パンプス?

(伊豆の踊り子像・伊豆湯ケ島温泉、by T.M)

次のような新聞記事を見つけました。

安倍晋三首相は3日午後の参院予算委員会で、職場で女性にハイヒール着用を強制しないよう求める運動について問われ、合理性を欠くルールは許されないとの見解を明らかにした。小池晃氏(共産)への答弁。
  日本では女性のハイヒール強制反対を訴えた「♯ KuToo」運動が会員制交流サイト(SNS)などを通じて話題になっていた。安倍首相は職場での服装に関しては、「パンプスの着用を強制するような、苦痛を強いるような合理性を欠くルールを女性に強いることは許されないのは当然のことだ」と言明した。
  ただ、個々の企業のルールについては「適否を政府として一概に判断することは難しい」と述べ、まずは関係法令の趣旨も踏まえ、労使で話し合うことが重要だと述べた。

恥ずかしいですけど、この国会の論争の意味が、私には何のことか分かりませんでした。
そもそも「パンプス」って、何ですか?
「ファッション」とか「お洒落」という言葉とは縁のない人生でした。もはや死語となってしまいましたが、「ダサい」人生を60年おくってきたもので、その辺の言葉は分からないのです。

「#KuToo」運動というのは、「#MeToo」運動と類似する運動のようだと思いますから、差別とハラスメントを問題としたものだと思います。
多くの差別は、「無知」と「偏見」から発生することは、多少は分かっているつもりです。「無関心」についてはさらに悪いものなのでしょう。
でも、「目の前にいる女性が、パンプスをはいているかどうか分からない」という者が、何が「差別」かが理解できるでしょうか。
この国会答弁についても、男性である安部首相の答弁だけでなく、質問者の男性の小池氏も、どれだけ切迫感をもっていたかと疑問に思います。

最初に、「#KuToo」運動の話を聞いた時に、
「パンプスでの通勤は危ないということだが、通勤の時は別の靴で行って、職場で履き替えればいいじゃないか。建設現場では、普通に安全靴に履き替えるけど」
と思いました。

こんな感想をある人に言ったら、次のように叱られました。
「職場で安全であるかどうかが問題なのだ。また、多くの職場の安全衛生委員会では、それが形骸化してしまっていて、女性のパンプスの問題が話せる機会がない。つまり、問題提起されるシステムがなく、当事者の話を誰も聞かないことが問題なんだ。」

なるほど、この説明なら、頭の固い元役人でも理解できると思いました。

(注)「安全衛生委員会」(あるいは、業種によっては「衛生委員会」)とは、労働安全衛生法により規定された、従業員50人以上の会社が設置すべき委員会。委員の半分は、過半数の労働者を代表する者から構成される。ひと月に1回以上の開催及び、その議事録の開示が義務付けられている。
本来、「パンプス着用の職場で必要性及び安全・健康の確保」は、この委員会で検討されなくてはならない。
「従業員50人以上の会社」の「従業員数」の中には、「派遣社員」「パート労働者」も含まれるので、当然、その方達の意見も聞かなければならないが、多くの職場では、この安全衛生委員会が機能していない。
また、従業員が50人に達しない事業場で、従業員の意見をどうやって吸い上げていくかが、労働安全衛生の課題である。

 

労働組合と災害派遣

(旧出島神学校・長崎、by T.M)

今週もコロナウィルスの話です。
現在、地方労働局レベルで、今回の騒動の対策のために、色々な支援をしているようです。
具体的に言うなら、幹部職員を中心に、本来の業務以外の部署に派遣され、専門部隊である医療関係者が業務をしやすいようにお手伝いをしているようです。

この非常時にこのような措置は当然のことだと思います。

ただ、別の部署の私の友人は、こんなことを言っていました。
「誰かが手伝いに行っているということだが、誰がどこに行っているのかが、情報としては公式に流れてこない。私も、できれば何か手助けに行きたいのだが・・・」
この友人は、東日本大震災の時も、真っ先に手を挙げて、被災地の監督署に行ったオッチョコチョイですが、頼もしい男です。

私はこの友人に次のように答えました。
「現在は、大規模な支援ができる体制がまだ整っていないのだろ。東日本大震災の時と違い、今度は見えない敵だ。人海戦術が使えるかどうかは分からない。また、現場に派遣した職員が風評被害に合う可能性がある。だから、業務内容についても公にできないし、管理職が率先して行くのは道理に合っている。それに、労働組合が組合員を派遣することには反対するだろ。

さて、話は変わり労働組合のことです。

Wikipedia での「イラン・イラク戦争」の解説記事にこんな一文があります。
1980年に戦争勃発後、イランの首都テヘランからの在留邦人脱出の時の話です。長くなりますが、引用します。

イランに住む日本人以外の外国人はおのおの自らの国の航空会社や軍の輸送機によって順次イランから脱出していった。ところが、日本においてはそうではなかった。ただちに日本航空にチャーター便の派遣を依頼したのだが、同社のパイロットと客室乗務員が組織する労働組合は、組合員の安全が保障されないことを理由にいずれもこの要請を拒絶した。いまだ200名を超えるイラン在外日本人が全く脱出方法が見つからずに、生命の危機に瀕する状況にあった。
なお当時の自衛隊法は、自衛隊の外国における活動を人道目的を含めて想定しておらず、また、イランまでノンストップで飛行できる航空機が配備されていなかったため、自衛隊を派遣するのは事実上不可能だった。
だが、土壇場で個人的な親交に一縷の望みを託した野村豊在イラン日本国特命全権大使がイスメット・ビルセル在イラントルコ特命全権大使に救援を要請したところ、トルコ政府が応じ、ターキッシュ・エアラインズの自国民救援のための最終便を2機に増やしたため、215名の日本人がそれに分乗してイランを脱出した。タイムリミットの1時間15分前だった。
なお、トルコ機は自国が近隣に位置することから陸路での脱出もできる自国民よりも日本人の救出を最優先し、実際この救援機に乗れなかったトルコ人約500名は陸路自動車でイランを脱出した。このようなトルコ政府とトルコ航空の厚情の背景には、1890年(明治23年)日本に親善訪問した帰途、和歌山沖で遭難したフリゲートエルトゥールル号救助に際し日本から受けた恩義に報いるという意識もあったと言われている。
2015年、日本・トルコ修好125周年を記念し、エルトゥールル号遭難事件とテヘラン邦人救出劇を描いた映画『海難1890』が日本・トルコ合作映画として製作された。

労働組合が、邦人救出を断ったのは日本の労働組合史に残る汚点だと思います。この時に、会社が、組合を通さずに直接にパイロットや客室乗務員に呼びかけたなら、志願者は必ずいたはずです。どこの会社でも、自分の職務を通して、社会貢献している実感を得たい人は一定数います。

さて、全労働(労働局内の過半数労働組合)は、大きな災害への職員の派遣について、常に消極的であったという歴史を持ちます。阪神・淡路大震災では当局への協力を拒み、東日本大震災では、
「志願者が行くことは反対しないが、強制されることは許されない」
と述べていました(まあ、確かにこれはあたり前のことですが・・・)
今回のコロナ騒動では、労働局の職員を含めた厚生労働省の全職員が、何かに立ち向かわなければならないこともあると思います。
その時に、「職員の安全確保」を訴える労働組合の存在は必要です。しかし、それをやり過ぎて、「職員のやる気」に水を差さないようにして頂きたいものです。

 

印象操作

(五十里(いかり)ダム・日光市川治温泉,by T.M)

ちょっと間違っているなと思えるニュース記事を見つけました。
フェイクニュースとまでは言えないけれども、恣意的に人々の不安を煽っているようなニュースです。「日刊ゲンダイ」の2月7日の記事です。

次のようなものです。

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 厚労省が公表している「新型コロナウイルスに関する事業者・職場のQ&A(2月4日時点版)」によると、<2月1日付けで、新型コロナウイルス感染症が指定感染症として定められたことにより、労働者が新型コロナウイルスに感染していることが確認された場合は、感染症法に基づき、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことができることとなりますので、それに従っていただく必要があります>とあり、
―(略)-
 さらに<新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか>との問いに対しては、こうある。
<新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取扱については、労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、労働者が安心して休暇を取得できる体制を整えていただくようお願いします。なお、賃金の支払の必要性の有無等については、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案すべきものですが、法律上、労働基準法第26条に定める休業手当を支払う必要性の有無については、一般的には以下のように考えられます>とし、<新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません>と明記されている。
要するに新型肺炎に感染しても休業補償はなしということ。会社を休む場合は有給休暇や欠勤扱いというわけで、これでは、仮に感染が分かっても内緒で通勤するサラリーマンがいても不思議ではない。
 厚労省の指針は今後、変わる可能性があり、あくまで現時点だが、政府にはスピード感を持って対応してほしいものだ。

(以上、新聞記事)

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中国に進出している日本の自動車メーカー等は、現在操業停止としているところが多いようです。
私は、今回のウィルス事件で、日本でも中国同様に、ウィルスの感染を恐れて工業の操業停止になった場合の労働基準法第26条の休業手当の支払いについてはどう判断すれば良いのかと疑問に思っていました。
この新聞記事は、厚生労働省が「休業手当を支払う必要がない」という指針を示したように印象操作しています。
その指針を調べてみました。次のものです

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q3

同指針では
① 企業が操業停止になった場合の休業手当の支払いについて
② 労働者が、コロナウィルスに感染した時に、企業が休業を命じた場合の休業手当の支払いについて
の2項目について回答しています。この2つは別々の問題です。
ところが、新聞記事では、この2つの項目の文章をつなぎ合わせて、
「感染が分かっても内緒で通勤するサラリーマンがいても不思議ではない。」
という結論に持っていっています。要するに、行政が間違っているということを主張したい訳です。

ちなみに、同指針では次のように記載されています。
①  工場停止の場合、企業の休業手当の支払いの必要の有無はケースバイケース
②  労働者がコロナウィルスにり患して休業した場合は、休業手当の支払いは不要。(これは、以前から当たり前にことです)

さらに、同指針では、②のコロナウィルスにり患し、欠勤した労働者については、次のように説明しています。
「被用者保険に加入されている方であれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償されます。具体的な申請手続き等の詳細については、加入する保険者に確認ください。」
つまり、社会保険に加入している労働者については、休業手当でなく傷病手当金が支給されることが明記されているのです。

別に、厚労省の肩を持つ訳じゃないけど、結論ありきの報道ではなく、正確にして伝えて欲しいものです。

コロナウィルス

(平家落人の里・湯西川温泉,by T.M)

(株)興研とか(株)重松製作所とか言っても、一般の方には何をしている会社なのかは分からないと思います。両社とも、工業用のマスク(防塵マスクや防毒マスク)の老舗の製造メーカーで、労働安全衛生に関係した者なら誰もが知っている、安心で信頼のおける会社です。両社の作るマスクのおかげで、どれだけ多くの労働者がアスベストや有機溶剤から身を守れたかことでしょうか・・・

この2社の株価がとんでもないことになっています。1月27日(月)から1月31日(金)までの間にほぼ2倍となりました。このコロナウィルス騒動のせいです。水曜日の夜にこの事態に気付いたのですが、先週と比較し1.5倍程度になっていたので購入を見送りました。すると木曜日に両社ともストップ高で、金曜日に2倍に達しました。月曜日買いでも「間に合うだろうか」と考えています。

ところで、「このウィルスでの感染は労災認定になるのでしょうか」。まず、日本人の最初の感染者である、バスの運転者とバスガイドについては、普通に労災認定されるものと推測します。「日本で今まで、発症例がなく、業務によりウィルス発症地域の住人(乗客)と数日にわたりクルマの中という限定区域にいたため、この乗客より感染した可能性が極めて高い」というケースですから、発症の業務起因性は十分と思えます。

でも、問題はこの後です。今後、どれだけの人が発症し、また労災認定されるでしょうか。海外赴任していた人の海外労災の適用はどうなるでしょうか。また、通勤経路で感染したという人が現れたら、通災となるのでしょうか。

いくつか疑念があったので、地方労働局の現役の労災担当者に質問してみました、すると次のような答えが返ってきました。

「ダメダ。一切答えられない。その件についてはかん口令がひかれている。」

答えを聞いてから、「無神経な質問」をしてしまったなと反省しました。役所に在籍している者が、現在社会的な問題となっている現象に対し、例え雑談でも答えるはずがないからです。「かん口令」はオーバーとしても、誤解や憶測を生む言動をしないためにも、自ら情報を発することは控えるのが常識です。

そんな訳で、知恵袋のアドバイスがないままに、情報を整理し、私なりに妄想をふくらましてみました。
まずは、多くの人が気にしていること。「通勤途中にセキをしている人が隣にいたが、しばらくしてから新型ウィルスに感染していることが判明した。あの時にうつされたに違いない」という場合ですが、やはり通勤災害の認定は無理でしょう。因果関係の立証が困難すぎます。
また、海外労災についても業務起因して発病したかどうか立証できるかにかかっています。もっとも、「これから赴任する」という方(例えば、会社所属のジャーナリストが業務により赴任する場合)は、労災認定も有りかなと思ってしまいます。
いずれにせよ、「労災を認定されるかどうか」は、一例づつすべて違いケース・バイ・ケース。とても奥が深くて難しい問題です。

すみやかな感染の終息と、感染者の早期の回復を願い、今日の妄想はこれまでとします

「タニタ」の記事

( 乙女高原のレンゲツツジ、by T.M)

日経ビジネスで面白そうな記事を見つけたので、ご紹介します。
体脂肪計で国内シェア首位の健康機器メーカー、タニタ(東京・板橋)は2017年に新しい働き方の制度を導入した。タニタの社員が「個人事業主」として独立するのを支援するというものだ。独立した人には、従来のタニタでの仕事を業務委託し、社員として得ていた収入を確保する。こうすることで働く時間帯や量、自己研さんにかける費用や時間などを自分でコントロールできるようにするのが狙いだ。副業としてタニタ以外の仕事を受け、収入を増やすこともできる。
 発案者であり、制度設計を主導した谷田千里社長は、「働き方改革=残業削減」という風潮に疑問を抱いていたという。働きたい人が思う存分働けて、適切な報酬を受け取れる制度を作りたいと考え、導入したのがこの「社員の個人事業主化」だ。開始から2年半がたち、「タニタ」では手ごたえを感じているという。
(タニタの「個人事業主」制度の概要)
 対象はタニタ本体の社員のうち、希望する人。退職し、会社との雇用関係を終了したうえで、新たにタニタと「業務委託契約」を結ぶ。独立直前まで社員として取り組んでいた基本的な仕事を「基本業務」としてタニタが委託し、社員時代の給与・賞与をベースに「基本報酬」を決める。基本報酬には、社員時代に会社が負担していた社会保険料や通勤交通費、福利厚生費も含む。社員ではないので就業時間に縛られることはなく、出退勤の時間も自由に決められる。
 基本業務に収まらない仕事は「追加業務」として受注し、成果に応じて別途「成果報酬」を受け取る。タニタ以外の仕事を請け負うのは自由。確定申告などを自分で行う必要があるため、税理士法人の支援を用意している。契約期間は3年で、毎年契約を結びなおす。
 2017年1月から始めた8人の場合、平均の収入は28.6%上がった。この中には、従来会社が支払っていた社会保険料が含まれ、独立した社員は任意で民間の保険などに加入する。一方、会社側の負担総額は1.4%の増加にとどまった。3年目に入った現在、26人の社員が独立した。

面白そうなアイデアだと思います。うまくいけばいいと思います。でも、難しいと思います。
夢を語る事業主にとって、上司・部下の関係でなく、一緒にゴールを目指す「仲間」と進むことが、ロマンなのかもしれません。インタビューの内容を読む限り、「タニタ」の社長様は、非常に誠実な方のように思えましたが、将来社長様が交代なさった後で、実際に「業務委託契約」が継続されるのでしょうか?

労働基準法から考えても、上記の契約は無理があるような気がします。もちろん、「タニタ」のような大企業であり、「タニタ食堂」に代表されるように従業員の福利厚生を常に考えている企業ですから不法なことはしないように思えます。
労働基準法上で、労働者であるかどうかについては、次の5点で判断します。
① 仕事の依頼に対する諾否の自由の有無、②業務遂行上の指揮監督の有無、③時間的・場所的拘束の有無、④補助労働力の利用および代替性の有無、⑤報酬の労務対償性の有無
この中で、「タニタ」の制度では、「補助労働力の利用および代替性の有無」が問題となります。つまり、「業務委託契約」を締結した者(個人事業主)が、約束した日に急に所用ができた場合に、代替の者にまかせることは可能でしょうか。また、「業務委託契約」を100万円で受けた者が、他の者にそれを50万円で下請けにだすことは可能でしょうか?

うまくこの制度が回っているうちはいいでしょうが、一端トラブルが発生した場合に、この観点から労働者であることを主張する者がでてくるような気がします。
(また、「補助労働力の利用および代替性の有無」を考える時に、「ウーバーイーツ」等の新しい業務形態も労働者性が疑われます。)

労働者を自主的に動ける「個人事業主」にしたらどうだろうかということは、他の企業も考えてきました。大きな「人材紹介・派遣会社」では、「社内起業」を奨励しています。また、大きな居酒屋のカリスマ社長の言動からは、社長の「労働」に求める価値観は、「個人事業主」のような労働者を理想としているように思えます。この、「人材紹介・派遣会社」も「居酒屋」も、かつて「過労死で労災認定されている事件が発生しています」が、これは偶然ではないような気がします。
「個人事業主」の形態をとる業務は、今後も増えてくると思いますが、結果として働く者の労働条件の低下になるのではないかと懸念されます。