(たんぽぽと大内宿遠望・福島県下郷町、by T.M)
ブログネタに困る週もあれば、何を書こうか迷う週もあります。
ALSの方の嘱託殺人について、ギランバレーの後遺症の残る者として感想を書こうかと思いました(ALSとギランバレーは症状がよく似ています。私も一時はALSを疑われました)。
また、福島の工事現場での爆発災害や、トーキン仙台事業所の酸欠災害(2名死亡)も労働安全衛生コンサルタントとしては興味深いものです。
しかし、やっぱり最近の旬の労働問題の話題は次のものでしょう。
https://www.mhlw.go.jp/content/000645682.pdf
労働者災害補償保険法の9月1日からの改正です。
この改正って、けっこう「働き方改革」としては重要なものです。要点を言うなら、「ダブルワーク」をしていた方の労災補償が、両方の会社の賃金額を合算した賃金額で補償を受けることができるようになったということです。
実例を挙げると、次のとおりです。
(例) Xさんは、8時から17時まで、A工場の事務仕事を月給25万円でしていたが、19時から21時まで時給1200円で自宅近所のBスナックでアルバイトをした。スナックでアルバイトをしていた時に、客からコロナを感染させられ1ヶ月休業した。そして、労働基準監督署で労災認定された。
今までの法律では、上記の場合、Xさんへ労災保険から支払われる給付額はBスナックから支払われる時給1200円をベースにしたものだけでした。9月1日以降は、X工場の月給25万円も含まれるようになりました。当たり前といえば、当たり前のことですが、「兼業」を解禁としたい「働き方改革」について、労働者が安心して生活できるといった側面から、これは非常に大切な法改正です。
この改正については、いくつかの疑問点もあります。
まずは労働基準法第19条の解釈です。同条文では、「労災で休業する労働者については、休業期間中は解雇してはならない」と規定されています。上記のようなケースの場合は、Bスナックでは、 療養期間中のXさんを解雇できないのは当然ですが、A工場では、直接の労災が発生していないので、Xさんの自己責任による長期休業を理由に解雇できてしまうような気もします。そのへんの法解釈が、まだ厚生労働省から発表されていないようなのでが、できればA工場でも解雇はできないというような行政からの指導をしてもらいたいと思います。
「兼業・副業」の件で一番大きな問題は労働基準法第38条の解釈でしょう。同条文第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」とされています。この条文の意味するところは、「兼業で通算で1日8時間を超えた場合は、後で仕事をする事業場が残業代を支払わなければならない」ということです。
つまり、上記の労働形態では、XさんはA工場で昼間に既に8時間働いているので、夜間のBスナックの2時間の労働は残業代が含まれていなければなりません。
上記のケースでBスナックが東京都か神奈川県にあると、時給を1200円しか支払っていないので、即時法違反となります。なぜなら、東京都の最低賃金は時給1013円、神奈川県のそれは1011円なので、残業代(25%の割増賃金)を含めると、それぞれ1267円以上(東京都)、1264円以上(神奈川県)の賃金を支払わなければならないからです。
この労働基準法38条のことを理解されている人はあまりおりません。今後、この件が原因で労使問題が多く勃発しそうな気がします。上記の労働形態を少し変形して、
Xさんは、朝4時30分から6時30分までC新聞店でアルバイトをしてから、A工場で8時から17時まで働く
ということにしたら、今度はA工場が2時間分の残業代を出さなければなりません。これではA工場はXさんの兼業を認めることはできないでしょう。
さすがにこれではまずいと思ったのか、厚生労働省では、労働政策審議会の中の労働条件分科会で、今後この問題について検討する模様です。ただし、7月30日に開催された同分科会の資料では「今後検討する課題」とされているだけで、方向性はまったく決まっていないようです。
兼業する労働者が過重労働とならないように、兼業する事業場の労働時間を通算して考えることは当然ですが、この割増賃金の適用は、兼業しやすい環境を確保するためにも、廃止して欲しいと思います。