通勤手当

(石州瓦の民家・島根県木次市、by T.M)

朝日新聞 9/20

東京都八王子市は19日、市職員97人が通勤手当を不正に受給していたとして、計1671万円分が返納されたと明らかにした。実際の不正受給額が確定し、調査が終わり次第、関わった職員を処分する方針。

 市によると、都内の自治体で昨年、同様の問題が相次いだことを受け、調査を実施。市の正規職員約2700人のうち、昨年9月時点で公共交通機関を利用すると届け出た1111人を対象に、聞き取りなどで実態を調べた。その結果、166人の職員が、バスや電車の定期券を購入せずに徒歩で通勤していたり、届け出た通勤経路とは違うルートだったりしたことが判明。このうち、届け出と実態が大きく異なる97人の職員に対して返還を求め、昨年末までにバスや電車の定期代計1671万円が市に返納されたという。最長5年半、計135万円を受給していた職員もいたという。

 多数の職員が関わり、一部区間の不正も含まれているため、調査に時間がかかっているとし、市職員課の担当者は「急いで調査を進め、職員の処分については厳正な対応をしたい」と話している。

これけっこう難しい問題なんですよね。「実際は近くに住んでいるのに、遠方の親の家から通っていることにして、通勤手当をごまかしもらっていた」こんな分かりやすい事例だといいんだけど、実際は「普段は健康のため歩いていました。雨が降ったらバスに乗ってました」みたいなことが多いと思います。「バスに乗った分だけ請求すればよい」なんて簡単に思う人は、総務・経理系の仕事をやったことなない人。業務簡素化に逆行することは明らかです。

このように通勤方法が何通りかある人にとって一番問題なのは、「通勤途上の災害(通災)」が発生した場合です。通常の通勤経路で被災すれば通災となりますが、それ以外はダメです。通勤手当の不正受給がなされていた場合、通常の経路(不正経路、徒歩)で事故がおきても、「バスを使っていないからダメだ」と言われかねないです。これ、けっこう大きなことですよ。

通勤災害と労働災害の労災保険の補償の内容は同じです。そして、労災保険とは他の社会保険と比較し手厚い補償となるケースがあり、若くして働き手をなくした一家への遺族年金保障等で大きな違いがでることがあります。ケチ臭い通勤手当の不正受給をして、このような補償が受けれなくなることは馬鹿馬鹿しいものです。

(注)労災と通災の違いは、労働基準法第19条に規定される「解雇制限」が適用されるかどうかです。

ストレスチェック

朝日新聞 10/28

連合の芳野友子会長は25日、鹿児島市での連合鹿児島の定期大会に来賓として出席し、高市早苗首相が指示した労働時間規制の緩和の検討について、「長時間労働によって尊い命が失われた事例を忘れてはならない。長時間労働を積み重ねれば生産性が上がるかのような言説に惑わされることなく、すべての働く者の幸せを追求していただきたい」と牽制した。

 芳野会長は報道陣に対し、「働き方改革関連法の目的は過労死ゼロとワーク・ライフ・バランス。過労死、過労自死が減っているわけではない実情を見て取り組んでいただきたい。今の状況は看過できない」と説明した。

過労死には2種類あります。「脳・心臓疾患」系のものと「精神障害」系の2種類です。このうち、「脳・心臓疾患」系は生活習慣病が、そして「精神障害」系はストレスが大きく影響します。「脳・心臓疾患」系は脳梗塞や心疾患を引き起こし、ストレスは適応障害等を引き起こし自殺等の原因となります。上の図で分かるように、過労による労災認定で増加しているのはストレスに起因するものです。

生活習慣病に由来する脳・心臓疾患については毎年の定期健康診断の結果からセルフチェックを行うことが最大の予防策だと言われています。それに比較しストレス性の疾病については、実は何の対策もたてられないのが現状です。ストレスチェックでストレスの重篤度が可視化されても、対策が実施されないのが現状です。

ストレスチェックには3つの目的があります。

第一 職場における当該労働者の心理的な負担の原因
第二 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状
第三 職場における他の労働者による当該労働者への支援

第一は仕事の内容や仕事量がマッチしているかどうかのチェックであり、第二は「病気」等の不安を本人がもっているかどうかについてであり、第三は職場の人間関係によるストレスがどのくらいなのかのチェックです。

この中でどうしようもないのが、第三番目の「職場の人間関係」です。「パワハラ」「セクハラ」は見えやすいんですが、「なんとなく悪い」という人間関係はどうにもなりません。

さて、冒頭の芳野会長の言葉なんですが、労働時間を減らして確実に効果があるのは「脳・心臓疾患」系の過労死についてであり、「精神疾患系」の過労死についてはほとんど効果がないのが実態です。

好きな仕事を良い人間関係と満足な労働条件でやっていれば、何時間残業しても「ストレス性の過労死」にはなりません(「脳・心臓疾患」系の過労死は別)。逆に嫌な仕事を嫌な奴と不満足な労働条件で仕事をすれば、すぐにメンタルはやられます。

労働時間を短縮し、労働者が豊かな時間を持つことには賛成です。でも、現代で「過労死」が増えているのは、単純な長時間労働だけが原因ではないような気がします。難しい問題です。

コラム

(神社のようなJR木次線出雲横田駅、by T.M)

何か忙しいです。前に書いた来年1月からの雑誌(3万部くらい)の1年間連載の第1回目の原稿と、1年間の連載の計画を11月1日までに持って来いと言われています。

ブログ書く暇なくて、来週休むかもしれません。

今週も書くことないんですが、考えてみたら雑誌出している災防団体のHPに何回かコラム書いているんで、それを紹介しすることにしました。

https://www.jisha.or.jp/info/campaign/chemicals/column.html

ここのコラムは何回か書いているんで、この手を今後も使うかもしれません。

そんな訳で、来週ブログは休みます。再開は11月2日です。

電話対応

(潜水橋・島根県木次市、by T.M)

ポニチ 9/13

実業家・堀江貴文氏(52)が13日までに公式X(旧ツイッター)を更新し、わざわざ電話をかけてくる人物への“イラつき”をつづった。

 堀江氏は「なんでLINEで済む案件をわざわざ電話してくんのかね」とポスト。

 堀江氏は19年に「NO TELEPHONE」という楽曲をリリース。そこでも、電話がかかってくるとスマホが操作できない、相手のタイミングを考えてないことなどを理由に「バカ野郎」などと猛批判している。

電話って、嫌われていますね。なんか、分かるような気がします。ウチも固定電話にかかってくるのは、サギまがいの営業の電話ばかりです。労働安全衛生コンサルタント事務所の電話と兼用しているため、なくすことはできないんですが、「非通知」の電話なんかには絶対にでないことにしています。

そういえば、私の所属する災害防止団体もHPに電話番号を載せなくなりました。この団体は、基本的にサービス業なんだけど、メール対応だけで大丈夫なのかななんて思ってしまいます。

私の古巣の労働基準監督署では、電話対応はどうなっているんでしょうか。私が現役のころはかかってきた電話は、新人監督官が対応するものと決まっていました。クレーム電話対応などにふりまわされ、一日中何もできなかったこともよくありました。でも今思えば、無駄だと思っていた電話対応でずいぶん勉強になったと思います。それから、電話の対応がうまくなるたびに、申告対応がうまくなっていったような気がします。

もはや廃れてしまった、監督官の電話対応テクニックを紹介します。

賃金不払いや解雇予告手当不払いについて、労働者からの申告を受理した時に、凡庸な監督官はすぐに「出頭要求書」を送付します。これは、「○○の要件がありますから、〇月〇日〇時に監督署に出頭して下さい」と記載されています。これって、いきなりもらったら、もらった人がどう思うでしょうか。以前このブログに書いたように、労働問題は人間関係のトラブルが多く、誰が悪いかなんって、一方的には決められないことが多いのです。

また、いきなり予告なしの臨検監督を実施する者もいます。これは上局が勧めるやり方ですが、現場を知らない意見です。

(注)すべての「予告なし臨検監督」がいけないと言っている訳ではありません。残業代不払いであるとか、安全衛生関係の臨検監督は、当然「予告なし臨検監督」でなければいけません。しかし、「常習でない賃金不払い事件」や「常習でない解雇予告手当不払い」については、それなりに理由があるケースが多いのです。

申告処理に慣れた監督官は、まずは電話をかけます。そして、担当者と話しをします。ここで、気を付けなければならないのは、担当者が不在な時に、「監督署が、どんなご用件でしょうか」と尋ねれられても、用件を言ってはならないということです。もし、担当者以外に、「○○さんの件で電話をしました」と言ってしまうと、後で担当者から「監督署は、従業員に余計なことを言った」と怒られてしまいます。担当者は、監督署から連絡があったという伝言だけで、何の件か分かるものです。

さて、いよいよ担当者と電話で話せる段階にきても、「賃金不払いの件で電話しました」と言ってはいけません。「ウチは賃金不払いなどしていません」と怒るケースもあるからです。「先ほど、監督署に御社の○○さんがいらしたのですが、何かトラブルでも起きたのですか」と聞けば、「トラブルなんて起きてません」という反応もあるのですが、「実は・・・」と言って話をしてくれるものです。

いずれにせよ、電話で「一方的でなく、中立的に話を聞く」という姿勢を伝えておいた後で、事業場を訪問した方が、相手の対応は冷静になるものです。

さて、そんな電話での対応マニュアルも今は昔のこと、現在の労働基準監督署はどのように事業場と対応しているのでしょうか。なんか益々仕事がやり難い世の中になっているんじゃないかと心配します。

ストレス・チェック

(出雲市駅・JR山陰本線、by T.M)

7月31日にようやく、全国衛生週間の標語が厚生労働省から発表されました。なんか年々発表が遅くなるようで、「厚生労働省」はよほど忙しいようです(ちょっと、皮肉です)。

令和7年

「ワーク・ライフ・バランスに意識を向けて ストレスチェックで健康職場」

この標語なんですが、けっこう攻めています。

令和6年「推してます みんな笑顔の 健康職場」

令和5年「目指そうよ二刀流 こころとからだの健康職場」

令和4年「あなたの健康があってこそ 笑顔があふれる健康職場」

昨年までの標語は当たり障りのないものだったのに、今回は「ワーク・ライフ・バランス」「ストレスチェック」なんて言葉をいれて、明確な行政の目標・目的を表現しています。

しかし、今の時代に「ワーク・ライフ・バランス」なんて全面に押し出したら反発を受けるんじゃないでしょうか。みんな、低収入でかつかつに生きているのに、介護費用や子の教育費用を捻出することに必死なのに、なにを優雅に「「ワーク・ライフ・バランス」なんだと思われるんじゃないでしょうか。総務省が奨めている「副業」の問題にしても「過労死」を引き起こすだけのような気がします。

さて、標語の後半についてなんですが、今まで50人以上の事業場しか事実上実施義務がなかったストレスチェックが、今後全事業場が実施義務化となる法改正が行われることが決定しましたので、今回の標語でストレスチェックの文言を入れることは、時期を得て適切であると思います。

ストレスチェックとは1年に1回の心の健康診断のことなんですが、これを読んでいる方は、「本当に役に立つんだろうか」と疑っている人もいると思います。実際、あんな設問に答えるだけで「ストレスの重篤度」が分かるものかと、私も思っていたのですが、去年その疑念を払しょくする出来事が起こりました。実は、私は昨年夏の健康診断結果が思わしくなく、6ケ月後に再検査することになっていたのですが、臆病な私は悶々とした日々を送っていました。その時にストレスチェックを受けたのですが、なんと次のようなメールが産業医から送られてきました。

あなたのストレスプロフィールについて

こんにちは。産業医の××です。

今回のストレスチェックの結果、あなたのストレスの程度は、以下のとおりとなりました。(詳細は別送のストレスプロフィールをご参照ください)

A 心身のストレス反応の 12 点 B仕事のストレス要因と周囲のサポート 40 点

※高ストレス者とは…Aが12点以下、またはBが26点以下かつAが17点以下

※調査票の項目中、満足度に関する回答は評価に含みません。

今回、あなたのストレス度が高いとの結果でしたので、面接指導について、ご案内いたします。このストレスチェック制度の狙いは、職員のみなさんに自身のストレスに関する気づきの機会をもっていただくことですが、高ストレス状態にある労働者に対して医師の面接指導を受けていただき、必要な範囲で就業上の措置を講ずることによりメンタルヘルス不調を未然に防止することも目的として掲げられています。

面接指導を受けるかどうかはあくまでも任意であり、受けないことによる不利益な取扱いを行ってはならないとされております。ただ、この機会に医師の面接を受けることにより、自身で気づいていない心身の不調について把握するきっかけになると思われますので、今回のストレスチェックで高ストレスという結果だった受検者の方につきましては、この機会に是非、医師による面接指導をお勧め致します。下記期間内に面接指導申出書(ライブラリ参照)に入力しメール添付の上、窓口にお申し出ください。

●面接指導申出期間

本通知到着後1ヶ月以内

●         面接指導申出窓口

(本部・関東センター)

担当:本部産業医 ××

連絡先:メールアドレス:・・・・・・・・・・

(上記以外の部所)

担当:実施事務従事者(総務部人事課 ○○)

連絡先:メールアドレス:・・・・・・・・・・・・・・

なお、上記の医師面接に、ご本人が希望されて申し込まれた場合は、あなたのストレスチェック結果と「面接指導対象者である」との情報を、産業医から△△に提供させていただきますので、ご了承ください。

※◎◎へのストレスチェック結果の通知に同意はできないが、面談を希望される場合は、上記の申し込み先に一般の健康相談として申し込んでください。

ストレスチェック実施者 産業医 ××

ようするに「心身のストレス反応」が重篤であることがストレスチェックで判明したのです。この結果について、心当たりがある私は、改めて「ストレスチェックって、有効だ」と思った訳です。

さて、ストレスチェックの効果について疑念を思っている方は、ぜひその評価を改めることをお勧めします。

そんなことを思うと、今年の衛生週間の標語はけっこういいものなのかな、なんて思いました。

来週は所用があり、ブログは休載します。