電話対応

(潜水橋・島根県木次市、by T.M)

ポニチ 9/13

実業家・堀江貴文氏(52)が13日までに公式X(旧ツイッター)を更新し、わざわざ電話をかけてくる人物への“イラつき”をつづった。

 堀江氏は「なんでLINEで済む案件をわざわざ電話してくんのかね」とポスト。

 堀江氏は19年に「NO TELEPHONE」という楽曲をリリース。そこでも、電話がかかってくるとスマホが操作できない、相手のタイミングを考えてないことなどを理由に「バカ野郎」などと猛批判している。

電話って、嫌われていますね。なんか、分かるような気がします。ウチも固定電話にかかってくるのは、サギまがいの営業の電話ばかりです。労働安全衛生コンサルタント事務所の電話と兼用しているため、なくすことはできないんですが、「非通知」の電話なんかには絶対にでないことにしています。

そういえば、私の所属する災害防止団体もHPに電話番号を載せなくなりました。この団体は、基本的にサービス業なんだけど、メール対応だけで大丈夫なのかななんて思ってしまいます。

私の古巣の労働基準監督署では、電話対応はどうなっているんでしょうか。私が現役のころはかかってきた電話は、新人監督官が対応するものと決まっていました。クレーム電話対応などにふりまわされ、一日中何もできなかったこともよくありました。でも今思えば、無駄だと思っていた電話対応でずいぶん勉強になったと思います。それから、電話の対応がうまくなるたびに、申告対応がうまくなっていったような気がします。

もはや廃れてしまった、監督官の電話対応テクニックを紹介します。

賃金不払いや解雇予告手当不払いについて、労働者からの申告を受理した時に、凡庸な監督官はすぐに「出頭要求書」を送付します。これは、「○○の要件がありますから、〇月〇日〇時に監督署に出頭して下さい」と記載されています。これって、いきなりもらったら、もらった人がどう思うでしょうか。以前このブログに書いたように、労働問題は人間関係のトラブルが多く、誰が悪いかなんって、一方的には決められないことが多いのです。

また、いきなり予告なしの臨検監督を実施する者もいます。これは上局が勧めるやり方ですが、現場を知らない意見です。

(注)すべての「予告なし臨検監督」がいけないと言っている訳ではありません。残業代不払いであるとか、安全衛生関係の臨検監督は、当然「予告なし臨検監督」でなければいけません。しかし、「常習でない賃金不払い事件」や「常習でない解雇予告手当不払い」については、それなりに理由があるケースが多いのです。

申告処理に慣れた監督官は、まずは電話をかけます。そして、担当者と話しをします。ここで、気を付けなければならないのは、担当者が不在な時に、「監督署が、どんなご用件でしょうか」と尋ねれられても、用件を言ってはならないということです。もし、担当者以外に、「○○さんの件で電話をしました」と言ってしまうと、後で担当者から「監督署は、従業員に余計なことを言った」と怒られてしまいます。担当者は、監督署から連絡があったという伝言だけで、何の件か分かるものです。

さて、いよいよ担当者と電話で話せる段階にきても、「賃金不払いの件で電話しました」と言ってはいけません。「ウチは賃金不払いなどしていません」と怒るケースもあるからです。「先ほど、監督署に御社の○○さんがいらしたのですが、何かトラブルでも起きたのですか」と聞けば、「トラブルなんて起きてません」という反応もあるのですが、「実は・・・」と言って話をしてくれるものです。

いずれにせよ、電話で「一方的でなく、中立的に話を聞く」という姿勢を伝えておいた後で、事業場を訪問した方が、相手の対応は冷静になるものです。

さて、そんな電話での対応マニュアルも今は昔のこと、現在の労働基準監督署はどのように事業場と対応しているのでしょうか。なんか益々仕事がやり難い世の中になっているんじゃないかと心配します。

リベンジ退職

(松江城天守閣、by T.M)

毎日新聞 9/9

「辞める際に必要なデータをすべて消していった」「嫌みが込められたあいさつメールが送られてきた」――。職場で自分の上司や同僚らが退職した際に、そんな困った事態を経験した人が約1割いることが、経営コンサルタント会社「スコラ・コンサルト」(東京都)が行った調査で分かった。会社を辞める際に報復的な行動をとることは「リベンジ退職」と呼ばれる。転職のハードルが以前ほど高くなくなっている中、職場でいま、何が起きているのか。

 「リベンジ退職と言われるものがどれぐらい発生しているのだろうかと考えて、実態を調べてみることにしました」。スコラ・コンサルトの簑原麻穂(みのはら・あさほ)社長は調査のきっかけをそう話す。

 今年5月、転職や働くことに関する意識についてインターネットを通じてアンケートを行い、全国の社員100人以上の企業に勤める一般社員と管理職の男女計2106人から有効回答を得た。(略)

こんなこと、なんで話題になるんだろうと思う記事です。私の意見を書く前に、この記事へのヤフコメが面白かったんで紹介します。次のヤフコメなんですが、web上で名前を売りたい自称評論家のものです。

リベンジ退職」は個人の問題ではなく、組織の構造的課題が表面化した現象のようだ。背景には3つの要因があるだろに労働条件と期待のギャップ。入社後のミスマッチが主因だ。第二、上司と部下間のコミュニケーション、キャリア形成機会の不足もある。成長機会を求める社員に対し、多くの企業が十分な環境を提供できていない。第三、評価制度に対する不満も大きい。企業が重視する数値的成果と、従業員が評価されたいプロセスや努力との認識ギャップが不信感を生む。(以後、略)

なんか、バカバカしい評論です。なぜって、こういうことってもう何十年も前からあったことです。それを何をいまさら、難しく解釈しようとするのでしょう。話題作りのための記事としか思えません。

労使関係って、要するに人間関係のことです。どちらが、いいとか悪いとかはありません。

労働基準監督官やっていて、最初に先輩に教わるのは次のようなことです。

「監督署で労使間のトラブルを扱う場合は、①経営者がおかしい、②労働者がおかしい、③両方おかしい、の3通りしかない。だから、必ず不愉快な人と会う」

労使関係とは、労使対等のもとに締結された労働契約に基づくものですが、実態は人間関係のドロドロしたものです。ブラック企業が悪いのか、リベンジ退職する労働者が悪いのかなんて、すぐに判断できるはずはありません。

リベンジ退職する労働者にひとつアドバイスがあるとしたら、気に入らないのは「①直接の人間関係か、②劣悪な労働環境を許している会社か」それを見極めて下さいということです。「たまたま人間関係が悪かったからといって、会社全体を攻撃してよいのか」、あるいは「会社の方針が悪いのに、偶然に直接の上司等になった者を恨むのか」、リベンジのやり方もそれによって変わってくると思いますし、それを間違えるとリベンジした者の品性が疑われるということです。

事前送検

(出雲大社、by T.M)

お久しぶりです。何か、来年1月から発行部数3万部ほどの安全衛生関係の雑誌に私の記事の連載がされそうです。詳細は決定してからお知らせします。しかし、こういう話はもっと若い時に欲しかったと思います。

琉球新報 9/3

那覇労働基準監督署は2日、フォークリフトの運転資格がない従業員に運転業務をさせたとして、浦添市の運送会社と同従業員を労働安全衛生法違反の疑いで那覇地検に書類送検した。

同署によると、今年2月、同従業員は資格を持たずに同社倉庫で最大荷重1・5トンのフォークリフトを運転した疑いがある。

短い記事なんですが、監督署はよくやったと褒めたいと思います。

どうして、この送検のことを褒めるのかというと、「死亡災害」が関係してないからです。厚生労働省のHPには、定期的に全国の労働基準監督署が送検した事例を掲載しているのですが、労働安全衛生法関係の送検は、ほとんどが死亡災害がらみです。

今回のような送検を監督署では、「死亡災害の発生する前に送検する」ので「事前送検」と呼びます(嫌な言い方です)。

事前送検される事業場は、ある意味「死亡災害」を発生させる事業場より悪質です。なぜなら、たった1回の法違反を監督署が見つけたからといって送検されることは絶対にありません。繰り返し法違反を行っているのを、監督署がマークしているから送検までするのです。もしかしたら、そのような会社の中から、誰かが内部告発するケースもあります。

事前送検は死亡送検と違ってやり易い側面があります。

(注)労災死亡災害関係の送検を監督署内部では、「事前送検」と対にして「葬式送検」と呼びますが、その呼び方は嫌なので、このブログでは「死亡送検」と呼びます。

事前送検では、証人がすべて揃っているのです。死亡送検は、最大の証人が事故で亡くなっていることがほとんどなので、犯罪行為の立証が難しいのです。

もちろん、事前送検にもやりにくい所はあります。その最大の理由は「被疑者の抵抗が強い」ということです。死亡送検なら、送検去れる方はある程度覚悟しているのですが、事前送検の場合は、「これくらいでなんで自分が」と思っているケースがほとんどです。ですから、事前送の場合は監督署は最悪のケースを予想します。それは、裁判所から令状をとっての「強制捜査」を実施することです。(「逮捕」はさすがに難しいかも)

今回の那覇署の送検がどのくらい被疑会社の抵抗があったかは分かりませんが、多分色々なドラマがあったはずです。それが想像できるから、この送検はすごいと思うのです。