気になる報道(29年9月15日)

(野反湖の花5、by T.M)

「youは何しに日本に」という人気番組で、高知県の漁業協同組合へカツオ漁の技術を学びに、技能実習生としてインドネシアから来日している18歳から20歳くらいの若者たちのことを取り上げたことがあります。彼らは、総勢数十名で、漁協が用意してくれた寮で集団生活をしていますが、番組では彼らが、異国で仲間と学び働く様子を、生き生きと描いていました。彼らは、帰国後インドネシアで漁業発展のために働くそうです。また、漁協の方では、受け入れ態勢に万全の準備をしているように思えました。

このような働き方こそが、技能実習制度の目指すところでしょう。

ところで今週、技能実習制度について、気になる新聞記事がありました。次のようなものです。

「アホ」「死ね」パワハラで鬱病、34歳カンボジア人を労災認定 立川労基署(9/12(火) 18:03配信:産経新聞)

 東京都内の建設会社で勤務していたカンボジア国籍の技能実習生の男性(34)が、上司から「アホ」「死ね」などの暴言を含むパワーハラスメント(パワハラ)を受け鬱病になったとして、立川労働基準監督署(東京)が労災認定していたことが12日、分かった。認定は6月7日付。

 記者会見した男性は「誰と相談したらいいか悩み苦しんでいた。外国人は労災があることを知らないので、これから働く人も助けてほしい」と訴えた。

 労基署の調査復命書などによると、男性は平成26年6月に来日後、建設会社で配管工として働き始めた。直後から言語などの問題で、上司から暴言を吐かれ、工具でヘルメットをたたかれるなどの暴行も受けた。

 27年9月、現場で作業中に電気のこぎりに巻き込まれ、左手人さし指の先端を切断。事故後、社員から「金欲しさにわざと切ったのだろう」などと暴言が繰り返され、病院で鬱病と診断された。

 28年11月に労災申請したところ、立川労基署が今年6月、「上司の言動が業務指導の範囲を逸脱しており、人格や人間性を否定するような言動が含まれていた」と指摘した。 

この新聞記事が事実としたら、許せないことだと思います。

いくつか指摘する点はありますが、まず第一にイジメの原因となった、「現場で作業中に電気のこぎりに巻き込まれ、左手人さし指の先端を切断」という事故はどのようなものだったのでしょうか。工事現場で使用されている電動ノコギリは、可搬式の物と据え置き式の物がありますが、両者とも安全カバーの規格が法で決まっていて、法を守る限り、指が挟まれることはありません。そして、この機械については、「作業の効率」を目指すために、安全装置を無効にして作業を行うことがよくあるのです。労働基準監督署は、この事故についても調査をして欲しいと思います。

「イジメ」の問題については、論外です。技能実習生を受け入れる場合は、企業単独で受け入れる場合と、仲介団体(監理団体)を通す場合があります。業種から考えて、今回のケースは監理団体を通しての技能実習生の紹介でしょう。監理団体そのものに問題があるかもしれません。

いずれにせよ、今回のような問題が発生した場合は、被害者以外にも、冒頭ご紹介したような優良な技能実習生受入れ機関に迷惑が係る場合がありますので、監理団体の監査等を関係機関が厳重に実施して欲しいと思います。

気になる報道(29年9月12日)

(野反湖の花part4、by T.M)

先日の次の記事で、ふと思いました。 

国循、時間外労働「月300時間」の労使協定結ぶ…国の過労死ラインの3倍、見直しの方針示す(産経新聞、9月11日)

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)が、医師や一部の看護師などの時間外労働を月300時間まで可能とする労使協定(三六協定)を結んでいたことが7日分かった。過労死問題に取り組む松丸正弁護士(大阪弁護士会)の情報公開請求で判明した。 国の過労死ラインの目安となる月100時間の3倍の長さ。同センターは「直近半年間で100時間を超える時間外労働を行った職員はおらず、実際の勤務は上限まで十分余裕があった」としているが、協定内容を見直す方針を示した。 

こんな新聞記事が出ると、数日後には(早い時には数時間後に)本省から、各都道府県労働局監督課に「類似案件について、調査し報告せよ」という指示がくるものです。だから、用意のいい監督署では、本省指示の前に調査を開始しているし、またそういう監督署では、元々「問題はあるが、受理せざる得なかった36協定」は別綴りにしています。

つまり、逆に「用意の悪い監督署」も存在します。そういう署は大抵多忙です。だから、今ごろ、日本国中の多忙な署では、たいへんな労力を割いて受理済の36協定をひっくり返していると思います。 

提出された36協定の内容を、電子データで保存する試みも行われていました。あのシステムはもう完成したでしょうか。私が、現場にいたのは6年前までで、そのシステムは試行錯誤の最中でした。ちょうど、その頃3.11の震災が発生し、私は東北の監督署にお手伝いにいきましたが、その署で受理済みの36協定がすべて電子データ化されていて驚いたことがあります。私が当時所属していた横浜の大きな署ではとても考えられないことだったからです。 

36協定の電子データ化の最大のメリットは、36協定未提出事業場が瞬時に判明することと、今回のような事件の対処が簡単になることです。多分、このシステムが完成すれば(もう完成しているかもしれませんが)、日本の働き方改革に大きな影響を与えると思います。

 

普通の日記(29年9月8日)

(野反湖の花part3,by T.M)

(前回の続き) 

労働大臣告示「自動車運転者の労働 時間等の 改善のための基準」(改善基準告示)は、「労働時間」の代わりに、「拘束時間」(労働時間プラス休憩時間)という概念でトラック運転手の時間管理をしています。これは、長距離トラックの運転手等が、業務のために会社をでてしまうと、一人作業のため、労働時間と休憩時間の区別を使用者が管理しにくいために、適正な労働時間管理が行えるようにと導入された手法です。 

因みに、運転時間等についてはタコメータで管理できるため、「運転時間は2日平均で1日最大9時間まで、連続運転時間は4時間まで」と規制されています。「手待ち時間」や「積込み時間」は、拘束時間に含まれます。ひと月の拘束時間293時間として36協定を締結すると。月の労働日数を22日とすると、休憩時間22時間分(1日1時間の休憩)を除いた271時間を総労働時間とすることが可能で、これは、きちんと週休2日を確保した時に、毎日12~13時間労働が可能ということになるのです。残業時間は90時間近くになります。 

私の個人的意見を申し上げます。この改善基準の告示を一部の自動車運転者には適用させないようにして欲しいと思います。その運転者とは「宅急便の配達員」です。

労働省が「拘束時間」の概念を基に自動車運転者の労働時間を規制し始めたのは、昭和42年の労働基準局長通達(いわゆる「2.9通達」)からです。当時は、「宅急便」という業種がなく、郵便小包が主流でした。

私は、何日も自宅に帰れない長距離トラックの運転手に「拘束時間」の手法が適用されるのは、ある程度合理性のあることだと思います。しかし、現在では、日々自宅に帰宅する「宅急便の配達員」にまで、この基準が適用されています。つまり、宅急便の配達員は、法制度上月90時間まで残業が可能であるという訳です。宅急便の配達員こそ、法で「上限ひと月45時間の残業時間」を厳守すべきではないでしょうか。

 

普通の日記(29年9月5日)

(野反湖の花part2、by T.M

(前々回のブログ記事「トラック会社の長時間労働」の続きです。) 

昨日、愛知労働局が違法な長時間労働を行っていた事業場として、T運送会社を実名発表をしました。運送会社の労働時間に問題があることは事実です。 

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、平成22年の業種別労働時間数で、最も労働時間の長かった業種は「運輸業」で、年間の総労働時間の平均が2094時間でした。因みに第2位は「建設業」の2048時間です。「医師・看護師等福祉関係」「教師」「IT技術者」等個別に見ていけば労働時間の長い職種は存在するでしょうが、運送業の運転手は総じて労働時間が長いのです。 

これは、「業界の事情」と言ってしまえば、それまでですが、法制度も一因となっているようです。今回政府が国会に提出しようとしている、労働基準法の改正案によると、一般産業では、「残業が原則ひと月45時間、最大で100時間まで」となるそうです。しかし、「自動車運転者」については、その規制は適用とならず、現状のままで「残業がひと月95時間前後、最大130時間前後まで可能」ということになりそうです。 

某運送業の業界団体が、会員の運送会社の指導用に作成・公表しているモデル36協定では、「ひと月の残業時間は100時間まで」と記載されています。

これは、自動車運転者には、労働大臣告示「自動車運転者の労働 時間等の. 改善のための基準」(改善基準告示)が適用されるからです(厚生労働省の労働行政部門が、まだ労働省だった時に作成されたもの)。 

その告示によると、自動車運転手の拘束時間(労働時間プラス休憩時間)は、「原則ひと月293時間」「最長320時間」までとなっていて、それを労働時間に換算すると、先の残業時間の数字となるのです。

(続く)

 

気になる報道

(野反湖に咲く花part1,by T.M)

時々、新聞記事を読んでいると、訳の分からない記事を見つけます。前回のブログ記事の続きで、「トラック会社の不法行為」のことを書こうかと思ったけど、次のような記事を見つけたので、それについて書きます。

「気になる報道」という、新しいカテを作ることにしました。

その記事とは、次のようなものです。

「もう動けん」自殺の娘、眼鏡に涙の跡 嘱託職員の遺族

8/30(水) 12:35配信  朝日新聞デジタル 

 在職中にうつ病を発症し、27歳で自ら命を絶った北九州市元嘱託職員の両親が29日、うつ病は業務が原因と考えられ、公務災害(労災)にあたるとして遺族への補償などを市に求める訴えを福岡地裁に起こした。常勤職員なら認められる労災補償の請求権を非常勤には認めていない同市の条例により、違法に請求を阻まれたと主張している。

 「娘は非常勤職員であったがゆえに、労災請求を受け付けてもらえなかった。非常勤の方が苦しむことのないよう、労災補償の制度を改善してください」

 提訴後、記者会見に臨んだ森下佳奈さんの母親、眞由美さん(55)はそう声を絞り出し、「娘も『自分の死を無駄にしないで。同じような人がいたら助けてあげて』と思っているような気がする」とつぶやいた。

この日は佳奈さんの30回目の誕生日。佳奈さんの遺品だという眼鏡をかけ、「レンズを替えるとき、涙の跡があった。娘が『生きたかった』と訴えていると思った」と振り返った。

 佳奈さんは大学と大学院で心理学を学び、「障害のある子どもたちの力になりたい」と志して北九州市の嘱託職員になった。5年前の就職当初、「私は一生、この大好きな北九州に住むよ」と語っていた笑顔を今でも思い出すという。

 しかし数カ月たつと、離れて暮らす両親のもとに届くメールや電話は次第に苦しげな内容が増えた。業務の進め方をめぐって連日のように上司から叱責されたり問い詰められたりしたとし、「一日中おなかがキリキリ」「仕事行きたくない。泣きそう」「もう動けん」などと訴えていた。

 一方で佳奈さんは「つらいけど逃げない。相談者のために一生懸命頑張るよ」とも話し、両親は心配しつつも見守った。だが、その後うつ病と診断された。

 眞由美さんは「もっと早く娘を休ませていれば。後悔してもしきれない。娘のような犠牲者が二度と出ないよう願います」。

 一方、北九州市は朝日新聞の取材に、上司のパワハラなどを否定している。(阪本輝昭)

この記事の何が疑問かというと、記者が「制度をまったく理解していない」と思えるところです。記者が制度を理解していないことは仕方がないとしても、遺族の方から依頼を受けている弁護士は、制度を分かっていて訴えを起こしたのでしょうか。

公務員の労災補償には、2種類あります。公務災害として地方公共団体が認定するか、労働基準監督署長が認定するかどうかです。必ず、どちらかの方法で労災申請ができます。

この記事のケースでは、「市役所が公務災害の認定申請を受理しない」のだから、「労働基準監督署に労災申請をすればよい」だけの話です。

精神疾患の労災として労働基準監督署長が認定するかどうかは別問題として、このケースなら監督署は申請を受理し、調査し、職務と病気の因果関係を認めれば補償します。

もし、労災が不認定であり、その結論に疑問があるならば、労働基準監督署長相手に審査請求なり、裁判なりをすれば良いのです。

その調査過程で被災者の勤務状況も明らかになるでしょうし、遺族の方の救済の可能性もでてきます。

また、再発防止策を労働基準監督署から指導することも可能となります。

「公務災害として申請できない労働者」として市が認めていることは、「同労働者については、労働基準法が適用となり、労働基準監督官が権限行使できる」ということだからです。

それを、どうして「公務災害の申請を認めないから、市役所相手に裁判をする」ということになるのでしょうか。

遺族の方は、制度が分かった上で「労働基準監督署への認定申請」よりも「公務災害の申請を認めない市役所を訴える」ことを選択したのでしょうか。

遺族の方の救済のために、遺族の方から依頼を受けている弁護士は、今一度、この件についての方針を確認した方が良いと思います。