爆発災害について

(真岡市中村八幡宮、by T.M)

今回の札幌の爆発事故については、色々と書きたいことがありますが、まずは、負傷された方々の回復、そして被災された方々が一日でも早く、元の生活を取り戻されることを祈ります。

この事件について、どうもマスコミ等では不動産紹介会社の担当者を責めるばかりで、これが、「労災事故である」という視点が欠けているように思えます。ですから、会社責任への追及が甘くなっているようです。

会社が労働安全衛生法違反をしていた可能性は、非常に高いと思います。少なくとも、「引火性物質の取扱の社員教育をしていなかった」ことか、あるいは「引火性物質について、社員が適切に取扱っていたかどうかを確認することを怠った」ことは、(今後労働基準監督署が事実を明らかにすると思いますが)、マスコミ報道から判断すると、確実のように推測できるのはないかと思います。

作業に使用していた消臭剤については、「一般消費者の用に供される製品」であるのか、あるいは「業務用」であるのかによって、法的な取扱いは違います。メーカーが公表したSDS(安全データシート)から判断すると、メーカーは労働安全衛生法上の責任の軽い「一般消費者の用に供される製品」として取扱っていたようですが、同消臭剤がホームセンター等で売却されていないことから、法的な責任の重い「業務用」のような気もします。これもまた今後の捜査で明らかになることだと思います。

また、「一般消費者の用に供される製品」であっても会社には責任があります。次のQ&Aはある省庁のHPから抜粋したものです。

7.一般消費者の用に供される製品については、リスクアセスメントの対象にならないのか。ホームセンターで売っている物の中には、特定化学物質(エチルベンゼンなど)が入っているものもあるがどうか。

7.労働安全衛生法上、表示・通知義務のあるものにリスクアセスメントの実施義務が課せられるため、通達でも明示したように、一般消費者の用に供される製品については、義務の範囲からは除かれます。ただし労働安全衛生法第28条の2に基づくリスクアセスメントの努力義務の対象には含まれるため、SDSを入手し、リスクアセスメントを実施するようにしてください。

つまり、会社は「リスクアセスメント」を実施していなければならないのですが、この「リスクアセスメント」については、次回説明します。

私が今回の事故で驚いたことは、爆発災害の報道写真に、「労基署」という背中にワッペンを貼った制服を着用している者がいたことです。(下の写真は報道された写真の一部を私が切取ったものです)。監督署、頑張っているなーと思うと同時に少し違和感を覚えました。

監督署の職員は、いつからこんな服を着て、災害調査に行くようになったのでしょうか。背中のワッペンの「労基署」という文字はなんでしょうか。私の知る限り、監督署の制服に記入される文字は「○○労働基準監督署」「○○労働局」あるいは「厚生労働省」というものですし、それも胸のあたりに刺しゅうされているもので、このように「労基署」とだけ大きく書かれたワッペンは背負いません。 

これは、今回のような大きな事故でマスコミが来る時のためのみの制服でしょう。普段、職員がこのような制服を着用し、公共交通機関を利用して臨検監督へ行っているとは思えません。

私はある事を思い出しました。今から8年前に東日本大震災の時に、被災地の宮城県石巻市の労働基準監督署にお手伝い行った時のことは、以前にもこのブログに記載したと思います。業務命令としての「お手伝い」でしたが、震災後3週間後の派遣であったため、「現地までの足」と「現地での宿泊場所」を自力で確保できる者で、「志願した者」が派遣条件でした。私は妻が石巻市出身なので、妻の知人の家に泊まることにして、現地までの交通は鉄道が全線ストップだったもので、臨時に東京駅から出ていた東北地方行のバスを乗り継いで現地まで行きました。宿泊した家庭は、当時電気もガスも泊まっている状態でしたが、「石巻のために東京から手伝いに来てくれる」ということで、私を快く受け入れてくれました。そんな訳で、けっこう苦労しました。

その時に、出発前日に神奈川労働局の各部署に挨拶に行った時に、私の派遣の責任者である人事の担当者からいきなり、「神奈川労働局」と記入された腕章を渡され、「マスコミが来たらこれを着用して下さい」と言われました。そして、その担当者それ以外は私に何の話もしませんでした。(少なくとも、他の者は「頑張ってくれよ」とか「たいへんだなあ」とかいうことは言ってくれました。)

私は、その腕章を被災地には持って行きませんでした。

少し話が飛んでしまいました。爆発災害での「労基署」のワッペン着用について、賛否両方の意見があると思います。監督署の職員が災害調査に行く理由は、「災害の原因を明らかに」すること及び「再発防止措置のため」で、「組織の宣伝」のためではないと反対する者がいると思います(私はその考えです)。

また、士気が高まって良いと考える方もいると思います。(ただし、その場合においても、写真のような急ごしらえのワッペンでなく、きちんとデザインされたものの方が良いと思います)。

どうか、現場の職員の意見をよく聞き制服等を揃えて頂きたいと思います。

 

私の仕事

(推国沼、by T.M)

今日は、私の仕事を紹介します。私は、現在ある組織に所属していて、労働安全衛生コンサルタントの仕事をするサラリーマンです。もっと詳しく言うと、①工場等を訪問し、その工場で危険作業等を行っていないか、労働安全衛生法違反はないかチェックする安全診断、②法定講習の講師、③企業から依頼される安全講和・安全教育、④労働基準監督署から依頼される集団指導の講師等です。

今年度は、ある大手企業の11工場の安全診断及びそこの職員の教育を依頼され、1工場につき年3~4回工場訪問するので、そこの企業だけで年35人日の業務量です。また、他の企業からも色々と診断を依頼されます。

法定講習の講師は、「職長教育」「安全管理者選任時研修」「リスクアセスメント・スタッフ研修」「衛生工学衛生管理者講習」等です。また、テーマを絞った、企業から依頼される安全教育、そして企業の安全大会での安全講和の依頼もけっこう多いです。

累計すると、毎週「最低1回の職場の安全診断及び最低1回の何らかの講習会等講師」をしていることになります。工場の安全診断は、事前資料に目を通すのはもちろん大切ですが、診断後の工場に提出する「診断結果」の作成に時間が掛かります。また講演については、事前にパワーポイント資料等の作成が必要です。「診断結果」作りも、「パワーポイント資料」作りも、1日以上はかかります。従って、「毎週1回の診断及び1回の講演」はけっこうな仕事量になります。

この仕事をしていて、監督官のキャリアが役立っているなあと思います。それは「工場等を臨検かんとくして、法違反を探した事」「災害調査等で災害原因等を追究した事」等です。

監督官現役時代の経験が、退職後の仕事に直接結びついている私は、けっこう幸せ者かもしれません。

 

外国人労働者

(黄金色の会津盆地、by T.M)

ある人から、「時節柄、外国人労働者のことをもっと書いてくれ。」と言われました。だから、少し書こうと思いますが、実は私は、この問題にあまり詳しくありません。

合法的に日本に定着した南米人の働く現場には行ったことがありますし、労使トラブルは何度も処理しました。確かに南米人関係の申告は、労働者の割合からいって高かったかもしれませんが、そんな統計は作ったこともないので、正確には分かりません。というよりは、労働者が「南米人である」ということを意識しないで事件処理していたような気がします。これは、多くの労働基準監督官も同じだと思います。南米人については、日本人労働者と法の適用はまったく同じということが頭にありますから、普通に監督官の仕事をするだけです。労使の間に文化的摩擦はあったかと言われれば、そんな気もしますが、特に覚えてはいません。

日本人の配偶者を持つアフリカ系の労働者が多く働く、産廃業者の倒産事件を労働組合と協力して処理したことがあります。この時は、ちょっとした「文化的な誤解」があり、けっこう揉めました。しかし、あくまで「誤解」であり。理性的な対応はお互いできたと思います。

今、話題となっている「技能実習生」のことについては、「技能実習生制度」自体を理解していないのでよく分かりません。昔は「技能実習生の1年目は労働者でないので労働基準法の適用はない、それ以降は労働者」という法律でしたが、それも今では変更されているようです。いつからどう変わったかは知りません。

不法就労の労働者の申告も何回もしました。中には元技能実習生、現在脱走中という方もいました。そういう方々は、一人で来ないで、必ず「支援者」の方々と一緒に来ます。支援者の方々は、役所に対し不信感を持っている人も多く、その「支援者」の方々への対応が大変難しいものでした。

この不法就労の外国人対応について、労働基準監督署は入国管理局等について、一切通報はしません。だから、不法就労の外国人も安心して来署できるという訳です。

私は、この不法就労の外国人の申告処理が嫌いでした。外国人労働者を見ていると切なくなるからです。ここで当面の労使トラブルが解決したとしても、彼らはその後も、健康保険がなく、低賃金で、日本人がやらない仕事を、不法就労の外国人を使用することに抵抗感の少ない事業主の元で働き続けることになります。救いのない境遇をどうすることもできません。

今回の法改正で、彼らのような方は増えるのでしょうか?

 

労働基準監督官への誤解について

(笹子峠の旧笹子トンネル、by T.M)

昨日と今日は家でお仕事です。何か、役人やっていた時より忙しいです・・・疲れる。

yahooニュースを読んでいたら、最近労働基準監督署に、些細なことや、無理筋なことで相談する人が増えたという記事に出くわせました。そして、それに対応する労働基準監督署の監督官の態度が冷たいというものでした。誤解を得るかもしれませんが、敢えて書きます。

「労働基準監督官は、労使間のトラブルにおいて、労働者の味方はしません。」

だって、おかしいでしょう。国から給料をもらっている公務員が、国民どおしの争いについて、一方の味方をすることなんてありえません。中立が原則です。でも、それでは労働基準監督官の存在意義は何でしょうか。それは、

「企業に労働基準法を守ってもらうことです」

労働契約は一般的な民事の契約と一緒です。ようするに、「労働契約」も「売買契約」も基本的に同一だということです。しかし、労使関係に対等はありません。どうしても労働者の立場が弱くなります。もし、労働契約の内容に一定の制約がなければ、スキルを持たない労働者は労働時間はどんどん長くなり、賃金はどんどん安くなってしまいます。そこで一定の歯止めをかけるために、法律で「労働時間」「賃金」「労災補償」等を定めているのです。つまり、労働基準監督官が事業主に労働基準法を遵守させようとする行為は、法律自体がそうなっているので、最終的に労働者側に立つことになります。

しかし、これは結果的にそうなるということであり、労働基準監督官の立場としては、労使の間で中立であるということに変わりはありません。もちろん、「労働者のために働く」「ブラック企業と戦う」、このような心意気がなく、機械的に「法律どおり」という仕事をしていれば、監督官という職業はつまらないものになってしまいすが、権利を主張し、義務を怠る労働者の申し出に、毅然として拒否することも、また監督官の仕事であると思います。

10年くらい前から、前述の「法律違反であるかどうか」ということで、職権の行使を判断する労働基準監督官の仕事とは別に、もっとひろく労使関係のトラブルの仲裁をしようとする動きが労働局内ではじまりました。これは、地方労働局で「総合労働相談コーナー」という名称で実施されています。

この部署では、労使間のトラブルを「斡旋」や「指導」という方法で解決しています。この部署に、監督官が人事異動で担当になることもありますが、単純な「法違反の有無」だけの判断を求められるのではないので、かなり難しい仕事のようです。

もっとも、、最後は自らが司法警察員となりケリをつける監督官の申告処理と違い、こじれた時は民事裁判を紹介して終わるということなので、その部分では気楽なようです。