賃金不払い事件

(海を渡るアサギマダラ・秩父高原、by T.M)

熊本放送 12/27

従業員に2か月分の賃金を支払わなかったとして書類送検されていた、熊本県芦北町の企業と、社長を務める50代の男性について、熊本地方検察庁は起訴しないことを決めました。

12月12日付で不起訴処分となったのは、芦北町の林業の会社と社長を務める50代の男性です。

会社と社長は従業員3人に、去年8月分と9月分の賃金あわせて約100万円を支払わなかった、最低賃金法違反の疑いで今年7月、書類送検されていました。

社長は当時、支払わなかった理由について「経営不振で資金難に陥った。優先して賃金を払わないといけないが軽視してしまった」と話していたということです。

熊本地検は不起訴の理由について、「明らかにできない」としています

>熊本地検は不起訴の理由について、「明らかにできない」としています

起訴できない理由は、「前例がないから」だと思います。

私は労働基準監督官を30年以上経験し、倒産がらみに賃金不払いについて10件以上、主任捜査官として企業を書類送検していますが、1度も起訴されたことはありません。(倒産がからまない、常習的な「賃金不払い」は別)。因みに、労働安全衛生法違反の、いわゆる「葬式送検」については、賃金不払い事件の数倍の件数を送致していますが、不起訴だったのはたった2件だけです。「倒産がらみの賃金不払い事件」の不起訴だった一番ひどいケースは、2年間以上賃金不払いを繰り返し、監督署の出頭にも応じなかった企業を、強制捜査を行い、さらに逮捕令状請求をちらつかせて被疑者を出頭させ事情聴取し、書類送検したのに不起訴でした。

因みに、不起訴といってもいくつか種類がありまして、「起訴猶予」「嫌疑不十分」「罪とならず」等です。「嫌疑不十分」「罪とならず」については、警察機関(賃金不払いの場合は労働基準監督署)の捜査が不適切なので不起訴となるようですが、「起訴猶予」については、「起訴は可能だけど検察の判断で不起訴とした」ということなので、警察側の捜査に瑕疵はないということになります。ですから、起訴猶予の場合は、検事の方が我々警察機関に対し、「せっかく捜査してもらったのに申し訳ない」と言って、起訴猶予の理由を明らかにしてくれることもあります。

さて、賃金不払い事件に対する、不起訴理由については、すべて「起訴猶予」でした。ようするに検察側の都合による不起訴です。そして、「起訴猶予」の理由については、一切説明はありません。というか、検察庁では、賃金不払い事件について、「起訴できなくて当たり前でしょ」という雰囲気でした。

検事に言われたことがあります。「会社倒産で賃金不払いというのは、他の債権者に対する債務不履行と比較して、どこが悪質なんだ。確かにお給料がもらえないというのはたいへんなことだ。しかし、会社倒産によって、住宅ローンを何千万円組んだけどマイホームが建たなかった人や、代金を払ったのに成人式の着物が手に入らなかった人がいたとしても、経営者は詐欺罪に問われなければ、犯罪行為として立件されることはない。ましてや、倒産を理由とした賃金不払い事件については、後日に国の方から立替払いの措置がされるのだろ。それなら、他の債権者より益しだろ。」

この検事の言い分については、「会社の経営が傾いて、賃金不払いが長期に及んだ場合」は違うだろと思いましたが、一理あるなと思えるところもあります。

因みに、監督署サイドの事情を述べると、「未払給与の立替払い」の手続きを監督署で行った場合は、すべて送検の対象でした。確かに、伝家の宝刀である司法警察権限を使用するなら、「倒産がらみの賃金不払い」でなく、「常習的な賃金不払い」のみを対象にしても良いと思います。でも、国の金つかって未払い賃金の立替払いをすることは、苦しくとも給与を払い続ける真面目な経営者に申し訳ないので処罰するということは、やはり行政のひとつの在り方でもあるとも思います。

労務管理の方法

(ラストラン当日の国鉄特急色381系特急やくも8号・山陰本線米子駅、by T.M)

IT MEDIA ビジネス 12/10

過失の程度や結果の重大性によっては、時代に即した適正な処分を行う──滋賀県長浜市の浅見宣義市長が示した、市役所職員の事務ミスに対する厳罰化の意向が注目を集めている。

長浜市では、昨年度から市の補助金交付や国の交付金申請などにおいて不適正な事務処理が相次いだ。同市では、単純な過失による事務ミスについて処分はしてこなかったが、こうした状況を問題視。浅見市長は9月定例月議会の提案説明において、市役所職員の事務ミスの処分を強化する考えを示した。

労務管理の原則に、「ズルは処分できるが、馬鹿はどうしようもない」というのがあります。要するに、不正については処分等はできるが、能力のない奴はせめられないということです。何度言ってもヒューマンエラーする奴は、言っても無駄だから、職場を変えるくらいしか対処方法はないという意味です。

Wikipediaで確認すると、この長浜市長は元裁判官だそうです。「故意」だけでなく、「過失」「重過失」等についても法違反は成立するので、記事のような労務管理を発想したのだと想像します。私も、論理的には可能だと思います。職員のミスで外部に損害をかけた時に、外部に弁済するのは組織ですが、組織は内部で職員の責任を追及できます(民放715条参照)。

ただし、この場合、職員はかなり反発するはずです。正式な処分を行うとしたら、懲罰委員会が開催されなければならず、役所関係では労働組合が委員になっているため、きっとそこで揉めるでしょう。また、いったん処分が決まっても、次に裁判があります。その時には、そもそも職員がミスをしないための管理体制ができていたのかも問題となります。

 「脅し」の労務管理は一定の効果があると思いますが、ミスを恐れて、慎重になりすぎて、時間ばかりかかるようになる可能性もありますし、「締め上げすぎる」と最終手段として「怠業」(あえて仕事をゆっくりする)が発生するかもしれません。 

そう考えると、現況の「人事考課」というものはよくできているのかもしれません。「ミス」を理由に就業規則上の処分は難しいですが、人事考課での評価下げは自由です。要するに、「処分」という脅しではなくて、「ボーナスの額」と「昇給の早さ」という飴で職員のやる気を出させる方法です。

でも、公務員なんですから、「脅し」や「飴」でなくて、社会的貢献のために仕事に意欲を持ってもらうことが第一と思うんですけど、法律だけ考えていた人に、職員をその方向に引っ張るリーダーシップを望むのは難しいのでしょうか?

コラムと雑誌掲載について

JR木次線の絶景ポイント・出雲坂根〜三井野原、by T.M)

今日は私の書いたコラムの紹介と来年から連載される雑誌の掲載記事の紹介です。

安全週間のコラムです。

https://www.jisha.or.jp/info/campaign/anzen/column.html

「年末年始無災害運動」のコラムも書いたんですけど、まだ公開されていません。

月間雑誌「安全衛生のひろば」に1年間執筆します。

雑誌に載せるということで、私の写真を求められたのですが、人一倍醜悪な70近い私の顔写真など人を不愉快にするだけなので、「50年前の美少年の頃の写真でどうだ」と言ったら先方から断れました。仕方がないので、イラストでごますことにしてたのですが、「情けない顔のピットブルが作業服をしているアバター」を先方に希望したところ、AIで3分で作ってくれました。まだ、このブログで公開するわけにはいかないのです、来年でも紹介します。しかしAIって凄いですね。

カスハラ

(三段式スイッチバックが見られるJR木次線の出雲坂根〜三井野原間の風景、by T.M)

11/11 東海テレビ

愛知県美浜町の職員にカスタマーハラスメントをしたとされる住民に対し、損害賠償を求め提訴を辞さない構えです。

美浜町によりますと、住民の男性(60代)は2019年ごろから、役場のほぼ全ての部署に対して、窓口や電話で「お前たちは嘘つきだ」と暴言を吐くなどカスハラ行為を続けていたということです。

今年4月以降には、およそ800件の暴言が確認されました。

職員から「何とかしてほしい」と要望を受け、町は11日に臨時の議会を開き、対応した職員の給与相当額にあたる400万円の損害賠償を求めるなどの議案を提出し、全会一致で可決されました。

以前にも書いた話なんですが、私がF労働基準監督署に勤務していた時のことです。労働基準法違反を申告してきた女性が、現在で言うカスハラをする方でした。朝9時にその方から電話があったのですが、ちょうど私が外出しようとしている時でした。そこで、しばらく前に雇用した非常勤職員(60歳以上男性)に要件を聞いておくように指示して出張に行きました。午後3時半にかえってきても、その非常勤職員が電話を続けているようなので事情を尋ねると、朝から電話が続いているとのことでした。あわてて、電話を替わって、終わらせましたけど、その非常勤職員はメンタルをやられクタクタになっていました。あの時の非常勤職員には本当に申し訳ないことをしたと思います。

今の時代なら、「非常勤職員1日分の賃金」を請求をすることができるのかな、なんて思います。

また、こんなこともありました。こんどはT労働基準監督署でしたが、やたら告訴状をもってくる人もいました。労働基準監督署というところは、告訴状を持ってこられたら、供述調書(告訴調書)を作成しなければならないのですが、それが「休憩が15分短かった」とか「残業代が10分ついていない」等の微罪ばかりで、時間ばかりとられていました。

ある時から、その人は姿を消しました。いなくなる直前に、深夜に監督署の留守電に4時間ばかり、監督署の悪口が吹き込んでありました。あとから事情が分かったんですが、飲み屋で知り合っただけという「ヤクザ」の名前を使って事業主を脅したところ、後からそのヤクザから本人に電話があり、あわてて夜逃げしたということでした。

労働基準監督署には、「ヤクザ」や「暴力団」みたいな方がやって来てたいへんだろう、という人もいますが、お金目当ての人はあまり監督署に迷惑はかけません。監督署の業務は、いわゆる「利権」がからむことがないので、金にならないことが分かると、この手の人はさっさと手をひきます。(労災保険関係の不法行為をする人は別です)。

業務妨害をするのは、「孤独な人」や「さみしい人」です。あたるところがなくて、行政機関にからむのです。それがわかっていても、何もできないのが役所です。

来週はブログ休みます。寒くなって来たこの時季に、甲府の山の中の事業所まで出張に行ってきます。ブログ再開は11/30です。