役所の合理性(2)

(飯生市あけぼの子供の森公園、by T.M)

驚きました。「毎月勤労統計調査」に続き「賃金構造統計調査」にも、不適切な調査があったということです。

統計調査員が事業場に出向き賃金台帳を書き写さなければいけないのに、郵送で調査していたことが問題だそうです。

私はこの報道に接した時にまず考えたことは、「郵送で調査することはいけないことだったの?」ということです。

「統計調査員が事業場に出向き賃金台帳を書き写さなければいけない」なんて、「物理的に不可能」だからです。

さらに、「統計調査員が実地調査する」というマニュアルがあると聞いて、さらにビックリです。それは私は見たことがありません。

私が覚えている賃金構造統計調査の話を本日は書きます。

私が賃金構造統計調査の仕事に関わっていたのは、監督署で一課長の仕事をしていた時のことです。一課長(現在は「監督課長」という名称です)は、比較的小さい署に配置されますが、署では署長の下のNo2の役です。庶務と監督係の担当です。当時、私の下には、労働基準監督官4名と庶務担当の事務官1名がいました。正直、その時まで「庶務」の仕事なんて、まったくしたことがありませんでした。また、「自分はこの署の監督官の事実上のトップだ。臨検監督の現場で起きたトラブルは、すべて自分の所で解決する。」という意識でいましたので、「監督官」の仕事の統括にウエイトを置き、「庶務」の仕事は、ベテランで優秀な事務官におまかせしていました。

私は、自分に与えらられた庶務の仕事は、「予算上の間違いのないように、数字の確認をすること。庶務の仕事で、対外的な問題(対上局、つまり対地方労働局)が発生した時は、頭を下げにいくか、場合によってはケンカをすること」だと思っていました。

賃金構造統計調査は、この庶務の仕事でした。労働局の賃金課と庶務が連絡を取り合い行われます。局からは、200~300の数の事業場の名称が入った名簿が届きます。さて、それからその事業場への通信調査なのですが、ここで私の記憶が曖昧なのですが、

  「各事業場に、調査一式の書類が封入された封筒を郵送する作業」

が、局が直接行っていたのか、又は署が私の決裁を得て送付していたのかは覚えていません。

また、統計調査員という方を一人雇用したのですが、この方の採用について、私は面接した記憶がないのですが、「署が採用したのか」「局が採用し、署に派遣したのか」はよく覚えていません。もっと言うと、この通信調査員さんが、私の部下であったのか、局の仕事をするために局から出張してきたかどうかも覚えていません。ただ、私の部下の庶務担当者が出退勤の管理をしていました。

各事業場に送付された封筒の中には、「○月○日までに、必要事項を記載し、××労働基準監督署までご返送下さい」と記載した文書と記載用紙、そして署への返信用封筒(切手付)が入っています。統計調査員さんの雇用期間は2ヶ月前後なのですが、その前半は事業場からの書類の書き方の問合せに答えることに終始します。また、返送されてきた書類のチェックをするのも統計調査員さんの仕事です。これらの仕事はけっこうな分量になります。

返送の指定期日を過ぎてからこそ、本格的な賃金構造統計調査の仕事となります。未提出事業場に、提出の電話督促をするのです。期日に間に合うように提出してくれる事業場は、全体の1/3くらいでした。統計調査員さんが、まず督促の連絡をするのです。ここで、よくトラブルが発生します。

「なんでそんなことするんだ」「時間がねーよ」「おまえら公務員は嫌いだ」

この時の統計調査員さんは主婦のパートの方だったのですが。あまりの相手の悪口雑言に泣き出しそうになっていました。統計調査員でおさまりがつかない時は、庶務担当が電話にでます。そこでダメなら私がでます。通常の監督の時と違い、あくまで下手にアタマを下げ続けます。

当然、直接事業場に出向きお願いすることもあります。その時には、私と庶務担当職員で事業場に行きました。統計調査員はパートですし、官用車の運転はさせられませんので戦力にはなりません。この時に庶務担当者に言われました。

「場合によっては、私と一課長で賃金台帳を写すケースもあります」

私は、承諾しましたが、「通信調査に応じてくれない事業場が、何時間も事業場内の場所をかり賃台帳を写すということを許してくれるのだろうか」と思いました。私が尋ねたいくつかの事業場で、ダメなところはダメでしたし、返送に協力してくれるところもありました。しかし、「自由に賃金台帳を写していってくれ」というところは皆無でした。

郵送調査がダメとというなら、次の点を改善してくれなければ、今後の調査はできません。

「調査時のトラブル回避のため、統計調査員を『社会保険労務士』等の専門知識のある者とし、それなりの報酬を支払いすること」

「統計調査員の数を大幅に増やすこと」

「統計調査員に官用車の使用を認めること」等

さて、これが私が関わった賃金構造統計調査のすべてです。私は自分が何か間違っていたことをしていたとは思いませんが、そうでないというなら、処分でも何でもうける覚悟はあります

ただ、次のことは分かって欲しいと思います。賃金構造統計調査について、現場の職員は手抜きの調査はしていません。私の友人に局の賃金課の職員もおりましたが、この賃金構造統計調査の時期になると、それこそ毎日深夜まで、サービス残業して頑張っていました。彼は、この統計調査が「最低賃金決定の資料になる」ということを十分理解し、間違いのないものをという心構えでしていました。そのような真面目な職員が、今後非難されるかもしれないことを私は危惧しています。