあえて「上司」を恨ませるように誘導することもあります。労災事故は殺人事件とは違いますので、「誰が起こした」というより、「管理体制の不備」「事業トップの無理解」が原因であることがほとんどなのです。

だから、労災事故が発生した時は事業主が第一番目に責任を取るべきなのです。

最低賃金の季節

(イタリア山公園の庭園・横浜市中区、by T.M)

7/5 朝日新聞

「担々麺一つ、ギョーザ一つですね」

 6月下旬、千葉県我孫子市のラーメン店「豆でっぽう」では、アルバイトの竹原久美子さんが店の前に並ぶ客から注文を取って回っていた。

 茨城県取手市の自宅から週4回、約30分かけて電車で通う。

 5年ほど前までは自宅近くのコンビニで働いていたが、当時100円以上高かった時給が魅力で移った。アルバイト9人中3人が茨城から通う。「茨城組」が集まるLINEグループもある。

 「通勤に多少時間がかかっても、時給100円の差は大きい」。竹原さんの時給は1150円。月に7万円以上稼ぐ。茨城より時給が高いのは、ベースとなる最低賃金の差と連動しているためだ。

毎年秋に改定となる最低賃金が話題となる季節になりました。(そのうち、「最低賃金」が俳句の季語になるんじゃないかな)。毎年恒例の最低賃金に関する、私の提案の話です。毎回同じこと書いているけど、

   派遣業労働者への全国一律の産業別最低賃金

を設定しましょうよ。もちろん、この金額は東京都の地域最低賃金を上回る額でなければなりません。産業別(特定)最低賃金とは、昔はけっこうあった制度で業種別に最低賃金を決めていくことです。聞きなれない言葉でしょうが、現在でもあります。例えば、茨城県の鉄鋼業で働く人は、茨城県の地域最低賃金の1005円でなく、鉄鋼業最低賃金1098円が適用されます。ある意味雇用が不安定な派遣社員の賃金は高く設定されるべきです。もちろん、短期雇用のスポットバイト等の賃金についても上げるべきですが、まずは突破口として派遣業労働者の賃金に手をつけるべきでしょう。

派遣業の最低賃金の話をしたついでに、何年か前にも書いたけど、派遣業の問題点についてまた書きます。

   派遣業では、構造的に違法残業が発生しています

「構造的な違法残業」の説明をする前に、「正常な残業」とは何かを説明します。1日8時間の法定労働時間(例外有)以上の残業をするためには、労働基準法第36条に規定された労使協定(36協定)を締結し、「残業をすること」について、労働者代表の承諾を得なければなりません。労働者代表の承諾がない残業は、すべて違法残業となります。

一般的な民間企業では、この労働者代表を選出するための、なんらかの民主的な方法がとられています(そのはずですが・・・)。そして、労働者代表は使用者に意見を言える立場です。

さて、派遣業についてなんですが、派遣業の36協定は派遣元で締結されます。例えば、X社という派遣会社が、A工場に10人派遣、B工場に10人派遣、C工場に10人派遣、本社で10人労働者いたとします。X社では、全ての派遣先労働者と本社労働者の合計40人の労働者から労働者代表を選任しなければなりませんが、A工場に派遣されている労働者はB工場やC工場、本社でどのような人がいるのかを知りません。また、自分が労働者代表に立候補したくても、他の職場に伝える方法はありません。だから、選ばれるのは必ず本社の事務担当者ということになります。このようにして選ばれた「労働者代表」が36協定の締結者となっているのです。適切な労働者代表が選出されないという理由で、構造的に派遣業では違法残業が発生しているのが現状です。

さて、最低賃金の話をはじめたら、なんか派遣業の話になりました。派遣業と最低賃金についての詳細な話は、また後でします。

損害賠償

(オナガ・智光山公園こども動物園、by T.M)

7/28 東海テレビ

愛知県江南市の教育委員会によりますと、市立古知野中学校で7月18日夕方、プールの水を足そうとした教師が水道の栓を閉め忘れて帰宅し、3連休明けの22日朝まで水が出たままになっていました。

 プールおよそ2杯分1031立方メートルの水が流出し、余計な水道代およそ52万円には公費を充てる方針です。

 文科省は2024年、プールの管理をめぐり教師の業務の負担を減らすとともに特定の教師に賠償責任を負わせないよう求める通知をしていました。

 学校では閉め忘れを防ぐため栓を開ける前に「水を止める」と書いたメモをデスクに残す決まりでしたが、今回の教師はメモを書いていなかったということです。

この記事は「余計な水道代およそ52万円には公費を充てる方針です」という文言を強調し、公務員のミスのために税金を無駄にしたと印象づけたいだろうけど、仕方がない処置でしょう。職員のミスで事業場に損害がでた時に、一方的にその職員に弁済を負わせようとするなら、元労働基準監督官としてはひと言いいたくなります。相手が民間企業であっても、役所であってもあたり前のことです。

以前発生した同じような事件では、学校の職員が弁済したことが新聞記事に載っていました。バカげたことです。その先生は支払いを拒否をすればよかったのにと思います。裁判やったら、多分職員の方が勝つと思います。

それにしても、お粗末な事故ですよね。再発防止対策は簡単だと思います。一番確実なのはハード的措置を行うこと。「プールへの流量が一定以上なら水道をストップさせる」「プールからの排出量が一定以上なら、水の流入を辞める」等です。また、遠隔で監視というのもまたいいかもしれません。

また、古い設備なのでアナログでいきたいというなら、それこそ労働安全衛生の点検基準を参考にすればよいのです

    1 責任者及び担当者を決める

    2 チェックリストを作成する

    3 担当者がチェックし、チェックリスト記入後、

          責任者がチェックリストをチェック

一番いけないことは、一人の人間にまかせること。人は必ずミスをすることを前提に、ミスをカバーできる体制を作ることです。公的機関ではこのへんの管理体制がまったくできていないところも多く、多分上記記事の学校現場もそのようなものではなかったかと思います。それで事件が発生すると、責任はすべて現場では、現場の職員はやってられません。

某公的機関に、「安全経費は予算の優先順位の最上位として下さい」と言ったら怪訝な顔をされました。「なぜ」と聞かれたので、「安全第一だからです」と答えたら、ようやく納得されました。要するに、そんなこと考えたことなかったんですね。