万博!

(牡鹿・山梨市の万力公園、by T.M)

朝日新聞 10/12

自民党の会合で、大阪・関西万博のパビリオン建設を時間外労働の上限規制の対象外とする「超法規的な取り扱い」を求める意見が出たことについて、同党の足立敏之参院議員が12日、自身の発言だと認めた。朝日新聞の取材に「工事が間に合うかどうか微妙な状況にあり、なんとか間に合わせるための一つの例として『超法規的』な措置も必要だと思った」と述べた。

 「超法規的措置を」との発言は、非公開で開かれた10日の自民党大阪・関西万博推進本部で出た。出席者らによると、2025年開催の万博のパビリオン建設が遅れている問題が取り上げられた際、足立氏が24年4月から建設業界にも適用される時間外労働の上限規制に言及。「人繰りが非常に厳しくなる。超法規的な取り扱いとかできないのか。災害だと思えばいい」「工期も短縮できる可能性がある」などと述べた。

 足立氏は自身の発言について、「とにかく万博の開会式に間に合わせないといけない。あらゆる手立てを考えないといけない時期にある」と説明した。

まだこんなこと言ってるんですか。前にも書いたけど、順序が違うんじゃないのかと思います。もし、本当に超法規的な措置をとりたいなら、まずは説得しなければならないのは、各労働組合や労働者です。自民党の各幹部が主要労働組合等をまわって、頭を下げてお願いしましょう。当事者の了解を得た上で、記事のような発言をしましょうよ。ただ、お願いするだけではだめです。こんな提案をして下さい。

「超法規的措置を取っている期間は、最低賃金は時給3000円とする。残業代の割増賃金率は、法定ではひと月60時間未満は25%、それ以上で60%だが、これを50%、120%とする。休日労働は35%だがこれを70%、深夜労働手当は25%のところを50%とする」

「東京オリンピックの時は、残業代の対象とならない現場代理人が過労死したが、残業代のつかない管理職には、ひと月に100万円の特別手当を支給する。」

「ボーナスについては、前年度より25%アップで支給する」

「建設業では『中抜き』が横行している。東日本大震災の除染作業時には、元請けで2~3万円の賃金が支給されていたが、実際に末端労働者に支払われたの最低賃金ギリギリだったこともある。末端労働者への賃金額については、元請けが確認し、時給3000円以内であった場合は、元請けが補償する。」

「超法規的措置をとっているあらゆる建設会社は国交省大臣、大阪府知事宛てに誓約書を書く。それには、『労働基準法違反が発生した場合は、建設業の許可を自主返納します』と記載する」

まあ、ここまでやれば政治家の誠意を感じて承諾する労働者も現れるかもしれません。後もうひとつ忘れぬように。

「以上のような超法規的措置をとるには、莫大な追加予算が必要となる。それを透明性をもって国民に公表する。そのことで選挙に負けてもかまわない」

国民を動かすのは、政治家の覚悟です。

一人親方と偽装請負

(横浜駅の夜景、by T.M)

先週、今後の労働問題を考えるのに、とても重要と思える新聞記事が2つありましたので、紹介します。

毎日新聞 10/4

厚生労働省は4日の労働政策審議会の部会で、フリーランス(個人事業主)でも労災保険に入れる特別加入制度の対象を拡大する方針を示した。企業から業務委託を受ける場合は原則全て対象に含める。労災保険は企業などに雇用された労働者が対象だが、同じ企業から継続的に業務を委託されるなど、労働者に近いフリーランスも多いことから対象を広げる。厚労省は来年秋までに新制度を開始したい考えだ。

 労災保険は、労働者が業務中や通勤中にけがなどをした場合に補償する制度。保険料は企業が支払う。一方、特別加入制度は業種ごとの特別加入団体に任意で申し込み、フリーランスが保険料を支払うことで補償を受けられる仕組みだ。

 当初は建設業の一人親方などを対象にしていたが、2021年以降、業界団体の要望を受ける形で芸能やアニメーション制作従事者、ITフリーランスなど8業種を追加してきた。

 4月に成立したフリーランス新法の付帯決議で対象を拡大するよう求めており、厚労省が検討していた。内閣官房などの調査によると、日本のフリーランスは約462万人で、うち事業者から業務や作業の委託を受ける人は59%に達している。今回の提案は、これまでのように業種ごとにせず、業務委託をした場合を包括的に含めることで大幅に拡大する形となる。今後、特別加入団体のあり方なども検討する。【宇多川はるか】

この一人親方制度の拡充に、私は基本的に賛成です。フリーランスの方々に「労災保険」の門戸を開いたことは、生活に不安定な方のセーフティーネットを強化することであり、労働安全衛生コンサルタントというフリーランスの私にも加入が将来的に可能であるなら、加入したいところです。しかし、この問題については次のような側面もあります。

共同通信 10/4

インターネット通販大手アマゾンジャパンの商品配達を個人事業主(フリーランス)として委託され、仕事中に負傷した60代の男性が、横須賀労働基準監督署(神奈川)から労災認定されたことが4日、分かった。労働組合「東京ユニオン」が明らかにした。個人事業主は本来、労災の対象外だが、労基署は男性が指揮命令を受けて働く「労働者」に該当し、補償を受ける権利があると判断した。

 実態は雇用なのに、業務を請け負う形で働く個人事業主は「名ばかりフリーランス」などと呼ばれ、労働基準法で保護されないことが問題視されてきた。今回の認定は、アマゾンの配達を支える多くの個人事業主が補償の対象となり得ることを示し、個人事業主を労働力として利用する他の企業にも影響しそうだ。

 労組によると、個人事業主のアマゾン配達員が労災認定されるのは初とみられる。男性を支援するアマゾン労働者弁護団は声明を出し「労働者性を肯定し画期的だ」と評価。アマゾンが提供するアプリから配達ルートや荷物数など指示が出ていたことが重視されたとみている。

これは要するに、労働基準監督署が「建前は請負」しかし「実態は労働者」という「偽装請負」を認定したということです。「労災」事案ですが、労働基準監督署では「労働者性」の問題については、「取締り部門である監督課」の意向が強く反映されます。今後は、「偽装請負」をさせていたこの会社に対し、労働時間・賃金の支払い等について調査が行われる可能性があります。

もし、今回の横須賀労基署のケースで被災者が「一人親方労災制度」に加入していたとしたらどうなったでしょうか?被災者は一人親方労災制度で救済されるため、「労働基準監督署の偽装請負の認定」はされないことになります。

「一人親方労災制度の適用の拡大」は必要ですが、「偽装請負の隠れ蓑」にならないようにしなければなりません。

2024問題

(旧高松分校・神奈川県山北町、by T.M)

9/28 日テレニュース

物流業界の規制が強化されるいわゆる「2024年問題」が指摘される中、岸田総理大臣は来週、関係閣僚会議を開き、物流業界への支援策をとりまとめる考えを示しました。

2024年4月1日からトラックドライバーの長時間労働が規制され、物流が滞るおそれが指摘されています。この、いわゆる「2024年問題」に対処するため、岸田総理は28日朝、都内のトラック輸送などを行う企業を視察しました。

岸田総理

「物流革新緊急パッケージを取りまとめたいと思います。来月に向けてまとめる経済対策にこの内容を盛り込んでまいりたい」

岸田総理は具体策として「作業の自動化・機械化」「自動運転の推進」「再配達率の半減に向けた支援」などを挙げました。その上で来週、関係閣僚会議を開き支援パッケージ策をまとめる考えを示しました。

来月とりまとめる予定の経済対策に盛り込むことにしています。

今年話題によくでる、2024年の記事ですが、併せて、次のようなデータを紹介します。

(1)運送業での、過重労働を原因とした脳心臓疾患の労災支給決定数は、121件で業種別では第1位であり、全認定件数の約1/4を占める。また、申請件数に対する労災決定率も約80%で非常に高い。

(令和4年版過労死等防止対策白書より抜粋)

(注1:ここで述べる労災決定率とは、決定数を申請件数で除したものであるが、労災決定については「年度跨ぎ」のケースもあるので、おおまかな数値です)

脳心臓疾患の障害とは、元気に仕事をしていた人が、急に胸を押さえて倒れてしまうといった肉体を毀損する病気のことです。要するに、トラックドライバーの激務は非常にきつく、2024年問題の業界の都合がどうだか分かりませんが、健康確保のために労働時間の短縮が早急に求められるということです。もっとも、このデータは「まだ長時間労働の規制が緩い運送業」と「既に規制されている他業種」を比較するもので、ある意味当たり前といえば当たり前です。

ただ、次のようなデータもあります。

(2)運送業での、過重労働を原因とした精神障害による労災支給決定数は168件であり、医療・福祉業465件、その他の業種325件と比較すると多くはなく、全認定件数の8%である。

(令和4年版過労死等防止対策白書より抜粋)

精神障害による労災認定とは、高ストレスによりうつ病等を発症し、長期休業や自殺等を引き起こします。相対的なものですが、この高ストレスということについては、まだ運送業界はまともだということが言えます。

肉体的には非常にきついが、ストレスはあまり高くない(相対的にですよ!)という職業であるなら、やはり報酬を上げ、無理な仕事をしなくて良い状況をつくれば、けっこう良い労働環境になり、人材も集まってくるのではないでしょうか。つまるところ2024年問題の解決は賃上げだと思います。

鉄骨組立中の事故

(中央本線の旧立場川橋梁、by T.M)

9/22 FNNプライムオンライン

JR東京駅近くの建設現場で5人が死傷した鉄骨落下事故で、警視庁は、22日朝から現場検証を開始した。

9月19日、東京・中央区八重洲のビルの建設現場で、作業員5人が鉄骨ごと落下し、2人が死亡した。

警視庁は22日、現場に立ち入る安全が確保できたとして、業務上過失致死の疑いで現場検証を開始した。

これまでの調べで、鉄骨は柱に「仮止め」をしたあと、クレーンのワイヤーから外す際に落下したとみられるということだが、警視庁は、仮止めの状況などをくわしく調べる方針。

この事故により亡くなられた方々のご冥福と、ケガをされた方の早期回復を祈ります。

この記事によると、警察が現場検証をしているということですが、多分労働基準監督署との合同捜査となっていると思います。とは言っても、組織の大きさは象とアリさんくらいの違いがありますから、現場検証の警察が20人来たとしても、監督署はせいぜい2人です。私も何回か警察と一緒に実況見分をさせてもらいましたが、警察の現場リーダーの後ろについて、警察の現場把握の状況に、なんとか付いていこうと頑張っていた覚えがあります。

警察は業務上過失致死を捜査します。そして労働基準監督署は労働安全衛生法違反について捜査します。労働基準監督署は「特別司法警察」であり、警察署は「一般司法警察」です。ですから、労働基準監督署は「労働安全衛生法と労働基準法」しか捜査できないのに対し、警察はすべての法律について捜査できます。でも、警察は専門性の高い労働安全衛生法についてはスルーして、監督署にまかせてくれます。

今回の鉄骨の落下事件についても、監督署の方が専門性の高い捜査をします。例えば、

  1 作業指揮を行う鉄骨組立作業主任者(国家資格)は誰で、何をしていたのか? 

  2 クレーンのワイヤーを外す玉掛作業主任者(国家資格)は、どのような仕事をしたのか等(もしかしたら、この両名とも被災者の中にいたのかもしれません)

 鉄骨に安全帯(要求性墜落制止用器具)を取付けていたことを問題としている新聞記事もありますが、それは多分問題ありません。鉄骨を組立てる前に、鉄骨自体に安全帯の取付け設備を設置しておくことは常識であり、被災者たちはその用意された安全帯取付け設備を使用していたと思われるからです。

 多分、今後の捜査で大きな問題となるのは、「合番(相番)」との連携がどうなっていたかでしょう。合番というのは、建設業界特有の言葉で間接的に関係のある職種の人間が施工時に立ち会うことです。

 私も、過去に鉄骨組立中の死亡労働災害を3件ほど捜査したことがあります。その時の「合番」は鉄骨メーカーの人でした。鉄骨メーカーでは、自分のところで製造した鉄骨を出荷前に自社の工場で組み立ててみます。そして、どういう組立方が一番合理的で安全であるかを確認した上で、現場でそれを組立てる建設会社の鳶さん等に技術指導をしていました。

 このような立場の「合番」が、今回の災害現場にいたはずです。鉄骨が一本だけでなく複数落下したということは、この合番と現場の施工者の間でなんらかの食い違いがおきていた可能性が高いと思われます。

早期に災害の原因が特定され、再発防止対策が徹底されることを祈ります。

引越しのサカイ

(Nice landing!・羽田空港、by T.M)

労働時間と賃金の問題について、非常に興味深い裁判がありましたので、ご紹介します。

時事通信社 9/11

作業量などに応じた「出来高払い制」を中心としたサカイ引越センター(堺市)の賃金制度の妥当性が争われた訴訟で、東京地裁立川支部が8月、「同社の制度は出来高払いに該当しない」として未払い残業代などの支払いを同社に命じた判決が波紋を広げている。

 運輸業界で出来高払い制は広く取り入れられており、サカイは即刻控訴。業界各社は高裁での審理に注目している。

 労働基準法などの規定では、出来高払い制賃金は残業代を計算する際の割増率が低く、月給制と比べて残業代は少なくなる。サカイの賃金体系は基本給が月6万~7万円程度と低く、大部分は「業績給」などと呼ばれる同制度扱いの手当となっていた。

 訴えを起こしたのは引っ越し作業員兼ドライバーだった元同社社員の男性3人。業績給を出来高払い制賃金とするのは違法で、本来未払いの残業代があるとして計約1200万円の支払いを求めていた。

 前田英子裁判長は8月9日の判決で、出来高払い制賃金について、「作業量などの成果に応じて一定比率で定められるもの」と定義。同社の業績給の一部は、売り上げが営業担当者と顧客の交渉で既に決まっており、作業員は会社から指示された作業をしているだけだと指摘し、「(作業員の)自助努力が反映される賃金とは言い難い」として当てはまらないと判断した。

(略)

 サカイ引越センターは取材に、判決翌日に控訴したことを明らかにした上で「詳細な回答は差し控えたい」とコメントした。 

まず、「通常の残業代の計算方法」と「歩合給の残業代の計算方法」について説明します。

第一 通常の残業代の計算方法

イ 所定内賃金を「所定内労働時間」で割り、「1時間当たりの基本賃金」(A

)を算定する。

ロ Aに残業時間をかけて、それを1.25倍したものが残業代である。

第二 歩合給の残業代の計算方法

イ 歩合手当を「総労働時間」で割り、「1時間当たりの歩合賃金」(B

)を算定する。

ロ Bに残業時間をかけて、それを0.25倍したものが残業代である。

「通常の残業代の計算方法」と「歩合給の残業代の計算方法」の大きな違いは、「1時間当たり」の賃金を算定する時に、

「所定内労働時間」で割るのか「総労働時間」で割るのか

割増率が「1.25倍」なのか「0.25倍」なのか

で大きく違いがでます。具体例で考えてみます。

(具体例)

1日8時間労働、月20日稼働の宅配の事業場を想定します。所定労働時間はひと月160時間となります。そして、作業員は1時間に1個の荷物を運ぶことができるとします。

この時に

  (事例1) 時間給 1000円

  (事例2) 1個の荷物を運ぶごとに1000円支払われるオール歩合給

の2つのケースを考えます。

この事例1と事例2では、残業をしなければ支払われる賃金は一緒です。

  (事例1) 時間給1000円なので、160時間稼働。給与16万円。

  (事例2) 1時間1個運べて、1個当たり1000円。給与16万円。

では、毎日1個余分に運搬するとします。そうすると残業代に大きな違いがでます。

(事例1の場合の残業代)

毎日1個余計に運搬。ひと月残業時間は20時間。時間給1000円の1.25倍は1250円なので、残業代は 1250円×20時間で25000円

総賃金は残業代と本給を併せ185000円

(事例2の場合の残業代)

毎日1個余計に運ぶので、ひと月180個運搬。従って歩合給は18万円。総労働時間(所定内労働時間と残業代の合計)は180時間。歩合給を総労働時間で割ると、1時間当たりの賃金は1000円。その0.25倍は250円なので、20時間残業なので歩合残業は5000円。

総賃金は残業代と本給を併せ165000円。

このように「通常の残業代の計算方法」と「歩合給の残業代の計算方法」では、残業手当に大きな差がでてしまいます。

今回の裁判ではサカイ引越センターの賃金は「歩合給でないから、通常の残業代の計算方法に直しなさい」ということでした。今後の進展が注目されます。