トランスジェンダーとトイレ

(甲斐善光寺、by T.M)

時事通信 11/12

経済産業省は12日、出生時の性別と性自認が異なるトランスジェンダーの職員に対し職場の女性用トイレの使用を制限していた問題で、省内にあるすべての女性用トイレの使用を認めたと明らかにした。

最高裁が2023年7月、制限を認めた人事院の対応は違法とする判決を出していた。

この問題で、経産省はこの職員に対し勤務フロアから2階以上離れた女性用トイレしか使用を認めていなかった。人事院が24年10月、省内の女性用トイレを自由に使えるべきだとする再判定を出したことを考慮し、同省は今月、職員に使用制限の撤廃を伝えた。 

労働安全衛生法に関する指導をしてき者としては、このような時代になって、企業に労働安全衛生法をどのように説明したら良いのか分からなくなります。例えば、次のような法条文があります。

事務所衛生基準規則第17条  事業者は、次に定めるところにより便所を設けなければならない。

  一  男性用と女性用に区別すること。

ちなみに、この法律の違反行為に対する罰則は、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」となります。

トランジェンダーに関し、悲しいほど無知な私としては、単純な考えしか持ちませんので、「それでは、男性用トイレと女性用トイレともうひとつトランスジェンダー用のトイレを作ればいい」なんて思ってしまいます。もちろん、このようなことは、差別行為に該当します。

(経産省はトランスジェンダーに、「指定したイレレ」を使用させていたことが、差別だと認定されました)

「わが社は、トランスジェンダー差別はしない。しかし、女性従業員及び女性の来客の方が嫌がるから、トランシジェンダーの方は特に決められたトイレを使ってもらう」

これが差別なのです。

さて、それでは最高裁判決を守るためにはどうしたら良いのでしょうか。これが、経産省でなく厚労省で起きた事案だったとしたらどうなっていたでしょうか? 職員が使用する男女別のトイレをトランスジェンダーの方が生物的な男女の垣根を飛び越えることが違法であるかどうかを、行政官庁である厚労省はどう判断するのでしょうか?

役所が困くらいですから、民間企業の人事の方は、現在非常に困っていらっしゃると思います。できる限り、関わりたくと思うかもしれません。しかし、無視・無関心も差別であると言われますので、真摯に対応しなければなりません・・・・

私が企業から対応を相談されたら、やっぱり次のように逃げてしまうと思います。「70近い年寄りでは、頭が混乱してうまく考えられません。もっと若い方で決めて下さい」。

ボケていることは、たまに役に立ちます。

高齢者の労働災害

(旧信越本線横川〜軽井沢間の眼鏡橋、by T.M)

朝日新聞 11/7

働く高齢者の増加で労働災害も増えているとして、厚生労働省は高齢者に配慮した作業環境の整備を企業の努力義務とする。6日の労働政策審議会の分科会で、労使が大筋で合意した。厚労省は2025年の通常国会に労働安全衛生法の改正案を提出する方針。

 努力義務とする対策としては、段差の解消や手すりの設置のほか、高齢者の体力や特性に配慮した作業内容の見直しなどを想定している。定期的な健康診断や体力チェックの継続的な実施も求める。同法に基づく指針も定める方針だ。

 人手不足などを背景に、高齢の労働者は増えている。65歳以上の労働者は、23年は約914万人で過去最多を更新した。厚労省によると、労働者全体に占める割合は、23年は50歳以上が41.4%、60歳以上が18.7%まで増えた。

私が一時期安全衛生の顧問をしていた会社の話です。そこは全国に30工場を展開していて、私は関東・東北の10工場を年3回パトロールをしていました。一昨年に、その会社の労働災害の分析を依頼され、全国の工場で発生した労働災害を確認したところ、現代を象徴するような労働災害が、7月のある日に2件発生しました。

1件目は東北工場で発生した災害です。工場には夜勤があり、夜勤明けの午前5時にその災害は発生しました。夜勤明けの職員が、帰宅しようとしてクルマ(軽自動車)に乗り、会社の駐車場から出ようとしたところ、自転車で出勤してきた22歳の男性職員と駐車場内で衝突し、22歳の職員は自転車と一緒に転倒したという事故でした。この事故により、22歳の職員は、打撲となりましたが休業は0日でした。

2件目の災害は、1件目の災害からちょうど12時間後の午後5時に、湘南工場で発生しました。その工場ではベルトコンベヤーの調子が悪くてメンテナンス担当の職員が屈みこみながら修理していたのですが、就業時間終了のチャイムを聞いて、あせっていました。そこへ、1日の作業を終え、やれやれといった具合の62歳のパートタイマーの女性が更衣室に向かい歩いてきました。急いで作業をしていたメンテナンスの職員がいきなり立ち上がった拍子に、後ろを歩いていたパートタイマーの女性と衝突してしまいました。女性は尻餅をつくと同時に手を床についたのですが、手首を骨折し休業2ケ月の災害となってしまいました。

さて、ある会社で一昨年の7月に発生した2件の災害ですが、これは何か現在の職場環境を象徴していませんか?22歳の若者は自転車に乗っていて、軽自動車と衝突し、捻挫で休業0日、かたや62歳の女性は急に立ち上がった男性と衝突し、手首骨折休業2ケ月。きっと、こんなことが日本中のあらゆる職場で発生しているのでしょう。高齢者の災害は些細なことが、重篤な結果となるのです。

ハーン投手

(旧医院の明治館・群馬県伊勢崎市、by T.M)

東京スポーツ 9/20

夫人の出産のため米国に一時帰国していたテイラー・ハーン投手(30)が20日、チームに再合流した。

19日までに日本に戻ってきた助っ人左腕は、再来日翌日のこの日からチームに復帰。米国時間13日には、夫人が第一子の長男・ブライソン君を出産し「パパ」となって戻ってきた助っ人は「本当に嬉しいです。子供も奥さんも元気だし、ひとり家族が生まれたことでまたヤル気が出るというか、このシーズンをしっかりと乗り切ろうと心に誓ったよ」とニッコリ。

 日本時間13日に一時帰国した際に登録も外れており、再登録はまだ叶わない状況だが「むこうでもできる限り体を動かしていたし、自分のできることをやっていたよ」と自身のコンディションも良好という。

 今季から加入の助っ人左腕は、中継ぎとしてここまで29試合、防御率1・29の好成績で、投手陣の「勝利の方程式」に欠かせない存在となっていた。残り13試合で、Aクラス確保が目標となるチームで、心強い戦力が帰還した。

昨日(9/20)、わがDNeAベイスターズがセントラルリーグ3位となってクライマックスシリーズの出場する希望がでてきました。しかし、カープの9月になってからの失速が凄いですね。一時は優勝かと思われたのに、昨日の時点で4位です。カープが9月に失速した理由のひとつにハーン投手の離脱があるかもしれません。

しかし、いい時代になりましたよね。昔は阪神のバースが親の死で帰国したら大批判を浴びました。今は奥さんの出産に帰国できます。この風潮が日本の労働の現場にも波及されるといいのですが。

労働基準法第39条で規定された有給休暇とは別に、「親族の死」等の場合については特別休暇を設けるべきだという意見があります。でも、現実的ではないでしょう。技術的な問題でいくつかあります。「親族とは何か」「緊急事態とは何か」等の定義が難しいということです。しかし、何よりも問題なことは、「有給休暇を取得することについて、労働者はその理由を述べなければならない」ということです。有給休暇は、無条件で与えられなければなりません。

今から30年以上前のことです。私が函館労働基準監督署の方面主任であった時に、ゴールデンウィーク明けに有給休暇を取ろうとしました。ゴールデンウィーク中は、直前に発生した管内の死亡災害の災害調査に多忙で、なかなか休暇が取得できなかったのです。そこで、期日をずらす有給休暇を取得しようとしたところ、私の直接の上司である次長が文句を言います。「みんな休暇明けで、仕事をしようとする時に何事だ」という訳です。労働基準監督署でさえ、このように自由に有給休暇を取得できなかったので、民間企業では有給休暇を取得することは肩身の狭い時代でした(今でもそうかもそれませんが)。

その時に次長から「なぜ有給休暇を取るんだ」と言われたので、「理由は言いたくありません。有給休暇の取得願いは提出しますので、それが認められないなら、次長が『不承認』として印鑑を押し、記録して下さい」と返答しました。次長は舌打ちして、有給休暇を認めてくれました。このような私の行為は、労働基準監督官で労働基準法の知識があるので可能なことで、現在ブラック企業に勤務する方は泣き寝入りするしかないのかもしれません。そう考えると、ブラック企業から「退職代行」を使用して、労働者が退職することも仕方ないのかとも思います。

労働局の小さな不正

(ノイウルム駅にて、by T.M)

9/10 東洋経済

「パワハラ的な霞が関の文化が見え隠れしている」――。

パワハラ疑惑を内部告発された兵庫県の斎藤元彦知事に対する辞任圧力が、日増しに強まっている。

斎藤知事は8月30日、9月6日に県議会の百条委員会で一連の疑惑に関する証言を行い、パワハラの疑いがある県職員への言動をあくまで「業務上の指導」などと主張。最後まで自身の行為がパワハラに該当するかは認めず、職員との間での認識の違いが際立った。内部告発した職員に対する懲戒処分などの県の対応も、「法的に適切だった」とする立場を貫いた。

百条委でのやり取りで印象を残したのが、斎藤知事が自身の総務官僚時代の経験を念頭に置いたうえで、自らの仕事観を説明した場面だ。「コミュニケーション不足で職員の受け取りにズレが生じた」と弁明する斎藤知事の問題視された言動について、総務省関係者は冒頭のように指摘する。

この記事のとおりであると思います。「滅私奉公」と言えば聞こえがよいが、齋藤知事は自らが、「ゴマすり」をやってきたのです。彼は、「オレは組織の中心だから、オレが近くにいる時は、回りの者はオレの一挙一動を見ていろ。そして気をつかえ。オレは偉いんだ」と本気で思っているのでしょう。なぜなら、「上司(大臣)を絶対に偉い」と思い、それに気を遣う自分を誇りしてきたのですから。

まさしく、公務員の鏡です。もっとも、現場で働く公務員、例えば労働者に「無能」と呼ばれ、経営者から「態度が悪い」と言われ、日夜労使紛争に悩まされる署の現場の労働基準監督官の仕事では、このような対応は通用しません。しかし、監督官も地方労働局や本省に行くと、こんな人が増えることになります。

今回は、私が見聞した「労働局のゴマスリの実態」をご紹介します。

最初に紹介するのは、今から20数年前に神奈川労働局に本省からきたSという監督課長です。Sは元々監督官でしたが、志願して本省に転勤した出世志向の強い監督官でした。私は当時監督課に平職員として在籍して予算を担当していましたが、課長は年齢は私と変わらないのですが、組織内での立場は私と天と地ほどの違いがありました。私は、監督署の現場から離れた、最初の労働局勤務でしたが、この課長は「霞が関文化」というものを私に教えてくれました。現場で、「切った、張った」を繰り返していた私にとって、初めて触れる文化でした。

その課長は、予算のことに厳しく、10円単位でも細かくチェックしてくる人でした。そんな課長でしたが、突然に「新しい電動自転車を監督課の予算から購入しろ」と言われました。私は、「へえー、職員のための備品を買うなんて珍しいな。横浜市内の災害調査には便利かな」と思って購入手続きを進めていたところ、課長からこんなことを言われました。「基準部長(課長の上司)が中華街まで昼飯を食べに行くが、その時に使用するからな」

要するに、上司へのゴマスリのために予算を使用するということです。もっとも、そういう「気遣い」を喜ぶ労働基準部長ではありました。

また、こんなこともありました。当時神奈川労働局には外国人労働者の通訳(非常勤)が2名勤務していました。英語とポルトガル語の通訳でした。ポルトガル語の通訳の方は、専門ではありませんでしたが、スペイン語も通訳可能の方でした。

(注)スペイン語とポルトガル語は非常に似ていて、南米系労働者の通訳は両方の言語ができる人が多い。

ですから、通訳をもう一人増やすということは、私は中国語の通訳を探すのかと思っていまたが、何とスペイン語の通訳をもう一人増やすということでした。しかも、誰を雇用するのかも、S監督課長は指定しました。当時の秋田労働局基準部長の奥さんを雇用しろというのです。この通訳の方は雇用した時の経緯はともかく、とてもいい方だったのですが、今から考えると、このS監督課長の行為は犯罪行為だったと思います。

まあ、このS課長なんですが、多分本省では、「いい奴」「気が利く奴」で通っていたと思います。でも、最終的に思っていたほど出世はしなかったと噂に聞きました。多分、見抜かれていたところがあったのだと思います。

大崎市民病院

(名物の出雲割子そば、by T.M)

9/6 仙台放送

大崎市民病院が医師や看護師など約1500人に勤務手当の一部を支給せず、労働基準監督署から是正勧告を受けた問題で、当初は支払いが難しいとして未払いとなっていた約8億円について、病院が一転して支払う方針を示しました。

9月6日の大崎市の定例会見で伊藤康志市長は「職員や患者に不安を与え、申し訳なく思う」と謝罪しました。

この問題は大崎市民病院が医師や看護師など約1500人の手当て10億5000万円を支払わなかったため、労基署から是正勧告を受けたもので、病院は昨年度分の2億3000万円は支払いましたが、残りの約8億円は経営難を理由に支払いは難しいとしていました。その後、労基署との協議の結果、病院は全額を支払うことを決めたということです。

大崎市 伊藤康志市長 「経営努力でどこまで追加支払いができるのか検討、指示した」

支払いを終える時期などは未定ということです。

まずは是正勧告をした古川労働基準監督署の方に、ご苦労さまと言いたいと思います。私も35年前に同監督署で監督官をしていました。当時はまだ「古川市」であって、新幹線が停車する市としてバブルの終末期の繁栄を謳歌していました。現在は周辺町村と合併し「大崎市」となりましたが、人口は合併前より減少しているようです。多分、賃金不払い等景気の悪い話も当時以上であると思いますが、後輩監督官が頑張っていることは嬉しいものです。この事件は、未払賃金を全額支払わなければ、当然終わらぬ話ですが、ゴールは見えてきたと思います。

しかし、この市長なんかずれたこと言っていますね。賃金未払は、労働者に対する「債務不履行」ということです。民間企業で、手形が落ちない等の債務不履行となったら、破産手続きをして債権債務を整理することが道理でしょう。だから、未払賃金を払えないなら、公益性の高い事業であるから市民のためを思い税金を投入し存続させるのか、資本主義の原則に従い破産手続きを行い病院を閉鎖させるのかのどちらかのはずです。どちらも市長が決断すべきところなのに、何か市長の言葉は無責任で他人事です。

もちろん、民間企業でしたらこういう場合、債権者との合意の元で債務の一部を免除する、返済期間を延長するなどして再建を目指す民事再生という手もあります。でも、それなら徹底的な経営の見直しをしなければなりませんが、なによりも債権者に納得してもらわなければなりません。この市長、債権者である労働者に頭を下げてお願いしているのでしょうか。冗談じゃなくて、「労働者に土下座する覚悟」はあるでしょうか。

私が良く知る賃金不払い事件というのは、どうも経営者が労働者を「債権者」と認めていないケースがよくありました。給料を払っていないのに、「自分は労働者を雇っているのだから自分の方が上だ」と考えているようでした。もし、市長がそのような方で、解決を引き延ばすなら、労働基準監督署は書類送検をすべきでしょう。通常、「公務員」については労働基準監督署は司法警察権限は適用できませんが、「市立病院」については権限があります。また、「市立病院」送検は全国的な大きなニュースになると思います。後輩諸君、頑張ってください。