大谷!

(伯耆富士とも呼ばれる大山を望むJR伯備線の車窓、by T.M)

8/13 スポーツ報知

ハワイ州巡回裁判所に提出された訴状では、2人が当地のハプナコーストに14戸の住宅を建設し、1戸あたり平均1730万ドル(約25億円)で販売する計画を11年前に立てたとされる。23年に同プロジェクトの広告塔として大谷と契約を締結。1戸の購入やオフシーズンの滞在など約束し、日本への波及効果を見込んでいたが、その後バレロ氏が開発側に繰り返し譲歩を要求。「話が通らなければ大谷を撤退させる」と脅したといい、今年7月には同氏の要求によって2人が解雇されたとしている。

原告側は「これは権力の乱用だ。被告は脅迫と根拠のない法的主張で原告を追い出した。(大谷も)行動の責任を負うべきであり、代理人に守られるべきではない」と数百万ドル程度の損失を主張。請求する賠償額は裁判で決めるとしている。バレロ氏の代理人事務所「CAA」社はこの件に関するコメントを拒否した。

よく訳の分からない訴訟ですね。結局、この記事は何を言いたいんだろう。

1 原告は、「解雇」されたことが不当だと主張している

2 原告は、「解雇の原因」を作ったのが「大谷」であると主張している

3 だから、原告は大谷を訴えた

この記事の分からないことは、「原告を解雇した会社は誰だ」ということです。別に、「大谷」が解雇した訳ではありません。その会社のことが、この記事にはまったくでてこないのです(原告を解雇した相手を「A社」と呼びます)。

日本の元労働基準監督官からしたら、解雇問題ですから、「原告は労働契約の締結者であり、その契約を解除したA社」相手に裁判をすべきと考えます。要するに、今回の問題は、日本の企業に置き換えたら次のようなケースに該当すると思います。

  1 労働者XはT会社に勤務していた。

  2 T会社の顧客Yは、労働者Xの態度が悪いとT会社にクレームを入れた

  3 T会社は顧客Yのクレームに屈し、労働者Xを解雇した

この場合、「解雇権の濫用」で争うのは、あくまで労働者XとT会社であり、「顧客Yのクレーム」の正当性についてはT会社と顧客Yが争えば良いだけです。

なんか、この原告は「金を持っていそうな大谷」を訴えたような気がします。またA社と原告の関係も気になります。意外とA社と原告は「仲が良かった」ことも考えられます。

話は変わりますが、労災事故でもよくこんなことが起こります。会社の安全管理が悪くて死亡災害が発生したのに、なぜか遺族は会社を恨むのでなく、被災者の直接の上司を恨むのです。被災者の心情としては、抽象的な「会社」という概念より、目の前の「個人」を恨みたくなるものなのですよね。また、会社側をあえて「上司」を恨ませるように誘導することもあります。労災事故は殺人事件とは違いますので、「誰が起こした」というより、「管理体制の不備」「事業トップの無理解」が原因であることがほとんどなのです。

だから、労災事故が発生した時は事業主が第一番目に責任を取るべきなのです。

最低賃金の季節

(イタリア山公園の庭園・横浜市中区、by T.M)

7/5 朝日新聞

「担々麺一つ、ギョーザ一つですね」

 6月下旬、千葉県我孫子市のラーメン店「豆でっぽう」では、アルバイトの竹原久美子さんが店の前に並ぶ客から注文を取って回っていた。

 茨城県取手市の自宅から週4回、約30分かけて電車で通う。

 5年ほど前までは自宅近くのコンビニで働いていたが、当時100円以上高かった時給が魅力で移った。アルバイト9人中3人が茨城から通う。「茨城組」が集まるLINEグループもある。

 「通勤に多少時間がかかっても、時給100円の差は大きい」。竹原さんの時給は1150円。月に7万円以上稼ぐ。茨城より時給が高いのは、ベースとなる最低賃金の差と連動しているためだ。

毎年秋に改定となる最低賃金が話題となる季節になりました。(そのうち、「最低賃金」が俳句の季語になるんじゃないかな)。毎年恒例の最低賃金に関する、私の提案の話です。毎回同じこと書いているけど、

   派遣業労働者への全国一律の産業別最低賃金

を設定しましょうよ。もちろん、この金額は東京都の地域最低賃金を上回る額でなければなりません。産業別(特定)最低賃金とは、昔はけっこうあった制度で業種別に最低賃金を決めていくことです。聞きなれない言葉でしょうが、現在でもあります。例えば、茨城県の鉄鋼業で働く人は、茨城県の地域最低賃金の1005円でなく、鉄鋼業最低賃金1098円が適用されます。ある意味雇用が不安定な派遣社員の賃金は高く設定されるべきです。もちろん、短期雇用のスポットバイト等の賃金についても上げるべきですが、まずは突破口として派遣業労働者の賃金に手をつけるべきでしょう。

派遣業の最低賃金の話をしたついでに、何年か前にも書いたけど、派遣業の問題点についてまた書きます。

   派遣業では、構造的に違法残業が発生しています

「構造的な違法残業」の説明をする前に、「正常な残業」とは何かを説明します。1日8時間の法定労働時間(例外有)以上の残業をするためには、労働基準法第36条に規定された労使協定(36協定)を締結し、「残業をすること」について、労働者代表の承諾を得なければなりません。労働者代表の承諾がない残業は、すべて違法残業となります。

一般的な民間企業では、この労働者代表を選出するための、なんらかの民主的な方法がとられています(そのはずですが・・・)。そして、労働者代表は使用者に意見を言える立場です。

さて、派遣業についてなんですが、派遣業の36協定は派遣元で締結されます。例えば、X社という派遣会社が、A工場に10人派遣、B工場に10人派遣、C工場に10人派遣、本社で10人労働者いたとします。X社では、全ての派遣先労働者と本社労働者の合計40人の労働者から労働者代表を選任しなければなりませんが、A工場に派遣されている労働者はB工場やC工場、本社でどのような人がいるのかを知りません。また、自分が労働者代表に立候補したくても、他の職場に伝える方法はありません。だから、選ばれるのは必ず本社の事務担当者ということになります。このようにして選ばれた「労働者代表」が36協定の締結者となっているのです。適切な労働者代表が選出されないという理由で、構造的に派遣業では違法残業が発生しているのが現状です。

さて、最低賃金の話をはじめたら、なんか派遣業の話になりました。派遣業と最低賃金についての詳細な話は、また後でします。

損害賠償

(オナガ・智光山公園こども動物園、by T.M)

7/28 東海テレビ

愛知県江南市の教育委員会によりますと、市立古知野中学校で7月18日夕方、プールの水を足そうとした教師が水道の栓を閉め忘れて帰宅し、3連休明けの22日朝まで水が出たままになっていました。

 プールおよそ2杯分1031立方メートルの水が流出し、余計な水道代およそ52万円には公費を充てる方針です。

 文科省は2024年、プールの管理をめぐり教師の業務の負担を減らすとともに特定の教師に賠償責任を負わせないよう求める通知をしていました。

 学校では閉め忘れを防ぐため栓を開ける前に「水を止める」と書いたメモをデスクに残す決まりでしたが、今回の教師はメモを書いていなかったということです。

この記事は「余計な水道代およそ52万円には公費を充てる方針です」という文言を強調し、公務員のミスのために税金を無駄にしたと印象づけたいだろうけど、仕方がない処置でしょう。職員のミスで事業場に損害がでた時に、一方的にその職員に弁済を負わせようとするなら、元労働基準監督官としてはひと言いいたくなります。相手が民間企業であっても、役所であってもあたり前のことです。

以前発生した同じような事件では、学校の職員が弁済したことが新聞記事に載っていました。バカげたことです。その先生は支払いを拒否をすればよかったのにと思います。裁判やったら、多分職員の方が勝つと思います。

それにしても、お粗末な事故ですよね。再発防止対策は簡単だと思います。一番確実なのはハード的措置を行うこと。「プールへの流量が一定以上なら水道をストップさせる」「プールからの排出量が一定以上なら、水の流入を辞める」等です。また、遠隔で監視というのもまたいいかもしれません。

また、古い設備なのでアナログでいきたいというなら、それこそ労働安全衛生の点検基準を参考にすればよいのです

    1 責任者及び担当者を決める

    2 チェックリストを作成する

    3 担当者がチェックし、チェックリスト記入後、

          責任者がチェックリストをチェック

一番いけないことは、一人の人間にまかせること。人は必ずミスをすることを前提に、ミスをカバーできる体制を作ることです。公的機関ではこのへんの管理体制がまったくできていないところも多く、多分上記記事の学校現場もそのようなものではなかったかと思います。それで事件が発生すると、責任はすべて現場では、現場の職員はやってられません。

某公的機関に、「安全経費は予算の優先順位の最上位として下さい」と言ったら怪訝な顔をされました。「なぜ」と聞かれたので、「安全第一だからです」と答えたら、ようやく納得されました。要するに、そんなこと考えたことなかったんですね。

エルピーダ

(秩父のゆるキャラ「ポテ丸」、by T.M)

7/17  UX新潟テレビ21

小千谷市に工場があるパワー半導体製造の『JSファンダリ』の破産申し立てを受けて、ハローワークが説明会を開きました。元従業員からは、解雇への憤りと不安の声が上がっています。

『JSファンダリ』が7月14日東京地裁に破産を申し立てたことを受けて、ハローワーク長岡は元従業員を対象に再就職の支援方法などを説明。小千谷市の工場では、約500人が働いていました。

解雇された元従業員は-

■元従業員(47)

「(解雇が)急だったので、ふざけるなという感じ。6月分の給料が出ていなくて、いつまでたっても具体的な支給日が連絡されない。」

■元従業員(47)

「会社の存続はできないのではないかという気はしていたが、まさか即日解雇だとは思わなかった。この先のことも不安だし、とりあえず心の準備をきめて今後のことも考えなければ。」

また、大光銀行は17日から再就職相談電話窓口を開設すると発表しました。

1900年代の終わりのことです。ある新工場が猛毒のフッ化水素を使用するという情報がはいったので、その事業場へ行ってきました。その工場は、従業員50人程度で、新工場といっても何か古い設備でしたが、は半導体の洗浄用のフッ化水素は、表彰したくなるくらい見事に安全衛生管理が徹底されていました。聞いてみると、そこはNECと日立製作所と三菱電機の半導体部門が合併してできた半導体を製造する新会社で、私が訪問した工場は研究所として使用されていて、来年には別工場に吸収されるので廃止されるということでした。

私は、それを聞いてビックリしました。世界に名だたる「メイド・イン・ジャパン」の中心企業が3つも集まってできる半導体製造工場だから、これで日本の製造業も安泰だなんて思いました。同じ頃、私の生まれ故郷の近くの横須賀リサーチパーク(YRP)は最盛期を向かえていました。関東地方のシリコンバレーになるべく、参加企業が目白押しでした。そんなエルピーダもYRPも今は昔の話です。

今回倒産した『JSファンダリ』は、今はなき三洋電機関係の半導体工場だということですが、よくもった方だと思います。電気自動車部品というニッチな半導体ですから、特殊技術があったと思いますが、電気自動車不況が足を引っ張ってしまったのでしょう。

倒産のやり方ですが、従業員の「即時解雇」とは驚きです。これは本当でしょうか?

ひどい解雇のやり方で、腹が立つ人多いと思いますが、ものは考えようです。引継ぎも清掃もすべて不要ですので、従業員は会社においてある自分の荷物をとりに行けばよいので、冷静に考えると「比較的楽」かもしれません。つまり、通常はひと月間の解雇予告があるはずが、それがないのですから、「賃金1ケ月分の解雇予告手当」が支払われます。解雇日までの1ケ月間働くより、同じだけ給料をもらえるのだから、働かなくて良いと割り切ってしまった方が精神的に楽です。

給与不払いを心配している人がいますが、それは100%支払われます(もしかして、少し遅れることはあるかもしれません)。今回は「夜逃げ」ではなく、「法律的倒産」なので、賃金は他の債権と比較して「先取特権」があるので大丈夫です。もし、会社財産が未払い賃金に充当されなくても、最後は「賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)」に基づき監督署がなんとかしてくれます。ひとつ懸念があるとしたら、立替払いの上限額が370万円なので、それ以上の退職金については不明だということです。

再就職を希望するすべての従業員が、よりよい職場に転職されることを祈ります。

教員の給与

(青い花ネモフィラ・秩父高原牧場、by T.M)

6/11 NHK

残業代の代わりに支払われている教員給与の上乗せ分を引き上げるための改正法が、参議院本会議で与野党の賛成多数で可決・成立しました。

公立学校の教員の給与は、勤務時間の線引きが難しいとして、「給特法」と呼ばれる法律に基づき、残業代の代わりに一律で月給の4%が上乗せされています。

改正法は、処遇改善に向け、この上乗せ分を来年から毎年1%ずつ引き上げ、6年後には月給の10%にするとしています。

また、働き方改革も進めるため、教育委員会に対し、教員の業務量を管理する計画の策定や、実施状況の公表を義務づけることも明記しています。

さらに、負担軽減の観点からも、若手の教員のサポートや、校外の関係者などとの調整役を担う「主務教諭」という職位を新たに設けることなども盛り込まれています。

改正法は、衆議院で与野党協議を経て、4年後までに教員の時間外勤務を月平均で30時間程度に削減する目標などを付則に盛り込む修正が行われ、参議院で審議されてきました。

教師の労働についてなんですが、難しいのは「労働時間とプライベート時間」の区別がつかないということです。「夜回り先生」という方がいました。なんでも、夜中に繁華街で生徒を指導していたそうです。これはとても立派な行為だと思います。でも、この先生が夜中に生徒を指導中に事故で死んだら、はたしてそれは労災(公務災害)でしょうか?

これは夜回り先生だけの話ではありません。教師が休日に生徒の不適切な行動を見つけ注意し、事故にあったら、それは労災でしょうか?

私は労災認定が当然だと思いますが、それでは前述の「夜回り」の時間や、「プライベート」の時間に残業代が払われるべきでしょうか? それも何かおかしい気がします。

こう考えていくと、一律10%の手当てというのは、ある程度合理性があるような気がします。

しかし、ここで注意しなければならないのは、「ある程度」の合理性であって、無制限に労働時間を延長することではないということです。10%が支払われているからといって、授業終了後の部活動の顧問を強制されたり、修学旅行での長時間労働を強制されたりすることはおかしいのです。

いつもの、私の主張に戻りますが、「日本中の学校で修学旅行を廃止」しましょう。例えば、2泊3日の修学旅行では教師は72時間連続労働となります。教育委員会が作成する計画表では「休憩時間」等が記載されているそうですが、実際は、その休憩時間とは「何かあった時に連絡が取れること」が強制されているのではないでしょうか?それは休憩時間ではなく、「拘束されている労働時間」となります。そのような労働態様が10%の手当てが支払われているから許容されるということにはならないと思います。

残業代の代わりの手当てが4%から10%に引き上げられるのは良いことです。でも、それでは法改正は不十分で、さらに「部活手当て」「修学旅行手当て」等の創設が必要なのではないかと思います。

今回の法改正は、よりbetterになったと思います。しかしbestではありません。というよりbestとは何かが判明しません。これは、当事者である教員についても、それぞれ目指すところが違うと思います。なので、誰も反対するもののいない「賃上げ」が達成されたということは結論として良かったことでしょう。