これは、従業員10人くらいのプレス屋さんの臨検監督をしていた時の話。
そこのオヤジさんが、ポツリとこんなことを言った。「うちで事故なんて5年前にあったきりですよ。なんで、事故がないうちに監督に来るのですか。」
私はその時に心の中でこうつぶやいた。「でもね社長さん、従業員10人の会社が5年に1件災害を起こすということは、従業員1000人の会社が年間20件の災害を発生させていることと、統計上一緒ということになるんですよ。」
監督署の臨検監督は統計上の結果を基に災害発生率が高いところにいくことになるのだが、小規模事業場は総体としては災害発生件数が多くても、1事業場にしてみれば、「ウチは何年も災害を発生させていないのに・・・」ということになり、監督官の現場での指摘が事業主はピンとこないことが多いのである。
一般的に、やはり小規模事業場の方が災害発生率が高くなる。金属加工業と輸送用機械器具製造業では、従業員300人以上の事業場と従業員5人未満の事業場の災害発生率は約5倍程度小規模事業場の方が高いのである。もっとも、これは小規模事業場の名誉のために言わせてもらうが、小規模事業場の方が安全管理は難しいのも確かである。それは、次の理由による。
(1)小規模事業場の方が1人当たりの工程数が多くなるので管理がしずらい。
(2)少しの安全経費を計上しても、設備投資におけるその割合は高くなる。つまり小規模事業場が1台のプレスにカバーをする安全経費の割合は、大規模事業場が10台のプレスにカバーをする安全経費の割合より、はるかに高くなるので設備投資がしずらいなどの理由によるものである。
安全課で災害統計を作成していた時にすごい発見をしたと思った時がある。
食料品製造業の災害についてである。食料品製造業の労働災害は非常に多い。例えば、平成26年の神奈川県の製造業の災害発生件数は1076件であるが、そのうちの3割にあたる317件が食料品製造業の災害である。ところが、なんとその食料品製造業は、規模が大きくなるほ災害発生率が高くなるのである。私はこのコペルニクス的な統計の結果を発見し、「ヤッター、これで災害対策ができる。」と小躍りをした。
結論から言うと、神奈川県内には約1200社の食料品製造業の事業場が存在するが、そのうちの従業員300人以上の特定の事業場50社が、食料品製造業全体の災害のなんと1/3を発生させていたのだ。