気になる報道

(野反湖に咲く花part1,by T.M)

時々、新聞記事を読んでいると、訳の分からない記事を見つけます。前回のブログ記事の続きで、「トラック会社の不法行為」のことを書こうかと思ったけど、次のような記事を見つけたので、それについて書きます。

「気になる報道」という、新しいカテを作ることにしました。

その記事とは、次のようなものです。

「もう動けん」自殺の娘、眼鏡に涙の跡 嘱託職員の遺族

8/30(水) 12:35配信  朝日新聞デジタル 

 在職中にうつ病を発症し、27歳で自ら命を絶った北九州市元嘱託職員の両親が29日、うつ病は業務が原因と考えられ、公務災害(労災)にあたるとして遺族への補償などを市に求める訴えを福岡地裁に起こした。常勤職員なら認められる労災補償の請求権を非常勤には認めていない同市の条例により、違法に請求を阻まれたと主張している。

 「娘は非常勤職員であったがゆえに、労災請求を受け付けてもらえなかった。非常勤の方が苦しむことのないよう、労災補償の制度を改善してください」

 提訴後、記者会見に臨んだ森下佳奈さんの母親、眞由美さん(55)はそう声を絞り出し、「娘も『自分の死を無駄にしないで。同じような人がいたら助けてあげて』と思っているような気がする」とつぶやいた。

この日は佳奈さんの30回目の誕生日。佳奈さんの遺品だという眼鏡をかけ、「レンズを替えるとき、涙の跡があった。娘が『生きたかった』と訴えていると思った」と振り返った。

 佳奈さんは大学と大学院で心理学を学び、「障害のある子どもたちの力になりたい」と志して北九州市の嘱託職員になった。5年前の就職当初、「私は一生、この大好きな北九州に住むよ」と語っていた笑顔を今でも思い出すという。

 しかし数カ月たつと、離れて暮らす両親のもとに届くメールや電話は次第に苦しげな内容が増えた。業務の進め方をめぐって連日のように上司から叱責されたり問い詰められたりしたとし、「一日中おなかがキリキリ」「仕事行きたくない。泣きそう」「もう動けん」などと訴えていた。

 一方で佳奈さんは「つらいけど逃げない。相談者のために一生懸命頑張るよ」とも話し、両親は心配しつつも見守った。だが、その後うつ病と診断された。

 眞由美さんは「もっと早く娘を休ませていれば。後悔してもしきれない。娘のような犠牲者が二度と出ないよう願います」。

 一方、北九州市は朝日新聞の取材に、上司のパワハラなどを否定している。(阪本輝昭)

この記事の何が疑問かというと、記者が「制度をまったく理解していない」と思えるところです。記者が制度を理解していないことは仕方がないとしても、遺族の方から依頼を受けている弁護士は、制度を分かっていて訴えを起こしたのでしょうか。

公務員の労災補償には、2種類あります。公務災害として地方公共団体が認定するか、労働基準監督署長が認定するかどうかです。必ず、どちらかの方法で労災申請ができます。

この記事のケースでは、「市役所が公務災害の認定申請を受理しない」のだから、「労働基準監督署に労災申請をすればよい」だけの話です。

精神疾患の労災として労働基準監督署長が認定するかどうかは別問題として、このケースなら監督署は申請を受理し、調査し、職務と病気の因果関係を認めれば補償します。

もし、労災が不認定であり、その結論に疑問があるならば、労働基準監督署長相手に審査請求なり、裁判なりをすれば良いのです。

その調査過程で被災者の勤務状況も明らかになるでしょうし、遺族の方の救済の可能性もでてきます。

また、再発防止策を労働基準監督署から指導することも可能となります。

「公務災害として申請できない労働者」として市が認めていることは、「同労働者については、労働基準法が適用となり、労働基準監督官が権限行使できる」ということだからです。

それを、どうして「公務災害の申請を認めないから、市役所相手に裁判をする」ということになるのでしょうか。

遺族の方は、制度が分かった上で「労働基準監督署への認定申請」よりも「公務災害の申請を認めない市役所を訴える」ことを選択したのでしょうか。

遺族の方の救済のために、遺族の方から依頼を受けている弁護士は、今一度、この件についての方針を確認した方が良いと思います。