元請け

(シバザクラと武甲山・埼玉県秩父市の羊山公園、by T.M)

MBS NEWS  7/3

大阪・関西万博で相次ぐ、海外パビリオンの工事費未払い問題。新たにアメリカ館の工事に携わった下請け業者間でも未払いが起きていることがわかりました。

連日、長蛇の列ができる人気パビリオン「アメリカ館」。千葉県の内装業者は3次下請けで建物の壁などの組み立てを請け負い、去年11月からことし3月まで、工事を行いました。

しかし、この内装業者によると2次下請けからの入金が2月末で途絶え、約2800万円が支払われていないということです。

業者は取材に対し、「未払いですね。まさかですよね。こんなことがあっていいのって思っている」と話します。

未払いの工事費について一部だけでも早く支払ってほしいと発注元の2次下請けと交渉していましたが、その最中の5月に突然、その業者が破産。工事費の回収のめどが立たなくなっているということです。

博覧会協会は相次ぐ工事費の未払いについて「私たちができるのは行政の相談窓口などの紹介」だとしています。

これ、けっこう根が深い問題ですよ。取り敢えずは国交省何やっているんでしょうかね。工事の施工代金のトラブルは国交省が管轄するはずなんですけど・・・

私が労働基準監督官をやっていた時代には、このようなトラブルはありませんでした。第3次下請けだろうが、第4次下請けだろうが、賃金未払が発生した時に、元請けに連絡すると、元請けは出面(でずら)と賃金額を確認して、立替え払いをしてくれました。理不尽と思えることでも実によく言うことを聞いてくれました。

元請けがこんなに監督署に協力的なのは、自社が施工した現場では法違反をださないという元請けの法遵守の意志がある訳ですが、実は他にも理由があって、実利の一面もあります。

下請けの賃金不払いを、監督署の要請にもかかわらず、元請けがスルーした場合は、監督署は国交省に通報するシステムがあり、その場合は、元請けは数か月から数年間にかけて、公共工事の受注ができなくなるのです。請負高何千億もの公共工事の受注に影響するくらいなら、下請けの未払賃金くらい自分たちで払ってしまえということです。

因みに、この公共事業の入札禁止という奥の手は、影響が非常に大きいものです。労災事故が多発した場合も入札禁止になるのですが、事故が起きても元請けには連絡しないという下請けの労災隠しの原因にもなるという負の側面もありました。

ですから、建設会社で発生する賃金未払は、「公共工事の入札」に直接的にも間接的にもまったく関係のない、零細企業でのみ発生しました。

さて、今回の万博での賃金未払が、大きな問題となった背景には

   海外の企業が元請け

となったことが大きな原因です。彼らには、「今後、日本での公共工事の受注」など、なんら関係がないのです。従って、彼らが直接契約した一次下請けとの民事的なやり取りがすべてで、二次以下の会社の経営状況などしったことではないのです。

今後は、このような海外の建設会社の工事が日本国内で増えていくと思います。そうすると古き良き時代の元請け・下請けの関係は崩れるものと思います。またひとつ、世知辛い世の中になりそうです。

老人のボヤキ2

(土佐のオナガドリ・智光山公園こども動物園、by T.M) 

(今日も「労働問題」でなく、とりとめのない老人のグチを書きます。ご興味のない方はここで他ページに飛んで下さい)

日経ビジネス 7/1

日産自動車が打ち出す経営再建計画「Re:Nissan」へのアナリストの評価が厳しい。2万人のリストラや7工場の閉鎖など踏み込んだように見えるが、投資判断は「売り」一色だ。業績回復は2026年度まで待たねばならないうえ、計画の実行性を疑う見方は根強い。日産再建策の課題を探った。

 再建計画の指揮を執るイバン・エスピノーサ社長は、世界で2万人を削減し固定費と変動費を合わせて24年度比で5000億円減らすリストラ策を打ち出した。ただ、肝心の業績改善は26年度まで待たなければならない。

私の卒業した高校は、日産の追浜工場(横須賀市)の目の前にありました。だから、バイトといったら、日曜日に日産工場にいって、清掃のバイトをしていました。プールみたいなところにヘドロみたいな沈殿物が溜まっていたのを、スコップを使いバケツに貯めて運んでいたような気がします。朝8時から夕方5時まで、びっしりと勤務があり、重労働の割に給与は日給3000円をいかなくて、「安い」なあと思っていました。日産工場でアルバイトをしていたのは、学生だけでなく教師もそうでした。音楽の先生が、自分が指揮者を務める楽団(クラッシク)のコンサートの運営費を稼ぐために夜勤をしていました。今考えると公務員法違反だと思うのですが、当時は誰も止めませんでした。大らかな時代だったのでしょう。

そんな日産追浜工場が閉鎖されるそうです。悲しいことです。でも日産だけではありません。

「みなとみらい地区(横浜市西区)」「ラゾーナ川崎(川崎駅裏)」「テラスモール湘南(藤沢・辻堂駅前)」、この3つの神奈川県を代表するショッピングゾーンには、共通点があります。それぞれ、1990年代以降に大企業の工場跡に作られました。「みなとみらい」は「三菱重工業、横浜造船所跡」ですし、「ラゾーナ川崎」は「東芝、川崎工場跡」ですし、「テラスモール湘南」は「関東特殊鋼工場跡」です。これら廃止された工場で働いていた人たちはどこに行ったのでしょうか。因みに、私が神奈川労働局の労働基準監督官をしていた時に、閉鎖された工場はこれだけではありません。思いつくかぎり、次のようなものがあります。関東自動車横須賀工場、日本IBM藤沢工場、資生堂大船工場、合併した造船所(日立造船、JFE)、野村総研・鎌倉研究所等です。協力会社を含めると、従業員1000名~10000名(もしかしたらもっと多い)の大工場です。また、40年前に鳴り物入りで誘致した横須賀リサーチパークでは撤退企業があいついでます。地方都市でしたら街全体が大騒ぎになりそうな工場・研究所がどんどんなくなっています。

日本は不況だと言われていますけど、昔のようによくなるためには、これら工場群がすべて復活すればいいんだとは思いますが、この少子高齢化の世の中ではそれも難しいでしょう。

でも工場がなくなって良いこともあります。私の住居(横浜市港南区)の近くを流れる大岡川近辺は、横浜スカーフと呼ばれた、1970年代には日本国内生産量の90%、世界生産量の50%を占めるスカーフづくりの一大拠点でしたが、現在では1社もありません。そのせいか、大岡川は横浜の繁華街を流れているのにもかかわらず、サギやカモ等が訪れる清流を維持していて、川べりを散歩していると、日本の高齢者は、元気のなくなった世の中で静かに去っていくのかな、なんて思います。

先日、高校の同窓会の便りが届きました。50年ぶりです。昔の借りを返すために出席しなければならないと思いますが、みんなそんなことを考える世代になっているのでしょう。

今回は、とりとめのない話ですみません。

老人のボヤキ

(ミーアキャット・智光山公園こども動物園、by T.M)

先月、私が衛生管理者の受験準備講習会の講師をしていた時のことです。ある受講生が質問をしてきました。

「カード穿孔機って何ですか」

その受講生は、古い衛生管理者試験の試験問題を見て、そういう質問をしたようでした。令和4年に、事務所衛生基準規則が改正され、「騒音防止対策の事例として紹介されていたカード穿孔機の業務」が法条文からなくなりました。

(新)事務所衛生基準規則第十二条 事業者は、タイプライターその他の事務用機器で騒音を発するものを、(略)専用の作業室を設けなければならない。

(旧)事務所衛生基準規則第十二条 事業者は、カード穿孔機、タイプライター等の事務用機器で騒音を発するものを、(略)専用の作業室を設けなければならない。

実は、私は受講生からこの質問をされるまで、「カード穿孔機」という文言が法律から削除されていたことを知りませんでした。

この時の事務所衛生基準規則の改正については、「事務所には男女別のトイレを設置しなければならない」から「マンションの一室を利用した職場では男女共用のトイレでも良い」という改正が含まれるもので、そこそこ話題になったものでしたが、その法改正個所の盛り上がりと比較し、「カード穿孔業務の削除」はまったく話題になりませんでした。(厚生労働省製作のリーフレットにも記載がなかった)。

「カード穿孔業務」とは、フロッピーディスク等ができるまでは、コンピューターのプログラミングは、紙カードに穴をあけ、それを機械が光をあて読み取り、外部データーとして保存したものでした。分かりやすくいうと「マークシート」用紙について、黒く塗るところを穴をあけるのです。(「マークシート」も「タイプライター」も、多分もうすぐ死語になるでしょう)。この業務は、40年前にコンピューターに関連した仕事をしていた者にとっては、当たり前のように認識していた業務でしたが、その業務を指す文言が、静かにこの世から消えていくことは、当時を知る者としてはけっこうショックなものです。

そういえば、こんなこともありました。私が非常勤で勤務している某労働安全衛生団体のHPから、なんと団体の電話番号が消されたのです。何でも、業務に無関係な電話が入ってくるから煩わしいとのことでした。私のような年齢の者については信じられないことです。でも、なんかこれが現在では、当たり前のことのようです。何より、現代の若者は「電話の応対の仕方」が分からないとのことです。

私たちの世代の常識では、「ウィンドウショッピングしてくれる方」もお客さんであるという認識でした。だから無用の電話もかけてくれるだけ有難いと思っていました。でも、現在では「実際にお金を出して購入してくれる方」のみがお客さんという認識です。オンライン・ショップが流行る訳です。リアル店舗の商店街の散歩を楽しむことは、高齢者の感傷にすぎないのでしょう。

もはやメールだけが通信手段と思っていたら、ふと気づくことがありました。メールで労働相談に乗っていたら、高確率で「ありがとうメール」が届くのですよね。けっこうこれは嬉しいものです。

どうやら、今の若いものは、若い者なりの礼儀作法があるようです。老人にはなかなか気づかないところに思いやりの気持ちが生きているんでしょうね。

教員の給与

(青い花ネモフィラ・秩父高原牧場、by T.M)

6/11 NHK

残業代の代わりに支払われている教員給与の上乗せ分を引き上げるための改正法が、参議院本会議で与野党の賛成多数で可決・成立しました。

公立学校の教員の給与は、勤務時間の線引きが難しいとして、「給特法」と呼ばれる法律に基づき、残業代の代わりに一律で月給の4%が上乗せされています。

改正法は、処遇改善に向け、この上乗せ分を来年から毎年1%ずつ引き上げ、6年後には月給の10%にするとしています。

また、働き方改革も進めるため、教育委員会に対し、教員の業務量を管理する計画の策定や、実施状況の公表を義務づけることも明記しています。

さらに、負担軽減の観点からも、若手の教員のサポートや、校外の関係者などとの調整役を担う「主務教諭」という職位を新たに設けることなども盛り込まれています。

改正法は、衆議院で与野党協議を経て、4年後までに教員の時間外勤務を月平均で30時間程度に削減する目標などを付則に盛り込む修正が行われ、参議院で審議されてきました。

教師の労働についてなんですが、難しいのは「労働時間とプライベート時間」の区別がつかないということです。「夜回り先生」という方がいました。なんでも、夜中に繁華街で生徒を指導していたそうです。これはとても立派な行為だと思います。でも、この先生が夜中に生徒を指導中に事故で死んだら、はたしてそれは労災(公務災害)でしょうか?

これは夜回り先生だけの話ではありません。教師が休日に生徒の不適切な行動を見つけ注意し、事故にあったら、それは労災でしょうか?

私は労災認定が当然だと思いますが、それでは前述の「夜回り」の時間や、「プライベート」の時間に残業代が払われるべきでしょうか? それも何かおかしい気がします。

こう考えていくと、一律10%の手当てというのは、ある程度合理性があるような気がします。

しかし、ここで注意しなければならないのは、「ある程度」の合理性であって、無制限に労働時間を延長することではないということです。10%が支払われているからといって、授業終了後の部活動の顧問を強制されたり、修学旅行での長時間労働を強制されたりすることはおかしいのです。

いつもの、私の主張に戻りますが、「日本中の学校で修学旅行を廃止」しましょう。例えば、2泊3日の修学旅行では教師は72時間連続労働となります。教育委員会が作成する計画表では「休憩時間」等が記載されているそうですが、実際は、その休憩時間とは「何かあった時に連絡が取れること」が強制されているのではないでしょうか?それは休憩時間ではなく、「拘束されている労働時間」となります。そのような労働態様が10%の手当てが支払われているから許容されるということにはならないと思います。

残業代の代わりの手当てが4%から10%に引き上げられるのは良いことです。でも、それでは法改正は不十分で、さらに「部活手当て」「修学旅行手当て」等の創設が必要なのではないかと思います。

今回の法改正は、よりbetterになったと思います。しかしbestではありません。というよりbestとは何かが判明しません。これは、当事者である教員についても、それぞれ目指すところが違うと思います。なので、誰も反対するもののいない「賃上げ」が達成されたということは結論として良かったことでしょう。

土俵の高さ

(コツメカワウソ・智光山公園こども動物園、by T.M)

スポニチ 6/9

日本相撲協会を退職した元横綱・白鵬で前宮城野親方の白鵬翔氏(40)が9日、都内のホテルで会見を開いた。日本相撲協会を退職改めて報告。世界相撲プロジェクトを推進する「世界相撲グランドスラム」構想を明らかにした。

 協会は2日に東京・両国国技館で臨時理事会を開き、提出されていた退職届の受理を承認。また、9日付で伊勢ケ浜親方(元横綱・旭富士)が年寄「宮城野」を襲名、照ノ富士親方(元横綱)が年寄「伊勢ケ浜」を襲名し、伊勢ケ浜部屋の新師匠になることも承認した。

 白鵬氏は冒頭で「相撲に愛され相撲を愛した25年でありました。この場を借りまして、白鵬翔は日本相撲協会を退職して改めて夢に向かって進み出すことをお伝えします」とあいさつ。「今の自分が置かれている立場を考えますと、協会の中ではなく外の立場から相撲の発展に力を注いでいくことがいいと判断して最終的には自分自身で決断しました」と語った。

 質疑応答の最後に「今回の退職に悔いはありますか?」と聞かれると、「悔いは全くありません」ときっぱりと言い切った。

白鵬関(白鵬氏)、お疲れさまでした。横綱後に親方となられ、弟子の不祥事の監督責任をとられたようですが、今般相撲協会を去るのですね。私は、白鵬関の相撲が好きでした。人は彼のことを礼儀知らずの無法者と呼びます。しかし、私は相撲を誰よりも愛していたのは、彼であると思っています。白鵬関の相撲は、日本の文化とモンゴルの文化の戦いでした。しかし、日本文化を愛していたのも彼だったと思います。

そんな訳で、今日は安全衛生コンサルタントから見た相撲の話です。最初に断っておきますが、私は相撲ファンとしては未熟です。優勝が決まる立会や、千秋楽なら見ますが、NPB観戦ほどの思い入れはありません(私は、昔は大洋ホエールズからのファンで、横浜スタジアムには、年2,3回は観戦に行きます)。そんな、素人の浅はかな意見としてお聞きください。

土俵の高さをなくしたらどうでしょうか

まるい円を床に描きそこで相撲をするのです。あるいは、土俵の高さを10cmくらいにするのです。なぜそんなことを言うかというと、「相撲をとる人の安全のため」です。相撲をテレビで観ていて、時々思うのですが、力士が土俵から、ころげ落ちていく様子や、飛び降りていく様子をみて、非常に危険だなと思いました。災害防止のためには、土俵の高さを調整するのが一番の対策です。

私の意見に対し、一笑に付す人、何をバカなことをと眉をひそめる人、これだから素人はと思う人、相撲の伝統をなんだと思っているのだと怒る人、様々だと思います。でも、私のような安全衛生の専門家の中には、意外と理解を示してくれる人がいるような気がします。

労働災害防止のためのリスクアセスメント理論によると、リスク削減対策は、(1)本質的対策、(2)工学的対策、(3)管理的対策の順番で行われることが効果的だと言われています。ここでいう、本質的対策とはハザードの除去を行うことです。

「力士が土俵から落ちてケガをする」という事故のハザードは「高さのある土俵」ということになります。従って、事故防止には、高さのない土俵を作ることが一番の対策であるということになります。

もちろん、土俵の高さを変えるということは、観客席を変えるということですから、建物自体を改築するということになります。しかし、災害をなくすための本質的対策というのは、設備投資を伴うことが多いのが現実です。それでも、安全のためには、企業は予算をかけなければばらないこともあるのです。

なんか,相撲ファンの99%があきれる提言をしてしまいました。でも、不幸な予測ですが、土俵から落ちて力士が大けがをした時に、もしかしたらこのような議論が起きるかもしれません。そのようなことにならないように祈ります。