トム・クルーズ

(JR飯山線の車窓、by T.M)

次のようなメールを頂きました。

私は大学在学時代の6年ほど前からブログを拝見しており、おばら様が最近ブログのネタを探しているような記述を拝見したので連絡させていただきました。

以下のリンクについて簡単に申し上げますと、コロナ禍において俳優のトム・クルーズがプロデューサーとして製作を指揮していた、『ミッション・インポッシブル(何作目かは失念しました…)』において、製作陣が定めた感染症予防指針に違反する行為(ソーシャルディスタンスを守らなかった)を労働者が行っていたため、トム・クルーズが他の労働者数十名ほどの前でFワードを含めた叱責をした場面が流失し『サン』でスクープとして取り上げられ、アメリカで話題となったものです。

トム・クルーズの行った行為がハラスメントとなるか?その内容(企業が負うべき責任や安全管理等)について、以前のUSスチールの記述との兼ね合いなどブログと相性が良いかと思いお知らせさせていただきます。

ありがとうございます。私が情けないばかりに、お得意さんにご迷惑をかけて申し訳ございません。67歳という高齢者への労りの言葉をかけて頂き、涙ぐんでしまいます。

さて、頂いたお話なんですが、トム・クルーズ(以後「トム」と呼ぶ)が、コロナ期の映画の撮影中に、衛生対策を無視したスタッフを公にしかっているものです。論点をまとめてみました。

1トム威圧的な言葉は妥当であるか

言うことをきかなければ解雇するという表現は妥当か

公(人前)で叱ることは妥当か

トムの良い点は何か?

まず、(1)の点ですが、私は個人的には「安全にパワハラはない」と思っているので、トムの行為は賛成しますが、やっぱり怒鳴りつけるのはまずいという意見もあります。墜落の危険性のある作業床の端で安全帯(要求性能墜落制止用器具)を使用していない労働者に「おい、その作業やめろ」と強く言うのはかまわないと思う。でも、強く言ったら、驚いて墜落災害が発生してしまうかもしれない。目的は、作業を辞めさせて、今後同種の不安全行動を起こさせないことなので、静かに説き伏せることは可能であったはずです。と、理屈では分かっていても、自分の職場の災害ゼロを本当に考えている者は、あえて不安全行動をしている人をみたら感情的になるのは当たり前です。冷静にいる方がおかしいのです。

次に(2)についてですが、本気で「解雇」する気があるなら、言ってもかまわないと思います。自分の優先的な地位を利用して、脅しのようにいうならまずいですが、本気で「次にやったら解雇だ」と宣言し、本当に解雇するなら、警告なしで解雇するより良いと思えます。故意の再度の不安全行動は当然解雇理由になります。

(3)の件ですが、結局これが一番の問題でパワハラに該当するかどうかですね。確かに、みなの目前で叱られれば、叱られた方はそれを恥辱と思うでしょう。どれだけ理を説いても、相手に感情的になられたらおしまいでしょう。トムはその点を間違えたように思えます。ただし、「あえて」計算づくで強く叱っていたのかもしれません。組織には叱られ役が必要であるという説があります。一人を叱ることによって、組織の引き締めを行うというものです。でも、このような行為は、叱る者と叱られる者がよほどの信頼関係がなければ、結局は単なるパワハラになってしまうでしょう。

最後にトムの良い点です。非常に論理的です。なぜ悪いのかを、具体的に説明しています。そして、それを情熱的に語るので、とても説得力があります。そして結局は、最後に叱る者に逃げ道を与え救済しています。さすがハリウッド役者、芝居をみているような圧巻な叱責だったと思います。この点は見習いたいと思いました。

さて、メールを頂きましたSさん。このたびは本当にありがとうございました。年取ると、毎日やることといったら、雀魂でオンラインマージャンをやるか、「小説家になろう」でなろう系小説を読むか、netfliksかamazon primeでアニメをみるかといった、高齢オタク系の典型のような毎日を送っていたのですが、メールをもらったことで少しは労働意欲が湧いてきました。ありがとうございます。

もうすぐ、衛生管理者受験準備講習会の仕事があります。ぼちぼち頑張ります。

お休みです

(白河城・福島県白河市、by T.M)

ールデンウィークです。年甲斐もなく遊び過ぎてしまいました。

ご訪問頂いた方には申し訳ないのですが、今週はブログ更新しません(できません)。

来週お会いしたいと思います。

副業

(東北本線白河駅舎、by T.M)

4/22 ORICON NEWS

7人組グループ・Travis Japanの松田元太が主演を務めるフジテレビ系連続ドラマ『人事の人見』(毎週火曜 後9:00)第3話(22日放送)に、俳優・山口まゆが出演する。今作は“人事部”に焦点を当てた、痛快オフィスエンターテイメント。古い熱血体質の残る大企業を舞台に、おバカでピュアすぎる主人公・人見廉(松田)と、会社を変えたいと願いながら日々奮闘する真野直己(前田敦子)をはじめとする個性豊かな人事部の面々が、会社の中で巻き起こる社員のさまざまな問題と向き合いながら、「現代人の悩み」に立ち向かっていく。

 山口まゆが演じるのは、人見廉が勤める「日の出鉛筆」の研究開発部で働く土橋由依(どばし・ゆい)。「日の出鉛筆」の就業規則では、副業が禁止されているのだが、社員の間で副業にまつわる報告がいくつか上がっていた。これに対して人事部がなにも対処していないと総務部から指摘され、人事部は「副業禁止」のポスターを社内に貼って周知をすることに。

yahooでブログネタを探していたら、面白そうなネタを見つけました。さすがyahooです。「副業」をテーマにするドラマとは、なかなかいいところに着眼したと思います。

因みに公務員は法により副業禁止とされています。職務専念義務と守秘義務が理由だそうです。でも民間企業でこれを理由に副業禁止が可能でしょうか。答えは「No」です。

(そういえば、仕事の傍ら、プロボクシングのレフュリーをしていた労働基準監督官の噂を聞いたことがあるけど、何かバレて処分されたそうだが、どうなったんだろうか)

よく就業規則に記載すれば、一律に副業禁止にできると考えている経営者がいますが、それは違います。労働時間以外は、労働者は何をしても自由です・・・、というより、労働契約の本質が、使用者が労働者を拘束している時間に対し、対価(賃金)を支払うということだから、賃金の対象外の時間は労働者が拘束される理由がないということです。

もっとも、先に述べた「職務専念義務」と「守秘義務」に違反するような行為をするのは問題です。副業が本業と似たような職業であると問題が発生するようです。

(例) 「本業の経験を利用して、別会社を在職中に設立する」けっこう、この手のトラブルは多かった気がします。

そもそも「副業」とは何でしょう

「親の商売を手伝っている」

「ユーチューブで広告収入がある」

「貸しビルを所有しているので、家賃収入がある」etc

範囲が広すぎて、ひと言で「副業とは何か」なんて説明できません。

ただ、労働基準法上での問題点は、次の一点だと思います。

「労働時間の管理はどうするの?」

審議会等では労働基準法第38条の解釈が議題とされているそうです。

(注)労働基準法第38条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

「掛け持ち仕事をする場合は、1日の後の方の仕事をする事業場が残業代を支払うべきだ」という、ほとんど守られていない条文をどうするのかの議論です。

さらに「労働時間」というと、「過重労働による健康障害(過労死案件!)」も見落とせません。2つの事業場に所属し、労働者として働くなら、「過労死認定」は受けやすいでしょ。しかし、副業が「個人事業主」の場合は「過労死認定」がとても難しいのも事実です。

昭和の時代には考えられない労務形態が現在はでてきました。昔はひとつの職業で努力し経験を積むというのが普通でしたが、複数の職業にに専門性を取得される方がいるのが令和なのでしょうが、なかなか難しいと思います。私としては、副業は趣味の延長として楽しみながら行えるようになることが理想だと思います。

監督署が悪いの?

(入浴中のカピバラ・智光山公園こども動物園、by T.M)

4/9 仙台放送

大崎市の大崎市民病院はおととし2月、医師や看護師などの残業代について「適正に支払われていない」として、古川労働基準監督署から是正勧告を受けました。給与規則に伴う残業代の算出方法に誤りがあったことが原因で、追加の支払いは過去3年分で、医師など1572人分、約10億5千万円にのぼります。これまでに一部の支払いを終えていて、病院では、来年度末までに全員分について支払いを進める方針です。

(略)

大崎市民病院のN事業管理者は「誤りを把握できず、正せなかったのは我々」としつつ、労働基準監督署の対応には違和感もあると話します。

大崎市民病院 並木健二病院事業管理者

「ちょっと信じられない額になって、これを1度に払うとか、これを全部払わなきゃいけないっていうのは、ちょっといくらなんでも、うちの病院がつぶれてしまうなと」

今、医師の地域偏在とか問題がありますけれども、半世紀前の人たちがそれを是正をするために作った制度(就業規則)だと思うんです。制度は悪くはないとは思うんですが、それを半世紀にわたって放置してきた。それは許されることなんだろうかと。僕は労基も反省してもらいたいと思いますよ。今まで自分たちが放置してきたその責任は何なんだろうと」

この問題について、市民病院側のいい分は次のとおりです。

「国の給与規定に準じて、当病院は給与を決定した。しかし、国の機関は労働基準法が適用されずに、当病院は適用される。そのため、当病院の過失により労働基準法違反が発生してしまった。」

実はこのようなケースは他にあるんです。それは、私立の学校についてです。公立学校の教師は、現在社会的な問題になっているように、残業をしても残業代が支払われません。調整手当(給与の4%)が支払われます。この制度をそのまま導入してしまう私立学校がけっこう多いんです(私が監督官をやっていた20年くらい前の話です)。

私が監督官をしていた時にも、記事にでてくるような問題がおきました。

「国がやっているからいいと思っていたのに、それを監督署はひどい」

ということでした。でも、この言い分っておかしくないですか。

「まともに遡及是正したらつぶれてしまいます」「もう、しないから勘弁して下さい」

この言葉は監督官に言わないで、迷惑をかけた労働者に言って下さい。病院の医院長が、労働者に頭を下げ、「申し訳ございませんでした」と謝ったら、もしかしたら労働者は理解してくれるかもしれません。

監督署は是正勧告をした以上は従わなければ、書類送検をしなければなりません。しかし、その手続き中に、被害労働者から、「捜査に協力できません」と言われれば、捜査中止とせざるえません。

要するに、使用者と労働者の間に信頼関係があれば、監督署の是正勧告は無意味になるケースがあるということです。上記の記事について、労働者の話も聞いてみたいものです。逆に言うなら、監督署の是正勧告に労働者側が何も言ってこないということは、病院と労働者の関係もそれだけのことだということです。

無断欠勤

寝台特急サンライズ出雲と瀬戸の切り離し作業か行われる岡山駅、by T.M)

文春オンライン 4/7

なぜこの国には、働けない者がいるのか。働く能力はあるのに「働けない」とみなされたり、必死に働いているにもかかわらず周囲から「努力が足りない」とされたりして、一方的に「戦力外」とカウントされてしまう者がいるのか?

 本書の真髄は、日本の労働市場や制度設計がいかにマジョリティである「働ける者」を基準に作られているかについてや、マイノリティである「働けない者」にまつわる多くの視点を、新たにマイノリティ側から立て直すことにある。

 際立つのは、著者である栗田自身の圧倒的な周縁者ぶりだ。栗田が指摘するこの国の「普通」とは、〈日本に住む日本人、日本語話者、健常者、異性愛者でシス(生まれた時に診断された性別と性自認が一致している人を指す)男性、さらには首都圏出身などなどといった「マジョリティの詰め合わせ」みたいな存在〉。対して栗田自身は高学歴だが不登校経験のある正規雇用経験が希薄な未婚女性であり、バイトをしながら文筆活動を続けるも障害年金を受給し、生活保護を受けたこともある、文字通りの不安定労働者である。そして、そんな徹底的に社会から周縁化された立場と視点からしか出ない言葉は、読み手が無意識に座る特権の椅子を否応なく可視化する。中でも驚かされたのは〈「無断欠勤=絶対許されないこと」という頭の固さは資本主義社会の中ですらいいこととは思えない〉というパワーワードだ。

 いや無断欠勤を是とする者はさすがに戦力外カウントだろう……と、貧困当事者の不自由を代弁せんと願って著作を重ねてきた評者ですら、反射的にこう思った。シフトを組む社員やバイトリーダーからすれば、無断欠勤のバイトが出れば、穴埋めに自身がパートナーや家族との約束事をキャンセルしてでも出勤しなければ、現場が回らないではないか。だが、あくまで「働けない/働かない」の理由を、個人ではなく社会の構造上の問題として炙り出さんとする栗田の筆致に触れる中で、そんな「当たり前」は次々揺らぐ。

 バイトひとりの無断欠勤で回らなくなる現場とは何か? そのようなギリギリの人的リソースで回る現場であることで得をするのは経営者であり資本家の側ではないのか。彼らの都合になぜ労働者が合わせねばならないのか? そもそも、無断欠勤という言葉から評者の脳裏に浮かんだのがなぜ「バイト」であり、困る主体はなぜ社員やバイトリーダー、つまり適応できるマジョリティなのか。

この栗田さんという方のことはよく知らないんですが、随分過激なことをいう方だと思います。もちろん、上記記事は、いわゆる「全体発言からの切り取り」であり、栗田さんの主張を歪めて伝えている可能性もあります。

しかし、いくらなんでも〈「無断欠勤=絶対許されないこと」という頭の固さは資本主義社会の中ですらいいこととは思えない〉はないでしょう。私は、絶対的に「無断欠勤が許せないこと」であると思います(ただし、病気等により不可抗力で連絡がつかない場合を除く)。

無断欠勤がなぜいけないのか。それは、小学生でも分かる理屈です。

 「約束をやぶるからからいけないのです」

働くということは、労働者が労働をすることによって、事業主がお金を払うという約束(契約)です。ただ、この約束は事業主の立場が一方的に強い約束なので、最低限の権利(残業代、有給休暇等)を定めたものが労働基準法です。

労働者側が一方的に約束を破り労働を放棄すること(無断欠勤)が絶対的に悪いとすることが頭の固い考えだというなら、事業主が約束を破り賃金不払いを行っても絶対に悪いとは言えなくなります。

事業主の賃金不払いが絶対に悪いように、労働者の無断欠勤も絶対に悪いことなのです。

私が現役の監督官の時に、コンビニのバイトを無断欠勤して解雇された高校生の親が「高校生だから、仕方ないでしょ」と言ったことを思い出します。「あなたの息子だから、平気で約束を破るのですね。教育ですね」と、思いました。

上記の記事に出てくる栗田さんという方は、多分次のようなことを言いたかったのではないかと推測します。

「理由ある欠勤もできないような職場や境遇では、無断欠勤もしかたがない」

これなら、少しは理があるなと思いますが、被害者意識が肥大して、仲間内だけで通じる攻撃的な言葉ありきでは、素直に賛成したくなくなります。

でも、こういう人、最近増えてませんか?