労働組合と災害派遣

(旧出島神学校・長崎、by T.M)

今週もコロナウィルスの話です。
現在、地方労働局レベルで、今回の騒動の対策のために、色々な支援をしているようです。
具体的に言うなら、幹部職員を中心に、本来の業務以外の部署に派遣され、専門部隊である医療関係者が業務をしやすいようにお手伝いをしているようです。

この非常時にこのような措置は当然のことだと思います。

ただ、別の部署の私の友人は、こんなことを言っていました。
「誰かが手伝いに行っているということだが、誰がどこに行っているのかが、情報としては公式に流れてこない。私も、できれば何か手助けに行きたいのだが・・・」
この友人は、東日本大震災の時も、真っ先に手を挙げて、被災地の監督署に行ったオッチョコチョイですが、頼もしい男です。

私はこの友人に次のように答えました。
「現在は、大規模な支援ができる体制がまだ整っていないのだろ。東日本大震災の時と違い、今度は見えない敵だ。人海戦術が使えるかどうかは分からない。また、現場に派遣した職員が風評被害に合う可能性がある。だから、業務内容についても公にできないし、管理職が率先して行くのは道理に合っている。それに、労働組合が組合員を派遣することには反対するだろ。

さて、話は変わり労働組合のことです。

Wikipedia での「イラン・イラク戦争」の解説記事にこんな一文があります。
1980年に戦争勃発後、イランの首都テヘランからの在留邦人脱出の時の話です。長くなりますが、引用します。

イランに住む日本人以外の外国人はおのおの自らの国の航空会社や軍の輸送機によって順次イランから脱出していった。ところが、日本においてはそうではなかった。ただちに日本航空にチャーター便の派遣を依頼したのだが、同社のパイロットと客室乗務員が組織する労働組合は、組合員の安全が保障されないことを理由にいずれもこの要請を拒絶した。いまだ200名を超えるイラン在外日本人が全く脱出方法が見つからずに、生命の危機に瀕する状況にあった。
なお当時の自衛隊法は、自衛隊の外国における活動を人道目的を含めて想定しておらず、また、イランまでノンストップで飛行できる航空機が配備されていなかったため、自衛隊を派遣するのは事実上不可能だった。
だが、土壇場で個人的な親交に一縷の望みを託した野村豊在イラン日本国特命全権大使がイスメット・ビルセル在イラントルコ特命全権大使に救援を要請したところ、トルコ政府が応じ、ターキッシュ・エアラインズの自国民救援のための最終便を2機に増やしたため、215名の日本人がそれに分乗してイランを脱出した。タイムリミットの1時間15分前だった。
なお、トルコ機は自国が近隣に位置することから陸路での脱出もできる自国民よりも日本人の救出を最優先し、実際この救援機に乗れなかったトルコ人約500名は陸路自動車でイランを脱出した。このようなトルコ政府とトルコ航空の厚情の背景には、1890年(明治23年)日本に親善訪問した帰途、和歌山沖で遭難したフリゲートエルトゥールル号救助に際し日本から受けた恩義に報いるという意識もあったと言われている。
2015年、日本・トルコ修好125周年を記念し、エルトゥールル号遭難事件とテヘラン邦人救出劇を描いた映画『海難1890』が日本・トルコ合作映画として製作された。

労働組合が、邦人救出を断ったのは日本の労働組合史に残る汚点だと思います。この時に、会社が、組合を通さずに直接にパイロットや客室乗務員に呼びかけたなら、志願者は必ずいたはずです。どこの会社でも、自分の職務を通して、社会貢献している実感を得たい人は一定数います。

さて、全労働(労働局内の過半数労働組合)は、大きな災害への職員の派遣について、常に消極的であったという歴史を持ちます。阪神・淡路大震災では当局への協力を拒み、東日本大震災では、
「志願者が行くことは反対しないが、強制されることは許されない」
と述べていました(まあ、確かにこれはあたり前のことですが・・・)
今回のコロナ騒動では、労働局の職員を含めた厚生労働省の全職員が、何かに立ち向かわなければならないこともあると思います。
その時に、「職員の安全確保」を訴える労働組合の存在は必要です。しかし、それをやり過ぎて、「職員のやる気」に水を差さないようにして頂きたいものです。

 

本物と偽物!

(長崎オランダ坂、by T.M)

今から7年前のことです。当時、横浜北労働基準監督署に勤務していた私が、東日本大震災直後の宮城県の石巻労働基準監督署にお手伝いに行った話は、このブログで何回もしました。
その出発直前に、神奈川局の人事から震災支援を希望する者たちの名簿を、秘密に見せてもらいました。神奈川労働局の労働基準監督署関係の約300名の職員のうち、3分の1にあたる100名程の者が手を挙げていました。現職の労働基準監督署長もいれば、再雇用の60歳過ぎの元労働基準監督署長の名もありました。私は、その名簿を見ながら、「神奈川労働局も捨てたものじゃないな」と思いました。(志願した者がそれだけいたということで、志を持ちながら、家庭の事情等で、志願できなかった者はたくさんいたと思います)

私が石巻から帰ってきての労働局での飲み会での話です。一名の職員が、周りの者に
  「次は要請があれば、私が被災地に行きます」
とアピールしていました。その話を聞きながら、私は名簿にその男の名前はなかったはずなのにと思いました。面白半分に、「君は確か志願していなかたよね」と指摘してやろうかと思いましたが、それは控えました。そして、誰が本物で、誰が偽物であったか分かった気になりました。

さて、厚労省のコロナウィルス対応が叩かれています。特にクルーズ船での対応が非難の的のようです。岩田健太郎・神戸大教授の言動が注目されています。岩田教授の話から、厚労省を弁護・非難の2つの立場から状況を推測してみました。

(厚労省を非難する立場)
厚労省は、クルーズ船でのコロナウィルス対応ができていなかった。現場での指揮命令系統が確立してなく、感染に必要な措置も分かっていないようで、それを指摘した岩田教授を2時間で船から追い出した。厚労省の役人は尊大で責任逃れに終始している。

(厚労省を弁護する立場)
厚労省はクルーズ船で3000名もの乗客・乗員の対応に追われていた。最初の1~2日は、不慣れの船内において、乗客への食事・薬の供給等を安定させ、各人の健康状況を確認するために、とても忙しかった。そこへ、外部の人間がやってきて(岩田教授のこと)、あれはダメだ、これはなっていないと言って非難するので、岩田教授を直ちに下船させた。

さて、事実はどちらだったのでしょうか?多分、両方事実でしょう。
現在の対応が正しいか、間違っているかは後日になってみないと分からないということが本当なところなのでしょうが、厚労省は結果責任を負う立場。パンデミックとなり死者が何名もでることが危惧され、とても不安なのですが、個人としては、手洗い・うがいをせっせとすることぐらいしかできないので、厚労省をどうしても非難してしまいます。

でも、私はこれだけは信じています。厚労省の中には、少数かもしれないけど、必ず本物がいます。地位は上の者か、下の者かは関係なく、この感染を必ず止めてやると思っている者がいるはずです。そういう人たちが、偽物に潰されることなく活躍してくれることを期待しています。多分、偽物はとっくに逃げているか、最初から戦場には来ていません。

お休みです

(世界文化遺産の小菅修船所・長崎、by T.M)

来週本当に仕事がきついです。

ある資格について、法定研修の「労働基準法」の講師をします。

某労働基準監督署で、中小企業の方々に労働安全衛生法の話をします。

安全診断は2件あります。本当に人使いの荒い会社です。

そんな訳で、下調べがあるんでお休みします。

印象操作

(五十里(いかり)ダム・日光市川治温泉,by T.M)

ちょっと間違っているなと思えるニュース記事を見つけました。
フェイクニュースとまでは言えないけれども、恣意的に人々の不安を煽っているようなニュースです。「日刊ゲンダイ」の2月7日の記事です。

次のようなものです。

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 厚労省が公表している「新型コロナウイルスに関する事業者・職場のQ&A(2月4日時点版)」によると、<2月1日付けで、新型コロナウイルス感染症が指定感染症として定められたことにより、労働者が新型コロナウイルスに感染していることが確認された場合は、感染症法に基づき、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことができることとなりますので、それに従っていただく必要があります>とあり、
―(略)-
 さらに<新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか>との問いに対しては、こうある。
<新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取扱については、労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、労働者が安心して休暇を取得できる体制を整えていただくようお願いします。なお、賃金の支払の必要性の有無等については、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案すべきものですが、法律上、労働基準法第26条に定める休業手当を支払う必要性の有無については、一般的には以下のように考えられます>とし、<新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません>と明記されている。
要するに新型肺炎に感染しても休業補償はなしということ。会社を休む場合は有給休暇や欠勤扱いというわけで、これでは、仮に感染が分かっても内緒で通勤するサラリーマンがいても不思議ではない。
 厚労省の指針は今後、変わる可能性があり、あくまで現時点だが、政府にはスピード感を持って対応してほしいものだ。

(以上、新聞記事)

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中国に進出している日本の自動車メーカー等は、現在操業停止としているところが多いようです。
私は、今回のウィルス事件で、日本でも中国同様に、ウィルスの感染を恐れて工業の操業停止になった場合の労働基準法第26条の休業手当の支払いについてはどう判断すれば良いのかと疑問に思っていました。
この新聞記事は、厚生労働省が「休業手当を支払う必要がない」という指針を示したように印象操作しています。
その指針を調べてみました。次のものです

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q3

同指針では
① 企業が操業停止になった場合の休業手当の支払いについて
② 労働者が、コロナウィルスに感染した時に、企業が休業を命じた場合の休業手当の支払いについて
の2項目について回答しています。この2つは別々の問題です。
ところが、新聞記事では、この2つの項目の文章をつなぎ合わせて、
「感染が分かっても内緒で通勤するサラリーマンがいても不思議ではない。」
という結論に持っていっています。要するに、行政が間違っているということを主張したい訳です。

ちなみに、同指針では次のように記載されています。
①  工場停止の場合、企業の休業手当の支払いの必要の有無はケースバイケース
②  労働者がコロナウィルスにり患して休業した場合は、休業手当の支払いは不要。(これは、以前から当たり前にことです)

さらに、同指針では、②のコロナウィルスにり患し、欠勤した労働者については、次のように説明しています。
「被用者保険に加入されている方であれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償されます。具体的な申請手続き等の詳細については、加入する保険者に確認ください。」
つまり、社会保険に加入している労働者については、休業手当でなく傷病手当金が支給されることが明記されているのです。

別に、厚労省の肩を持つ訳じゃないけど、結論ありきの報道ではなく、正確にして伝えて欲しいものです。

コロナウィルス

(平家落人の里・湯西川温泉,by T.M)

(株)興研とか(株)重松製作所とか言っても、一般の方には何をしている会社なのかは分からないと思います。両社とも、工業用のマスク(防塵マスクや防毒マスク)の老舗の製造メーカーで、労働安全衛生に関係した者なら誰もが知っている、安心で信頼のおける会社です。両社の作るマスクのおかげで、どれだけ多くの労働者がアスベストや有機溶剤から身を守れたかことでしょうか・・・

この2社の株価がとんでもないことになっています。1月27日(月)から1月31日(金)までの間にほぼ2倍となりました。このコロナウィルス騒動のせいです。水曜日の夜にこの事態に気付いたのですが、先週と比較し1.5倍程度になっていたので購入を見送りました。すると木曜日に両社ともストップ高で、金曜日に2倍に達しました。月曜日買いでも「間に合うだろうか」と考えています。

ところで、「このウィルスでの感染は労災認定になるのでしょうか」。まず、日本人の最初の感染者である、バスの運転者とバスガイドについては、普通に労災認定されるものと推測します。「日本で今まで、発症例がなく、業務によりウィルス発症地域の住人(乗客)と数日にわたりクルマの中という限定区域にいたため、この乗客より感染した可能性が極めて高い」というケースですから、発症の業務起因性は十分と思えます。

でも、問題はこの後です。今後、どれだけの人が発症し、また労災認定されるでしょうか。海外赴任していた人の海外労災の適用はどうなるでしょうか。また、通勤経路で感染したという人が現れたら、通災となるのでしょうか。

いくつか疑念があったので、地方労働局の現役の労災担当者に質問してみました、すると次のような答えが返ってきました。

「ダメダ。一切答えられない。その件についてはかん口令がひかれている。」

答えを聞いてから、「無神経な質問」をしてしまったなと反省しました。役所に在籍している者が、現在社会的な問題となっている現象に対し、例え雑談でも答えるはずがないからです。「かん口令」はオーバーとしても、誤解や憶測を生む言動をしないためにも、自ら情報を発することは控えるのが常識です。

そんな訳で、知恵袋のアドバイスがないままに、情報を整理し、私なりに妄想をふくらましてみました。
まずは、多くの人が気にしていること。「通勤途中にセキをしている人が隣にいたが、しばらくしてから新型ウィルスに感染していることが判明した。あの時にうつされたに違いない」という場合ですが、やはり通勤災害の認定は無理でしょう。因果関係の立証が困難すぎます。
また、海外労災についても業務起因して発病したかどうか立証できるかにかかっています。もっとも、「これから赴任する」という方(例えば、会社所属のジャーナリストが業務により赴任する場合)は、労災認定も有りかなと思ってしまいます。
いずれにせよ、「労災を認定されるかどうか」は、一例づつすべて違いケース・バイ・ケース。とても奥が深くて難しい問題です。

すみやかな感染の終息と、感染者の早期の回復を願い、今日の妄想はこれまでとします