タイミー

(国鉄木次線を走っていたC56、by T.M)

マネーポスト 9/22

“新しい働き方”として持て囃されてきたスキマバイト(スポットワーク)をめぐり、本誌『週刊ポスト』はいち早く、企業側の都合で仕事がキャンセルされるケースが頻発し、「働き手軽視」の実態があると追及してきた。ついに厚労省が注意喚起に動き、業界側も改善を打ち出すが、問題はまだ終わらない。過去のキャンセル分の休業補償について、最大手のタイミーと厚労省の見解に大きな隔たりがあるのだ。

なんかタイミーがもめていますね。タイミーとはマッチングアプリを利用したスキマバイトの紹介業者。

タイミーの業務の事例を挙げるなら、「飲食店で宴会等の貸切客のサービスついて、当日数時間だけの皿洗い等を募集する時」等で、web上のタイミーのHPのプラットフォームを使用して、雇用者と労働者をマッチングさせるものです。まことに、時代にあったサービス業です。

このタイミーのような有料職業紹介は、昔からありました。「マネキン紹介所」等がそれにあたります。それを、スマホ時代に合わせたシステムを作り大々的に広めたのが、この業界の第一人者であるタイミーでしょう。

このような新しい形態の職業では、必ず従前の法体系とトラブルを起こします。タイミーについては、「賃金の直接払い」がそれに該当しました。雇用主はタイミーに給与プラス手数料を支払い、タイミーの方から労働者に支払うのですが、これが労働基準法第24条で規定する給与の直接払いの原則に抵触するのではないかということ疑念がありました。タイミーは厚生労働省に質問を行い、「給与支払日前にタイミーから立替払いで労働者に給与が支払われることは合法である」との結論を得たようです。つまり、通常の雇用形態では所定給与支払日はひと月後くらいになることが多いのですが、タイミーは労働者にすぐに支払ってしまうのです。これは労働者も喜びます。

しかし、タイミーは「休業手当」について失敗したみたいです。雇用主が発注していた業務をキャンセルする場合、労働基準法で定められた休業手当支払いの義務が生じるのは、「労働者が業務を始めてから」と雇用主に説明してしまったそうです。これは、正確には「労働契約を締結していれば、業務が始まらなくても休業手当支払いの義務」は発生します。タイミーでは、この間違いに気づき、現在では是正されているそうです。しかし、過去の未払分が報道では推定3億円あるそうです。

これは、タイミーさん腹をくくって支払うべきでしょう。逃げることはできませんよ。仕事をするつもりで時間を空けていた労働者に、それがキャンセルされたからといって何の補償もないなんてありえません。

理屈上は、この費用はタイミーが弁済するものではありません。仕事をキャンセルした雇用主が支払うべきものです。雇用主はそれが納得できないなら、労働者に支払った後でタイミーに請求すればよいのです。でも、タイミーが支払わなかった場合は、この会社の評判が地に落ちるのは当然の結末と言えます。

なんか順調にいっていたと思えるスキマバイト紹介業ですが、とんだ落とし穴があったものです。ただ、これから伸びる業界であることは間違いないようです。

申し訳ないんですが、ブログは来週更新しません。次の更新は、2週間後の10/12です。

老人のボヤキ2

(土佐のオナガドリ・智光山公園こども動物園、by T.M) 

(今日も「労働問題」でなく、とりとめのない老人のグチを書きます。ご興味のない方はここで他ページに飛んで下さい)

日経ビジネス 7/1

日産自動車が打ち出す経営再建計画「Re:Nissan」へのアナリストの評価が厳しい。2万人のリストラや7工場の閉鎖など踏み込んだように見えるが、投資判断は「売り」一色だ。業績回復は2026年度まで待たねばならないうえ、計画の実行性を疑う見方は根強い。日産再建策の課題を探った。

 再建計画の指揮を執るイバン・エスピノーサ社長は、世界で2万人を削減し固定費と変動費を合わせて24年度比で5000億円減らすリストラ策を打ち出した。ただ、肝心の業績改善は26年度まで待たなければならない。

私の卒業した高校は、日産の追浜工場(横須賀市)の目の前にありました。だから、バイトといったら、日曜日に日産工場にいって、清掃のバイトをしていました。プールみたいなところにヘドロみたいな沈殿物が溜まっていたのを、スコップを使いバケツに貯めて運んでいたような気がします。朝8時から夕方5時まで、びっしりと勤務があり、重労働の割に給与は日給3000円をいかなくて、「安い」なあと思っていました。日産工場でアルバイトをしていたのは、学生だけでなく教師もそうでした。音楽の先生が、自分が指揮者を務める楽団(クラッシク)のコンサートの運営費を稼ぐために夜勤をしていました。今考えると公務員法違反だと思うのですが、当時は誰も止めませんでした。大らかな時代だったのでしょう。

そんな日産追浜工場が閉鎖されるそうです。悲しいことです。でも日産だけではありません。

「みなとみらい地区(横浜市西区)」「ラゾーナ川崎(川崎駅裏)」「テラスモール湘南(藤沢・辻堂駅前)」、この3つの神奈川県を代表するショッピングゾーンには、共通点があります。それぞれ、1990年代以降に大企業の工場跡に作られました。「みなとみらい」は「三菱重工業、横浜造船所跡」ですし、「ラゾーナ川崎」は「東芝、川崎工場跡」ですし、「テラスモール湘南」は「関東特殊鋼工場跡」です。これら廃止された工場で働いていた人たちはどこに行ったのでしょうか。因みに、私が神奈川労働局の労働基準監督官をしていた時に、閉鎖された工場はこれだけではありません。思いつくかぎり、次のようなものがあります。関東自動車横須賀工場、日本IBM藤沢工場、資生堂大船工場、合併した造船所(日立造船、JFE)、野村総研・鎌倉研究所等です。協力会社を含めると、従業員1000名~10000名(もしかしたらもっと多い)の大工場です。また、40年前に鳴り物入りで誘致した横須賀リサーチパークでは撤退企業があいついでます。地方都市でしたら街全体が大騒ぎになりそうな工場・研究所がどんどんなくなっています。

日本は不況だと言われていますけど、昔のようによくなるためには、これら工場群がすべて復活すればいいんだとは思いますが、この少子高齢化の世の中ではそれも難しいでしょう。

でも工場がなくなって良いこともあります。私の住居(横浜市港南区)の近くを流れる大岡川近辺は、横浜スカーフと呼ばれた、1970年代には日本国内生産量の90%、世界生産量の50%を占めるスカーフづくりの一大拠点でしたが、現在では1社もありません。そのせいか、大岡川は横浜の繁華街を流れているのにもかかわらず、サギやカモ等が訪れる清流を維持していて、川べりを散歩していると、日本の高齢者は、元気のなくなった世の中で静かに去っていくのかな、なんて思います。

先日、高校の同窓会の便りが届きました。50年ぶりです。昔の借りを返すために出席しなければならないと思いますが、みんなそんなことを考える世代になっているのでしょう。

今回は、とりとめのない話ですみません。

化学物質

(フラミンゴ・川崎市夢見ヶ崎動物公園、by T.M)

厚生労働省の主唱で化学物質管理強調月間が来年2月から始まります。化学物質を取り扱ったことのない人はピンとこないかも知れませんが、化学物質の規制の仕方が現在大きく変わってきてて、今は過渡期です。

従来は、ある物質について、法律で「有機溶剤」とか「特定化学物質」とかの指定をして、「有機溶剤だから、これこれの規制をする」「特定化学物質はこうでなきゃだめだ」という規制をしてきたのです。でも、このような規制方法がまったく役にたたないと思える「ある事件」が起きたのです。これからその事件と、その後の疑問が残る大阪労働局の対応についてお話します。

メタン、エタン、プロパンは炭素と水素からなる炭化水素系の構造のよく似た物質です。常温では、3者とも気体ですが、水素原子2個を塩素原子2個に置換することで、それぞれ常温で液体のジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロプロパンとなります。10年ほど以前まではジクロロメタン、ジクロロエタンは「有機溶剤」として労働安全衛生法の規制の対象でしたが、ジクロロプロパンは法の規制の対象外でした。そして、3物質とも、それぞれを原料とした塗料が製造されていました。

(注)3物質とも現在は「特別有機溶剤」に指定されている。

ある大阪の印刷会社に塗料メーカーの営業マンがやってきて、その会社の社長にこう述べたそうです。

「ジクロロプロパンを原料としたインクは、ジクロロメタン、ジクロロエタンを原料としたインクと違い法の規制がないので、局所排気装置を備えたり、健康診断を実施したり、作業主任者を選任する必要がありません。」

社長は営業マンの言うとおりに、何の衛生管理もしないでこの塗料を使い続けたところ、ジクロロプロパン使用を原因とする胆管がんが従業員17名に発症し、そのうち8名が死亡するという事件が起きてしまいました。

有害指定をしていなかった化学物質により引き起こされたこの事件は、「胆管がんショック」として関係者に記憶されることになります。

この事件で疑問なのは、大阪労働局がこの印刷会社を検察庁に書類送検したことです。その罪名は「衛生管理者未選任」「安全衛生委員会未実施」というもので、「有害物質をばく露対策をせずに使用させた」と行為については、遂に罪に問えませんでした。

しかし、この事件は「ジクロロプロパン」を有害物の指定をしなかった行政の責任って重いのではないでしょうか。有害物の指定さえしていたら犠牲者はでなかったような気がします。逆に、大阪労働局が送検した内容の法違反がなく、会社が「衛生管理者を選任して」いたとしても、ジクロロプロパンを使い続けていれば悲劇は起きたと思います。

(もちろん会社が衛生管理を蔑ろにしていたことは多いに反省して欲しいと思いますが)。

さて、この「胆管がんショック」を契機として、行政は今までのように、化学物質を「有機溶剤」や「特定化学物質」に分類して管理することをやめ、リスクアセスメントの方法を示し、各事業場で化学物質の有害性を評価してもらうことを法制化しました。確かに、この方法なら「胆管がん事件」は防止できます。この手法の詳細は後日書きます。

年末に、なんか行政への愚痴になっちゃたけど、現場で働く監督官・専門官の方を応援しています。

では、よい年をお迎え下さい。

ブラック企業とは

(ローテンブルクの街並み、by T.M)

先日、NHKのプロジェクトXを観ました。大成建設の職員が、トルコのボスポラス海峡に地下鉄を通すためのトンネルを施工する物語です。ボスポラス海峡は地層が軟弱で掘削はできず、海の中に、陸上で製造した人口トンネルを沈め、それを結合する「沈埋工法」という技術で臨みますが、海峡の流れが速く、うまくいきません。そんな悪条件の中で、仕事を完成させ、イスタンブールの市民に感謝され、日本―トルコ有効に寄与するという実話です。

私は、この番組を観て、「ブラック企業」と「働きがいのある企業」とは紙一重だなと思いました。まずは、番組を観て、大成建設って、もしかしたら「ブラック企業」と思えたところを2点ほど指摘します。

1 困難に遭遇した現場代理人たちの労働時間が、非常に長いように思えました。というか、異国で働く現場代理人たちは、身も心も仕事に捧げているように思えました。

2 危険な仕事が発生し、率先して現場代理人が作業する

もちろん、これらの場面を「ブラック」と見ないで、逆に「尊敬できる行い」を現場代理人が行ったと考える方が大部分だと思います。本音の部分で私もそう思います。でも、元労働基準監督官としては、次のような事件も思い出すのです。

日経新聞

新国立競技場の地盤改良工事で施工管理をしていた23歳の新入社員の男性が2017年3月に過労自殺した問題で、男性が所属していた建設会社は17年7月21日、日経コンストラクションの取材に対して管理体制に不備があったことを認めた。男性が自殺する直前1カ月の時間外労働は200時間を超えていたが、会社は把握していなかった。

今から60年前の高度成長期に開催された、あの「伝説の東京オリンピック」の時に、新国立競技場を作っていた企業の責任者たちは、みな使命感に溢れ、残業なんていくらでもかまわないと思っていたと思います。しかし、それから50有余年を経た時のオリンピック工事では、新入社員が激務に耐えきれずに自殺してしまうのです。(自殺した時期が「コロナ禍」前であることにも注目です)

いったい、この半世紀で職場で何が起きているのでしょうか。それとも、半世紀以上前のオリンピックで高揚感があったと思うのは、私の間違いでしょうか。

さて、前述の大成建設の現場代理人の話ですが、これから先多くの若者たちが、プロジェクトXで紹介された仕事に憧れ、同じような職種につこうとするでしょう。そして多くの者が、現実は違うと考えてしまうと思います。ただ、そんな若者たちに、分かって欲しいことがあります。単純なことです、

「良い人間関係の中で好きな仕事を行えば、何時間仕事しようが精神的な部分は大丈夫」

「嫌いな仕事を嫌な人間関係で行えば、そこはブラック企業となる」

ということです。そして、仕事の「好き」「嫌い」は本人の資質ですが、「人間関係」は「出会い」の問題であり、運次第ということです。残念なことですが、どんなに素晴らしい仕事をしていても、人間関係が悪ければ、そこはブラック企業になってしまう可能性があるのです。

熱中症と役所の対応

(ポルシェとウルムの街並み、T.M氏のドイツ出張中の写真です)

毎日暑い日が続きます。今日は熱中症のことについて書きます。

世の中には、猛暑の中でも、熱から逃れられない仕事があります。例えば、私が見聞した作業の中では、ビル建築現場の屋上の防水工事がそれに当たります。真夏に、ビルの屋上に熱したアスファルトを敷いていました。火傷防止のため作業員は、長袖の作業服の袖をとめ、軍手をしています。当然、ヘルメットを被っています。そんな過酷な建設現場で、熱中症の死亡災害が発生しましたが、それは懸念されていた屋上の防水工事ではなく、日が差さない地下の電気工事の作業員でした。被災者は60歳代で、直近の定期健康診断で高血圧症と診断されていました。

熱中症はやっかいな疾病です。

その理由の第一は、どこで起きるか分からないということです。鉄工所の溶鉱炉の傍の業務とか、空気の流通のなお造船所の船底の業務では意外と発症しません。それはみんな注意しているからです。そして、思いもかけない所で発症してしまうのです。墜落災害は墜落危険個所で作業している者にしか発生しませんし、機械への巻き込まれ災害は機械近くで作業している者にしか発生しません。しかし、熱中症はエアコンが有効に機能していない場所ならば、どこでも発症します。しかも同じ環境で、同じ時間仕事をしていても、熱中症となる者、ならない者がいます。高齢者、基礎疾患のある者、その日たまたま体調の悪い者等がリスクが高くなります。

やっかいだという理由の第二は、重篤災害となる可能性が高いということです。労災の統計によると、他の労災と比較して発生率はさほど高くはありませんが、一端発症すると、死亡率は他の災害の6倍に上ります。ウチの会社は今まで大丈夫だったからと安心していると、いきなり重症となる熱中症が発生する可能性があるということです。

理由の第三は効果的な保護具がないということです。高所作業なら「安全帯」、化学物質関係なら「保護マスク」等の保護具があります。しかし、熱中症にはそのような保護具はありません。各企業は現在こぞって、熱中症対策の保護具を開発中のようですが、その中には、JISで規格化されるような決定的なものはありません。私も、いくつかは試してみましたが、クールベストが一番良いようでした。しかし、それは効果時間が限られています。結局は熱中症対策とは、「休憩」「給水」くらいしか思い浮かびません。

そういえば、「給水対策」といえば、こんなことがありました。私が、市営の大きな公園の安全診断をした時のことです。非常に大きな公園で、雑草抜きや刈払機を取扱う現場の人が数人いたので、そこの管理事務所に「現場で働く人のための熱中症対策としてスポーツドリンクを用意して下さい。建設工事現場や工場ではそのような対策をしています」と依頼したところ、「それはできません」と断られました。「税金で職員にスポーツドリンクは用意できない」ということでした。エアコンの利いた事務所で予算を管理する役所の人の感覚ってこんなものかと思いました。私が役人だった時から変わっていません。

さて、来週は夏休みでブログの更新はしません。次は8月18日に更新します。

暑さが続きますが、皆様、体調管理にお気をつけ下さい。