9月いっぱい休みます

(ツツジ・城山湖畔、by T.M)

コロナ禍の中ですが、なぜか仕事が増えています。

昨年の同時期と比較してみると、9月は安全診断は2件増、セミナー講師の仕事は1件増でした。とは言っても、セミナーについては昨年と大きく変わってしまったことがあります。例えば、昨年は定員24名であった職長教育を、今年は同一教室でありながら定員8名で実施しているのです。三密を避けるための措置です。それでいて受講料は昨年と変えていないのですから、赤字がどれだけ膨大なものになっているのか、勤め人の私としては気になるところです。

まあ、なんやかんやと言っても、経済を回していかなければなりません。withコロナの政策が正しかったどうかの判断ができるのは数年先ということでしょうが、自分と自分の家族の安全をどのように守ろうか悩みます。

そんな訳で、9月いっぱい仕事が立て込んいます。ブログを9月いっぱい休止とすることにしました。休止中は、不定期に代筆があるかもしれません。(現在、過去に代筆をお願いした、いつも写真を提供してくれているT.M氏《某地方労働局安全課幹部》に交渉中です)。

休載中はブログ全体の構成を見直すつもりです。ある人から言われたのですが、「ブログ記事の掲載日時」から記事検索をできるようにしてくれということなので、努力してみます。

従って、一時「カテゴリー」及び「タグ」が使い難くなりますが、ご容赦下さい。

なお、問合せには、休止中にも対応するつもりですので、御用のある方はメールを下さい。

デハデハ

ある質問

(チューリップとハナモモ・山梨県勝沼ぶどう郷、by T.M)

 

皆さま、暑中お見舞い申し上げます。

本来は「残暑」と書かなければいけないのでしょうが、今年は梅雨が異常に長く、今がとても暑いので、立秋を忘れてしまいそうです。

先日、ある方から、監督署の業務について次のような質問を受けました。少し、専門性が高い質問で、何を言っているか分からない方もいらっしゃるかもしれませんが、私にとっては、元監督官として興味がわいてきた質問であったため、ここに紹介します。

(質問)ある有名料亭の話です。そこの料理の評判を聞き、全国から多くの板前さんや地元の調理師学校の生徒さんが修業に来ます。

料亭側は、修業中の者だから給与は支払わないのが当然だと考えています。しかし、修業といっても、板前さんたちを板長が教育する訳ではありません。料亭側は、板長が板前さんたちの料理をひと口味見をして、その感想を述べるだけで「修業」だと考えているようです(もっとも、板長は、味見をした料理について、それが不満だからと言って、板前さんに作り直させることはしません)。

修業中の板前さんたちは、シフトの空き時間に他のレストランへアルバイトの行き生計を立てていました。どの板前さんも、有名料亭でシフトに入るくらいですから、腕は良く、どこのレストランでも歓迎してくれました。このような、修業のシステムは、この有名料亭では何年間も続いてきたものでした。ただし、板前さんについては、時間外の深夜に急に常連客が来た時だけ特別な手当が貰えるケースもあるようでした。

調理師学校の生徒さんについては、シフトに入ることもありますし、掃除等の雑用をやらされることもあります。

この有名料亭に1年以上前に監督署が調査に入りました。しかし、板前さんや調理師学校の生徒さんの待遇について、何の改善もありません。

私(質問者)は興味をもったので、監督署の担当官にこのことを問い合わせてみました。しかし、監督署は「調査中なので答えられない」と返答されました。監督署は、相手が有名料亭だから遠慮しているんじゃないのかと私は不信感をもちました。

私はこの質問に対し次のように回答しました。

(回答)監督署は、相手が「有名料亭」だからといって遠慮することはありません。かえって、遣り甲斐を感じる職員はいるでしょう。監督官の誰もが考えても、板前さんには賃金が支払うべきだと考えます。遅れている理由は、多分、板前さんの問題でなく、「調理師学校の生徒さんたち」の件が問題であり、結論がでないのではないでしょうか。

さらに、質問者から詳しい状況を尋ね、次のように回答を続けました。

監督署が労働時間等を調査する時にぶつかる問題として、「どこからどこまでを労働時間と見なすのか」、つまり「労働時間の確定」の問題があります。上記のケースで言うと、「調理師学校の生徒さん」たちは、料亭で掃除等の仕事もさせられていましたが、その時間は労働時間と見なせ、賃金は支払われるべきだと思われます。そして、調理場にいて、板前さんたちの仕事を手伝い、調理の仕方を学んでいた時は、やはり調理学校の授業時間だとみなせるような気もします。では、調理がすべて終わり、料理の後の鍋や窯を洗っている場合は労働時間でしょうか?難しいところです。

調理師学校は、料亭側に、生徒さんたちを受け入れてくれる見返りに、どのような金銭的な遣り取りや、取り決めをしていたのかも、労働時間の確定の大きな要素となりますが、上記のケースでは、「料亭」と「調理師学校」が経営的に系列関係にあり、正式な契約もないまま、慣習として生徒を料亭に派遣していただけということなので、そのような事情も問題を複雑にしていると思います。(ただし、その調理師学校は、有名料亭で研修を受講できることを、宣伝としていた部分もあります。)

このような事件で監督署が行うべきことは、次の2つです。

①過去の未払賃金の遡及是正

②今後、同種の法違反がでないように、料亭に研修システムの改善を行わせること

今回の事件で、監督署の処理が遅れているということは、①の遡及是正について、「労働時間」の特定ができないためだと思われます。そしてそれは前述の「調理師学校の生徒さんの労働時間が確定しがたい」ためだと思います。

いっそのこと、明確な賃金不払いである板前さんたちに遡及是正をさせ、調理師学校の生徒には「労働時間不明」で遡及是正を命じないという方法もあります。しかしそれでは料亭が、「板前さん」については法違反であるが、「調理師学校生徒さん」については法違反でないと勘違いする可能性があります。

もし、私がこのようなケースの担当官であるなら、①の遡及是正は一切行わずに、②の料亭での研修システムの明確化を行わさせるといった方法を検討します。具体的には、「板前さん」のシフト勤務に対しては、今後全て賃金を支払うこととし、「調理師学校生徒さん」については料亭の経営上に必要な業務に対しては賃金を支払わせ、「授業料を支払っているので、権利として料亭の業務に参加させる時間」の明確化といった方向性を目指します。

上記のケースで悪質なのは、「賃金不払いの料亭」もそうですが、「授業料をとっていながら、生徒に上記のような業務」を行わせる調理師学校でしょう。

さて、いずれにせよ冒頭の「監督署の申告処理がなぜ遅れているのか」の質問については、「これは、けっこうやばくて、難しい事案だから」というのが回答となります。とは言っても、申告処理に1年以上かけるのは異常です。監督署担当官の熱意を疑われても仕方ないことと思われます。

コロナ禍の現在において、無給の板前さんや、調理師学校生徒さんが職場内でコロナに感染した場合、本来なら労災となるところが、無給の方は「労働者でないので労災認定の対象でない」とされる場合も想定できますので、監督署の早期処理が求められます。

さて、質問された方はこんな質問もされていました。

「現在、飲食店・レストラン業の恒常的な長時間労働が話題となっていますが、今回の料亭の事件のように、業界の体質として何か問題があるのでしょうか。」

私は次のように答えました。

「業界の中の方が特殊な考え方をするというのはよくあるケースです。ただ、個別のレストランの長時間労働と、今回の料亭の事情は、関連性は低いと思います。個別のレストランの長時間労働については、人を増やす等の方法で改善はできると思います。もっとも、改善の方向性は分かっていても、それが難しいことは事実です。今回の料亭の件は、解決への方向性が定まらない難しさがありますが、それが明確になれば、意外と解決も早いと思われます。だからこそ、監督署の早期の是正勧告が必要だと思います。」

夏の思い出

(甲斐駒ヶ岳とナノハナ・長野県富士見町、by T.M)

夏が来ると思い出します。

7年前のこの季節に私は横浜市大の浦舟病院のICUに入院していました。ギランバレーでした。ギランバレーの症状は、ALSに似ています。全身の神経がやられてしまい、動ける箇所は首だけになります。腕や足が動かないだけでなく、目の瞼も閉じられなくなり、舌も動かず、食べ物を嚥下することもできません。医師は私の呼吸器が動かなくなることを危惧し、気管切開し人工呼吸器を装着し、尿道カテーテル、点滴の措置を行いました。当時の様子をカミさんに尋ねると、カミさんは「機械に囲まれ、チューブがたくさん取り付けられて、宇宙飛行士の様だった」と答えてくれます。

ALSとギランバレーの違いは、ギランバレーは上記のような症状(最悪期)に達するのに1~2週間かかり、最悪期がさらに1~2週間続いた後に健康が回復する可能性が高いということです。もっとも、回復といっても、リハビリを何年も行うこととなり、それでも後遺症が残ることもあり、寝たきりになり人や、私のように歩行困難となる人も多いようです。

ALSはギランバレーと違い、症状発覚から最悪期になるまでに数年かかり、その後回復する見込みは少ないと聞きます。ゆっくりと症状が悪化してくることを自覚できるので、患者の精神的な苦しみは壮絶なものでしょう。希望があった私の場合でも、医師は「気が狂う」ことを恐れ、「眠らせる」措置を行いました。私は全然覚えていませんが、話せる状態の時は、ずっと大声で独り言を言っていたようです。ですから、今回のALSの方の自殺の件についても、なんとなく理解できるような気がします。

私が最悪期を脱しつつあった7年前の8月15日に、朦朧とする意識の中で観ていたテレビで次のニュースが流れていました。

2013年8月15日19時30分ごろ、花火大会会場で臨時営業中であったベビーカステラを販売する屋台の店主が、発電機にガソリンを給油するためにガソリン携行缶の蓋を開けたところ、大量のガソリンが噴出して爆発した。この爆発により花火の見物客3名が全身火傷(III度熱傷)を負うなどして死亡した。また、59名が重軽傷を負い、露店3棟が延焼した。

事故原因は、店主がガソリン携行缶のエア調整ネジを緩めることなくいきなり蓋を開けたため、携行缶の開口部からガソリンが一気に噴き出して周囲に飛散し、火気を使用する複数の屋台にガソリンが降りかかって引火・爆発したためである。(Wikipediaより引用)

この報道で私は、自分の本来の仕事を思い出し、入院中であるにもかかわらず、忸怩たる思いにかられました。

私が、このニュースを聞いて、なぜそんな思いをしたかというと、その事故以前に私の所属する労働局管内で、まったく同じ事故が発生していたからです。

ここで、災害原因となった「ガソリン携行缶」について、ご説明します。これは、ガソリンを持ち運ぶための容器ですが、普通の石油缶等と違うところは、容器には吸入口の他に小さなネジがついていることが特徴です。ガソリンを密閉された容器に入れ運搬すると、容器の中でガソリンが気化し、中の圧力が高まり、そのまま容器の栓を緩めると、そこからガソリンが勢いよく噴出することがあります。缶ビールの蓋を開けた時に、中のビールが噴出してくる場合がありますが、それと同じ現象がガソリン入り容器の中で起きるのです。それを防止するために、ガソリン携行缶には小さなネジがついています。容器の栓を開ける前にこのネジを開くことによって、圧力を逃がしてやるのです。ただ、この操作方法を知らないで、ガソリン携行缶を使用している人も多いらしく、捜査方法を誤っての事故事例は多いようです。因みに、昨年の京アニの容疑者青葉真司による放火事件ですが、青葉容疑者も放火の最に、このガソリン携行缶の操作を誤り、内圧を抜かないでガソリンを撒いたために、自らもガソリンをかぶってしまったのではないかと推測されます。

さて、福知山の事件の前に、私の所属する労働局内で発生した事件とは、建設現場で発電機にガソリン携行缶から燃料を補給しようとした労働者が、エア調整ネジを緩めることなくいきなり蓋を開けたため、ガソリンが噴出し、発電機の熱でガソリンが燃焼し、労働者が火傷で死亡したものです。

私はその時、労働局の安全課に所属していましたが、署から災害調査復命書が上がってきた時に、「これは大変な事故だ」と思いました。ガソリン携行缶がホームセンター等で売られていて、一般人がすぐ利用できるのに、使用方法については周知されていないと思ったからです。「必ず、将来的に大きな事故が起きる」と思いました。また、調べてみると、ガソリン携行缶での災害は、その時点においても全国的に多数発生しているようでした(主に、各地方の消防署のHPから情報を得ました)。

署の災害調査復命書では、法違反なかったので、指導票を交付とすると記載されていました。私は、この事件については「無理筋」の送検でもすべきだと主張し、決裁蘭にはそのことも記載しました。しかし、結論は変わりませんでした。

病院を退院し、リハの継続中に、久しぶりに安全課に行った時に、当時を知る安全課の職員から、「心配が当たってしまいましたね」と言われました。私は、あの時に、もっと強行に自己主張していればと、その時に激しく後悔しました。

(注)監督署は、災害が発生した時に、その直接原因が安衛法違反である時に送検手続きを取ります。しかし、「直接原因」でなくても、社会的に大きな事案であれば、社会全般への影響を考慮し、「間接原因」を見つけ(こじつけ)、無理筋に送検することが時々あります。そのような送検は、関西の労働局に多く見受けられます。具体的事例については、今後このブログで、機会があれば紹介していきたいと思います。

兼業・副業について

(たんぽぽと大内宿遠望・福島県下郷町、by T.M)

ブログネタに困る週もあれば、何を書こうか迷う週もあります。

ALSの方の嘱託殺人について、ギランバレーの後遺症の残る者として感想を書こうかと思いました(ALSとギランバレーは症状がよく似ています。私も一時はALSを疑われました)。

また、福島の工事現場での爆発災害や、トーキン仙台事業所の酸欠災害(2名死亡)も労働安全衛生コンサルタントとしては興味深いものです。

しかし、やっぱり最近の旬の労働問題の話題は次のものでしょう。

https://www.mhlw.go.jp/content/000645682.pdf

労働者災害補償保険法の9月1日からの改正です。

この改正って、けっこう「働き方改革」としては重要なものです。要点を言うなら、「ダブルワーク」をしていた方の労災補償が、両方の会社の賃金額を合算した賃金額で補償を受けることができるようになったということです。

実例を挙げると、次のとおりです。

(例) Xさんは、8時から17時まで、A工場の事務仕事を月給25万円でしていたが、19時から21時まで時給1200円で自宅近所のBスナックでアルバイトをした。スナックでアルバイトをしていた時に、客からコロナを感染させられ1ヶ月休業した。そして、労働基準監督署で労災認定された。

今までの法律では、上記の場合、Xさんへ労災保険から支払われる給付額はBスナックから支払われる時給1200円をベースにしたものだけでした。9月1日以降は、X工場の月給25万円も含まれるようになりました。当たり前といえば、当たり前のことですが、「兼業」を解禁としたい「働き方改革」について、労働者が安心して生活できるといった側面から、これは非常に大切な法改正です。

この改正については、いくつかの疑問点もあります。

まずは労働基準法第19条の解釈です。同条文では、「労災で休業する労働者については、休業期間中は解雇してはならない」と規定されています。上記のようなケースの場合は、Bスナックでは、 療養期間中のXさんを解雇できないのは当然ですが、A工場では、直接の労災が発生していないので、Xさんの自己責任による長期休業を理由に解雇できてしまうような気もします。そのへんの法解釈が、まだ厚生労働省から発表されていないようなのでが、できればA工場でも解雇はできないというような行政からの指導をしてもらいたいと思います。

「兼業・副業」の件で一番大きな問題は労働基準法第38条の解釈でしょう。同条文第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」とされています。この条文の意味するところは、「兼業で通算で1日8時間を超えた場合は、後で仕事をする事業場が残業代を支払わなければならない」ということです。

つまり、上記の労働形態では、XさんはA工場で昼間に既に8時間働いているので、夜間のBスナックの2時間の労働は残業代が含まれていなければなりません。

上記のケースでBスナックが東京都か神奈川県にあると、時給を1200円しか支払っていないので、即時法違反となります。なぜなら、東京都の最低賃金は時給1013円、神奈川県のそれは1011円なので、残業代(25%の割増賃金)を含めると、それぞれ1267円以上(東京都)、1264円以上(神奈川県)の賃金を支払わなければならないからです。

この労働基準法38条のことを理解されている人はあまりおりません。今後、この件が原因で労使問題が多く勃発しそうな気がします。上記の労働形態を少し変形して、

Xさんは、朝4時30分から6時30分までC新聞店でアルバイトをしてから、A工場で8時から17時まで働く

ということにしたら、今度はA工場が2時間分の残業代を出さなければなりません。これではA工場はXさんの兼業を認めることはできないでしょう。

さすがにこれではまずいと思ったのか、厚生労働省では、労働政策審議会の中の労働条件分科会で、今後この問題について検討する模様です。ただし、7月30日に開催された同分科会の資料では「今後検討する課題」とされているだけで、方向性はまったく決まっていないようです。

兼業する労働者が過重労働とならないように、兼業する事業場の労働時間を通算して考えることは当然ですが、この割増賃金の適用は、兼業しやすい環境を確保するためにも、廃止して欲しいと思います。