労働災害が起きました(6)

CA3I0656
CA3I0656

(武田八幡神社、M氏寄贈)

新監は、私の指示に従って黙々と作業を進めていた。
そして、証拠物等の位置の測定の準備を私が始めると、私にならって、災害発生場所の見取図をフリーハンドで書きだした。その図面を見ると私の図面よりはるかに丁寧で正確であり、なにより美しかった。私の図面は新監の図面と比較すると、子供のお絵かきである。
私 :「絵がうまいんだな。」
新監:「ハイ、美術の成績は5でした。」
私は、「2」しか取れなかった自分の過去を思い出した。
そして、精一杯の威厳を持って、こう命令した。
「よし、そのデッサンはよくできてる。君の勉強になるから、その図の中に、これから測定する寸法を記入しなさい。」

私は新監に、実況見分での位置特定の方法について説明することとした。
「いいか、まず最初に起点を2か所選択するんだ。これは、実況見分の場所で、未来においても『動かない地点』のことだ。例えば、建物の中であったら、『柱』『部屋の隅』『扉の端』等だ。建物の外であったら『電柱』『歩道の端』『標識』等だ。『取り壊される可能性のある建物の端』等については、時間の経過とともに、位置が分からなくなる可能性があるから、起点にはできない。
そして、2か所の起点(A,B)を特定したら、A,B間の距離を測定する。その後で、地点(C、D,E・・・点)のA点,B点からの距離を測る。そうすると、A点、B点さえ特定しておけば、後で図面にする時、『三角形の合同条件である三辺が相等』により、C、D、E等の他点は座標上で表現することができる。」
新監は、私の話を一度で理解した。どうやら、数学も得意なようだ。

私は起点になる柱を新監に指ささせ、その姿を撮影した。
新監は尋ねた。
「ここで起点を指さすのは、工場長さん(立会人)でなくていいんですか。それに、写真なら、私が撮ります。」
私は、本質的ないい質問をするなと思い答えた。
「立会人は証拠物を指すためにいるんだ。実況見分の起点は、調査官が自らの判断で自由に決めるため、特定は調査官でなくてはならない。」
新監の後段の質問にはあえて答えず、心の中でつぶやいた。
「私の指さす写真が残ったなら、カメラを持っていたのが新監だって、ばれちゃうだろ。私の面子を考えろ。」
(注):実況見分時に、(私の指示に従って)新監が現場を撮影するのは違法でないし、(調べなければわからない様に)公文書には撮影者名を明記し記録する(決して、部下の手柄を取ろうなどとは思っていない)。

しかし、私の見栄が入ったこの数枚の写真は、後日の調査に影響を与えた。