大崎市民病院

(名物の出雲割子そば、by T.M)

9/6 仙台放送

大崎市民病院が医師や看護師など約1500人に勤務手当の一部を支給せず、労働基準監督署から是正勧告を受けた問題で、当初は支払いが難しいとして未払いとなっていた約8億円について、病院が一転して支払う方針を示しました。

9月6日の大崎市の定例会見で伊藤康志市長は「職員や患者に不安を与え、申し訳なく思う」と謝罪しました。

この問題は大崎市民病院が医師や看護師など約1500人の手当て10億5000万円を支払わなかったため、労基署から是正勧告を受けたもので、病院は昨年度分の2億3000万円は支払いましたが、残りの約8億円は経営難を理由に支払いは難しいとしていました。その後、労基署との協議の結果、病院は全額を支払うことを決めたということです。

大崎市 伊藤康志市長 「経営努力でどこまで追加支払いができるのか検討、指示した」

支払いを終える時期などは未定ということです。

まずは是正勧告をした古川労働基準監督署の方に、ご苦労さまと言いたいと思います。私も35年前に同監督署で監督官をしていました。当時はまだ「古川市」であって、新幹線が停車する市としてバブルの終末期の繁栄を謳歌していました。現在は周辺町村と合併し「大崎市」となりましたが、人口は合併前より減少しているようです。多分、賃金不払い等景気の悪い話も当時以上であると思いますが、後輩監督官が頑張っていることは嬉しいものです。この事件は、未払賃金を全額支払わなければ、当然終わらぬ話ですが、ゴールは見えてきたと思います。

しかし、この市長なんかずれたこと言っていますね。賃金未払は、労働者に対する「債務不履行」ということです。民間企業で、手形が落ちない等の債務不履行となったら、破産手続きをして債権債務を整理することが道理でしょう。だから、未払賃金を払えないなら、公益性の高い事業であるから市民のためを思い税金を投入し存続させるのか、資本主義の原則に従い破産手続きを行い病院を閉鎖させるのかのどちらかのはずです。どちらも市長が決断すべきところなのに、何か市長の言葉は無責任で他人事です。

もちろん、民間企業でしたらこういう場合、債権者との合意の元で債務の一部を免除する、返済期間を延長するなどして再建を目指す民事再生という手もあります。でも、それなら徹底的な経営の見直しをしなければなりませんが、なによりも債権者に納得してもらわなければなりません。この市長、債権者である労働者に頭を下げてお願いしているのでしょうか。冗談じゃなくて、「労働者に土下座する覚悟」はあるでしょうか。

私が良く知る賃金不払い事件というのは、どうも経営者が労働者を「債権者」と認めていないケースがよくありました。給料を払っていないのに、「自分は労働者を雇っているのだから自分の方が上だ」と考えているようでした。もし、市長がそのような方で、解決を引き延ばすなら、労働基準監督署は書類送検をすべきでしょう。通常、「公務員」については労働基準監督署は司法警察権限は適用できませんが、「市立病院」については権限があります。また、「市立病院」送検は全国的な大きなニュースになると思います。後輩諸君、頑張ってください。

トランスジェンダーと労働法

(ウルム市庁舎、by T.M)

8/10 日テレニュース

9日、パリオリンピックのボクシング女子66キロ級決勝で“性別”をめぐる議論の渦中にいるアルジェリアのエイマヌン・ハリフ選手が中国の楊柳選手に5対0で判定勝ちし、金メダルを獲得しました。

試合は終始、ハリフ選手の優勢で進み、鋭いパンチが決まるたびに会場中は大歓声に包まれました。

これまでの試合では、イタリアの選手が開始わずか46秒で棄権したり、別の選手が抗議の意を示すリアクションをしていたとSNS上で話題になったりする場面もありましたが、決勝戦の勝利直後には中国の楊選手と拳を突き合わせて互いに笑顔でたたえ合う様子がみられました。

試合後のインタビューでハリフ選手は、家族や観客らに感謝を述べた上で、「私は女性として生まれ、女性として育ち、参加資格を満たしている、それは間違いない」と改めて主張。世界に向けて「今後こうした誹謗中傷が無くなることを願っている」と話しました。

何か、この人のニュース聞いていたら改めて、「女性って何だろう、男性って何だろう」と考えました。難しいことは分からないけど、男女による法規制の差について、労働法制ではどうなっているか、説明します。

まず、労働安全の分野なんですが、妊産婦や年少者を除いて、女性労働者が男性労働者と比較して、体力面で保護されているのは、次の規定です。

「重量物の取扱いについて、男性は無制限だが、女性は断続労働で30kg、継続労働で20kg以上を取扱ってはならない」

これは刑事罰を伴なう法条文であり、この規定から判明するように、明らかに男女体力面の差を認めています。草薙剛主演の2020年日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した映画「ミッドナイトスワン」ではトランスジェンダー(出生の性別は男性、性自認は女性)の主人公(草薙)が、建設現場で重量物を運び悪戦苦闘する姿が描かれていましたが、このような場合の重量物の取扱いについては、労働基準法上今後どうなるのでしょうか?

次に労働衛生面ですが、これは安全面より規制があります。母性保護のため有害物質に汚染された場所(例、作業環境測定結果が第3管理区分の箇所等)等が全面的に就業禁止となります。これは、性自認が女性にしろ男性にしろ、「母性保護」が理由である就業制限の適用は安全面より難しい気がします。(出産能力がある性自認は男性の方の保護は不必要? 性自認は女性の方の母性保護はどうする?)

労働基準法設立から約80年、労働安全衛生法は50年以上の歴史を持ちます。何か、トランスジェンダーの方々の権利と保護を労働法の分野でも見直す時機かもしれません。

お休みです

(ローテンブルクの家並み、by T.M)

熱がでました。フラフラです。今日のブログ更新は中止します。

せっかく、お出で下さったのに申し訳ございません。

教師の労働時間

(ウェス・アンダーソンすぎる風景展写真・渋谷ヒカリエ、by T.M)

5/13 読売新聞

公立学校教員の処遇改善を検討してきた文部科学省の中央教育審議会特別部会は13日、残業代の代わりに一律支給されている「教職調整額」について、基本給の4%から10%以上に引き上げることを提言した。今後、中教審答申や教員給与特別措置法(給特法)の改正を経て実現すれば、半世紀ぶりの引き上げとなる。

 貞広斎子・特別部会長(千葉大教授)から提言を受け取った盛山文科相は「教師を取り巻く環境の改善は最重要課題の一つ。文科省を挙げて必要な施策の実現に向けて全力で取り組みたい」と述べた。

 特別部会は昨年6月から、教員の処遇改善などについて議論を重ね、先月19日には提言の素案をまとめていた。議論の中では、時間外勤務手当(残業代)を支給すべきだとの意見もあったが、1971年制定の給特法で定められた教職調整額を10%以上に引き上げることで決着した。

 提言には、教員の業務の複雑・多様化や、なり手不足が深刻な状況を背景に、若手教員への支援体制を充実させることも盛り込まれた。

 校長ら管理職を補佐する主幹教諭の下に中堅向けの新たなポストを新設し、若手教員をサポートさせるほか、若手の精神疾患などによる休職率も高いことから、新卒1年目は学級担任を持たせないことを推奨した。小学校の「教科担任制」を現行の5、6年から3、4年に広げ、学級担任の持ちコマ数を減らすことも求めた。

 これらの取り組みを進めることで、残業時間を将来的には月20時間程度に減らすことを目標に掲げた。働き方改革を確実に進めるため、各教育委員会には取り組み状況の公表を求め、多忙な学校現場のイメージを払拭(ふっしょく)するには「働き方やワーク・ライフ・バランスが尊重される環境を整える必要がある」と強調した。

この提言については、色々な反対意見があると思います。典型的なのは次の2つでしょう。

1 教師の残業時間をまともに計算すると、10%の調整額では少ない。

2 これじゃ教職員の長時間労働はなくならない

私の意見としては、「仕方がないから、これでいいかな」というところでしょか。

教師の長時間労働はなくなりません。だって、国民がそれを望んでいるからです。また、教師自身も、あきらめているところもあるからです。

このブログで何度も書きました。

「修学旅行中に深夜に飲酒する教師は悪なのか」

「生徒の相談に乗らず、『デート』を優先させる教師は悪なのか。そのために生徒が自殺したら、世間から責められなければならないのか」

私は古くて頭の固い高齢者です。だから、「24時間生徒のことを考えている教師」を尊敬します。でも、「教師も一人の労働者として扱うべきだ」という主張も理解します。

また、「すべてはシステムが悪い」としてしまえば簡単です。前述の修学旅行等の件にしても、システムを変更すれば以下の解決方法があります。

「引率する教師の数を倍にして、交替に休憩を取ればよい」

「生徒の相談について、24時間対応できる体制を整えればよい」

まあ、要するに予算をかければ対応できるということです。でも、果たしてそれは現実的なことでしょうか。

だから、私は今回の提言に消極的に賛成します。決して、「ベストではないけど、ワーストではなく、ベターな提案」だからです。ただ、一点文句をつけるなら、次のことです。

「10%ではなく、20%にしろ」

申し訳ございませんが、来週はブログ休みます。衛生管理者の受験準備講習会の講師で水曜日から金曜日にかけて、合計10時間前後の講義をします。とても神経を遣うので週末はぐってりとしてしまい、ブログを更新できそうもありません。

次回は6月です。

高齢労働者

(人形劇三国志の諸葛孔明、by T.M)

4/10 NHK クローズアップ現代

「荷物の仕分け作業で手首に激痛」「深夜の工場内で倒れて救急搬送」労働災害の中で60歳以上が占める割合は年々増え続け、3割近くに上る。さらに、統計には表れない“埋もれる労災”の実態が見えてきた。解雇を恐れて労災申請を断念する従業員や、事故発生後、すぐに企業に認めてもらえないという訴えが相次ぐ。老後の生活不安を抱え、厳しい労働環境でも働かざるを得ない高齢者たちに何が起きているのか?実態と対策に迫る。

この番組を観ました。番組の最後にこのブログでリンクを張っている原社労士の名前も出てきました。最近連絡ないからどうしてるのかなと思ってましたが、元気なようなので安心しました。その反面に、なんで私のところに取材に来ないのかな、なんて思いました。

番組の内容です。3つに分かれていて、最初は「高齢労働者」の労災が増えているとの指摘。2番目は「過労死の認定基準を高齢者は緩くしろ」との問題提起、3番目は「高齢者が建設業者の労災隠しの犠牲者」である事実報道でした。この中で第3番目の労災隠しのパートは、何も高齢者を取り上げなくても、よくある話です。建設業における労災隠しとは、ある意味普遍的な問題でして、特に高齢者は関係ありません。(この部分で、わが盟友“原社労士”は発言しています。彼の得意分野です)。

最初のパートの「高齢者の労災が増えている」ということについてですが、これについてはちょっと誤解があるようです。最近、某大手パン製造メーカーの工場で60歳代のベテラン女性行員がベルトコンベヤーに挟まれて話題となりました。高齢ドライバーが、高齢を原因とした判断ミスで事故を発生させた「池袋暴走事故」のような事故が、昨今話題になりますが、この大手パン製造メーカーの事故も、被災者の年齢を主原因とするかの憶測が、マスコミ等の報道で一部為されていました。実は、パン製造工場において作業者がベルトコンベヤーと接触するという事故は実はとても多く起きているのです。私としては、この大手パン製造メーカーが、災害リスクの予想は十分可能なはずの、パン工場としては典型的な災害を発生させたことの方が問題だと思います。

高齢者の労災というと機械に挟まれ・巻き込まれ災害が多いと感じている方がいると思いますが、機械災害が多いのは実は10代と20代なんです。若年層が無理な機械操作をして災害を増やすところは、交通事故の傾向によく似ています。高齢労働者に多い災害は1に「転倒災害」、2に「腰痛」です。もっとも、高齢者の「転倒災害」って、重篤化するおそれがあるから要注意です。

この時のクロ現の放送で気になったのが、2番目のテーマの「過労死の認定基準を高齢者は緩くしろ」との問題提起です。確かに、過労死の認定基準をそのまま高齢者に当てはめることは、労働者保護の観点に望ましくないと思います。でも、「過労死の認定基準を緩くすることより」、そもそも高齢者が残業することがおかしいのではないでしょうか?

労働基準法では18歳未満の労働者について、「危険有害業務の規制」及び「残業時間の禁止」が規定されています。満70歳以上の労働者について同様な規制があってもいいような気がします。

「高齢者だから労働時間を短くする(残業規制をする)」ということになったら、高齢者の雇用の門戸がまた狭まれる気もします。「若い者」を使うより年寄りの方が安心して仕事を任せられるというように高齢者自体の努力も必要でしょう。傲慢な高齢者に仕事はないことは当たり前のような気もします。これは、私への自戒でもあります。